ONE PIECE −LOG COLLECTION : ELEANOR−   作:春風駘蕩

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第196話〝同志よ‼︎〟

「水路を出るよ!!!『ロケットマン』!!! 全員覚悟決めなァ―――!!!」

 

 ココロがそう叫ぶと同時に、暴走海列車が扉を抜け、海へと飛び出す。

 凄まじい速度で着水すると、その数秒後に町の水路から、大勢の男達の雄叫びが響いてくる。

 

「よォし〝海列車〟が出てきた‼︎」

「こっちも出撃だ、野郎共ォ〜〜っ!!!」

「「「ウオオオオオ〜ッ!!!」」」

 

 気合いの咆哮が上がった直後、町から巨大な影が二つ飛び出す。

 派手な嘶きと共に、その怪物達は要塞のような乗り物を引いて、空中に飛び出してくる。

 

「飛べ―――っ!!! ソドム!!! ゴモラァ〜!!!」

「何だありゃ!!? 何か飛んできた〜〜!!!」

 

 目を丸くするルフィの視界で、二体の怪物―――縞模様が目立つ、一家とおそろいのゴーグルをつけた巨大なブル達が嘶きを上げる。

 

「麦わらさーん!!! フランキー一家&グリードファミリー、総勢80名‼︎ お世話になりま〜〜す!!!」

「うは――‼︎ でっけ――ヤガラブルだァ!!!」

「キングブルさ‼︎ 荒波も走る最上ランクの〝ブル〟ら!」

 

 大きく名乗りを上げるうと共に、フランキー一家は前を進む海列車の客車に向けて、これまた巨大な錨を発射する。

 錨は真っすぐ客車の壁に食らいつくと、衝撃と共に要塞とキングブル達を海列車に固定した。

 

「畜生、あのヤロー共……!!!」

 

 大きな揺れに襲われ、頭を打ったゾロがぼやきながら目を吊り上げる。

 彼に向けて、要塞の中から一家とファミリーがにこやかに手を上げてみせた。

 

「「「「「よろしく!!!」」」」」

「無茶すなー!!!」

 

 思わず怒りの声を上げるも、全く気にする様子がない。

 苛立った様子で唸るゾロを他所に、客車内に備えられた音管からココロの声が響いてくる。

 

『運転室より緊急連絡‼︎ これから線路をつかむと急激に速度が上がるよ‼︎ 軽傷で済むようにしっかりしがみついてな!!!』

「とりあえずケガはするんだ…」

「みたいですネ…」

 

 まったくありがたくない忠告に、ナミとメイが頬を引きつらせる。

 取り敢えず言われた通りにしようと、全員が衝撃に備えて客車内のものにしがみつこうとした時だった。

 

「もう少し‼︎ ばーちゃんもう少し右〜〜‼︎」

「ニャーニャー」

 

 不意に聞こえてきた声に、全員がハッと目を見開き、慌ててココロが窓から身を乗り出す。

 すると、車体の機関部の上ではしゃぐ孫娘とペットの姿を目の当たりにする。

 

「チムニー!!! ゴンベ‼︎ おめーらついてきてたのかい!!?」

「きてた――――‼︎ アハハハ」

「ニャーニャー‼︎」

「何てこった、早く中に入んなァ!!! 吹き飛んじまうよ!!!」

 

 必死に手を伸ばし、車内に呼ぶココロ。

 その間も、ココロの操縦によって海列車の車輪が、海面近くを漂う線路に近づいていく。

 

 やがて、車輪が激しい金属音と共にはまった瞬間。

 ゴッ‼ と、海列車に乗った全員の身体に、凄まじい圧がもたらされた。

 

「うおああああ〜〜っ!!!」

 

 空気が強固な塊となってぶつかり、ルフィ達はたまらず仰け反らされる。

 車体の先頭に座っていたルフィも、危うく強烈な風圧で吹き飛ばされそうになる。

 

「ウオ‼︎ こりゃ外にはいられねェ!!!」

 

 ザンバイの声で我に返った一家達は、ザンバイとスクエアガールズを残して、大急ぎで要塞の中に引っ込む。

 その間も海列車は、嵐が吹き荒れる海を猛烈な速さで駆けていくのだった。

 

 

 

 客車の中に、荒い息遣いが響く。

 激しい運動を終えた後のように疲弊したルフィ達は、しんどそうに床に座り込んだ。

 

