ONE PIECE −LOG COLLECTION : ELEANOR−   作:春風駘蕩

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第191話〝トムズワーカーズ〟

「何の集まりだ…神妙なツラぶら下げやがって、ずいぶんスーパーなマネしてくれるじゃない…まだ嫁入り前のウチの妹分達を傷物にしてくれやがってコラ」

 

 崩れた壁の残骸の中から立ち上がり、ルッチ達を睨みつけるフランキー。

 グリードも瓦礫を押し退け、いつもの笑みを消し、鋭い目で四人を見据え、また硬化させた両腕を構える。

 

「お前ら何でこの場所の存在を知ってる、ここはおれ達の秘密基地だ!!!」

「ああ…クソ‼︎ そういう事かよ…!!! ココロのばーさんが言ってた通りになりやがった…‼︎」

「ババアが…? まさか…⁉︎」

 

 荒ぶるフランキーに代わり、グリードはギリギリと歯を食いしばりながら呟く。

 チッ、と舌打ちをこぼし、冷酷に見える表情で自分達を見下ろす彼らの前で、苦々しく吐き捨てる。

 

「猫を被んのがずいぶん得意なんだなァ……えェ⁉︎〝サイファー・ポール〟!!!」

「察しがいいな、グリード…そうだ。おれ達の都市での暮らしは仮の姿、本職は世界政府の〝諜報部員〟だ……!!!」

 

 隠す必要もなくなった、とばかりに、ルッチはフランキー達に堂々と名乗る。

 フランキーはギョッと目を見開き、次いでガバッと慌てて立ち上がると、巨大な拳を構える。その顔には、明確な焦燥が現れていた。

 

「お前にはこの意味がわかるハズだ。おれ達がここへ来た理由もな」

「……!!!」

「フランキー。我々は、もう全て知ってる。ここへ来てとぼけてくれるなよ…苛立ちが募るだけだ」

 

 ルッチの言葉をきっかけに、場の空気が張り詰めていく。

 何が起こっているのか、と戦々恐々としたままのウソップが様子を伺う中、ルッチが冷たい目でフランキーを見据え、語り出す。

 

「お前の本当の名は〝カティ・フラム〟、8年前に死んだと言われていた、トムのもう一人の弟子だ‼︎」

「あァ…? カティ・フラム……?」

「……どうやって調べたか知らねェが、見事なもんだな…同時に妙な胸騒ぎがしてきた…」

 

 グリードが訝しげな声をこぼすのも無視し、ルッチはただフランキーの身をぎろりと鋭く睨み続ける。

 じわり、問うてきた冷や汗がこめかみを伝うのを感じながら、フランキーは引きつった笑みを浮かべ、ルッチに問いかける。

 

「あの…バカは…………………アイスバーグは……元気か」

「殺した」

 

 残酷なその答えに、フランキーはまるで凍り付いたように固まる。

 グリードもまた、驚愕で大きく目を見開き、平然としたまま信じられない一言を発した黒服たちを凝視していた。

 

 二人の愕然とするさまも放置し、決して逃がさないという意思表示のように、ルッチ達は四方向からフランキーを見据える。

 

「トムからアイスバーグへ、アイスバーグからお前へ――それは受け継がれた…長かった我々の任務もいよいよチェックメイト。さぁ、世界最悪の戦艦…〝古代兵器〟プルトンの設計図をこっちへよこせ、フランキー!!!」

 

 怒号を上げられ、脅されても、フランキーは棒立ちになったまま動けずにいた。

 

 脳裏に過る、彼の師の言葉。

 弟子を信じ、代々受け継がれてきたとあるものを託す際に告げられた言葉が、彼の頭の中で何度も反芻されていた。

 

「聞こえてるのか⁉ 渡せと言ってるんだ、カティ・フラム」

「兄弟!!!」

「てめェらに渡すもんはねェよ!!!!」

 

 グリードの声で我に返ったフランキーが、ルッチに向けて右腕を発射する。

 だが……それはたやすく躱され。

 

 瞬く間に、荒れ狂う暴力の嵐がフランキーに襲い掛かり、彼を紙屑の様に蹂躙し、先程よりも激しく壁に激突させてしまった。

 

