ONE PIECE −LOG COLLECTION : ELEANOR−   作:春風駘蕩

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第188話〝圧倒的捕食者〟

 ルッチが立っているだけで伝わってくる迫力に、ルフィ達はもう言葉も出ない。

 声すら出せず、じりいりと身構えていると、胸元から取り出した時計を確認したカリファが、ルッチに目を向けそっと囁く。

 

「ルッチ、発火装置も作動の時間よ。私達も急がなくては…」

「あァ…――だがせっかくだ。最期に…面白いものを見せようか…」

 

 カリファに頷いてから、ルッチは突如、全身に力を込めるような素振りを見せる。一瞬、筋肉が大きく盛り上がったかと思うと。

 

 めきめきと、彼のシルエットが大きく形を変え始めた。

 

「ルッチ…!!! てめェは一体……!!!」

「ギャ――!!! ギャ――!!! ギャ〜〜〜〜〜!!!」

 

 四肢はより太く、身体はより逞しく、全身を黄色と黒の模様が入った毛皮が覆い、見る見るうちに巨大に変貌していく。

 その光景を見たパウリーは絶句し、チョッパーは目の前に姿を現した怪物に、大きく悲鳴をあげる。

 

「〝悪魔の実〟…………!!!」

「何の実だ!!?」

 

 呆然とその場に立ち尽くすルフィ達の前で、変貌したルッチ―――黒の斑点模様が目立つ、野獣の姿に変じた超人が、唸り声とともに名乗ってみせた。

 

「〝ネコネコの実〟…モデル〝(レオパルド)〟」

「〝ヒョウ人間〟カ…!!!」

「………!!! ヤバイ…『肉食』の動物系は凶暴性も増すんだ‼︎」

 

 戦慄の表情で呟くリンの傍で、がたがたと震えるチョッパーがそう叫ぶ。

 草食動物としての本能が、力を一段階解放したルッチの脅威を感じ取り、けたたましく警鐘を鳴らしているのだ。

 

「〝自然系〟〝動物系〟〝超人系〟、得意な能力は数あれど…自らの身体能力が純粋に強化されるのは〝動物系〟の特性…‼︎ 鍛えれば鍛える程に〝力〟は増幅する。迫撃において〝動物系〟こそが最強の種だ!!!」

 

 それは、人体の能力を極限まで鍛え上げたCP9だからこその説得力であろうか。己の肉体を使って戦う事に特化した彼に、その力は相応しく見える。

 その時、寝室の外からどたどたと足音が聞こえてくる。戦闘の音を聞きつけ、外にいた者達が駆け付けてきたようだ。

 

「ルッチ、職人達が上がってくるわ!」

「…なァに、来れやしない…『嵐脚』」

 

 ルッチはそう告げ、おもむろに片足を一閃する。

 ルッチの蹴りは鎌鼬を起こし、見えない斬撃となって宙を裂く。そして、ルフィ達の背後の壁を真っ直ぐに切り裂いた。

 

「壁から離れろ‼︎ お前ら‼︎」

 

 ゾロが叫んだ瞬間、切断された壁が倒れ、崩壊する。

 慌てて離れようとしたナミ達だが、一拍遅れ、あわや瓦礫に押し潰されかけていた

 

「ナミ!!! ふぎ!!!」

「若‼︎ フーじい様‼︎」

 

 仲間に迫る瓦礫に気付き、チョッパーとランファンが咄嗟にナミ達の背中に向けて突進し、前に突き飛ばす。

 

「チョッパ―――‼︎」

「ランファン!!!」

 

 押し出され、倒れ込んだ彼らの背後で、チョッパーとランファンがガラガラと崩れてきた瓦礫の下敷きになってしまう。

 悲鳴交じりの声で呼びかけるも、瓦礫の山から声が返ってくる事はなかった。

 

「パウリー‼︎ 何を!!?」

「あなた達を必ずここから連れ出す!!!」

「無理だ、お前そのキズで…!!! どうやって‼︎」

 

