ONE PIECE −LOG COLLECTION : ELEANOR− 作:春風駘蕩
「うゥ!!! う‼︎ うお〜〜〜!!! 死ぬかと思ったァ〜〜〜〜〜〜っ!!!」
「アクア・ラグナを抜けたぞ〜〜〜〜!!!!」
「やった―――っ!!!」
弾ける水飛沫、吹き荒れる暴風を抜け、海列車は高潮を突き破り走る。
フランキー一家とグリードファミリーは自分達が五体満足でいる事に歓喜し、涙を流して雄叫びを上げる。
それほどまでに、死を覚悟した緊迫した数分間だった。
「んがががが……コリャたいしたモンら…!!! 伊達じゃねェ様らね、海賊共……!!!」
「敵に回すと恐ろしいが…味方となるとこれ以上頼もしい奴らはいねェな!!!」
「さすがに死を覚悟したぜ…何て奴らなんだ…」
町で暴れた時とは比べ物にならない強さ、懸賞金額に見合った凄まじさを見せつけたルフィ達に、同志達は戦慄と畏怖の眼差しを送る。
「気ィ抜くんじゃねェよお前ら!!! 嵐はまだ抜けちゃいねェんら!!!」
「ウオオオ〜〜〜ッ!!! も―――恐いもんねーぞー!!!」
もうすべてに買ったつもりになっている全員に、ココロが気持ちを引き締めさせようと檄を送る。
その間に、機関車の上から降りたルフィ達が、客車の中に戻ってくる。
「ぷは、面白かった。やるなお前」
「まだまだこんなもんじゃないですヨ」
「わ――‼︎ 麦わらー‼︎ スゴイわいなあんた達‼︎」
「人間業じゃないわいな!!!」
満面の笑顔で出迎えるモズとキウイだが、その言葉は褒めているのか貶しているのかいまいちわからない。驚愕のあまり、うまく言葉が見つからなかったのかもしれない。
「ルフィ‼︎ こっち来て‼︎」
「ん?」
「サンジ君‼︎」
満足げに帽子を撫でていたルフィに、ふいにナミがずいっと、音を鳴らす電伝虫を差し出した。
発信音を口にする電伝虫を待ち、数秒。
風雨が打ち付けてくる客車の上に腰を下ろし、険しい表情で座り込むサンジ。
ガチャ、という音に若干のノイズが走り、すぐさま受話器を片手に身を乗り出す。
「おう、ルフィか‼︎」
『サンジ――っ‼︎ そっちどうだ⁉︎ ロビンは⁉︎ エレノアは⁉︎』
「ロビンちゃん達は……まだ捕まったままだ。エレノアちゃんの事も聞いた……ずっと見張ってたが、そんな奴見てねェから驚いたぜ」
ロビンの離脱に何らかの理由があるとみて、一人先に海列車の傍に張り込んでいたサンジが、悔し気に眉間にしわを寄せる。
仲間の誰もロビンを連れ戻せなかった場合を考えての行動だったが、もう一人の仲間も連れ去られていた事を知り、不甲斐なさに歯を軋ませる。
「ナミさんから今、事情を聞いたとこさ…全部聞いた…」
『そうか……いいぞ、暴れても!!!』
サンジが必死に抑え込んでいる激情に気付いてか、ルフィは間髪入れずにそう告げる。
今すぐにでも走り出しかねない彼の様子に気付き、ゾロが即座に待ったをかけようと身を乗り出す。
『ルフィ‼︎ 無茶いうな‼︎ おれ達が追いつくまで待たせろ‼︎ おいコック聞こえるか‼︎ その列車にはヤベェ奴らが』
『いいってゾロ‼︎ お前ならどうした。止めたってムダだ』
ルフィの言葉に想うところがあったのか、ぐっと黙り込むゾロ。
その様子を思い浮かべ、顔が見えない事をいいことに、サンジはにやりと小馬鹿にした笑みを浮かべてみせる。
「………わかってんなァ。おうマリモ君、おれを心配してくれんのかい?」
『するかバカ』
「だが残念、そんなロビンちゃんの気持ちを聞かされちゃあ…たとえ船長命令でも、おれは止まる気はねェんで!!!」
そう力強く吠え、サンジは思わず持っていた受話器を握りつぶす。
破片を放り捨て、電伝虫を傍らに置くサンジに、それまで黙っていたウソップがか細い声を漏らした。
「じゃあロビンとエレノアもこの船に」
「ああ」
「おれが一味を抜けてる間に…そんな事が起きてたのか…‼︎」
「ロビンちゃんはメリー号の件も、ルフィとお前が大喧嘩した事も…何も知らねェ」
理由があったとはいえ、激情の促すままに暴言を吐いた後、信じられない事件が起こっていた事に愕然となるウソップ。
何もしなかった事に、戻らなかったことに、今になって大きな後悔に苛まれているようだ。
「だから、お前を含めたおれ達7人が全員無事でいられる様にと、ロビンちゃんは自分の身を犠牲にしてあいつらの言いなりになってたんだ。おれ達の為に」
「ぎゃ―――――――うあうアウアウ、ウオーウアウアウアウ!!! いい話じゃねェかァ〜〜〜っ!!!」