「きょ……兄弟ィ!!?」

「……え!!? ……!!! 何が起きたんだ…⁉ 何も見えなかった!!! 速すぎて…!!!」

 

 その間、ウソップもグリードも、全く反応することができずにいた。

 まるで自分の時が止まっていたのかと錯覚するほどに、ルッチの攻撃は速く、目で捕らえる事がまったくできなかったのだ。

 

 一瞬でフランキーを無力化させたルッチは、彼が突っ込んでできた穴の先に広がっている空間に気付き、片眉を顰める。

 

「何だ…この汚い部屋は。製図室……? 設計図を隠すにはいい場所だ、探せ」

「てめェらいつまでも調子に乗ってんじゃ―――!!!」

「カリファ」

「はい」

 

 フランキーが沈黙している間に、四人でその空間に乗り込もうとする。

 それを阻止しようとしたグリードは、カリファの操る棘付きの鞭によって拘束され、為す術なく地面に倒れ込んだ。

 

「くそォっ‼ チクショウがァ!!!」

「うるさい奴じゃ…」

 

 グリードが悔しげな声を発している間に、ルッチ達は空間―――壁で塞がれた、古い製図室を調査する。

 そこにあった名札―――トム、アイスバーグ、ヴィルヘルム、カティ・フラムという四つの名札がつけられた机に気付き、思わず目を細めた。

 

「………さわんじゃねェ…人の想い出に…土足で踏み込むもんじゃねェぞ…――ここはおれ達の育った場所だ」

 

 不意に、ルッチ達の背後で怒りを押し殺した声が響く。

 血を流し、傷だらけになったフランキーが、思い出の詰まった部屋を物色する黒服達を見据え、憤怒に満ちた目を向けていた。

 

「造船会社トムズワーカーズ。倉庫はボロいが、世界一の造船技師が…ここにいた」

 

 過去の夢と希望を、そして後悔と絶望を。

 若き頃の記憶の数々を封じた部屋を荒らされた怒りで、フランキーは鼻息荒く仁王立ちする。

 

「成程…――このウス汚い倉庫は…――かつての造船会社トムズ ワーカーズの……本社か」

「造船会社………⁉︎」

 

 納得がいった、という風に鼻を鳴らすルッチ。他の三人も、似たような態度でフランキーに振り向く。

 ウソップはひたすら困惑し、グリードは無言のまま事の成り行きを見守り、場はさらに重い空気に包まれていく。

 

「〝トム〟〝アイスバーグ〟〝ヴィルヘルム〟〝カティ・フラム〟、4人で造船に勤しんだ思い出の場所というわけだな――それを〝秘密基地〟と呼ぶとはずいぶんかわいげのある事をするんだな」

「黙れ………さっさとここから出ろ!!!」

「貰うべきものを貰ってからだ、〝船大工〟カティ・フラム…」

「設計図はここにはねェよ!!!」

「………まァ…当然といえば当然の答え…………!!!」

 

 頑なに、ルッチ達が求める者を差し出す事を拒否するフランキー。

 ルッチは然して苛立った様子もなく、むしろ予想通りだというような顔で、製図室の机の一つを一つ、蹴り壊し始める。

 バラバラにされる机を見て、フランキーの堪忍袋の緒が引き千切れた。

 

「オイ!!!」

 

 怒りのままに、ルッチに殴りかかる。

 しかし一歩を踏み出したその時、カリファが新たに取り出したいばらの鞭にからめとられ、その場に倒れ込んでしまった。

 

「ヤロウ…‼︎ くっそ‼︎ 鉄のイバラなんざムカつくもん使いやがって………!!!」

「……ぐ……‼︎ てめェ!!!」

「別に、今すぐ答える必要もないさ。我々には切り札がある。8年も前の話だが…カティ・フラム…君は犯罪を犯してるらしいな」

 

 悔し気に喚き、もがくフランキーとグリードを見下ろし、ルッチがふと呟く。

 ギッ、と血走った目で睨みつけるフランキーを嘲笑うように、ひどく冷めた無慈悲な声で告げる。

 

