ONE PIECE −LOG COLLECTION : ELEANOR−   作:春風駘蕩

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第20章 暴走海列車
第193話〝奴らを追え!〟


「じゃあ…ロビンはおれ達が嫌いなんじゃないのか――!!?」

 

 目を覚ましたチョッパーが、キラキラと目を輝かせる。

 獣型から人獣型に、まるっきり見た目が変わった彼に、彼を見ていた船大工達が呆然となる。

 

 彼らには、トナカイが狸に変わったようにしか見えなかったのだ。

 

「そうよ‼︎ だからルフィ達を探してロビンを助けにいくの‼︎」

「わかった‼︎ 探すぞ!!! どこにいるんだ!!?」

「それがわかんないから探すんだヨ‼︎」

「よーし‼︎ おれ頑張るぞ――‼︎」

「うおーう‼︎ ゴリラになったー!!!」

 

 ナミとリンの激励にやる気を出し、人型に変わるチョッパー。

 急激な体格の変化に、船大工達はさらなる驚愕で大きく後退っていたが、ナミもチョッパーも全く気にしていなかった。

 

「待てお前ら……」

 

 一刻も早くロビンを救出に向かわなければ、と駆け出そうとしたナミ達。

 それを、傷口を押さえたアイスバーグとヴィルヘルムが呼び止めた。

 

「ニコ・ロビンを追うのは勝手だが…今夜11時に政府関係者の移動便で〝海列車〟が出航する。ンマーおそらくだが…あいつらこれに乗る可能性が高い――つまり、ニコ・ロビンも一緒にだ」

「それを最終に〝海列車〟は一時運行停止になる。もうじきに〝高潮〟が来るからね」

「――じゃあ―って事は…⁉︎」

「これを逃してしまうと当然船も出せないし、この島から出る事もできなくなるんだ」

 

 二人の忠告に、ハッと目を見開くナミ。

 もともと急ぐつもりではあったが、制限時間が迫っていることを思い知らされ、さっと顔から血の気を引かせる。

 

「うそ…大変っ!!! 今何時⁉︎」

「10時半だ」

「あと30分!!? ねェ、何とかならないの⁉︎ 海列車ちょっと止めてよ‼︎」

「ンマー、目的地エニエス・ロビーってのは政府の人間以外立ち入り禁止の島だ。機関士も政府の人間、おれが言っても聞かねェ」

「そんな‼︎」

 

 わなわなと震え、焦りを全身に表すナミは、大急ぎで自身の頭脳を働かせる。

 悩んでいる暇などあるわけがない。今はとにかく、何を最優先にすべきかを考え、行動に移さなければならない。

 すぐさまチョッパーとリンに向き直り、二人へ指示を与える。

 

「チョッパー‼︎ リン‼︎ ルフィとゾロが飛んでった方角言うからそっちを探して‼︎」

「うんよしわかった‼︎」

「任せロ‼︎」

「…〝妖術師〟はどうすル?」

「あいつなら、自分でこの騒ぎを聞きつけてやって来る‼︎ あいつは……ほんっと頑固だから‼︎ 私達を見捨てられないのよ!!! あのバカは!!!」

 

 痛々しく表情を歪めるナミだが、頭を振って気持ちを改めると、キッと駅のある方を向く。合流している暇はない、一人でもロビンの元に辿り着かねば。

 

 その時、ずっと沈黙していたパウリーが起き上がり、引き攣った声を張り上げる。

 

「オイ…お前ら!!!」

「あ…‼︎ パウリーさん、無事で…!!!」

「このお嬢ちゃん達に、手ェ貸してさしあげろ」

 

 くいっと指でナミ達を示すパウリーに、船大工達はギョッと動揺する。

 彼女達はつい数分前まで、全身全霊の敵意をもって追い回していた相手だ。なのにそれを手助けをするなど、どういう心境の変化だというのか。

 

 当然、船大工達は納得できず、パウリーに困惑の目を向けて抗議の声を上げる。

 

「手ェ貸すってパウリーさん、こいつらアイスバーグさん達の命を狙った犯人で」

「まずこいつらは拘束しとくべきですよ‼︎ こっちもルッチさんやカクさんが行方不明で」

「暗殺犯は〝麦わらの一味〟じゃねェ!!! こいつらは無実だ!!! 本物の暗殺犯にハメられて、おれ達が濡れ衣着せちまったんだ!!!」

 

