ONE PIECE −LOG COLLECTION : ELEANOR− 作:春風駘蕩
「ぶっ潰せ‼︎ ガレーラカンパニー!!!」
わっ、と周囲の街の住人達が声を上げ、職長達の勇姿を目に焼き付ける。
彼らの歓声を受けてか、パウリー達の気迫は一段と膨れ上がり、ルフィは思わず息を呑む。
「どうした、受けるばっかりでいいのか?」
「だからおれは‼︎ お前らと戦う理由がねェんだって!!!」
必死に疑いを否定するものの、職長達はまるで耳を貸してくれない。
パウリーの放ったロープに腕をとられ、投げ飛ばされ、思い切り叩きつけられたところに、鋸を構えた他の職長達が集まってくる。
「銃はもう効かねェとわかった」
「くっそォ、やる気満々かあいつら‼︎」
歯噛みするルフィに、パニーニャが右足のズボンをまくる。
そこから露わになった大砲を前に、ルフィはギョッと目を見開き声を漏らす。
直後、ルフィがいた場所で、砲撃による大爆発が起こった。
「こりゃホントにヤバいナ……仕方がなイ‼︎」
もくもくと上がる黒煙を見やり、リンがぼそりと呟く。
自分が手を引くナミ、そして自分達を追ってくる、怒りに呑まれた住民達を振り返り、険しい顔で声を上げる。
「フー!!! ランファン!!!」
彼がそう叫んだ瞬間、彼の頭上に二つの影が飛び上がる。
住民達がそれに気づいた瞬間、影は両腕を大きく振り、鋭く尖った苦無をいくつも投擲する。
放たれた苦無は、リン達と住民達の間に突き刺さり、彼らを阻む柵となった。
「おわァああ!!?」
「何だ…こりゃあ!!!」
危うく足に突き刺さりかけた住民達が、慌てて後退り苦無から離れる。
一時の足止めに成功した影、フーとランファンはそのまま走り出し、主である青年に仮面越しに睨みつける。
「若!!! だから申したでしょウ!!! 海賊などと共に行動すればロクな事にならぬト!!!」
「っ……‼︎」
「これに関しちゃしょうがないだロ⁉︎ そう怒るなヨ!!!」
苦無の柵を越え、また追いかけてくる住民達を見やり、リンが叫ぶ。
自分だけが悪いのではない、とあつかましくに吠える主に、臣下たちは大きく肩を竦めるほかに無かった。
「とにかく逃げロ!!! 援護してくレ!!! あ、殺すなヨ!!?」
「まったく…‼︎」
迫り来る住民達をまくため、煙玉や火薬を用いるリン達。
あちこちで爆発や煙が上がる様は、まるで祭か何かを催しているようであったが、当然楽し気に笑う者は誰もいなかった。
ここにいる四人を除いて。
「いえ――――い‼︎ ガッハハハハハハ‼︎」
「気分爽快だわいな!」
「そうそう、あんな奴ァ吹き飛ばしちまえばいいんだ‼︎ さすがはおれ達の誇り!!!〝ガレーラカンパニー〟!!!」
どこから持ってきたのか、ちゃぶ台を中心に歓声を上げるフランキーとグリード。そしてその子分モズとキウイ。
彼らは実に楽しそうに笑いながら、おもむろに立ち上がった。
「いやいやしかし、お前。その麦わらのチビは、我がフランキー一家とグリードファミリーの憎っくき仇でよ! まずこのケンカの先客はおれ達だったんだよ!」
「そこへきて、お前らおれ達の獲物を横取りする様なマネをすんなと………………何度言わすんじゃクラァ〜〜〜ア!!!!」
ガッシャーン!とちゃぶ台をひっくり返し、怒りを露わにすフランキー達。
ルフィ一人に、執拗に襲い掛かる船大工達を睨みつけ、二人のならず者は獣のような唸り声をこぼしていた。
「ガレーラァ〜〜〜〜〜〜!!!!」
「少し待っていろ、お前らの相手はあいつを完全に捕らえてからじゃ」
