ONE PIECE −LOG COLLECTION : ELEANOR−   作:春風駘蕩

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第184話〝暗殺を阻止せよ〟

「どこへ行った!!!」

「どっかの屋根に登ってねェか⁉︎」

「くまなく探せ!!!」

 

 鋸や大槌を手に、街中を駆け回る船大工達。

 街の英雄を傷つけた悪魔を捕らえるべく、血眼になって一味全員を探し続ける。

 

 そんな彼らの捜索を潜り抜け、ルフィ達はある橋の下に潜んでいた。

 ルフィが橋の縁を掴み、ハンモックのようになってゾロとナミ、リン達を支える。ただ一人耐え続けていたが、五人ともただじっと息をひそめるだけだった。

 

「うお!!!」

 

 必死に、追手が遠ざかる時を待っていたルフィ。

 そのとき不意に、橋の上から青鼻の異形の男が顔を出し、驚きでつい手を離してしまって、六人纏めて川に落下するのだった。

 

 

 

「チョッパーお前、よくここがわかったな」

「におい」

「ああ」

 

 ずぶぬれになった服を絞りながら、合流したチョッパーにそう呟くルフィ。

 街中走り回り、ようやく再会できた一味は、辺りに人気がない事を確認してから、ほっと安堵の息をついた。

 

「ふう…落ちついたか…」

「落ちついたかって…‼︎ あんたがあんな大勢の船大工に追われてたから、私達まで巻き込まれたんでしょ⁉︎」

「傍迷惑なやつだヨ、まったク…」

「仕方ねェだろ。あんな数の人間相手に見つからねェ方がおかしいぞ」

 

 無自覚な方向音痴の彼の事だ、仲間と合流するつもりで、反対に追っ手の方へ向かってしまったのだろう。

 そこでふと、仲間が一人足りていない事に気付き、ルフィが辺りを見渡す。

 

「おい、そうだサンジは?」

 

 ルフィの問いに、チョッパーが悲し気に俯く。

 サンジと共にロビンを探し、そしてようやく見つけたと思えば、投げつけられたという信じられない言葉に。

 

 もう一味に帰る事はないという言葉に、一味は全員息を呑んだ。

 

「本当に言ったのか!!? ロビンがそんな事!!!」

 

 ルフィは血相を変え、チョッパーに掴みかかる勢いで問い質す。

 俯いたまま何も返さない船医に、全員それが真実なのだと理解してしまい、暗い雰囲気に包まれる。

 やがて、ゾロが険しい表情のまま口を開いた。

 

「全員……覚悟はあったハズだ……かりにも…〝敵〟として現れたロビンを船に乗せた――それが急に恐くなっ立って逃げ出したんじゃ締まらねェ」

 

 カツン、と鞘に収めたままの刀を握り、地面を叩く。

 やけに響いて聞こえたその音に、ルフィ達は思わず強張った顔で目を伏せる。

 

 仲間だと思っていた一人が引き起こしたとされる事件。

 危険な相手だと一時は認識していた彼女を受け入れたのは、他ならぬ自分達なのだと突き付けられた気分だった。

 

「落とし前つける時が来たんじゃねェのか? ………あの女は〝敵〟か〝仲間〟か…」

 

 容赦のないゾロの言葉に、誰も何も言えなくなる。

 やがて全員の脳裏に、サンジとチョッパーが聞いたというロビンの不穏な言葉が蘇っていた。

 

 ―――事態はもっと悪化する。

    今日限りでもう……あなた達と会う事はないわ。

「…………ロビンは確かにそういったんだな、チョッパー」

「うん」

 

 もう一度確認しながら、一味はしばし考え込む。

 暗殺未遂という物騒な事件、その容疑者とされた女が残した言葉が、嘘や冗談だとはとても思えない。何かが起こるはずだと、確信していた。

 

「今日限りでもう、会う事はねェってんだから、今日中に何かまた事態を悪化させる様な事をするって宣言してる様にも聞こえる」

「市長暗殺未遂でこれだけ大騒ぎになったこの町デ…もっとヒドいことって言ったラ……方法は一つしかないネ」

 

 スッ、とリンが視線を移し、ある方角を見やる。

 ガレーラカンパニー本社、アイスバーグとヴィルヘルムがいる場所だ。

 