 ナミ達の近くでは、痛みに歯を食いしばるパウリーがアイスバーグとヴィルヘルムを両肩に担ぎ、運び出そうとしていた。

 傷付いた身体で、それでも大人二人を必死に持ち上げ、出口に向かう。

 

「おやめなさい、パウリー…」

 

 しかし、残り数メートルという距離でルッチが立ち塞がり、その巨体で壁のように道を阻む。

 何の感情も浮かんでいないように見えるルッチを見上げ、パウリーは心の底からくやし気な呻き声を漏らすばかりだった。

 

「……おれは少なくとも……………‼︎ 今までお前らを本当に〝仲間〟だと思ってた!!!」

「お前だけだ……」

「ハトのやつ〜〜〜〜!!!」

 

 差し損ねた止めをこの場で行おうと、鋭い爪を備えた指を構えるルッチ。

 狂気となる指を振り抜こうとした時、怒りの形相で飛び出したルフィが拳を携え、ルッチに飛び掛かる―――だが。

 

「『指銃』」

 

 ドキュン、と。

 標的を変えたルッチの指が、ルフィの腹を一瞬で貫く。

 

 大きな傷を穿たれたルフィは、大きく目を見開いてよろめき、腹を押さえて血を吐く。一瞬の事で、思考がまるで定まらずにいた。

 

「ルフィ!!!」

「島の外まで………飛べ!!!!」

 

 ナミの悲痛な声を他所に、ルッチはふらつくルフィを片手で掴むと大きく振りかぶり、窓の外に向けて思い切り投げ飛ばす。

 あっという間に、ルフィは曇天の闇の中に消えてしまった。

 

「ルフィ〜〜!!!」

「船長さン!!!」

「てめェ!!!」

 

 遥か先へと跳ばされてしまった船長の姿に、激昂したゾロが無謀にも真向から斬りかかる。

 しかし、大きな動揺に襲われてしまっていたためか、死角からカクが振るった刃で傷を負い、刀を取り落としてしまう。

 

「ゾロ!!!」

「お前もだ…」

 

 血反吐を吐くゾロの身体を、ルッチが掴みルフィと同じように投げ飛ばす。

 あっという間に、麦わらの一味の種戦力が二人も消えてしまい、ナミは真っ青な顔でその場に棒立ちになる。

 

 その光景に、フーが仮面の下でギリッと歯を食いしばった。

 

「おのレ!!!」

「待テ‼︎ フー!!!」

 

 目を吊り上げ、怒りと焦りに突き動かされたフーが、刃を手にルッチ達に肉薄する。

 しかし、ルッチの前にブルーノが立ちはだかり、鋼鉄のように体を硬化し、フーの襲撃を防ぐ。そして、斬撃を伴った蹴りで吹き飛ばした。

 

「若………お逃げヲ…!!!」

「そんな事…できるわけあるか!!!!」

 

 倒れ込んだフーが、駆け寄ってくるリンにそう頼むも、臣下を見捨てられないリンはそれを拒否する。

 

 誰も叶わない、戦える者がもう誰もいなくなった。

 絶望的な状況に、ナミがずるずるとその場にへたり込んだ時。

 

「残念だが……誰一人逃がすつもりはない」

 

 ルッチ達の冷酷な眼差しが、残った二人を静かに見下ろすのだった。

 

 

 

「くそ…何て事に」

 

 ガレーラカンパニー本社は、惨状を晒していた。

 いたるところから吹き上がった火が、あっと言う間に建物全体を覆い、轟々と黒煙を噴き上げて何もかもを焼き尽くそうとしていた。

 

 必死に消火活動に励む船大工達だったが、あまりの火の勢いにまるで追い付いていない。

 

「全員連れ出したかァ!!?」

「もう中へは入れねェ‼︎」

「完全に炎につつまれた‼︎」

 

 謎の襲撃者達に容易く突破されただけでなく、会社に火まで放たれた。

 怒りと同時に、自身らに対する情けなさで、船大工達は皆険しい形相になっていた。

 

「アイスバーグさんもヴィルヘルムさんも、本当に避難できてるのか!!?」

「きっと無事だ‼︎ 職長3人が一緒なんだ、パウリー、カク、ルッチがいて、この火事に取り残されたと考える方が難しい」

 