 反論を返す部下達に、パウリーは大きな声で叫び、自身や真の敵への怒りを露わにする。

 良いように利用され、無実の相手に罪を着せてしまったことへの罪悪感と、そうさせられてしまった不甲斐なさが、彼を責め立てていた。

 

「正体は知らねェが、あの仮面の奴らを相手に麦わら達は戦ってくれた!!! 現におれやアイスバーグさん達の命があるのは、こいつらのお陰だろ……!!!」

 

 有無を言わさぬ声の強さ、そして無事に生還しているアイスバーグ達。

 それらの証拠を示され、船大工達は皆何も言い返せず黙り込んでしまう。

 

「ルッチやカクは…探さなくていい…あいつらとはもう…会う事はねェかもな…」

「え⁉︎ ルッチさん達、どうなったか知ってるんですか!!?」

「………里帰りだ」

「んなバカな、何で、こんな大事態にっ!!!」

「いいから麦わら達を探せ!!!」

 

 ガレーラで最も頼りになる者達のうちの二人が、到底納得のできない理由で消えてしまったことに、船大工達はまた抗議の声を上げる。

 パウリーは一括して彼らを黙らせ、ナミにぎろりと鋭い目を向ける。

 

「おいハレンチ女……‼︎」

「え…‼︎ ちょっとその呼び方」

「駅に行くんだろ‼︎ 案内する」

 

 嫌な呼び方に待ったをかけようとしたナミだったが、続いて向けられた言葉に目を瞬かせる。本気で助けてくれようとしてるのだとわかり、ホッと安堵する。

 

「ええ…‼︎ ありがと」

「ゴチャゴチャ言ってねェでケジメつけろ!!! ガレーラの名を折る気か!!!」

「「「は…はい職長っ!!!」」」

 

 迷っていた船大工達は、パウリーの再びの一喝で我に返り、一斉に声を上げて応じる。

 ガレーラ中の船大工達全員が手を貸してくれる。その事実に、不安を滲ませていたナミ達はパッと表情を明るくするのだった。

 

「里帰りか………」

「――色々言っちゃマズイでしょうし―――もう、あんな思いするのは、おれとあんた達で…充分でしょ…」

 

 彼らの聞こえない場所で、沈痛な表情で俯くアイスバーグにパウリーがそう語りかけ、肩を叩く。

 彼らの心に刻まれた傷跡は、本当にひどいもののようだ。

 

 

 

 汽笛が鳴り、蒸気が噴き出す海列車。

 本日最後の運航を前に、ブルーステーションの駅員が駅全体に放送を流していた。

 

『最終便11時、「ウォーターセブン」ブルーステーション発、エニエス・ロビー行き』

 

 誰もいない構内、人がいるのは海列車の中だけで、その中にいるのも町の人間ではなく、全員政府の人間である―――ある三人を退いて。

 

「ここで大人しくしてろ」

「痛で!!!」

「痛でェ!!!」

「痛で―――!!!」

 

 ルッチに抱えられた、首以外を袋詰めにされた三人の男達。

 ウソップ、フランキー、グリードが頭をしこたまぶつけられ、ギロッと黒づくめの男を睨みつけ、怒号を上げる。

 

「てめェらもっと丁重に扱えこのバカ!!!」

「そうだバーカ‼︎」

「政府のクソ共が!!!」

「いやァオイオイ」

 

 唾を吐き散らし、吠えるフランキーとグリードだが、ルッチはまるで相手にしていない。ウソップだけが、言い過ぎたかと青ざめていた。

 

『〝高潮〟接近中につき、予定をくり上げ、まもなく出航致します』

「クソ…もう出ちまうのか…‼︎」

 

 刻々と迫る出航の時間に、物陰に身を潜めていた一人の男―――サンジが忌々しげにこぼしていた。

 

 

 

 風雨が吹き抜ける町の中を、三つの影が飛び跳ねていく。

 屋根の上を足場に、重力がないように見える程の軽々しさで飛び越え、周囲に目を凝らし続ける。

 