「今度こそ…〝市長暗殺〟」

「そう考えるのが自然だな」

「――だが、おぬしらに罪を被せているとわかった以上、おぬしらを現場におびき寄せる〝ワナ〟ともとれル……」

 

 次にロビンが現れるのはそこだ、と一味が考えた時、それまで黙っていたフーがそう告げる。

 仮面に隠した顔を険しくし、鋭い眼光でルフィ達を睥睨しながら、全く気遣う様子のない冷徹な声で言葉を紡ぐ。

 

「今夜また決行される暗殺の現場におぬしらがいたら、〝罪〟は簡単にふりかかル」

「ちょっと‼︎ それじゃあ本当にロビンが敵だって言ってるみたいじゃない‼︎」

「爺さんは可能性の話をしてるんだ。おれもだいたい同じ事を考えてた」

 

 あまりの冷たさに、思わず食って掛かりそうになるナミをゾロが止める。

 仲間にかけられた疑惑、仲間の離反、離脱。多くの事があり過ぎて、困惑しっぱなしの全員を、思考を冴えさせたまま纏める。

 彼の言葉で、ようやくルフィ達の気持ちも落ち着き始めた。

 

「信じるも疑うも…どっちかに頭を傾けてたら…真相はその逆だった時、次の瞬間の出足が鈍っちまうからな」

「…事が起こるなら今夜だネ、〝現場〟へは? 船長」

「行く」

 

 一切迷うことなく、ルフィは答える。

 本人がどう言おうと、わけもわからないままに別れたくはないと、自ら事件の渦中に突っ込むことを決める。

 

 覚悟を決める船長を見やりながら、ナミが頬杖をついて肩を竦めた。

 

「行くのは構わないけど…問題があるのよね。サンジ君はロビンが誰かと一緒に歩いてるのを見たと言ってたでしょ。アイスバーグさんも…同じ証言をしてるの、〝仮面を被った誰か〟って」

「そいつに悪い事させられてるんじゃないか⁉︎ ロビンは‼︎」

「その考え方が〝吉〟、そいつとロビンが本当の仲間ってのが〝凶〟だ」

 

 希望的観測でしかない、自分達に都合のいい予想。

 しかしルフィ達にとってはそうである事が、この状況を乗り越えるための微かな希望であった。

 

「…………だけど〝仮面〟ってだけじゃ何の手掛かりにもならなイ。現場に行って何をするんダ?」

「ロビンを捕まえるんだ!!! じゃなきゃなんもわからねェよ」

「確かに…考えるだけ時間のムダだな」

「あノ…………ニコ・ロビンは世界政府が20年…捕まえようとして、未だにムリだったのでハ…」

「でも真相を知るにはそれしかないわね」

「よし! おれも頑張るぞ!」

 

 不安はいくつもあるが、今なせることはそれしかないと立ち上がる一味。

 

 ぎこちなさを滲ませたまま、各々でやる気を滾らせていく彼らを見やり、フーとランファンがリンの方に振り向いた。

 

「若、如何すル?」

「…乗りかかった船ダ。おれも手を貸すヨ」

「そうか」

 

 一味ではないが、ここまで乗せてもらった恩、そして事件に巻き込まれた彼らへの同情もあり、このまま同行する事を決める。

 彼の決意を聞き、ルフィ達も拒否することなく、共に行く事を認める。

 

「じゃあ、行こう」

 

 高潮の気配が近づく中、ルフィ達は表情を引き締め、再びガレーラの本社を目的地に定めた。

 

⚓️

 

 ガシャン!と、轟音と共にカウンターが破壊される。

 酒場にいた客達はギョッとし、破壊跡の中心で蒸気を噴き上げる男に、戦慄の目を向けていた。

 

「…………おーおー、どうしたんら急に」

 

 隣でジョッキに口をつけていたココロが、突如拳を叩きつけたフランキーに胡乱気な目を向ける。

 グリードやモズ・キウイも、突然怒りを露わにした彼に、不思議そうな目を向ける。

 

「何だ、どうかしたのか兄弟? 急にブチギレちまって…」

「アニキ――?」

「アァッ!!! ムシャクシャしてきたっ!!! そろそろもう一暴れ始めるかァ!!!」

 