「だから…‼︎ 何でおれ達の獲物をお前らが捕えるんだ……!!!」
「ガッハハハ…もういい、口で言ってもわからねェようだぜ、兄弟…」
まるで相手にされず、それどころか適当に扱われ、ビキビキと男達の血管が膨れ上がる。ピキピキと音を立て、今にも弾けそうになる。
怒りに突き動かされた彼らが、船大工をぎゃふんと言わせる一撃を見舞おうとした、その時だった。
「『いずれ彼方に至るため——今こそ此処に、一歩を刻まん!』…‼︎」
凛、と鈴のような声が、不思議な響きの祝詞を刻む。
住民達の怒号の中でも聞こえるその声に、フランキーとグリード、ルフィと職長達が、思わず手を止めたその時。
「『暗雲よ、雷よ、父よ、見るがいい!』〝
カッ、と眩い光が迸り、次いで衝撃と轟音が辺りに響き渡る。
思わず目を瞑り、暴風で吹き飛ばされかけた船大工達は、ハッと息を呑み固まる。
自分達が追いつめていた海賊の前に立ちはだかる、血濡れの天使を目の当たりにしたからだ。
「エレノア!!?」
「あんた…何でここに!!!」
「あァ!!? エレノアだとォ!!?」
閃光に驚き、足を止めた住民達も、フランキー達も、突然現れた異形の少女に目を瞠る。
ナミとリン達も同じく足を止め、昨日からずっと姿を現さなかった、絶対安静が必要な少女に驚愕と不安の目を向ける。
「…そこをどけ、エレノア。大恩あるお前に敵意なんざ向けたくねェ」
一瞬目を見開いていたパウリーは、やがて表情を改め、エレノアを鋭く睨みつける。
しかしエレノアは引き下がらず、鬼のような形相の彼を真っ直ぐに見つめ返す。
「どかないよ………謂れのない冤罪をふっかけようとしてるあんた達は、放っておけない」
「アイスバーグさんは確かにニコ・ロビンを見たって言ったんだ!!! だったらその麦わらが首謀者で間違いないでしょうが!!!」
「それは…!!!」
パウリーの隣で、パニーニャが必死の形相で叫ぶ。
友人である彼女に、エレノアもまた悲痛な顔で向き合う。今にも倒れそうな体を無理矢理立たせ、知人達と真正面から相対する。
だが、説得を試みようとした彼女に迫る、ある黒い影があった。
「ガッハハハハハハ!!! ようやく見つけたぜェ…〝天族〟ゥ!!!!」
突如、凄まじい速度で突っ込んできたグリードが、エレノアに手を伸ばしながら飛び掛かる。
間一髪で躱されると、グリードの手が深く地面をえぐり取る。その威力に、エレノアは体の痛みとは別に、悪寒で冷や汗を垂らした。
「何すんのよ、あんた!!?」
「ガッハハハ………ちょいとあんたに用があってなァ」
初対面だというのに、異様なほどの執着のこもった目で凝視してくるグリードの姿に、エレノアは咄嗟にその場で身構える。
がくがくと足を震わせる彼女を見つめ、グリードはにやりと笑みを深めた。
「長年ずっと探してたのさァ……伝説の天族の一人‼︎〝妖術師〟アイザック・エレノア‼︎〝麦わら〟のことは後回しだ…‼︎ ちっとばかし一緒にきて貰うぜェ!!!」
「グリード………何のつもりだ⁉」
「おい‼︎ 何やってんだ兄弟!!!」
「お前ェ!!! エレノアに近づくな真っ黒サングラス!!!」
その場にいる他の者達、ルフィやフランキーパウリーからも驚愕と不信の目で見られながらグリードは歩みを止めない。
再びエレノアを捕らえようと、鋭く尖り、黒く変色した手をゴキゴキと鳴らし、飛び掛かろうとした。
「トァ―――――――!!!」
造船所を目にも止まらぬ速さで駆けてきた小さな人影が、グリードの顔面に衝突する。
