ONE PIECE −LOG COLLECTION : ELEANOR−   作:春風駘蕩

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第182話〝おれは信じねェ〟

「ぶっ潰せ‼︎ ガレーラカンパニー!!!」

 

 わっ、と周囲の街の住人達が声を上げ、職長達の勇姿を目に焼き付ける。

 彼らの歓声を受けてか、パウリー達の気迫は一段と膨れ上がり、ルフィは思わず息を呑む。

 

「どうした、受けるばっかりでいいのか?」

「だからおれは‼︎ お前らと戦う理由がねェんだって!!!」

 

 必死に疑いを否定するものの、職長達はまるで耳を貸してくれない。

 パウリーの放ったロープに腕をとられ、投げ飛ばされ、思い切り叩きつけられたところに、鋸を構えた他の職長達が集まってくる。

 

「銃はもう効かねェとわかった」

「くっそォ、やる気満々かあいつら‼︎」

 

 歯噛みするルフィに、パニーニャが右足のズボンをまくる。

 そこから露わになった大砲を前に、ルフィはギョッと目を見開き声を漏らす。

 

 直後、ルフィがいた場所で、砲撃による大爆発が起こった。

 

「こりゃホントにヤバいナ……仕方がなイ‼︎」

 

 もくもくと上がる黒煙を見やり、リンがぼそりと呟く。

 自分が手を引くナミ、そして自分達を追ってくる、怒りに呑まれた住民達を振り返り、険しい顔で声を上げる。

 

「フー!!! ランファン!!!」

 

 彼がそう叫んだ瞬間、彼の頭上に二つの影が飛び上がる。

 住民達がそれに気づいた瞬間、影は両腕を大きく振り、鋭く尖った苦無をいくつも投擲する。

 放たれた苦無は、リン達と住民達の間に突き刺さり、彼らを阻む柵となった。

 

「おわァああ!!?」

「何だ…こりゃあ!!!」

 

 危うく足に突き刺さりかけた住民達が、慌てて後退り苦無から離れる。

 一時の足止めに成功した影、フーとランファンはそのまま走り出し、主である青年に仮面越しに睨みつける。

 

「若!!! だから申したでしょウ!!! 海賊などと共に行動すればロクな事にならぬト!!!」

「っ……‼︎」

「これに関しちゃしょうがないだロ⁉︎ そう怒るなヨ!!!」

 

 苦無の柵を越え、また追いかけてくる住民達を見やり、リンが叫ぶ。

 自分だけが悪いのではない、とあつかましくに吠える主に、臣下たちは大きく肩を竦めるほかに無かった。

 

「とにかく逃げロ!!! 援護してくレ!!! あ、殺すなヨ!!?」

「まったく…‼︎」

 

 迫り来る住民達をまくため、煙玉や火薬を用いるリン達。

 あちこちで爆発や煙が上がる様は、まるで祭か何かを催しているようであったが、当然楽し気に笑う者は誰もいなかった。

 

 ここにいる四人を除いて。

 

「いえ――――い‼︎ ガッハハハハハハ‼︎」

「気分爽快だわいな!」

「そうそう、あんな奴ァ吹き飛ばしちまえばいいんだ‼︎ さすがはおれ達の誇り!!!〝ガレーラカンパニー〟!!!」

 

 どこから持ってきたのか、ちゃぶ台を中心に歓声を上げるフランキーとグリード。そしてその子分モズとキウイ。

 彼らは実に楽しそうに笑いながら、おもむろに立ち上がった。

 

「いやいやしかし、お前。その麦わらのチビは、我がフランキー一家とグリードファミリーの憎っくき仇でよ! まずこのケンカの先客はおれ達だったんだよ!」

「そこへきて、お前らおれ達の獲物を横取りする様なマネをすんなと………………何度言わすんじゃクラァ〜〜〜ア!!!!」

 

 ガッシャーン!とちゃぶ台をひっくり返し、怒りを露わにすフランキー達。

 ルフィ一人に、執拗に襲い掛かる船大工達を睨みつけ、二人のならず者は獣のような唸り声をこぼしていた。

 