「トムと同じ様に」

「フザけんな!!! トムさんは犯罪者じゃねェ!!!!」

「……トム…!!?〝パッフィング・トム………!!?」

 

 聞きなれた名前が聞こえた事で、ウソップの困惑はますます大きくなる。

 街の裏の顔として知られる男、そんな彼の過去が続々と明かされているようだが、ウソップには何のことだかまるでわからない。

 グリードだけが、意味深にフランキーとルッチのやり取りを眺めている。

 

「てめェなんかが………わかった風な口きくな!!!!」

「犯罪者ならば、自分がどういう道を辿るか…わかるハズだ」

「てめェらがどれ程……!!! このウォーターセブンを知ってるってんだよ!!!!」 

 

 橋の下の秘密基地―――いや、町から追いやられた造船会社。

 さびれたその場所で、フランキーの怒りと悔しさに満ちた声が響き渡った。

 

 

 

 約22年前、トムという船大工がいた。

〝海賊王〟ゴール・D・ロジャーの船、オーロ・ジャクソン号を造ったことで町からつまはじきになり、政府からも重罪とされた男だった。

 

 彼はその罪を問われ、処刑されるところであったが、ある船の実現を条件に恩赦を求めた。

 

 それが、〝海列車〟―――高潮に苦しむ町を救う、希望の実現だった。

 フランキー、アイスバーグ、ヴィルヘルムは皆、彼の弟子であったのだ。

 

 苦難の末、海列車は完成し、町には活気が戻りつつあった。

 しかし、政府のある機関〝CP5〟の陰謀により、トムは政府の船を襲撃した犯人として再び連行されようとしたのだ。

 他ならぬ、フランキーが作り続けた数々の船―――いや、兵器を利用されて。

 

 弟子共々連れ出され、エニエス・ロビーへ連行されようとした時、トムはある願いを裁判長に申し出た。

『海列車を完成させた功績により、今日の罪を消してほしい』と。

 それで最初の裁判と同じに戻っても、自分はそのことに誇りを持っていると。

 

 彼の覚悟に心を動かされた裁判長の計らいで、弟子の三人は許された。

 そして、トムはエニエス・ロビーへ連行されてしまった。

 

 フランキーはそれを止めようと単身海列車に挑み、轢かれて生死を彷徨う重傷を負った。

 彼はその後、廃船に這い上がり、そこにあった鉄くずを利用し自身を改造、改造人間として息を吹き返した。

 

 フランキーはウォーターセブンに戻り、アイスバーグ・ヴィルヘルムに再会。

 敬愛するトムを失った最大の原因として憎しみをぶつけられながらも、トムから託された〝設計図〟を受け取り、名を変えて町を去ることを勧められる。

 

 それを拒絶し、頑なに島に残り、そして今に至るのだ。

 

 

 

 ―――てめェ…本当に……‼︎

    生きててよかったなぁ…………!!!

 

 脳裏に浮かぶのは、再会し憎悪をぶつけられた後に漏れ出た、アイスバーグ達の悲痛な声。

 嫌っていても、憎んでいても、共に船の道を目指していた兄弟弟子が生きていたことに、嬉しさを隠し切れなかった男達の本音。

 

 フランキーは、その時の彼らの言葉を、ずっと忘れられずにいた。

 

「我々の聞いているトムという男は…腕は確かだが、凶暴で手に負えない怪力の魚人。町の人間に聞いても口をにごすばかりだ」

 

 そんな過去の事など知らず、知る気もなく、ルッチはフランキーをやや下げ墨を交えた目で見下ろす。言葉も、全く本心には聞こえなかった。

 

「そんな男をかばわなきゃならない弟子も大変だな、カティ・フラム」

「言い返す気力もわかねェよ…………てめェら政府の人間はみんなクソだ!!!」

「当時、このウォーターセブンで海兵とその他役人に、100人を越える重傷者を出した…その犯人がお前だ」

 

 身を隠すウソップが戦慄していることにまるで気を配らず、フランキーの罪状を読み上げる。

 政府が何をしたか、それをまるで悪びれる事なく、全てが彼の責任であるかのように語ってみせる。

 

