ONE PIECE −LOG COLLECTION : ELEANOR−   作:春風駘蕩

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第187話〝願い〟

「ロビン!!!! やっと見つけたぞ――――!!!」

 

 思いきり打ち空けた壁の穴を通り、ルフィが寝室に乗り込む。

 すぐそばの壁に開いた穴からもゾロ達が顔を出し、雄叫びを上げるルフィを見つけて目を吊り上げる。

 

「おい‼︎ ルフィ!!! てめェ一体どこに居やがったんだ!!!」

「ロビーン‼︎ また会えてよかったぞ―――っ‼︎」

「………でも、あんまり喜べる状況じゃなさそうだネ」

「………!!? ちょっと待って、この状況何⁉︎」

 

 いきなり別れを告げていなくなってしまったロビンを見つけ、ほっと安堵の叫び声をあげるチョッパー。

 しかし、彼女とともにいる黒服の集団を目にし、リンとナミ達がハッと表情を変え、ロビンと交互に凝視する。

 

「やれやれ…………」

「麦わら……パウリー………!!!」

「お二人とも………こりゃ一体、どうなってるんですか!!!」

 

 騒がしく乱入してきたルフィ達に、ルッチが心底面倒臭そうにため息をつく。

 ルフィと共に入ってきたパウリーは、ルッチとその傍で血塗れで倒れ伏すアイスバーグ達を目にし、真っ青な顔で立ち尽くしていた。

 

「何なんですか……!!! まるでこいつらが…………………………!!! あなたの命を狙った犯人みてェに…………!!! お前ら何でそんな格好してんだ………!!!」

 

 長年共に仕事をしてきた仲間。喧嘩を良くしたけれど、憎しみを抱いたことなど一度もなかったはずの三人。

 そんな彼らが、こんな場所にいるはずがないと脳が理解を拒んでいた。

 

「パウリー………実はおれ達は政府の諜報員だ。まァ謝ったら許してくれるよな……? 共に日々……船造りに明け暮れた仲間だ、おれ達は…」

 

 わなわなと震えるパウリーに、ルッチが一切悪びれる様子もなく口を開く。

 感情などまるで感じられない冷たい視線で、顔を強張らせるパウリーを真正面から見返す。

 

「突然で信じられねェなら、アイスバーグの顔でも……踏んで見せようか…………!!!」

「ふざけんな…もう充分だ!!! …ハア…さっき聞いた〝牛仮面〟の声が……お前の声と一致するからな、畜生…!!! …てめェ………!!!」

 

 ぎりっ、とロープを掴む手に力が籠もる。

 状況を理解し始めると、徐々に彼の中には怒りの炎が渦巻き出す。これまで共にいた日々、かけた言葉、決して短くない時間が脳内で再生され。

 

 それが全て嘘だったのだと知らしめられ、感情が激しく爆発した。

 

「ちゃんと喋れんじゃねェかよ!!!! バカにしやがって!!!」

「やめろパウリー!!!」

 

 アイスバーグの制止の声も聞かず、パウリーのロープが放たれる。

 喧嘩の中で何度も使用し、しかし殺意など一度も纏わせなかった一撃を、彼は今度は本気で殺す気で放っていた、だが。

 

「『指銃』」

 

 ルッチが無情に呟いた直後、突き出された人差し指がパウリーの身体を貫く。

 既に手ひどい傷を受けた体に、新たに攻撃を食らい、パウリーはその場にがくりと膝をつく。

 

「まだ懲りないのか…⁉︎ パウリー!!!」

 

 ぽたぽたと鮮血を滴らせる指を掲げ、ルッチが呆れたように告げる。

 ナミ達はその光景に絶句する。只指を突き刺しただけで、実際に人体が貫かれるなど、おかしな夢でも見ているとしか思えなかった。

 

「おい!!! ロープのやつっ!!!」

「無駄に耐えるな…おれ達は人界を超える技を体得してる」

 

 長い訓練を重ね、人体を武器に匹敵させる武術〝六式〟。

 肉体を鋼のように硬化させ、一瞬のうちに移動し、宙を歩き、あらゆる攻撃をかわし、道具を一切使う事なく暗殺をこなす。

 

 それがルッチ達の―――暗殺集団〝サイファーポールNo.9の武器だった。

 

「何で、お前らが………!!!」

「まァいい、どの道消す命…悲しいが友よ…」

「ルッチ‼︎ 貴様ァ!!!」

 

 項垂れるパウリーに向け、ルッチがゆっくりと片足を振りかぶる。

 一度は仲間であった相手に、躊躇いなくとどめを刺そうとする裏切り者に、アイスバーグが叫ぶも、男は止まらない。

 パウリーの命が容赦なく刈り取られようとした、その時だった。

 

「そりゃちょっとご遠慮願うヨ!!!」

 

 ごうっ、と風の如き速さで動いたリンが、パウリーを抱えて素早く下がる。

 彼と入れ替わるようにして、ルフィが思い切り駆け出しながら、無数の拳をルッチに向けて放つ。

 

「〝ゴムゴムの〟…………!!!」

「『鉄塊』」

「〝銃乱打〟!!!!」

 