 そう仲間を勇気づけるものの、誰もが不安を顔ににじませる。

 火の勢いは収まるところを知らず、誰も生きて帰って来られないのかと、最悪の結末を想像した時だ。

 

「おい‼︎ 女が一人上階から落ちてきた‼︎」

 

 一人が建物の根元を見て、横たわる人影に気付く。

 大急ぎで他の船大工達も駆け寄り、口元に血を滲ませて横たわるその女を見下ろし、ハッと目を見開く。

 

「こいつは…!!!〝麦わら〟の仲間だ‼︎」

「間違いねェっ!!! 捕まえて仲間の居場所を吐かせよう」

 

 集まってきた船大工達から、憎悪の視線を受けながら、ナミは苦痛の表情で沈黙し続ける。

 彼女のすぐそばで、建物を包む炎がより一層の激しさを増していく。

 

 

 

「海賊の証言は証拠にならん…―――これで事件は闇の中………」

 

 夜の空を煌々と照らす火を眺め、本当の犯人達は平然と佇んでいた。

 船大工達の怒号や叫び声も、彼らの良心にまるで刺さる事がない。ただ、ようやく仕事が一つ終わったと、そう思うだけであった。

 

「アイスバーグさん…あなたがどれ程優れた造船技師であれ…大都市の市長であれ…………一市民が巨大な政府に…盾つくものじゃない…!!!」

 

 ルッチが呟き、業火に飲まれる本社を―――その中で縛られ、すでに焼かれているであろう元上司を嘆く。

 恩も義理も最初から持たない彼らは、灰になっていく建物をただ見つめるだけであった。

 

「――行くぞ‼︎ もう一人のトムの弟子フランキ―――いや『カティ・フラム』の持つ…設計図を奪いに!!!」

 

⚓️

 

「ぎゃああああ〜〜う!!!」

 

 裏町のさらに端、廃船島に繋がる巨大な橋の下から、耳を塞ぎたくなるような叫び声が響く。

 誰も気づきそうにない、ひっそりとしたその倉庫から、その男は只管に痛々しい泣き声を上げていた。

 

「ぎゃああああ〜〜〜〜〜〜〜〜〜うやうやう〜〜〜‼︎ アウアウアウアウ、ぎゃうアウアウウ〜〜!!!」

「オイオイ、泣きすぎだぜ兄弟」

「え――ん」

「〝東の海〟から連れ添った仲間と、船の為に別れるなんてェ………!!!」

 

 泣き声の正体は、だばだばと滝のように涙を流すフランキー。

 彼と同じく感動で泣くモズ・キウイと、見っともないほどに叫ぶ兄弟分に呆れた目を向けるグリードもいて、秘密の倉庫はなかなか騒がしくなっている。

 

 そんな彼らに、一人ハンマーを振るうウソップが困惑と苛立ちの目を向けていた。

 

「何でお前らが泣くんだよ」

「バカ‼︎ 泣いてねェよバカ‼︎ しかしおれァ、そんな中一人船を守るお前に胸打たれたのは確かだが‼︎」

「「泣いてねーわいな‼︎ 誰一人泣いてねーわいな‼︎」」

「何なんだコイツら」

「ガッハハハハハ‼︎」

 

 どう見ても号泣しているのに、今さら何を隠しているのか。

 グリードの爆笑する声を聞きながら、ウソップは自身を半ば無理矢理連れてきた男達にキッと鋭い目を向けた。

 

「とにかくわかったろ‼︎ おれとあいつらがもう仲間じゃねェって事が!!!」

「そんな……‼︎」

 

 きっぱりと、フランキー達の目的であるルフィのとの関係を否定するウソップ。

 フランキーはそれに何やらショックを受けた様子を見せ――なぜかギターを取り出し、じゃらん…と掻き鳴らしだした。

 

「――そんなキビしさを歌います、『仲間割れ北風チョップ』」

「いよっ‼︎ 待ってたぜ!!!」

「「アニキ〜〜‼︎」」

「お前らバカにしてんのか‼︎」

 

