ONE PIECE −LOG COLLECTION : ELEANOR−   作:春風駘蕩

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第185話〝事態、動く〟

 双眼鏡から覗いて見えた本社前は、圧巻といって差し支えなかった。

 数十、数百人もの船大工達に囲まれたそこは、難攻不落の城の前に見えたほどだ。

 

 見張り役を担ったチョッパーは双眼鏡から目を離し、思わずごくりと息を呑んでいた。

 

「みんな武器持ってて強そうだぞ‼︎」

「……………そりゃあそうでしょ、海賊だってねじ伏せちゃうのよ、ここの船大工達は」

「こりゃあ下手に突っ込んだら大変な事になるぞ‼︎」

「そうだナ…‼︎」

「…………どの口でそんな事を言っていル…」

 

 真昼間から、それも真正面から窓ガラスを派手に割って侵入したルフィとリンが呟くには、あまりに相応しくない言葉。

 フーやナミが呆れてしまうのも仕方はなかった。

 

「何か動きがあったら、すぐ知らせろよ」

「うん、わかった」

「夜は長ェが気を抜くな…今夜のチャンスを逃したら…何のわけもわからねェままお別れだ。もう二度とロビンを追うアテはねェと思え…‼︎」

「絶対捕まえてやるさ‼︎」

 

 たったの一言もない別れの言葉。あったとしても到底納得できるものではない。

 事の真偽を全て解き明かすため、ルフィ達はじっとガレーラにおける異変に備え、息を潜めるのだった。

 

 

 

 そして、その時は訪れた。

 

『プルルルルルルル……』

 

 とある場所、とある建物の屋根の上に現れた、仮面で顔を隠した男女二人組のもとに、一本の電話がかかった。

 それに、熊の被り物をした大男が応じ、受話器を手に取る。

 

『ガチャ…準備はいいですか?』

「いいな、ニコ・ロビン」

「ええ…いつでも」

『――では私がかく乱させますので……他4名は合図の後、それぞれ任務を実行して下さい』

 

 無慈悲な声で、冷酷に指示が放たれる。

 その声に、仮面の女―――ロビンはすぅっと大きく息を吸い込む。

 

 

 

 次の瞬間、ガレーラ本社の前で大きな爆発が発生した。

 

「何だ!!? 砲撃か!!?」

「いや、どこからも飛んで来てないぞ!!!」

「セットされてたんだ‼︎」

 

 突然の事態に、目を見開き右往左往する船大工達。

 少し離れた場所にいたパニーニャとセレネも、異変に気付き血相を変え始める。

 

「オラァ――‼︎ どこのどいつだァ―――!!!」

「あっ…ちょっとパニーニャさん!!!」

 

 血気盛んに、爆発がした方へと駆け出していくパニーニャ。

 セレネが止めようとするも、機械鎧とは思えないパニーニャの俊足には追い付けず、あきれ顔で虚しく手を下げる。

 

 そしてその異変には、様子を伺っていたルフィ達の目にも映っていた。

 

「うわ――‼︎ 爆発したぞ――――!!!」

 

 双眼鏡を除いていたチョッパーが叫び、ゾロ達が身構える。

 最初の事件のように音もなくやって来るのかと思えば、予想外に派手な爆発音が響いたため、どこもかしこも大騒ぎになっているのが見え、聞こえた。

 

「始まったようだネ…‼︎」

「………うわあ――…もうだいぶ騒がしいぞ‼︎」

 

 おそらくはあの騒ぎの中に、ロビンと真犯人たちが紛れ込んでいる。

 今すぐに向かいたいところだが、あの状況に飛び込んでしまえば犯人の一味と認識されるに決まっている。

 緊急の事態だからこそ、落ち着かなければならなかった。

 

「ン? ルフィはどこダ?」

「「「「えっ!!?」」」」

 

 の、だが。

 彼らの船長はやはり、その辺りの事情を理解していなかったようだった。

 

 

 

 外がそう、突然の事態によって混沌とし始めた時、彼らは現れた。

 何の変哲もない壁が、突如人の形に浮き上がったかと思うと、そのままドアとなって開かれていく。

 

 そこから現れた熊の被り物の男に、アイスバーグとヴィルヘルムはギョッと目を剥いた。

 