「ガレーラァ〜〜〜〜〜〜!!!!」

「少し待っていろ、お前らの相手はあいつを完全に捕らえてからじゃ」

「だから…‼︎ 何でおれ達の獲物をお前らが捕えるんだ……!!!」

「ガッハハハ…もういい、口で言ってもわからねェようだぜ、兄弟…」

 

 まるで相手にされず、それどころか適当に扱われ、ビキビキと男達の血管が膨れ上がる。ピキピキと音を立て、今にも弾けそうになる。

 怒りに突き動かされた彼らが、船大工をぎゃふんと言わせる一撃を見舞おうとした、その時だった。

 

「『いずれ彼方に至るため——今こそ此処に、一歩を刻まん!』…‼︎」

 

 凛、と鈴のような声が、不思議な響きの祝詞を刻む。

 住民達の怒号の中でも聞こえるその声に、フランキーとグリード、ルフィと職長達が、思わず手を止めたその時。

 

「『暗雲よ、雷よ、父よ、見るがいい!』始まりの蹂躙制覇(ブケファラス)〟!!!!

 

 カッ、と眩い光が迸り、次いで衝撃と轟音が辺りに響き渡る。

 思わず目を瞑り、暴風で吹き飛ばされかけた船大工達は、ハッと息を呑み固まる。

 

 自分達が追いつめていた海賊の前に立ちはだかる、血濡れの天使を目の当たりにしたからだ。

 

「エレノア!!?」

「あんた…何でここに!!!」

「あァ!!? エレノアだとォ!!?」

 

 閃光に驚き、足を止めた住民達も、フランキー達も、突然現れた異形の少女に目を瞠る。

 ナミとリン達も同じく足を止め、昨日からずっと姿を現さなかった、絶対安静が必要な少女に驚愕と不安の目を向ける。

 

「…そこをどけ、エレノア。大恩あるお前に敵意なんざ向けたくねェ」

 

 一瞬目を見開いていたパウリーは、やがて表情を改め、エレノアを鋭く睨みつける。

 しかしエレノアは引き下がらず、鬼のような形相の彼を真っ直ぐに見つめ返す。

 

「どかないよ………謂れのない冤罪をふっかけようとしてるあんた達は、放っておけない」

「アイスバーグさんは確かにニコ・ロビンを見たって言ったんだ!!! だったらその麦わらが首謀者で間違いないでしょうが!!!」

「それは…!!!」

 

 パウリーの隣で、パニーニャが必死の形相で叫ぶ。

 友人である彼女に、エレノアもまた悲痛な顔で向き合う。今にも倒れそうな体を無理矢理立たせ、知人達と真正面から相対する。

 

 だが、説得を試みようとした彼女に迫る、ある黒い影があった。

 

「ガッハハハハハハ!!! ようやく見つけたぜェ…〝天族〟ゥ!!!!」

 

 突如、凄まじい速度で突っ込んできたグリードが、エレノアに手を伸ばしながら飛び掛かる。

 間一髪で躱されると、グリードの手が深く地面をえぐり取る。その威力に、エレノアは体の痛みとは別に、悪寒で冷や汗を垂らした。

 

「何すんのよ、あんた!!?」

「ガッハハハ………ちょいとあんたに用があってなァ」

 

 初対面だというのに、異様なほどの執着のこもった目で凝視してくるグリードの姿に、エレノアは咄嗟にその場で身構える。

 がくがくと足を震わせる彼女を見つめ、グリードはにやりと笑みを深めた。

 

「長年ずっと探してたのさァ……伝説の天族の一人‼︎〝妖術師〟アイザック・エレノア‼︎〝麦わら〟のことは後回しだ…‼︎ ちっとばかし一緒にきて貰うぜェ!!!」

「グリード………何のつもりだ⁉」

「おい‼︎ 何やってんだ兄弟!!!」

「お前ェ!!! エレノアに近づくな真っ黒サングラス!!!」

 

 その場にいる他の者達、ルフィやフランキーパウリーからも驚愕と不信の目で見られながらグリードは歩みを止めない。

 再びエレノアを捕らえようと、鋭く尖り、黒く変色した手をゴキゴキと鳴らし、飛び掛かろうとした。

 

「トァ―――――――!!!」

 