「若ァ!!! こちらには何も感じませぬゾ!!!」

「裏町の人間は全員、避難してル!!! 何かを感じたら絶対あいつらダ!!! 絶対に見逃すナ!!!」

「ハッ!!!」

 

 ルフィとゾロの捜し始めてどれくらい経ったか、どこにも二人は見当たらない。

 ロブ・ルッチに投げ飛ばされてそれっきりで、どこかに倒れているのかと思いきや、痕跡さえ見当たらない。捜索は難航していた。

 

 そんな中、不意にリンがにやりと、フーに意味深な笑みを浮かべてみせる。

 

「しかしフー…‼︎ お前あんだけ関わるなっつってたのニ、手厚く協力してくれるじゃなイ⁉︎ どんな心境の変化ダ⁉︎」

「……‼︎ 受けた恩は………必ず返すのがシンの男の在り方!!!」

 

 賊と行動を共にすることに抵抗があったフーであったが、共に長くいて愛着でも移ったか、ルフィ達を真剣に探している。

 フー自身、苦々しく思いつつも、手を貸すことはやぶさかではないようだ。

 

「何より……我らが王が決めた道ならバ、最後まで付き従うが家臣の生き様!!!」

「ハッハッハ‼︎ 忠臣を持って幸せだヨ、おれハ!!!」

 

 ふざけたように言いながら、リンはキッと前を見据える。

 一体どこにいるのか、姿をまるで見せないルフィ達に苛立ちと焦りを抱き始めていた。

 

「おいルフィ!!! ゾロ!!! さっさと出て来ねェとロビンが連れてかれるゾ!!! 船長が仲間を見殺しにする気カ!!!」

「ルフィ〜!!! ゾロ〜〜!!! どこにいるんだよ〜〜っ!!!」

 

 別の場所で捜索を行うチョッパーも、必死に声を張り上げる。

 また別の道、水路をヤガラブルの背に乗って、ナミがブルーステーションを目指していた。

 

「ロビ〜〜〜〜ン!!!!」

 

 強大な敵に立ち向かうためにルフィ達の下を、ロビンを敵の元に渡さないために駅を目指す。迫る時間に焦りながら、必死に先を急ぐ。

 

 その時だった。

 町中に届きそうなほどに大きな、驚愕と焦燥に駆られた声が響いたのは。

 

「大変だァ〜!!! 海を見ろォ!!!」

 

 一人の船大工が、海を凝視しながら叫んでいた。

 釣られて他の者目を向けると、彼らは次第に愕然となり立ち尽くし、その場でガタガタと震え始める。

 

 視界に映ったそれ―――青い災害を目の当たりにして、身体が凍り付いていた。

 

「…引いた水が多ければ多い程、直、帰って来る波もデカくなる。潮の引き方を見りゃあ…高潮の規模が知れる…」

「とぶ〜‼︎」

「ニャー‼︎」

「さて、今年はどれ程水位が下がるかと思えば…見なァ、チムニー」

 

 海を眺め、はしゃぐチムニーとゴンベを宥めていたココロが、酒瓶を傾ける。

 その目に映る青―――迫り来る巨大な高潮を見つめ、ぼそりと呟いた。

 

「海が…まるで干上がっちまったようら…んががががが」

 

 嘗ての町、沈んでしまった建物が露わになるほどに、干上がってしまった海。

 消えたその海の質量が、そのままそっくり島に襲い掛かるのだとしたら、一体どれだけの衝撃であるのだろいうか。

 

 高潮の接近を目撃した船大工達は、呆然と固まるばかりであった。

 

「あれれれれれれ〜〜⁉︎」

「ニャーニャーニャ〜〜⁉︎」

「ばーちゃん見て見て、なんかいるー‼︎ 家と家の間になんかいる〜‼︎」

 

 不意に、チムニー達が下町を見やったまま何か騒ぎ始める。

 何を見ているのか、と心が訝しげに目を凝らしていると、彼女達の元に二人の訪問客が現れた。

 

「クソ…この辺から感じるんだガ」

「どこにも見当たりませんゾ…⁉︎」

 

 息を切らせ、リンとフーがココロ達の傍を訪れる。

 きょろきょろと辺りを見渡していた彼らは、ココロ達の存在にようやく気付き、驚いた様子で息を呑んだ。

 