「あー……」

「いたたた…」

「ものすげー加速だ……‼︎」

「んがが‼︎ 加速でなく暴走らよ」

 

 大半の者達が、身体を客車内のどこかにぶつけたようで、痛そうに呻き声を上げる。ココロだけが唯一、平然とした様子で笑っていた。

 

「あーマジで恐かった」

「腰うった…」

「いやいやびびった‼︎」

「あそこは特等席じゃねェな…ふっとぶかと思ったぞ」

 

 ついメリー号に乗っていた時と同じ気分になっていたルフィは、二度と乗らないと心に決めた様子で息をつく。

 取り敢えずのところ、誰も吹っ飛ばされてそのままにはなっていないようだ。

 

「………ちょっと待て。この車両におかしな奴らがいるぞ」

 

 そこでふと、ゾロが険しい表情で告げる。

 車内のとある数人は、誰の事を言っているのかと互いの顔を見合わせ、困惑の声を上げた。

 

「「「おい、そりゃ誰だ」」」

「お前らだよ!!!」

「あんたもでしょ!!!」

「おめェもだろ!!!」

 

 タイルストン、ルル、パニーニャの訝しげな声に、パウリーがまず叫び、続いてセレネが叫び、最後にゾロが怒号を上げる。

 いつの間にか乗っていた彼らは、ルフィ達の驚きの目を前に平然と向き合う。

 

「――お前らの仲間を連れ去った〝敵〟は、アイスバーグさん達の命を狙った〝犯人〟でもあるんだ‼︎ ――どうせお前ら止めても止まらねェんなら…おれも参戦する‼︎」

 

 傷跡がまだ痛々しいパウリーが、決して退く気を見せずに告げる。

 無謀な戦いに挑むルフィ達を放っておけないというよりも、置いていかれてなるものかという気概のようだ。

 

「あくまでもガレーラとは関係ねェ、おれの単独行動としてな……!!!」

「がはははパウリー!!! おれ達は、お前にくっついて来りゃあアイスバーグさん達の〝敵〟に会えるとふんで、一緒に炭水車に隠れてたんだ!!!」

「――案の定、そういう事らしいな…この戦い。おれ達も加えて貰うぞ」

 

 タイルストンが豪快に笑い、ルルが静かに首肯する。

 その隣で、ふんふんと鼻息を荒くするパニーニャが口を開いた。

 

「エレノアが……友達が連れてかれたってんなら、行かないなんて選択肢はないよ‼︎ 血が恐いなんて言ってる場合か!!!」

「…父さんに手を出されて泣き寝入りするなんて、はらわたが煮え繰り返って仕方がない…………ですから」

 

 丁寧な口調を保とうと努めているが、セレネの眼の奥にも激しい怒りの炎が燃え盛っているのが見て取れる。

 集った船大工達全員が、恩人の敵への怒りに燃えていた。

 

「さらに――その〝敵〟ってのは当然、フランキーのアニキとグリードのアニキを連れ去った奴らでもある………!!!」

「そうだわいな‼︎ あたしら、そいつが誰なのかもはっくりと知ってるんだわいな‼︎」

「やいガレーラ‼︎ あんたらアニキ達に何かあったらどう責任取るんだわいな!!!」

「黙れ‼︎ 一番辛いのはアイスバーグさんだ!!!」

 

 もともとそりが合わなかった両者が、面と向かって激しく罵り合う。

 それを、状況を全て理解できていないタイルストンが怒号を持って止める。

 

「パウリー‼︎ おれ達にまず説明しろ!!!」

「知ってんだろ…真犯人」

 

 ルルが静かに問うと、パウリーは悲痛な表情で黙り込む。

 代わって、セレネが腹立たしさを隠そうともしない険しい表情で顔を上げ、激情を押さえた声で語り出す。

 

「……クマの仮面の大男にやられた後…少しだけ会話の内容が聞こえていた。腹立たしい事この上ない…!!!」

「……急に意味なく姿を消せば、察しもつくか…じゃあ、答え合わせしてやるよ」

 

 パウリーに問われ、セレネがグッと唇をかみしめる。

 何度も深呼吸をし、逸る気持ちを落ち着かせ、閉ざしていた口を開き答える。

 