 一発一発が強烈なルフィの連撃。

 しかし、ルッチはそれらを平然と受け止め、微動だにせずに耐えきってしまった。

 

「何だ⁉︎ 全然効かねェ!!!」

「…………うっとうしい、『剃』」

 

 驚愕で目を見開くルフィの目の前で、ルッチの姿が掻き消える。

 すると次の瞬間、ルッチはルフィの目と鼻の先に現れ、鋭い指の突きをルフィの喉に撃ち込む。喉がびよんと伸び、ルフィは大きく吹っ飛ばされた。

 

「生身なら、首に風穴開いて即死だったな、ゴム人間」

 

 咳き込みながら体を起こすルフィを見下ろし、詰まらなそうに鼻を鳴らすルッチ。

 彼はパウリーを背に庇うリンや、敵意を埋めるルフィを見渡し、意味が分からないという風に眉間にしわを寄せる。

 

「何のつもりだ…貴様ら」

「お前、こいつ殺す気だろ!!! 一緒に船大工やってたんじゃねェのかよ!!!」

「―――さっきまでな…もう違う…」

「本当に裏切り者か!!! じゃいいよ、とにかくおれはこいつと一緒に‼︎ アイスのおっさんを殺そうとしてる奴等をブチのめそうと約束したんだ!!!」

 

 困惑しながらも、ルッチ達を明確な敵と認識したルフィが吠える。

 ゾロやリン、フーやランファンも各々の武器を構えるのを見やり、カクも訝しげな様子で口を開いた。

 

「……なぜお前がパウリーに味方するんじゃ…」

「おれもお前らに用があるからだよ!!! おい、ロビン!!! なんでお前がこんな奴らと一緒にいるんだ!!! 出て行きたきゃちゃんと理由を言え!!!」

「そうよ‼︎ こいつら政府の人間だって言うじゃない‼︎ どうして!!?」

 

 キッ、と鋭い目で、ルッチ達の向こう側に佇んでいるロビンを見つめるルフィ達。

 ロビンは目を細め、鬱陶しそうに眉間にしわを寄せていた。まるで、ルフィ達の姿を見たくないとでも告げているような、苛立ちに満ちた表情だ。

 

「…………聞きわけが悪いのね…コックさんと船医さんにお別れは言った筈よ…伝えてくれなかったの?」

「………‼︎ 伝えたよ‼︎ だけどおれだって納得できねェ‼︎ 何でだ!!? ロビン!!!」

「私の願いを叶える為よ!!! あなた達と一緒にいても、決して叶わない願いを!!! ……それを成し遂げる為ならば、どんな犠牲も厭わない!!!」

 

 はっきりとした拒絶の言葉、それも信じられないほどに残酷な告白に、ナミもチョッパーも思わず息を呑む。

 ゾロとリンは半ば予想済みだったように顔をしかめ、鋭い目でロビンを睨みつけていた。

 

「―――それで…平気で仲間を暗殺犯に仕立て上げたのかイ? 願いってのは…何ダ?」

「話す必要がないわ」

「正気の沙汰じゃねェ…‼︎ その女は……‼︎」

 

 凄まじい殺気を互いに放ち、睨み合うロビンとリン。

 そこに、横たわっていたアイスバーグとヴィルヘルムが荒い息をつきながら声を漏らした。

 

「気は確かかね、ニコ・ロビン!!! 君は自分が何をしようとしているのかわかっているのか!!!」

「あなた達にはもう…何も言う権利はないハズよ」

 

 ロビンはそう言って、ぎろりと二人を見下ろし吐き捨てる。

 すると、アイスバーグ達の身体から幾本もの手が生え、二人の手の関節をきめ出す。

 

「黙っていなさい!!!」

「ぐあァ!!!」「がはッ!!!」

「アイスバーグさん‼︎ ヴィルヘルムさん‼︎」

 

 苦痛の声を上げるアイスバーグ達に、パウリーも悲痛な叫び声をあげる。

 何もできず、倒れたままの自分自身を情けなく思いながら、彼はその光景を見ているほかにない。

 

「誰にも邪魔はさせない!!!!」

「おいロビン‼︎ 何やってんだ!!? お前本気かよ!!!」

「ロビン、どうしちゃったんだ⁉︎ 本当にもう…敵なのか!!? ロビ――――ン!!!」

 

 謎の多い彼女ではあるが、ここまで残酷な事を平気でするはずがないと、ナミやチョッパーの困惑はますます深まる。

 

「悪いがそこまでにして貰おう…我々はこれから〝重要人物〟を探さなきゃならないんだ、急いでいる。この屋敷にはもう用もないし……………君らにももう、完全に用がない」

 

 悲痛に叫ぶルフィ達を鬱陶しく思ったのか、遮るようにルッチが告げる。

 集まる殺気をものともせず、取るに足らない有象無象の様に見下し、どこか面倒臭そうに語り出す。

 