「おや、おめェは……糸目の小僧」

「ココロばーさン‼︎」

「ねー‼︎ 海賊のにーちゃん‼︎ ねェ‼︎ あそこ見て‼︎ なんかいるー‼︎」

「なんカ……?」

「さっきから何らい? チムニー………」

 

 約一日ぶりの再会を喜ぶ前に、チムニーが下町のある個所を指差して騒ぐ。

 リンは心と共に、チムニーの指さす方へ向き、じっと目を凝らしてみる、そして。

 

 二つの建物の間に挟まる、麦わら帽子の男の姿に気がついた。

 

「いタ――!!!」

「あんなところにいたのかあの小童メ!!!」

「ん⁇ あの麦わらは………おめーらんとこの海賊王じゃねーのかい、何であんな、ん⁉︎」

 

 ココロが尋ねたその瞬間、リンが電光石火の如き速さで走り出し、下町に向かって思い切り飛び降りる。

 唖然としていたココロやフーは、数秒経ってようやくハッと我に返り、血相を変えて叫んだ。

 

「おい‼︎ おめェどこ行くんらい!!? 裏町へ下りちゃいけねェよ!!?」

「若ァ!!! おやめなさレ!!!」

「戻りなァ!!! 命がいらねェのかい!!?〝アクア・ラグナ〟が来るよ!!!!」

 

 飛び出したリンを追い、フーも下町に向かう。

 大声を上げて彼らを止めようとしたココロだが、二人は止まる事なく、ルフィのいた建物の方へと急ぐ。

 

「大変だ、糸目の兄ちゃんが………‼︎ 裏町に向かいやがった!!!」

「仮面の奴も追いかけていきやがった‼︎」

「おい戻れェー!!! 低い場所へ行くなー‼︎」

 

 船大工達もリンの暴走に気付き、驚愕と困惑の声を上げてざわめく。

 迫り来る高潮が相手では、逃げない限り誰も生きて帰る事などできないという町に住む者の常識が、彼らをその場に凍り付かせる。

 

 ランファンも思わず棒立ちとなり、下町を駆け抜ける主達を凝視していた。

 

「若………何という事ヲ…」

 

 このままでは、大切な主君が死んでしまう。

 しかし、命じられたゾロの捜索をこなせなければ、臣下としての立場がなくなってしまう。

 

 悩んでいたランファンは、隣で固まっているチョッパーに気付き、じとりとした半目を向けた。

 

「…? お前はさっきから何をしてル?」

「…………イソギンチャクだ」

「ハ?」

 

 意味不明な呟きをこぼすチョッパーに、呆れた声を漏らすランファン。

 彼女の視線も気にせず、トナカイの彼は下町のある個所を凝視し続けていた。

 

「こんな町中にイソギンチャクなド…………」

 

 ため息をつき、つられてその方角を向くランファン。

 

 しかし彼女もまた……一本の煙突の上から生えた、イソギンチャクに似た何かを目の当たりにし、チョッパーと同じく固まってしまった。

 

「……イソギンチャク………だナ」

「煙突からイソギンチャク………イソギンチャク?」

 

 二人は呆然としたまま、それを凝視する。

 煙突から生えるそれは、よく見れば細い三本の何かと太い二本の何かに見える。

 

 よくよく目を凝らしてみれば……それらは、非常に見覚えのある足と鞘であることをようやく理解した。

 

「ゾロォ!!!」

「お前は一体何をやってるんダァ!!?」

「こら待て!!! お前らまで!!!」

 

 イソギンチャクの正体―――ゾロの位置に気付くや否や、凄まじい速度で走り出すチョッパーとランファン。

 船大工達の制止の声も聞かず、彼らは下町の煙突の元へと駆けていった。

 

「にーちゃんスゴーイ!!!」

「バカなマネを…!!! …手遅れになるよ‼︎ 沖を見なよ…!!! もう波がそこまで来てるんらよ!!!」

 

 いつもの笑みを消し、険しい表情でリン達を見張るココロ。

 彼女の見つめる先には刻一刻と、黒く青く巨大な災害が、命を呑み込むべく迫っていた。

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