「〝世界政府〟にそれだけの事をした罪は重いが、その日のうちに〝海列車〟の事故で死亡確認されたために、罪は無効となっていた…」

「………それでフランキーと名を…」

「改めて犯罪者として、お前をエニエス・ロビーへ連行しよう――そこでゆっくり答えてくれるといい……〝プルトン〟の設計図のありかについて……」

 

 グリードが納得した声を漏らす中、ルッチは再度フランキーの顔を覗き込む。

 しかし彼は、何も言わない。彼らには決して、何一つ語りはしないと、口を貝のように閉ざし黙り込んだままだ。

 

 ルッチはそれに呆れつつ、ブルーノが持ってきた電伝虫をフランキーの前に示す。

 

「ウチの長官にこの件の報告をしたら、彼はすぐにでもお前と話したいと言うんだ」

「長官?」

「どうぞ長官」

 

 カリファが受話器を外し、フランキーの前に構える。

 電伝虫がガチャ、と声を発したかと思うと。

 

『うわあっちあち熱っ‼ コーヒーこぼしたっ‼ あっちー!!! 畜生ォ!!! こんなコーヒー‼』

 

 そんな、慌ただしく落ち着きのない声と共に、ガシャンと陶器が割れる音が響く。

 何をしているのか、とフランキーが呆れた目を向けていると、やがて落ち着いたのか、通話の向こうで居住いを正す音が聞こえた。

 

『そこにいるのか、カティ・フラム………‼ 久しぶりだ。まさかおめェがあれで生きていたとはな、信じられねェが…嬉しいニュースだ』

「誰だおめェは」

『この8年……キズが痛むたびに、おれはぶつけ様のない怒りに苛まれて生きて来た。自分を傷つけた犯人が、死んじまってたからさ』

 

 受話器越しに、ふつふつとした執念の憎悪が伝わってくる。

 胡乱気だったフランキーが、徐々に目を見開き始めると、通話の相手―――CP9の長官スパンダムは、悪意に満ちた声でフランキーに名乗った。

 

『憶えてねェか!!? 8年前〝CP5〟で襲撃現行犯『トムズ・ワーカーズ』を逮捕した男さ‼』

 

 はっ、とフランキーが目を見開く。

 師と自分達に冤罪をかけ、師の名を穢し連れ去った怨敵の声に、胸中の怒りが再び燃え上がる。

 

「てめェ、まさかスパンダ‼」

『ムだっ!!! ワハハハ‼ エニエス・ロビーでお前達の到着を心待ちにしてるぞ』

「………おれはオマケなのか」

 

 ぼそりとグリードが呟くものの、誰も反応を見せない。互いに憎しみを燃やす者達がいるため、誰も気に留めていない。

 電伝虫を睨みつけるフランキーの歯ぎしりの音が、妙に室内に響いていた。

 

『さァお前ら、その犯罪者をさっさとここへ連れて来い!!!』

「了解―――行くぞ」

「うゥっ!!! 畜生、離せコノ……!!!」

「クソッタレ共がァ!!!」

 

 電伝虫による通信が切れ、ルッチ達は棘の鞭で捕らえられた二人を引きずっていく。

 二人は悔しげに声を上げ、しかし身動き一つ取れず、連れていかれるばかりだった。

 

「おい待てお前らァア!!! そいつらを放せェ!!!!」

 

 その時、一堂に待ったをかける勇敢な声が上がる。

 恐怖で震え、身を潜めていたウソップが、勇気を振り絞り飛び出したのである。

 

 そんな彼に、ぎろりと鋭い目を向けるルッチ。

 凄まじい殺気に射抜かれた瞬間、ウソップは勢いを思い切り削がれ、思わずぺこりと頭を下げていた。

 

「あ、ごめんなさい」

「うをいっ!!!」

「お前の輝きは一瞬か長っ鼻ァ!!!」

 

 あまりにも情けない反応に、ほんのわずかに期待を抱いていたフランキーとグリードが声を荒げて吠える。

 そして、ウソップの姿を目にしたカクが、僅かに目を細めた。

 

「お前確か…〝麦わら〟の…仲間じゃな…」

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