 造船所を目にも止まらぬ速さで駆けてきた小さな人影が、グリードの顔面に衝突する。

 鋭い蹴りを喰らい、グリードは声も出せないまま吹っ飛ばされ、その先にいたフランキーと共に地面に倒れ込んだ。

 

「ぶへ‼︎」

「ぶほ⁉︎」

「よってたかって私の恩人に何をしてるんですカ!!! この変態共メー!!!」

 

 もつれあって地面を転がる二人に、すたっと降り立った小さな少女―――メイがビシッと構えをとって威嚇する。

 猫のようにシャーッと声を上げる彼女に、様子を伺っていたナミは首を傾げる。その隣では、リンが薄目をわずかに見開いていた。

 

「何……あの子」

「あいつは………!」

「何しに来たのよ、あんた」

「まだ一飯の恩義を返していないのデ‼︎」

 

 現れた少女に、エレノアが思わず半目を向ける。

 それにビシッと胸を張って答えたメイは、悪態と共に立ち上がるグリードに視線を戻す。

 

「くそっ……何者だテメェ!!! おい兄弟、大丈夫か!!? 悪ィ、硬化に夢中んなって着地のこと考えてなかった!!!」

「むむ‼︎ 多勢に無勢の様ですネ‼︎ ならバ…」

 

 グリードたちの他に、パウリー達や住民達の視線も集めていることに気付き、顔を険しくするメイ。

 すると彼女は懐から五つの刃を取り出し、足元に突き刺すと両手を地面につき、祝詞を口ずさみ始めた。

 

「『桃園仙術式目、三魂飛んで七魄霧散! これ即ち火尖槍! 炎上!』〝地飛爽霊 火尖槍(ちひそうれい かせんそう)〟!!!!」

 

 突き刺さった刃が青い稲妻を発し、円陣を作り出した直後。

 

 ドゴォン!! と。

 エレノアとメイを中心に凄まじい火炎が発生し、周囲にあるもの全てを呑み、爆発を持って吹き飛ばしてしまったのだった。

 

 

 

 ガラガラ……と瓦礫を押し退け、モズとキウイが億劫そうに起き上がる。

 二人は瓦礫の山を登り、煤だらけでひっくり返っているフランキーとグリードの元に歩み寄っていく。

 

「あいつら逃げたわいな、追わなくても?」

「いやァ……あいつが邪魔に入っちまったんならもう仕方ねェ、今は見逃してやらァ」

「とんだ邪魔が入ったもんだぜ」

「お前のせいだぞ!!? わかってんのかコンニャロー!!!」

「悪かった、悪かったって……」

 

 目を吊り上げ、吠えるフランキーにひらひらと手を振るグリード。

 それに不満げな目を向けるも、やがてフランキーは姿の見えない麦わらの男の事を想い、にやりと不敵に笑ってみせた。

 

「次こそ消してやるさ。ウハハハハ…さすがは一億の首…なかなか骨がある」

 

 

 

「やってくれるわい、フランキー…」

「なんて日だ、今日は…」

 

 同じく、瓦礫の中から這い出してきたパウリー達。

 獲物を全員取り逃がしてしまったという悔しさから、全員が険しい表情となっていた。挙句、造船所はより一層無惨に破壊されてしまった。

 

「とにかくあいつらを逃すわけにはいかねェ…今夜は〝アクア・ラグナ〟、今日あと2本出る海列車を除いて、あいつらが島を出る術はねェ…」

「乗ってきた船がもう使えないんだもんね」

「あァ…情報を集めるんだ…!!!〝ガレーラ〟の職人を全員島中に張りめぐらせて、日没までに決着をつけるぞ!!!」

 

 パウリーの宣言に、無言で同意する職長達。

 こうして、彼らの部下である職人達も総動員した捜索網が、張り巡らされる事となった。

 

 

 

「死ぬかと思っタ……」

「だから言わん事なイ。若、いい加減ご自分の立場をわきまえなさレ」

 

 勢いで登り、身を潜めた屋根の上で寝転び、息を切らせるリンにフーが苦言をぶつける。

 主の身を守る事が役目である彼らだが、当の主が厄介事に自ら首を突っ込むのであれば、文句を言いたくなっても仕方はなかった。

 