「突然だが…あと2分でこの屋敷は炎に包まれる事になっている」

「何だと!!?」

「ほほゥ…? 此処にある証拠を全部消すつもりかイ? 確かに有効だナ………全部おれ達の所為にしテ」

「そういう事だ…君達も焼け死にたくなければ、速やかに屋敷を出る事だ」

 

 不意に、ルッチの口元に笑みが浮かぶ。

 船大工として働いていた時は見た事がない、あまりにも悍ましいそれに、ナミの背筋にゾッと寒気が走る。

 

「まァもちろん…それができればの話だが」

「――――どうやら我らを消す気らしいナ。『ニコ・ロビン』も向こう側にいたい様だガ…」

「船長、あいつの下船に納得できたかイ?」

「できるかァ!!!!」

 

 フーとリンの問いに、ルフィは怒りの声を挙げて応える。

 

 何がどうしてこうなったかなど、どれだけ考えてもわからない。

 しかし、このままロビンを行かせてしまえば、何も知らないまま永遠の別れになってしまうのだと、それだけは理解できていた。

 

「一階のいくつかの部屋から直に火の手が上がる…まァ犯人は海賊なんだ………そんな事もあるだろう」

「………お前ら………!!!」

「人の仮面を被って好き放題なんて、趣味悪いわね‼︎」

「もともと汚れた仮面に不都合もなかろう」

 

 カクもルッチと同じく、まるで負い目を感じる様子も見せず、他人に罪を着せるつもりでいる事を認める。罵倒の言葉も、まるで効いた様子がなかった。

 

「――じゃ、私は先に行くわ」

「ああ、役目は果たした。ご苦労」

「待て!!! ロビン!!! 認めねェぞ!!!」

「またどこへ行くんだよ!!! やっと見つけたのに!!!」

 

 仲間達に何も告げる事なく、その場を立ち去ろうとしているロビンに、慌ててルフィ達が止めようと駆け出す。

 しかし、ルフィがロビンの手を掴む直前、ブルーノがそれを邪魔をする。

 

「どけお前ェ!!!」

 

 立ち塞がる敵を押し退けようと、ルフィが掴みかかるものの、ブルーノの怪力によりなかなか叶わない。

 

「どけって言ってんだ!!!」

 

 怒りのままに、渾身の拳を振りかざすルフィ。

 しかし、振り抜いた拳はブルーノの身体に弾かれ、反対に強烈な蹴りで吹っ飛ばされてしまう。

 

「ルフィ‼︎」

「小僧!!!」

「おいおイ…‼︎ CP9ってのァバケモノ集団か何かかヨ!!?」

 

 再び壁に激突するルフィを目にし、リンが思わず冷や汗をかきつつそう呟く。

 悔し気に吠え、瓦礫を吹っ飛ばして起き上がるルフィを横目に、ロビンは振り向くことなく歩き出していく。

 

「行くなロビン!!! まだ話は終わってねェ!!!」

「いいえ、終わりよ。もう二度と会う事はない」

「ルフィ!!! 早くロビンをとっ捕まえろ!!!」

「うおお!!!」

 

 本気で立ち去ろうとしているロビンを目指し、ルフィが再び躍りかかるも、またしてもルッチ達に邪魔され、通る事ができない。

 ゾロも刀を抜き、カクと鍔迫り合いになるも、やはり押し通る事ができない。

 

「行かせないってノ…!!!」

 

 すると両者の激突の隙を縫い、リンが素早く走り出し、ロビンに迫る。

 ロビンの肩を掴もうと手を伸ばすリンだったが、突如目前に現れたカリファにけりを叩き込まれ、ルフィと同じように吹き飛ばされてしまった。

 

「若!!!」

「……‼︎ あークソ、ムカつくくらいの強さダ、まったく…!!!」

 

 ランファンが駆け寄り、呻き声をこぼすリンを抱き起こす。

 ナミは起き上がるルフィを見やり、かつてない窮地に立たされている事に気付き、戦慄に表情を強張らせる。

 

「…………何なの…⁉︎ あいつらの強さ…!!!」

「何者なんだ、てめェら」

 

 一部の相手を除いて無敵と思えていたルフィ達を、ここまで追いつめる連中のあまりの強さに、恐怖を覚え始める。

 苦戦する彼らを見下しながら、ルッチは傷ひとつついていない自身の手を見せつけた。

 

「……環境が違う……‼︎ 我々『CP9』は物心ついた頃より政府の為に命を使う覚悟と〝人体の限界〟を超える為の訓練を受けてきた………」

 

 ルフィは歯を食いしばり、ルッチを睨みつける。

 ゾロとリンも、自身の力をものともしていないように佇んでいるカクたちを見据え、一筋の冷や汗を垂らし息を呑んだ。

 

「そして得た力が、6つの超人的体技『六式』。よく身にしみたハズだ、世界政府の重要任務を任される我々4人と…たかだか一海賊団のお前達との、ケタ違いの戦闘力の差が…!!!」

 

 積み重ねてきた戦いの経験、それに裏付けされた圧倒的な力。

 それをありありと示すように仁王立ちし、ルッチはルフィ達に真正面から語った。

 

「――この一件は世界的機密事項。お前達ごときが手を触れていいヤマではない‼︎」

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