「仮面の奴らの正体は…ルッチ・カク・カリファ…そして酒場のブルーノ――あの4人が政府の諜報部員だった…あの人達が、父さんとアイスバーグさんを殺そうとした…!!!」

 

 生き延びたスクエアガールズが知った、あまりにも残酷すぎる真実。

 町の住民達から厚い信頼を受けていた男達が、政府の命令で社長を裏切り、命を狙ったという事実。

 

 それを改めて耳にしたルル達は―――これ以上ないほどに目と口を開き、驚愕をあらわにした。

 

「想像だにしてなかったんかい!!! 誰だと思ってたのよあんた達!!!」

 

 我慢ができなかったセレネが叫び、三人にツッコミを入れる。

 ここまでの訳知り顔は一体何だったのか、と言わんばかりの豹変だった。

 

「裏町の『マイケル』と『ホイケル』?」

「そうそう」

「だよね⁉︎」

「誰だよ!!!」

 

 パウリーも一緒になって、的外れな推理を披露する三人に吠える。

 ピリピリと張りつめていた空気が、完全に何処かに吹き飛んでしまっていた。

 

「じゃあ、まー…………‼︎ フランキー一家とも、グリードファミリーとも、ガレーラの船大工達とも、町じゃゴタゴタあったけど、この先はここにいる全員の〝敵〟は同じだ‼︎」

 

 空気を換えるように、ルフィが立ち上がりそう告げる。

 パウリーも、ザンパノも、車内に集った勇士達の注目を受け、確固たる意志を目に宿して仁王立ちする。

 

「これから戦う中で、一番強ぇのは特に、あの〝ハトの奴〟だ‼︎ あいつは必ずおれがぶっ飛ばす!!!」

「―――そうだな、この戦いは奪られたモンをあの4人から奪い返す戦いだ。あいつらへ到達しなきゃ何も終わらねェ」

「……そんデ、おれ達も共闘を余儀なくされちまったってわけカ」

「遺憾であル」

 

 リンがメイを見やりながら呟き、フーが同意すると、メイも不満げな様子で細目を向ける。

 だが、何も言わない所を見るに、共闘する事自体に文句はないようだ。

 

「ばーちゃんばーちゃん、高潮だー!!!」

 

 そんな中、窓から外の様子を伺っていたチムニーが声を上げ、全員にあっ、と迫り来る災害の事を思い出させた。

 

「そういえばココロさん‼︎ 運転室から離れていいの⁉︎」

「んががが、言ったろ!『ロケットマン』は〝暴走海列車〟、あたしの仕事は列車を線路に乗せるまで‼︎ 運転しようにもスロットルが効きゃしねェんら。したがって列車は常にフルスロットル!!! もう誰にも止められねェんら!!!」

「ウソ!!?」

 

 回避も逃避も叶わないのか、とナミが慌て、ルフィに振り向く。

 このまま進むだけでは、確実に高潮に呑まれて木端微塵にされてしまうのは明らかだ。

 

「ルフィ‼︎ 列車が大波にぶつかっちゃうわ‼︎ ルフィ‼︎」

「――せっかく同じ方向むいてるもんが、バラバラに戦っちゃ意味がねェ」

 

 ルフィが前に手を出し、パウリーとザンバイが互いの手首を握り合う。

 三角を描く、奇妙な握手を交わした三人の男達は互いに目を合わせ、それぞれの覚悟の強さを確かめ合った。

 

「いいか、おれ達は同志だ!!! 先に出た〝海列車〟にはおれ達の仲間も乗り込んでる!!! 戦力はまだ上がる!!! 大波なんかにやられんな!!! 全員目的を果たすんだ!!!」

 

 ナミが、ゾロが、チョッパーが、リンが、フーが、ランファンが、メイが。

 そしてガレーラの船大工達が、フランキー一家が、グリードファミリーが、全員が大切な人を取り戻すための覚悟を決め、見つめ合っていた。

 

 目的を果たすまで、誰一人決して死なず、生きて帰ってくるのだとそう心に決めて。

 

「行くぞォ〜!!!!」

「「「「「ウオオオ――――――ッ!!!」」」」」

「んががが。さーおめェらこの波、何とかしてみせなァ!!!」

 

 雄叫びを上げる彼らの前に、それは迫る。

 見上げるほどの高さを誇る水の壁を前に、男達はそれぞれで用意した武器を持ち出し、構え始める。

 