 グリード達が尋ねるや否や、フランキーは大きな声で吠え、そのまま大股で酒場を出て行ってしまう。

 呆気に取られていたモズとキウイは、ハッと我に返ると慌てて彼の後を追いかける。

 

「あ! アニキ、待ってだわいな‼︎」

「ごちそう様だわいな、ブルーノ!」

 

 呼びかけられるも、フランキーは一切振り向くことなく、夜の街に向かっていく。

 追いついたグリードだけが、訳知り顔で肩を揺らして笑っていた。

 

「ガッハハハ………まったく、我が兄弟は素直じゃないねェ」

「うるせェ!!!」

 

 仲のいい兄弟分の揶揄いにも怒号を浴びせ、ずんずんと鼻息荒く突き進むフランキー。

 酒場に残されたココロは、そんな彼を呆れた様子で横目で見やっていたのだった。

 

 

 

 その夜、ガレーラカンパニーはかつてないほどの厳重体制をとっていた。

 数十から百数十人もの船大工達が整列し、本社の周りをがっちりと囲み、外ににらみを利かせる。

 

 大工道具で武装したその姿は、まるで軍隊のようだ。

 

「隙間なく整列〜‼︎ ガレーラカンパニー‼︎」

「「「「おう!!!」」」」

「ネズミ一匹中に入れるな!!!」

「「「「オオ!!!」」」」

 

 本社に近づく者全てを排除する、そのつもりで集まった彼ら。

 社内でも、ガレーラカンパニー有数の実力者である五人が、社長室の前で並んで椅子に座り、待ち構えていた。

 

「来るなら来いィ!!! ウオオォ〜〜〜!!!」

『うるさいポッポー、静かにしろ‼︎ タイルストン‼︎』

 

 やる気を漲らせる豪傑タイルストンに対し、ルッチの肩にとまったハットリが鬱陶しそうに目を細める。

 その隣ではカク、ルル、パウリーが同じく鋭い眼光で虚空を睨みつけ、賊が現れるその時を待っていた。

 

「〝海列車〟にゃ乗ってねェそうだ」

「まだこの島のどこかにおるんじゃな…しかしこれだけの護衛の中現れたらバカじゃぞ」

「今日の昼日中からバカがここへ突っ込んで来たと聞いてるぞ。常識で考えるな………‼︎」

 

 社外も社内も、凄まじい殺気で満ちる中。

 少し離れた場所、本社を見渡せる位置についたパニーニャとセレネも、敵が現れるのを今か今かと待っていた。

 

「さて……連中はどこから来るか…………‼︎」

「――ていうかパニーニャさん、あなた血が苦手なのにここにきて大丈夫なんですか?」

「我慢する!!! 社長と教授の仇と…………エレノアの信頼を裏切った報いを受けさせてやるんだ!!!」

「はァ…そうですか」

 

 暑苦しい理由でこの場に参戦しているというパニーニャに呆れつつ、セレネも鋭く辺りを見渡す。

 父とその友人を傷つけた悪漢を赦す気は、無論彼女はさらさらなかった。

 

 

 

「ンマー…何もここまでして貰わんでも…」

「みなさん自発的に………」

「まるで王様だよ………」

 

 社長室では、それぞれでベッドに腰かけたアイスバーグとヴィルヘルムが、外から聞こえてくる雄叫びやどごうに思わず半目になる。

 カリファもやや苦笑しつつ、アイスバーグ達の最も傍に控えている立場からか、真剣な眼差しで外を見つめていた。

 

「――――ところでお二人は、なぜお部屋にニコ・ロビンの手配書を?」

 

 ふと、視界に入った一枚の手配書を見て、カリファが疑問を抱く。

 アイスバーグは小さくため息をつき、自分も手配書を見やり、眉間にしわを寄せる。

 

「気になるかね………」

「………少し」

「知らん方がいい……‥」

 

 気になる、といった様子を隠さないカリファに、アイスバーグがきっぱりと告げる。

 宙に向けられた彼の眼差しは、まるで悍ましい何かを見ているような、近寄りがたい剣呑さを放っていた。

 

「アレは………〝悪魔〟だ」

 

 

「どこだァ〜〜〜!!! 麦わらァ!!!」

 