「………驚いた…いずれ来るとは思ったが………」

 

 熊の被り物の男がドアを壁に押し込むと、ドアはピタリと嵌って、跡形もなく元に戻ってしまう。

 それが昨日の再現だと理解し、アイスバーグ達の表情が緊張で酷く強張る。

 

「悪魔の実の能力者だったか…」

「〝ドアドアの実〟だ。どんな堅い壁でもおれの触れた部分は〝ドア〟になる。壁さえあれば、おれはどこでも出入りできる」

 

 不敵に告げた熊の被り物の男が、懐から取り出した銃を構える。

 すると、彼は何の前触れもなく引き金を引き、ベッドに横になったままのアイスバーグ達の足を片方ずつ撃ち抜いてみせた。

 

「何を…合図はまだよ」

「喋る元気がある者を弱っているとは言えんな。名コックが食材の下準備を怠らない様に、約束の合図の時間までに予想に反する行動を取らせない様、手を抜かず動きを止めておくのが〝プロ〟の仕事だ」

 

 呻き声をあげ、ベッドから転がり落ちる二人を見下ろし、男と共にいたロビンが咎めるような目を向ける。

 それに男が平坦な声で答えると、ヴィルヘルムが歯を食いしばりながら、吐き捨てるように呟いた。

 

「――それが…………‼︎〝CP9〟の…やり方か………!!!」

「…………読みがいいな……………その通り」

 

 その名を口にしたことが意外だったのか、思わずと言った様子で呟く謎の男。

 平然と肯定の言葉が返ってきたことで、アイスバーグとヴィルヘルムは眉間にしわを寄せ、深く嘆息する。

 

「…悪ィ事したな、〝麦わら〟には…」

「彼はやはり……関わっていなかったのか…」

 

 船大工達に向かわせ、銃を突き付け、島中に指名手配した青年達。

 何も知らないと繰り返していた彼らへの申し訳なさで、二人は項垂れる。胸中はもう、彼らへの申し訳ない気持ちでいっぱいになる。

 

 ロビンはそれに、冷静な目を向けため息交じりに呟いてみせた。

 

「気にする事もないでしょう? あなた達は昨夜、私を見たという事実を言っただけ」

「――それも作戦の内か………」

「そうだ。お前達を生かし、海賊に罪を被せる為のな」

 

 何一つ悪びれることなく、熊の被り物の男は語る。

 ()()()()()()動く彼にとって、悪である海賊をどう扱おうと一切良心は痛まない。それが人殺しの汚名を着せる事であってもだ。

 

「――それにお前達を突然殺してしまっては、おれ達の目的である例の…とある船の〝設計図〟のありかがわからなくなってしまう」

 

 男の言葉に、アイスバーグ達はさらに歯を食いしばる。

 もっとも知られたくなかった事、知られてはならなかった事を見抜かれ、内心で冷や汗が滝のように流れ落ちる。

 

 決して()()を渡してはならないのに、それが存在することを知られている事が恐ろしくて仕方がなかった。

 

「――そして選んだ男が1番ドック職長、パウリーだった…今、彼の元に我々の同胞が行っている」

「…………全てはお前らの…思惑通りというわけか」

 

 心の底から悔しさを表すように、床に額を押し当てるアイスバーグ達。

 熊の被り物の男はそれを愉しげに見下ろし、次いで大きな騒ぎ声が響いてくる室外に目をやる。どことなく、鬱陶しさが滲んで感じられた。

 

「――――最後まで不備のないよう…おれは扉の外の大工達の相手をしてくる。ニコ・ロビン、この男達の始末は後はお前がやれ。パウリーから設計図を奪ったら、二人から連絡が入る…………その時点で、アイスバーグの命を取れ!!!」

 

 その場に佇んだまま、何も口にしないロビンにそう告げ、熊の被り物の男が出入り口に向かう。

 扉に手をかける前に一度立ち止まり、ロビンの方を見やって再び口を開く。

 

「――あとは事の真相を知ったパウリーを消して、任務完了だ。その後の罪は全て〝麦わら〟の一味が被ってくれる」

 

 嘲笑うような響きを声に乗せ、熊の被り物の男は、大勢の船大工達で溢れかえる室外へと踏み出していった。

 

 