「〝デミ・キャノン〟!!!」

 

 ドォン!とタイルストンの放った砲弾が、高潮に向かう。

 しかし、その一撃は災害を前にあまりに小さく、パスンと呆気ない音を立てて呑み込まれてしまった。

 

「……穴も開かねェ…当然か…‼︎」

「うおおお‼︎」

 

 悔し気に歯を食いしばるタイルストンに続き、一家やファミリー達も大砲を用意し、次々に撃ち込んでいく。

 しかし、何発何十発と撃ち込まれても、高潮に穴が開く様子はなかった。

 

「ひるむなァ!!! どんどん撃ち込め―――っ!!!」

「ぬあああ!!!」

「んがががががが‼︎ 頑張んなァ‼︎」

 

 無力感に苛まれる光景だが、男達は諦めない。

 質が足りないというのなら量で勝負だと、間髪入れず、ありったけの砲弾を打ち出し、炸裂させ続ける。

 その様子に、ココロが酒瓶を片手に囃す声をかけていた。

 

「線路は多少浮上するが、アクア・ラグナは越えられないよ‼︎ 直撃すりゃあこの『ロケットマン』もひとたまりもねえや!!!」

「ギャ――ッ!!! おれ達死んじゃうのか!!?」

「んががが、らから言ったろ。覚悟決めなって」

「え――!!? あたし達も――!!?」

「ニャー!!?」

 

 改めて自分達がとんでもない現場に乗り込んでしまったのだと気付き、チムニーとゴンベ、ついでになぜかチョッパーも目を剥く。

 うちでも外でもぎゃーぎゃーと騒がしくなる中、不意に客車内にいたルフィとゾロ、そしてメイが機関車の上に乗り出した。

 

「んよっ」

「とウ‼︎」

「おい、真正面に撃ち続けろ!!!」

「お前ら何する気だ!!!」

「大砲を撃つ」

 

 ゾロがそう言い、三人は機関車の先端に陣取る。

 武器も何も持っていない様子の彼らに、ザンバイが訝しげに問いかけるも、容量の得ない答えでますます首を傾げる。

 

 構わず三人は、目前にまで迫る高潮を睨みつけ、闘志を高めていた。

 

「お前までなんで来るんだよ」

「私の勝手でス‼︎ そちらこそ私に任せて下がってハ?」

「ほざけ」

 

 軽口を叩きつつ、ゾロは三本の刀を抜き、口と両手に備える。

 相変わらず大砲の類の見当たらない三人に、ザンバイ達は不思議そうに眉を顰めるばかりだ。

 

「何やってんだあいつら」

「撃ち続けろと言ってるぞ、援護しろ!!!」

 

 理解できずとも、言われた通りに砲撃を放ち続ける男達。

 相変わらず高潮に穴が開く様子はなく、海面が弾けてもすぐに埋まってしまう。しかし諦める事なく、ひたすらに攻撃を加え続ける。

 

「エレノアの先祖がやってたのが、こんな感じだったか…‼︎」

 

 にやり、と笑みを浮かべながら、ゾロは機関車の左端に立ち、三刀で円を描くように構える。

 右端ではメイが足元に五本の苦無を突き立て、中央ではルフィが拳をシュッシュッと空中に向けて何度も打ち付ける。

 

「〝ゴムゴムの〟……!!!」

「〝三百煩悩〟」

「〝軍神五兵(ゴッドフォース)〟!!!」

 

 ルフィの拳は徐々に勢いを増し、ゾロの全身の筋肉が盛り上がり、メイの周囲に青い閃光が迸る。

 轟音と共に、巨大な高潮が全てを纏めて呑み込もうとしたその直前。

 

「「「攻城砲(キャノン)〟!!!!」」」

 

 ゴォオッ‼ と。

 三人が放った渾身の一発が、空気を押し退けた強烈な砲撃となり、〝高潮(アクア・ラグナ)〟のど真ん中に炸裂する。

 放たれた力は水を押し退け、少しずつ少しずつ膨れ上がり、そして。

 

 激しい水飛沫を上げて、高潮の中心に巨大な穴が開いた。

 

「「「「「………ぬ………………!!! 抜けたァ〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!」」」」」

 

 視界の全てを覆っていた水の壁を抜け、広がる海原を目の当たりにしたザンバイ達は、感動と安堵の叫び声をあげた。

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