 どすどすと地面を踏み鳴らし、フランキーが怒号と共に町を練り歩く。

 高潮の時機を迎え、街の住人が船大工を除いて皆家に引きこもった中を、サングラス越しに鋭い眼光を放って突き進む。

 

「少しは骨のある奴に見えたがな、出てきやしねェっ!!!」

「そりゃよォ、兄弟…いまや連中は町中のお尋ね者なんだぜ。逃げ回んのに必死なんだろうよ」

「そうだわいな」

 

 そんな彼の後ろをついていくグリード達が、復活した怒りが収まらない様子のフランキーを宥めるように言う。

 黙っていたフランキーはふと、何故かカニのように横歩きになっているモズとキウイに目を向けた。

 

「…………ところでお前ら、どうした。何やってんだ」

「…………あたしら正面からの強風に弱くて!」

「やめちまえそんな髪型!!!」

 

 四角く、板の様に広げた髪型の二人。

 高潮が運ぶ風のせいでバランスをとりづらくなっている彼女達に、いい加減鬱陶しかったのかグリードが吠える。

 

 鋭いツッコミを無視し、モズ達はフランキーに訝しげな目を向ける。

 

「それよりアニキ、今日は荒れ方が変だわいな! 何かため込むなんてアニキらしくないわいな」

「うるせェ!!! おれは今週こうなんだ!!!」

 

 怒りの由来を告げぬまま、また歩く速度を上げるフランキー。モズ達にとっては頼りがいのある彼が、今夜はなんだか違って見える。

 不思議がりながら、煮えたぎる怒りを持て余しているフランキーを見つめ続けていた時だった。

 

「あ〜〜〜‼︎ アニキ〜!!!」

「グリードさ〜〜ん!!!」

 

 どこからともなく、フランキーとグリード、それぞれの子分達の声が聞こえてくる。

 全身に包帯を巻き、杖を突き、ボロボロの姿のままの彼らは、フランキー達を見つけてよろよろと駆けよってきた。

 

「あいつら‼︎ ブチのめしてくれましたか⁉︎」

「いや、まだだ。とんでもねェ邪魔が入ってよ、逃げられた……‼︎」

「ええ⁉︎ 怒りのアニキ達から逃げた⁉︎ なんて運の強ェ奴等だ」

 

 敬愛する兄貴達なら、きっと軽く一捻りにし、仕返しを果たしてくれると思っていた子分達。

 仇が五体満足であることに驚愕し、どよどよと仲間内で目を見合わせた。

 

「――そうか、しかし、あの〝弱々長っ鼻野郎〟が一人で船の修理してやがったんで、てっきりアニキが他の奴らヤッちまってくれたのかと」

「あン!!?」

 

 愕然とした様子を見せる子分の一人、ザンパノの呟きにフランキーが反応する。

 

 怒りに満ちていた彼の眼が見開かれ、悪意に満ちた表情に変わっていく。

 我が家に単身乗り込み、しかしまるで相手にならない貧弱振りを見せた男の顔を思い出し、にやりと口角を上げていく。

 

「ほ〜〜ゥ…いるのか、一人……」

「え…ええ、船に」

「一人いるなら話は早ェ…そいつを使って全員、引きずり出せるじゃねェか…!!!」

 

 浮かび上がった悪鬼のような笑顔に、子分達はまた騒ぎ出す。

 グリードもまた、兄弟分の雰囲気が変わりだしたことで、楽しげにげらげらと嗤い声を上げる。

 

「うおおっ‼︎ アニキがワルの顔をしている!!!」

「ガッハハハ!!! いいねェフランキー‼︎ おれ好みの顔だ!!!」

「…じゃあおめェら、今からこう叫んで町中をねり歩け…!!!『長っ鼻を預かった‼︎ 海に沈められたくなかったら、橋の下の倉庫へ来い!!! フランキーより』と。おれァこれから、その通りに実行する…………!!!」

「おお!!! わかりましたアニキ!!! お任せをォ!!!」

 

 ギラリ、とフランキーの眼が光る。

 屈辱を味わわせてくれた一味、その全員を叩きのめす事の出来るチャンスに、水の都の顔役達は醜悪に嗤い続けるのだった。

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