 いきなり始まったフランキーによる弾き語りの体勢。

 歓喜の声を上げるグリード達に、なんだか無性に腹が立ったウソップが思わず声を荒げる。感動してるのかしていないのか、まるでわからなかった。

 

「………泣き疲れた、泣いてねェけど」

 

 ようやく落ち着いたかと思えば、モズ達が用意した熱い茶に驚きフランキーがひっくり返ったり、それを見たグリードがまた爆笑したりと、なかなか静かにならずにいた。

 それからちゃんと話ができるようになるまで、数十分もかかってしまった。

 

「――じゃあさぞ、おめェー2億を奪ったおれ達を恨んでんだろうなァ………そんな大喧嘩に発展しちまったんだ」

「―――なる様になっただけだ…誰を恨んでもしょうがねェよ」

「潔いな」

 

 言いたい事は多々あれど、それを言っても仕方がないと言った雰囲気を見せるウソップに、感嘆の声が漏れる。

 だがしかし、当人達にそれほど反省の色はないようだった。

 

「――そうか、あの2億は…使っちゃったけどな!!!」

「ハリ倒すぞ」

「そうカッカしちゃいけねェよ。おれだっておめェにそんだけの男を見せられちゃあよ、今回の一件…怒りを収めざるを得ないじゃない…」

 

 ふざけたポーズでふざけたセリフを宣うフランキー達は、ソファーに座るとそんなことを言い出す。

 怒りのままに暴れるつもりだが、ウソップの姿に多少勢いを削がれてしまったらしい。

 

「おれのマイホーム兼解体工場のフランキーハウス全壊――さらにウチの部下共を全滅させてくれやがっててめェらコノ野郎!!!」

「アニキーっ‼︎ 怒りが沸き上がっちゃったわいな‼︎」

「おーい落ち着けよ、フランキー」

 

 が、やはり怒りは収まりきっていないようだ。

 それをどうにか押さえつけ、落ち着いたフランキーはへらへらと笑い、作業を続けるウソップに目を向けた。

 

「――――というわけだお兄ちゃん、この件はお互いに怒りを鎮め合い…それでワッショイワッショイって事で手を打とうぜ」

「ドッコイドッコイだわいな」

「ドッコイドッコイだわいなアニキ」

 

 どちらも損をし、相手側は仲間割れという大事に至ってしまった。

 そんな大変な状況にわざわざ首を突っ込む野暮はしまいと、フランキー達は完全にこの件を手打ちにするつもりのようだった。

 

 すると不意に、それまで黙っていたグリードがウソップの方に身を乗り出した。

 

「ところでお前…ウチに来いよ。おれァお前の事気に入ったぜ、行くアテがねェんなら面倒見てやる」

「あっ‼︎ ズリィぞグリード!!! おれが先に誘うつもりだったのに」

「兄弟ィ……おれの性格知ってんだろ」

 

 にやり、と不気味な笑みを浮かべたグリードは、サングラスの奥でもわかる凶暴な光を目から放ち、勢いよく立ち上がると高々と語り始めた。

 

「おれはすべてが欲しい!!! 金も欲しい‼︎ 女も欲しい‼ 地位も名誉も…この世のすべてが欲しい!!!! …………だから、一度欲しくなったものは手に入れなきゃ気が済まねェんだよ」

 

 鮫のような鋭い牙の並んだ歯を見せつけ、気に入った男に熱烈な勧誘を行う。

 同じことを考えていたフランキーがやきもきしながらそれを見ていると、修理の手を止めたウソップが、ギロリとグリードを睨みつけた。

 

「いやだね‼︎ 解体屋になんかなる気はねェ、おれは一味をやめても、海賊なんだ!!!」

 

 確固たる覚悟を伴ってそう吠えたウソップに、フランキーとグリードはまたガーンと衝撃を受ける。

 そして、どこからともなく取り出したギターを、二人同時に掻き鳴らした。

 

「聴いてください」

「『海賊仁義』」

「「アニキ――――‼︎」」

「だからバカにしてんのかお前らは!!!」

 

 先ほどから同じ事ばかりしている気がして、ウソップはまた怒号を上げるのだった。

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