「ガッハハハハハ!!! まったくだぜ!!!」
鋭い目で虚空を睨み、語るサンジのすぐ横で、フランキーが滝のように涙を流して叫ぶ。喚く。
その隣でグリードがゲラゲラと笑い、バンバンと自分の膝を叩いていた。
「何でお前が泣いてんだ。おいお前、何とかしろ」
「ムリだ。兄弟はこの手の話に弱い」
「バカ‼︎ 泣いてねェよバカ!!!」
おいおいと泣きじゃくるフランキーを睨み、次いでグリードを睨む。
しかし、親しい仲である彼もこうなった彼は止められないらしく、呆れた表情でひらひらと手を振るだけだった。
「〝悪魔の女〟と憎まれ嫌われた女が…それがどうだ、仲間の為のその献身。ガッハハハ……思わず欲しくなるいい女だぜ」
「ロビンちゃんは目と鼻の先にいる‼︎ とにかくおれは救出にいくぞ!!!」
にやにやと不気味に笑い、よくない癖を再発させるグリードを放置し、サンジが立ち上がり戦闘車両の方を見やる。
その時、突っ伏して泣き続けていたフランキーがガバッと体を起こす。
「よし!!! この〝フランキー一家〟棟梁フランキー!!! 手ェ貸すぜマユゲのお兄ちゃん‼︎ 理由あって実はおれも、ニコ・ロビンが政府に捕まっちゃあ困る立場にあんのよ!!!」
「おれもやるぜ…‼︎ ニコ・ロビンにそこまで愛されたお前らが気に入った!!! 詫びと言っちゃなんだが、存分に戦わせてもらうぜ!!!」
「何よりそんな人情話聞かされちゃあ…おい‼︎ 長っ鼻!!! 行くぞ!!!」
元は自分達が金を奪ったが故に始まった騒動、というわけでもないのだが、少なからず因縁があると助力を申し出る二人の男。
雄々しく仁王立ちし、やる気を見せる彼らは、一人黙り込んでいる青年にも声をかける。
「おれは………いいよ」
だが、ウソップは背を向けたまま頷かなかった。
明確な拒絶を示し、頼りなく肩を落とした姿で、目を伏せるだけだ。
「もう…おれには関係ねェじゃねェか。いよいよ〝世界政府〟そのものが敵になるんだったら、おれは関わりたくねェし…」
いつものネガティブに増して、心を折られた弱々しい姿を見せるウソップ。
この島に来てからうまくいかない事が多く、大切なものを失ってしまった彼の背中は、いつもよりずっと小さく見えた気がした。
「ルフィ達とも合流するんだろ…⁉︎ あれだけの啖呵きって醜態さらして、どの顔さげてお前らと一緒にいられるってんだ!!! ロビンにゃ悪ィが…おれにはもう、助けに行く義理もねェ!!! おれは一味をやめたんだ‼︎ じゃあな」
そう言って、ウソップは後方車両に向けて歩き出す。
とぼとぼと頼りない足取りで遠くなっていく彼に、グリードが険しい顔で声を上げる。
「じゃあなって、お前どこにも逃げ場はねェぞ‼︎」
「………いいよ、ほっとけ」
「イジはりやがって」
「ホントに面倒くせェ奴」
何かしら仲間の事を想い、気持ちを押し殺しているであろうウソップに、三人とも心底呆れてしまう。
来ないものは仕方がないと、気持ちを切り替え前に進もうとした時だった。
「あ‼︎ 見つけた……」
「しまった」
不意に、客車の窓を開けて上を覗き込んだ黒服の一人が、サンジ達の姿を見つけて慌てた声を漏らす。
サンジ達はすぐさま、自分達を見つけた黒服の口を塞ごうと走り出す。
「〝メタリック・スター〟!!!」
だが、突如黒服の男の顔面に弾のような何かが激突し、黒服の男を海へと叩き落としてしまう。
いきなりの事で呆然としていたサンジ達は、鋼鉄の球が発射された方向へ振り向き、キッと鋭い視線を向ける。
「誰だ!!!」
「話は全て彼から聞いたよ。お嬢さんを一人…助けたいそうだね。そんな君達に手を貸すのに理由はいらない、私も共に戦おう!!!」
三人の視界に、バサバサと暴風に翻るマントが映る。
背中に巨大なゴムパチンコを備え、黄色い奇妙な仮面を顔に被った一人の男が、腕を組みながら仁王立ちしている姿があった。
「私の名は、〝そげキング〟!!!!」
『狙撃』と『王』を掛け合わせた名を名乗り、威風堂々とした態度と声を示すその男に、サンジ達は驚く―――わけでもなく。
何とも言い難い面倒臭そうな表情で、互いに目を見合わせた。
「何だありゃあ? 兄弟」
「言ってやるなよ、兄弟。色々考えてああなっちまったんだろ、あったかい目で見守ってやろうや」
どう見ても正体は明らかなのに、というか隠す気があるのか疑わしい恰好なのに、思い切り格好つけている長鼻の青年。
サンジ達はあえて見破る事はせず、放置する方向で意思を固めた。