 

 そして、場面は本社の外に戻る。

 突然いなくなったルフィに戦慄しつつ、ゾロ達は騒然としたままの本社を目指す。急がなければ、船長が取り返しのつかない事をするかもしれないのだ。

 

「まったくも――‼︎ 何であいつはこう…人の〝助言〟ってものを聞けないの⁉︎」

「何を今更…」

「おぬしらも大変だナ……」

「ちょいちょいフーじい様?〝も〟ってどういう事?」

 

 ゾロ達に同情の眼差しを送るフーの呟きに、リンがすかさず反応する。

 しかし、嘆いてる暇はないと全員で考える。いなくなったのなら仕方がない、今後自分達はどう動くべきかを考える必要があった。

 

「でも…‼︎ 今の騒ぎの中にロビンがいるかも知れないんだよな‼︎ おれ達はどうするんだ⁉︎ 慎重にいかないと………‼︎」

「だけど、そこがまた考え様によってはラッキーなのよね」

 

 焦りを隠しきれないチョッパーが問うと、ナミが考えながら呟く。

 この状況でどうすることが最適か、そしていなくなったルフィが一体どこに向かっているか、それを考えたナミはある可能性に思い至る。

 

「ルフィが敵陣に乗り込む場合…裏へ回ったり横へ回ったりすると思う?」

「そりゃねェ」「ねェねェ」「ないネ」「ないナ」「なイ」

 

 ナミの問いに、全員で否定の言葉を口にする。

 リン、フー、ランファンでさえ、それほど長く共に過ごしたわけではないのに、ルフィの思考をほぼ理解してみせていた。

 

「きっと今頃飛ぶか走るかで〝真正面〟からのりこんで、屋敷に入ったはいいもののどこへ行ったらいいかわからず、船大工達に追いかけ回されてる頃だと思わない?」

「あァ…思う」「思う思う」「確実にそうだと思ウ」「それ以外にないと思ウ」「間違いないと思ウ」

 

 今度の問いには、全員で肯定の頷きを見せる。想像してみれば、一切のよどみなく言われた通りの状況を思い浮かべる事ができた。

 誰一人疑うことなく、ナミの言った通りになっていると確信を持っていた。

 

 ゾロはそこで、自分達の向かう方向を見つめながら、にやりと不敵に笑みを浮かべる。

 

「成程、ルフィのお陰で今、侵入の絶好のチャンスってわけか…」

「納得だ―――‼︎ じゃあ飛び込んで大丈夫だな」

「あの塀を飛び越えられそう‼︎」

「よし、入るカ‼︎」

 

 迷うことなく、確認することなく、ゾロ達は思い切り跳躍し、ガレーラ本社を囲う鉄柵を飛び越える。

 そして―――商売道具を手に集まっている船大工達と対面し、ピシリと凍りついてしまった。

 

 ―――どこが手薄だァ――!!!

 

 ルフィの姿は、そこに影も形もありはしなかった。

 

 

 

 ガレーラ本社内は、まるで地獄のような有様となっていた。

 爆発の直後現れた、仮面を被った何者かが暴れ回り、屈強な船大工達を次々に行動不能に陥らせていた。

 

 職長ルルでさえ容易に捕らえられない襲撃者への恐怖と驚愕は、社長室がある3階にまで辿り着きつつあった。

 

「誰か!!! 社長室と寝室前に来てくれ!!! 3階の護衛が全滅してる!!!」

 

 その声に、侵入者を捕らえようと持ち場を離れていたタイルストンやパニーニャ、そして不安になって階を上がってきたセレネが反応する。

 

「どういう事ですか…⁉︎ カクさんとルッチさんがいるハズですよ⁉︎」

「何があった!!?」

 

 社内で一、二を争う実力者。

 多少腕に覚えがある海賊を相手にしても、無傷で捕らえてきてしまうような者達がいるはずなのに、ここまでの暴挙を赦してしまっている。

 信じられない気持ちを抱えたまま、社長室の前まで戻ってきたタイルストン達は。

 

 血まみれで沈黙する職長達―――カクとルッチの姿を目の当たりにし、愕然とその場に立ち尽くした。

 

「カク!!!! ルッチ!!!!」

「…………やれやれ、早く任務を終えねェとキリがない…連絡はまだか………?」

 

