ONE PIECE −LOG COLLECTION : ELEANOR− 作:春風駘蕩
「ンマー…驚いた…正直…ここで会う事になるとは思ってもみなかった…………ニコ・ロビン」
全身を隠していたローブのフードを外し、露わになった女の顔。
それを目の当たりにしたアイスバーグとヴィルヘルムは、深々と息を吐き、目を細めていた。
「――どこかでお会いしたかしら」
「昨夜が初めてだよ…………だが我々はずっと…君に会いたかった」
訝し気に眉を寄せるロビンに、アイスバーグ達は意味深に呟く。
すると次の瞬間、二人と一人は懐から銃を抜き出し、互いの眉間に銃口を突き付け合う。
能力を駆使し、四丁の銃を構えながら、ロビンは険しい表情で二人を睨みつける。
「殺す為……?」
「そうだ、お前が世界を滅ぼす前に…!!!」
親の仇でも見るような凄まじい敵意を持って、アイスバーグ達もロビンを見据える。僅かにでも動けば、躊躇いなく引き金を引く気迫だ。
「〝歴史の本文〟を求め、研究・解読することは…………世界的な〝大罪〟だと大昔から政府が定めている。そのくらい承知のハズだよ…!!!」
「なぜあなた達が〝歴史の本文〟の存在を…………」
「存在を知る程度なら罪にはならん………だが――おそらく今、世界中でその文字の『解読』ができるのは、君一人だけだ。だからこそ、当時8歳という幼い少女だった君の首に、政府は高額の賞金を賭けた」
困惑気味に呟くロビンに、ヴィルヘルムが冷や汗をかきながら語る。
二人の容体は、熊の被り物の男に撃たれた直後のまま。早く手当てをしなければ、出血で命にかかわるかもしれない。
だが、痛みが気にならないほど、彼らは目の前の女に集中していた。
「―――君が世界で唯一……『古代兵器』を復活させられる女だからね」
「………兵器の事まで………」
ますます困惑するロビン。
市長とその右腕とはいえ、一市民が知るはずのない、政府が存在そのものを隠している恐るべき兵器について知っていることが、不思議でならなかった。
「…………『CP9』は実在の機関だったか…」
「となれば君はすでに〝麦わら〟の一味を離れ、〝政府側〟に加担しているという事になるね…………政府に追われ続けているハズの女の行動としては奇っ怪ではあるが…私達にとっては関係のない話だ……」
色々と不可解な点もあるが、それに構っている暇はない。その一挙一動によって、世界を滅ぼしうる女が目の前にいるのだ。
かつてとある島にいた、兵器復活を求めたという一団の生き残りである彼女を、放置する気はさらさらなかった。
「〝歴史の本文〟の解読によって〝兵器〟が復活すれば、それを持つ者が正義であれ悪であれ、結果は同じだよ…兵器が人の世にもたらすものが…〝平和〟であるわけがない…世界は滅ぶ。過去の〝遺物〟など、呼び起こすべきではないんだ!!!」
その時、ロビンの目に強烈な軽蔑の光が灯る。
嫌悪と憎悪を持って吠えたてるアイスバーグ達に対し、それと同じかそれ以上の熱を孕んだ目で睨み返す。
しかし、それはやがて諦めたように薄れてしまった。
「―――そうね、そう思うわ。だけど大きなお世話…‼︎ 私がどういう形で歴史を研究しようとも…見知らぬあなたに口を出される筋合いはない‼︎」
「―――そうでもねェさ…おれ達もある意味、お前と立場が同じだからな………」
荒い息をつきながら、悔しさを顔中に出しながら、アイスバーグは告げる。
静かに苛立っていたロビンが、一瞬で驚愕で表情を変える程の、衝撃の事実を。
「おれ達ァ古代兵器〝プルトン〟の『設計図』を持っている!!!」
「………兵器の設計図⁉︎」
プルトンとは、遠い昔このウォーターセブンで造られた『戦艦』の名だった。
あまりに強大な兵器を生み出してしまったかつての造船技師は、万が一その力が暴走を始めた時への〝抵抗勢力〟として、その設計図を代々後世に引き継がせたのである。
本来であればロビンに対して、そして政府に対しての切り札となるものであった筈なのだ。
「――――政府は…そいつを狙って…ついにはこんな強行な手段に出やがったのさ。そんな事も知らずに、奴らに協力しているとは…呆れたな」
愕然とした様子で立ち尽くしているロビンに、アイスバーグは鼻を鳴らしてそう言う。
どういう目的で彼女が今回の凶行に混じっているのかは知らないが、プルトンの事について何も知らなかった様子が、滑稽に見えていた。