 ふと、リンの表情が切り替わる。

 普段の飄々とした雰囲気が引っ込み、真剣な表情で剥くりと起き上がる。

 

「しかし……まさか妖術師さンがあのチビと一緒にいるとハ…」

「狙いは…我々と同じでしょうカ………?」

「おそらくナ…」

 

 仮面に隠されているが、ランファンも大体同じような表情で黙り込んでいた。

 三人の異国の者達は、腕を組んで険しい顔で考え込む。

 

 ずっと何も喋らないままの彼らに、ふと気になったナミがじとりとした視線を向けだす。

 

「あんた達、さっきから何の話してんのよ?」

「ン? アー………これからどうすっかなってサ」

「その事なんだけど…………」

 

 話しかけられ、即座に雰囲気を切り替えるリン。

 適当に考え出した答えを返すと、ナミは心底同意するように肩を竦め、何やら準備運動をしているルフィの方を向く。

 

「本気で行くの⁉︎」

「当たり前だ。船大工のおっさん達が何でロビンを犯人だと言ったのか、直接聞いてくる」

「でも、それだったらエレノアと一緒の方が……いや、それはダメか」

 

 何故だかわからないが、エレノアと相対した時の職長達の反応は、ルフィの時と比べて少し異なっていた。ただの知り合いではないのかもしれない。

 エレノアが間に入れば、少しは話しやすくなるかと考えるも、彼女のあの様子ではそれも難しいだろう。

 

 そう、ナミが頭を悩ませていた時だった。

 

「行くならおれも連れてケ。居場所は大体わかル」

「よし、つかまれ」

「おウ」

「え…」

「ハ?」

「じゃ、行って来る」

「え…ちょっ……………!!!」

 

 ナミの決定も聞かないまま、あろうことかリンまで連れて、ルフィがびよーんと腕を伸ばす。

 そして止める間もなく、発射されたルフィとリンがガレーラカンパニー本社の窓を突き破り、ド派手な侵入を果たしてしまっていた。

 

「え!!?」

「窓が割れた!!!」

「何事だ!!!」

「襲撃だ――――――〝麦わら〟のルフィが、本社に侵入したぞ―――っ!!!」

 

 あっという間に騒がしくなるガレーラカンパニー。

 その光景を見下ろし、呆然としていたナミの肩を、フーとランファンがポン、と優しく叩いた。

 

 

 

 本社に侵入した海賊を捕らえるため、奔走する船大工達。

 彼らは突如耳にした二つの銃声に、大慌てで音がした方―――社長室になだれ込む。

 

「銃声が」

「寝室からだ!!!」

「お二人共っ…!!!」

 

 これ以上彼らに何かがあってはいけない、と。

 ぶち破る勢いで入室すると、煙を上げる銃を持ったアイスバーグとヴィルヘルムの無事な姿があり、ほっと安堵の息が漏れた。

 

「父さ……教授、社長、ご無事で」

「……ああ、真相に近づけるかと、くだらねェ希望をかけた……」

 

 いの一番に社長室に飛び込んだセレネにそう答え、黙る二人。

 険しい表情で、何かを堪えるような表情で俯いていた二人は、やがて鋭い眼差しで部下達を見据え、一つの命令を下した。

 

「あの一味を…全員捕えろ…」

「当然です!!!」

 

 

 

 騒然としたままの本社から、ルフィとリンが戻って来る。

 行く時の勢いは失墜し、二人とも重く、沈んだ面持ちとなっている。明らかに、よくない情報を得てしまったのだとわかった。

 

「……もしかして、話せたの? アイスバーグさん達と」

「本当にロビンを、見たって……」

「―――そんな」

 

 どかっ、と屋根の上に乱暴に腰を下ろし、自分の膝を握りしめるルフィ。

 リンも眉間にしわを寄せたまま、この島のどこにいるとも知れない女の事を考え、知らず歯を食い縛っていた。

 

「………どうしてロビンがそんな事………」

「おれは、信じねェ!!!!」

 

 そう、力強く吠えるルフィ。

 しかしその表情は強張っており、大きな迷いの渦に呑まれていることが、一目でわかった。

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