鋭い蹴りを喰らい、グリードは声も出せないまま吹っ飛ばされ、その先にいたフランキーと共に地面に倒れ込んだ。
「ぶへ‼︎」
「ぶほ⁉︎」
「よってたかって私の恩人に何をしてるんですカ!!! この変態共メー!!!」
もつれあって地面を転がる二人に、すたっと降り立った小さな少女―――メイがビシッと構えをとって威嚇する。
猫のようにシャーッと声を上げる彼女に、様子を伺っていたナミは首を傾げる。その隣では、リンが薄目をわずかに見開いていた。
「何……あの子」
「あいつは………!」
「何しに来たのよ、あんた」
「まだ一飯の恩義を返していないのデ‼︎」
現れた少女に、エレノアが思わず半目を向ける。
それにビシッと胸を張って答えたメイは、悪態と共に立ち上がるグリードに視線を戻す。
「くそっ……何者だテメェ!!! おい兄弟、大丈夫か!!? 悪ィ、硬化に夢中んなって着地のこと考えてなかった!!!」
「むむ‼︎ 多勢に無勢の様ですネ‼︎ ならバ…」
グリードたちの他に、パウリー達や住民達の視線も集めていることに気付き、顔を険しくするメイ。
すると彼女は懐から五つの刃を取り出し、足元に突き刺すと両手を地面につき、祝詞を口ずさみ始めた。
「『桃園仙術式目、三魂飛んで七魄霧散! これ即ち火尖槍! 炎上!』〝
突き刺さった刃が青い稲妻を発し、円陣を作り出した直後。
ドゴォン!! と。
エレノアとメイを中心に凄まじい火炎が発生し、周囲にあるもの全てを呑み、爆発を持って吹き飛ばしてしまったのだった。
ガラガラ……と瓦礫を押し退け、モズとキウイが億劫そうに起き上がる。
二人は瓦礫の山を登り、煤だらけでひっくり返っているフランキーとグリードの元に歩み寄っていく。
「あいつら逃げたわいな、追わなくても?」
「いやァ……あいつが邪魔に入っちまったんならもう仕方ねェ、今は見逃してやらァ」
「とんだ邪魔が入ったもんだぜ」
「お前のせいだぞ!!? わかってんのかコンニャロー!!!」
「悪かった、悪かったって……」
目を吊り上げ、吠えるフランキーにひらひらと手を振るグリード。
それに不満げな目を向けるも、やがてフランキーは姿の見えない麦わらの男の事を想い、にやりと不敵に笑ってみせた。
「次こそ消してやるさ。ウハハハハ…さすがは一億の首…なかなか骨がある」
「やってくれるわい、フランキー…」
「なんて日だ、今日は…」
同じく、瓦礫の中から這い出してきたパウリー達。
獲物を全員取り逃がしてしまったという悔しさから、全員が険しい表情となっていた。挙句、造船所はより一層無惨に破壊されてしまった。
「とにかくあいつらを逃すわけにはいかねェ…今夜は〝アクア・ラグナ〟、今日あと2本出る海列車を除いて、あいつらが島を出る術はねェ…」
「乗ってきた船がもう使えないんだもんね」
「あァ…情報を集めるんだ…!!!〝ガレーラ〟の職人を全員島中に張りめぐらせて、日没までに決着をつけるぞ!!!」
パウリーの宣言に、無言で同意する職長達。
こうして、彼らの部下である職人達も総動員した捜索網が、張り巡らされる事となった。
「死ぬかと思っタ……」
「だから言わん事なイ。若、いい加減ご自分の立場をわきまえなさレ」
勢いで登り、身を潜めた屋根の上で寝転び、息を切らせるリンにフーが苦言をぶつける。
主の身を守る事が役目である彼らだが、当の主が厄介事に自ら首を突っ込むのであれば、文句を言いたくなっても仕方はなかった。
ふと、リンの表情が切り替わる。
普段の飄々とした雰囲気が引っ込み、真剣な表情で剥くりと起き上がる。