「……私達に設計図を託したトムという男は…20年前〝オハラ〟から唯一逃げ出した少女の事をずっと気にかけていた。幼い姿はしていても、〝オハラの悪魔達〟と同じ思想を持った危険な子だと……だから製造者の意志を汲んだ私達には、君を止める責任がある…」
「設計図の存在を政府に勘づかれた今となっては…本来なら、もう燃やしちまった方がいい様なもんだが……そうできねェのは…………!!! お前が生きていて…!!! 兵器復活の可能性が消えねェからだ!!!」
銃口を突き付け、目を吊り上げ、アイスバーグとヴィルヘルムが吠える。
二人の引き金にかかった指に、ゆっくりと力が入り始めたその瞬間。
ロビンが能力を使用し、関節を極め、仰向けになった彼らの顔にそれぞれ銃口を突き付け、抑え込んでみせた。
「死ぬ前に…言っておきたい事は…それでいい?」
ロビンは問う。
自分を殺したところで、止めたところで、設計図を奪われてしまえば結果は同じなのではないかと。
その問いに、命の危機にある二人は平然とした様子で答えた。
「…じゃあもう一言だけ、言わせてくれ……作戦にハマったのは……………お前らの方だ」
アイスバーグは、パウリーにある指示を与えていた。
金庫にある設計図を預け、どこかへと持ち出してくれるようにと。
しかしそれは偽物、いざとなれば放り出して逃げろと言われていたが、パウリーは応戦し捕らえられていた。
余計な時間をとられた仮面の男達は、苛立たしげに電伝虫を使用する。
『おれだ。作戦に障害が発生した。全員すぐに〝寝室〟へ。アイスバーグはまだ、撃つな』
計画に大きな問題が起こったことで、本社内部で暴れ待っていた四人が寝室へと集結する。
集まった忌々しい襲撃者達を前に、アイスバーグ達が見せたのは、凄まじい剣幕と罵声だった。
「帰れ!!! おめェらに渡す物などない!!!」
命を狙われ、命より重要な設計図を狙われ、アイスバーグ達の怒りと焦りは頂点に達している。
その時、羽搏きながらやってきて、仮面の集団の一人の肩にとまったそれを目の当たりにして、二人の表情が一瞬で凍り付いた。
「まず、何から話せばいいのか…死にゆくあなたに」
ため息交じりに呟き、一人が牛の仮面を外す。
それに応じ、他の者も次々に仮面を外し、各々の正体を露わにしていく。
晒された襲撃者達の素顔に、アイスバーグもヴィルヘルムも、もう微かな声もあげられなくなっていた。
「あなたにはがっかりさせられた」
「あんたが悪いんじゃぞ……政府が大人しく申し出とるうちに………渡さんからこうなる」
「―――できる事ならあなたを傷つける事なく、この町を思い出にしたかった」
「頑固さも師匠ゆずりか……」
そこにいたのは、アイスバーグ達を長年支え続けた優秀な部下だったはずの三人と、裏町でずっと店を構えていたはずの男。
ルッチ、カク、カリファ、そして酒場のブルーノだった。
「君達は…政府の人間だったのか…………!!!」
「そう…潜伏する事など我々には造作もない任務………しかし、あなたの思慮深さには呆れて物も言えない…!!!」
絶句し、固まったままのアイスバーグ達に、これまで一度も声を聞いたことのないルッチが饒舌にしゃべる。
「古代兵器プルトンの設計図――そのありか…多くの犠牲を出す前に、お話し下さい」
忠実だったはずの彼が、軽蔑の眼差しさえ交えてアイスバーグ達を見下ろすその姿が、まるで信じられない。
悪い夢か何かだと言われた方が納得できるような、信じがたい光景。しかし、二人共撃たれた痛みが確かにあり、これが現実であることをはっきりと示している。
「我々が潜伏していたのは5年…ご安心を、仕事は手を抜かずにやりました。意気消沈お察しする………しかし――我々がこの件に費やす時間も…制限時間を迎えましたので。目的遂行の為、ここで最善を尽くす気構え。あまり考えのない抵抗ならばしない方がよろしい」
裏切った立場でありながら、いけしゃあしゃあと語るルッチに、次第にアイスバーグ達の顔が刺々しくなっていく。
それに構うことなく、ルッチはハットリに頼ることなく、恐ろしく残酷な事を口にしてみせる。
「―あくまで〝正義〟の名のもとにですが…我々は…政府に対して非協力的な『市民』への…『殺し』を許可されている」
カッ、と怒りが頭に昇るのと同時に、ぞっと背筋に寒気が走る。