 先ほどまで職長達が座っていた椅子、その真ん中の椅子に腰かけていた熊の被り物の男が、手にした電伝虫を見つめて呟く。

 その姿に、タイルストンとパニーニャの怒りが頂点に達した。

 

「おのれェっ!!! よくもカクとルッチを!!!」

「コンニャロ―――!!!」

 

 仲間を、同僚達を虫けらのように蹴散らした襲撃者、その一人に間違いない怪しい装いの男に、二人の敵意が爆発し襲い掛かる。

 愛用の鋼鉄の鎚、義足に仕込んだ刃を振りかざした彼らは。

 

「怪力が自慢か?」

 

 ドガンッ、と凄まじい音を立てて砕けた獲物を目の当たりにして硬直し。

 顔面に叩きつけられた拳により、あっさりと意識を手放してしまっていた。

 

「タイルストンさん!!!」

 

 一瞬我を失っていたセレネが叫ぶも、尋常でない一撃を喰らった二人はピクリとも動かない。

 血まみれで倒れる二人を前にし、セレネもカッと頭に血を昇らせ、錬成陣が刻まれた腕輪を手首に嵌めて前に出る。

 

「父さん達に手出しはさせない…‼︎〝壊音の霹靂(サンダラー)〟!!!」

 

 バンッ!と床に手袋をはめた掌を叩きつけ、青い閃光を走らせる。

 床の木材が変形し、幾丁ものライフルへと変わったそれから放たれた銃弾が、真っ直ぐに熊の被り物の男の脳天に迫る。

 

「無駄な事を………〝嵐脚〟」

 

 だが、放たれた銃弾は容易く躱され、男が軽く足を振り上げる。

 すると、突然セレネの胸元から鮮血が噴き出し、声も発することもできずに倒れ伏してしまった。

 

 

 

「ロロノア・ゾロだァ!!! とうとう姿を現しやがった!!!」

「他の奴も昼間見たぞ!!!」

「絶対逃がすなァ!!!」

「麦わらの一味だァ!!!」

 

 ゾロ達は只管に走る、走り続ける。

 警備が薄くなるどころか、のこのこと真正面から入って船大工達の注目がたくさん集まってしまったため、自分達が必死に逃げ回る羽目になっていた。

 

「ぎゃあ〜〜!!!」

「ちょっと何でルフィいないの!!?」

「知るかよっ‼︎」

「こりゃホントにマズイネ!!!」

 

 獣状態のまま、二足歩行で逃げるチョッパーの悲鳴が響く中、ナミが半ば八つ当たりの勢いでゾロに叫ぶ。

 だが、ゾロもリンも逃げるのに必死で考えている余裕などなかった。

 

「くっそォ………‼︎ もう、こうなっちまっちゃどの道おれ達ァ〝現行犯〟みてェなもんだ…………‼︎」

 

 不意に、ゾロが逃走を止めて停止する。

 腰から刀を抜き、覚悟を決めた様子で構えだす彼に、ナミはハッと困惑の目を向ける。

 

「え⁉︎ ちょっとゾロ、何すんの!!?」

「屋敷の周りを逃げ回ってても仕方ねェ‼︎ 正々堂々正面から突破してロビンを探す‼︎」

「それしかないネ……」

 

 ゾロが船大工達を睨みつけてそう告げると、リンもその場に留まり剣を抜く。

 戦う気を満々に見せるゾロとリンに、チョッパーが思わず待ったをかけた。 

 

「だけど相手は船大工だぞ‼︎ 敵じゃないんだぞ」

「大丈夫………‼︎」

「〝峰打ち〟にするかラ」

 

 にやり、と笑みを浮かべ、二人は刃をきらめかせて飛び出していく。

 次々に襲い掛かる船大工達に、ほぼ本気の情け容赦のない一閃を叩き込み、吹っ飛ばしていく。

 

 あっという間にガレーラの中庭は死屍累々の惨状となり果てていった。

 

「道をあけろォ!!!」

「「致命傷与えてますけど‼︎」」

 

 ナミとチョッパーのツッコミが入るも、二人は止まらない。

 意気揚々と刃を振るう男達に、フーとランファンは心底呆れた様子で肩を竦めていた。

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