「しかし……まさか妖術師さンがあのチビと一緒にいるとハ…」
「狙いは…我々と同じでしょうカ………?」
「おそらくナ…」
仮面に隠されているが、ランファンも大体同じような表情で黙り込んでいた。
三人の異国の者達は、腕を組んで険しい顔で考え込む。
ずっと何も喋らないままの彼らに、ふと気になったナミがじとりとした視線を向けだす。
「あんた達、さっきから何の話してんのよ?」
「ン? アー………これからどうすっかなってサ」
「その事なんだけど…………」
話しかけられ、即座に雰囲気を切り替えるリン。
適当に考え出した答えを返すと、ナミは心底同意するように肩を竦め、何やら準備運動をしているルフィの方を向く。
「本気で行くの⁉︎」
「当たり前だ。船大工のおっさん達が何でロビンを犯人だと言ったのか、直接聞いてくる」
「でも、それだったらエレノアと一緒の方が……いや、それはダメか」
何故だかわからないが、エレノアと相対した時の職長達の反応は、ルフィの時と比べて少し異なっていた。ただの知り合いではないのかもしれない。
エレノアが間に入れば、少しは話しやすくなるかと考えるも、彼女のあの様子ではそれも難しいだろう。
そう、ナミが頭を悩ませていた時だった。
「行くならおれも連れてケ。居場所は大体わかル」
「よし、つかまれ」
「おウ」
「え…」
「ハ?」
「じゃ、行って来る」
「え…ちょっ……………!!!」
ナミの決定も聞かないまま、あろうことかリンまで連れて、ルフィがびよーんと腕を伸ばす。
そして止める間もなく、発射されたルフィとリンがガレーラカンパニー本社の窓を突き破り、ド派手な侵入を果たしてしまっていた。
「え!!?」
「窓が割れた!!!」
「何事だ!!!」
「襲撃だ――――――〝麦わら〟のルフィが、本社に侵入したぞ―――っ!!!」
あっという間に騒がしくなるガレーラカンパニー。
その光景を見下ろし、呆然としていたナミの肩を、フーとランファンがポン、と優しく叩いた。
本社に侵入した海賊を捕らえるため、奔走する船大工達。
彼らは突如耳にした二つの銃声に、大慌てで音がした方―――社長室になだれ込む。
「銃声が」
「寝室からだ!!!」
「お二人共っ…!!!」
これ以上彼らに何かがあってはいけない、と。
ぶち破る勢いで入室すると、煙を上げる銃を持ったアイスバーグとヴィルヘルムの無事な姿があり、ほっと安堵の息が漏れた。
「父さ……教授、社長、ご無事で」
「……ああ、真相に近づけるかと、くだらねェ希望をかけた……」
いの一番に社長室に飛び込んだセレネにそう答え、黙る二人。
険しい表情で、何かを堪えるような表情で俯いていた二人は、やがて鋭い眼差しで部下達を見据え、一つの命令を下した。
「あの一味を…全員捕えろ…」
「当然です!!!」
騒然としたままの本社から、ルフィとリンが戻って来る。
行く時の勢いは失墜し、二人とも重く、沈んだ面持ちとなっている。明らかに、よくない情報を得てしまったのだとわかった。
「……もしかして、話せたの? アイスバーグさん達と」
「本当にロビンを、見たって……」
「―――そんな」
どかっ、と屋根の上に乱暴に腰を下ろし、自分の膝を握りしめるルフィ。
リンも眉間にしわを寄せたまま、この島のどこにいるとも知れない女の事を考え、知らず歯を食い縛っていた。
「………どうしてロビンがそんな事………」
「おれは、信じねェ!!!!」
そう、力強く吠えるルフィ。
しかしその表情は強張っており、大きな迷いの渦に呑まれていることが、一目でわかった。