本来人を守るべき組織である政府。それが裏で平気で人を殺めているなど、凄まじい矛盾にしか聞こえない。
「身勝手な………‼︎ 正義と名のつく殺しがあってたまるものか!!!」
「世界政府は一部…考えを改めたのです。兵器の復活を危惧し続けるより―――いっそ兵器を呼び起こし、この〝大海賊時代〟に終止符を打つ〝正義の戦力にしようと…!!!」
「話にならん…‼︎ 兵器が復活すれば、世界はその力を奪い合う。被害は拡大する一方だ…‼︎」
吐き捨てるように言い、さらに目を吊り上げるアイスバーグ。
端から話にならないとわかっていながら、ルッチは心底呆れた様子で二人にため息をつく。
「あなた方は政府を信用していない様ですね、アイスバーグさん…ヴィルヘルムさん」
「私達は〝人間の性〟を知っているだけだよ…若僧君…」
精一杯の悪態と共に、ヴィルヘルムがルッチにそう告げる。
その次の瞬間、ルッチの放った強烈な蹴りがヴィルヘルムを吹っ飛ばし、彼は激しく壁に叩きつけられてしまった。
「ヴィルヘルム…‼︎」
「慎みたまえ…いつまで上司のつもりでいる…」
アイスバーグが親友の身を案じるも、負傷した身体は上手く動かない。
呻き、身を震わせるヴィルヘルムのもとに、カクが無表情のまま歩み寄り、ヴィルヘルムの片手の脈をとり始めた。
「失礼」
「お二人とも。先程、実は我々に一つ仮説が生まれました…あなた方はただ、それを聞いていてくれればいい…きっとあなたの血が真相を答えてくれます」
「……そんなやわな作りはしていないよ、私は……」
「果たしてそうでしょうか…………ああ、そうそう」
緊張と焦りによる心拍の変化により、秘密を探ろうとしているのだと即座に察し、小馬鹿にして鼻を鳴らすヴィルヘルム。
ルッチ達は、その嘲笑をまるで気に留めない。やがてルッチの眼が、少しだけ嗜虐心を宿し、悍ましく歪められだした。
「ご息女の事は…………誠に残念です。あなたを守る為に勇敢に戦ったとだけ、お伝えしておきます」
はっ、と目を見開き、びくりと肩を震わせるヴィルヘルム。
その隙を、ルッチ達は見逃さなかった。
態々偽物を用意した意味。
ここまでされて誰にも渡そうとしない事。
その答えは、もう他の誰かに託してあるから。
その誰かとは、偽物の設計図の一部にすでに書かれている事。
その誰かは、かつて死んだと思われていたが、ウォーターセブンに今も尚暮らしていて、ルッチ達全員がその名を知っている事。
その誰か、カティ・フラムは―――フランキーと名を変えて、設計図を託されているという事を。
娘を手にかけられ、動揺したヴィルヘルムの脈を読み取り、カクは確信を持った。
「間違いなさそうじゃな…まさか、あいつとあんたにそんな繋がりがあったとは」
「ぐゥ…!!! すまない、すまない…アイスバーグ…!!!」
「言うな…‼︎ 何も……!!!」
唯一といっていい弱点を見抜かれ、まんまと真実を見抜かれてしまったことで、ヴィルヘルムは顔を歪め、きつく歯を食いしばる。
アイスバーグもまた、彼にそうさせてしまったことへの申し訳なさでいっぱいになっていた。
「フランキーは確かに…調べても調べても素性の知れない男だったが…〝解体屋〟であの横行ゆえ鼻にもかけていなかった…これで予測は一本の線になり――更にあなたの波打つ血が、それを的中だと告げた!!!」
まるで推理を成功させたかのように、ルッチは高らかに語る。
表情に笑みを浮かべる事はなく、ただ淡々と仕事を終えた報告をするように、長年にわたって騙していた元上司に告げる。
苦痛の呻き声を漏らす彼らに、ルッチは目を細め、続けて語り掛ける。
「なに…あなた方に罪はない…これだけ色々な事が起こる夜に動揺を隠せなくなるのは、血の通った人間ならば当然……」
「今日まで世話になりましたね。あんた達は、もう用済みじゃ」
「急いでフランキーを探しましょう」
「てめェら…!!!」
恩義も仁義も、何もかもを踏み躙るような態度で任務の終わりを口にするルッチ達に、アイスバーグ達の怒りが再燃する。
しかし、傷を受けた彼らは彼らは動けない、立ち上がれない。
打ちひしがれる彼らが、せめてもの抵抗にルッチ達を鋭く睨みつけていたその時だった。
「「うりゃああああああ!!!」」
寝室の壁が二か所破壊され、巨大な穴があけられたかと思うと。
麦わらの青年と、三本の刀を持った青年が、凄まじい勢いで室内に飛び込んできたのだった。