「おい、こっち来い‼︎」
「あ、はい」
呼ぶと素直に青年―――そげキングは応じ、サンジ達の元に近寄ってくる。
四人で集まって円になり、腰を下ろして視線を合わせ合い、ここから先の行動を決める作戦会議を始める。
「よし‼︎ じゃあロビンちゃん&エレノアちゃん奪回作戦を決行する!!!」
「――君達、初対面の私に何か質問などないのかね」
「――まずお前らがいたのは第6車両、残る車両はあと5つ‼︎ そのどれかにロビンちゃん達はいる―――時にお前ら………強ェのか?」
「スーパー強ェぞバカヤロウ」
「今週のおれ達は特に強ェ」
一人、全く関係がない話題を掲げる者がいたが、それは全員で無視し必要な事だけを話し合う。
サンジがフランキーとグリードに問うと、二人とも自信満々な顔で、決して足手纏いにはならないと胸を張った。
「最終的には2人を救出できれば勝ちだが、敵は多い。下手に先走って狭い列車の中で囲まれちまうと厄介だ」
「ムダな戦いは省いて、順序よく主力を潰すのがいいわけだな」
「そうだ、そこで一つ作戦がある。よく聞け」
そう、サンジが始める作戦の説明について聞くため、残る三人が顔を寄せた。
海列車内は、異様な緊迫感に包まれていた。
海兵達数人と、彼らを率いる海軍将校T・ボーン大佐の放つ気迫により、客車内の空気が非常に重く感じられるようになっている。
いるはずのない侵入者、それが徐々に近づきあるという状況に、全員が平静でいられないようだ。
「大佐…こんな狭い車両内に隠れる場所なんて……」
一人の海兵が、雰囲気に耐えられなかったのか大佐に向けて問いかける。
しかし、彼が言い切る寸前に、客室の後方の扉からコンコンとノックの音が響く。
「ん⁉︎」
「「「こんばんは」」」
振り向いた海兵達の前に、四人の男達―――二人は知らないが、もう二人は現在護送中のはずの重要参考人がいる事に気付き、客車内は騒然となる。
「いた――――!!!」
「扉の向こうだ!!!」
「罪人を含む不審者3名発見!!!」
即座に捕らえようと、すぐさま閉じられた扉に殺到する海兵達。
しかし、扉はまるで釘でも撃ち込まれているかのように閉ざされたままで、どんなに押しても動かない。
どんっ、どんっと拳をぶつけ、体当たりをしても、扉はまるで開かなかった。
「全隊、後部車両を固めろ!!!」
「くそっ!!! ドアを開けろ!!! 観念しろ!!!」
隣の車両にいる海兵も呼び、侵入者を捕らえる事に全力を注ごうとする海兵達。
その時、それまで沈黙を保っていたT・ボーン大佐が剣を手に進み出てくる。
「Tボーン大佐!!!」
「どいていなさい‼︎」
大佐に言われ、海兵達は後ろに下がる。
剣の範囲外に下がった彼らの前で、T・ボーン大佐は両手で構えた剣を頭上に掲げ、力を蓄えていく。
「曲がった太刀筋大嫌い‼︎ 直角閃光‼︎〝ボーン
ザンッ!と、大佐の放った斬撃が直角の軌跡を描く。
斬撃は固く閉ざされた扉の周囲を四角く切り裂き、壁がゆっくりと外側に倒れていく。
開かれた壁の外に向け、海兵達が列をなし銃を構える、だが。
「!!? …いないっ」
壁の破片が風に飛ばされ、ぽっかりと開かれた穴の向こうに人影はなく、海兵たちは愕然となる。
はっ、と我に返ったT・ボーン大佐は、開かれた穴から客車の上に這い上がり、遠ざかっていく四つの人影に目を見開く。
「まさか!!! 全員前方車両へ引き返せ!!! これは〝罠〟だ!!!
客車に戻り、海兵達に向けて叫ぶT・ボーン大佐。
わけがわからず、しかしすぐに応じようとした海兵達だったが、向かおうとした扉が突如閉ざされてしまい、ぎょっと目を剥く。
「何だ⁉︎ 引き返そうにも……‼︎ ドアを閉められた!!! 誰だ!!!」
海兵達は大急ぎで前方車両の方に向かい、扉に備わった窓を覗き込む。
そして―――あっという間に遠ざかっていく前の車両に、大きな衝撃を受け絶句した。
「あ〜〜〜っ!!! 車両が切り離されてる〜〜〜っ!!!」
「何〜〜!!?」
「遅かったか………!!!」
「畜生ォ――!!! あいつらだ―――!!!」
憤怒の声を上げる海兵達の中で、T・ボーン大佐が悔し気に歯を食いしばる。
視界のずっと向こうで、海列車の客車の屋根の上で手を振る仮面の男が、彼らの神経を逆撫でしまくる。
「そんじゃみなさん‼︎ 海王類にお気をつけて‼︎ よい旅を‼︎」
「達者でな――‼︎」
遠ざかっていく海列車の後姿を前に、海兵達は呆然と立ち尽くすほかに無かった。