ONE PIECE −LOG COLLECTION : ELEANOR− 作:春風駘蕩
「2車両分、これでざっと50人は兵士が減ったろ」
「しかしサンジ君、同じ線路上を麦わらのルフィ達が通ってくるんじゃないかね」
「まあ…何とかするだろ」
揺れる客車の上に腰かけながらそげキングが問うと、サンジは楽観的な答えを返す。
あの程度の障害物なら、仲間達がどうにか突破できると見越してのこの策だ。
「こ…このヤロ――――!!! ドアごと吹き飛べ――っ!!!」
「あ、外出ですか」
「ええ〜〜〜っ!!?」
怒りの声を上げ、跳び蹴りを放って来た黒服を、サンジが扉を開けてそのまま外へ誘う。ドボンッ、と彼は哀れにも荒海の中に落ちてしまった。
「ようしやるか、残り5車両」
犠牲者に全く気を遣う事なく、サンジ達は次なる客車の中に足を踏み入れる。
ぞろぞろと入ってくる侵入者四人を前にし、客車の中では黒服達が各々の武器を構え、表情を強張らせていた。
「て‼︎ てめェらただで済むと思うな!!!」
「おいCP9に報告だ‼︎」
「Tボーン大佐までよくも‼︎」
勇ましく吠える彼らだが、足は竦み冷や汗を噴き出させ、賊を相手にするには残念ながら頼りないという外になかった。
「〝
「ぎゃあ!!!」
「そげキーング〝
「ぶお!!!」
サンジの蹴撃、そげキングの狙撃が次々に炸裂し、黒服達が吹っ飛んでいく。
予想以上の強さを見せる彼らに慄く黒服たちに、今度はフランキーの一撃が襲い掛かる。
「〝ストロング
ボンッ!と放たれた、鎖に繋がれたフランキーの拳。
それを目の当たりにしたサンジとそげキングはギョッと目を見開き、敵前であることも忘れて呆然としてしまう。
だが、驚きの光景はそれだけでは済まなかった。
「〝断罪の剣〟!!!」
黒く染まったグリードの腕が、黒服達を武器ごと叩き割る。鋭い歯が並ぶ口を笑みに歪め、敵を片っ端から叩きのめしていく。
不意に、暴れ回る彼に数人が銃口を向け、人体を簡単に吹っ飛ばせる威力を持つ重量弾を放つ。
轟音と共に撃ち出されたそれらは、グリードの肩や脇腹を抉り血を流させる。
「いっ……てェなコラァ!!!」
しかし、グリードは多少顔を歪めただけで、近くにあった座席を片手で持ち上げ、黒服達に向けて投げ飛ばす。
下敷きになった彼らが悲鳴をあげる様に、心底楽しそうに嗤い声をあげた。
「おい、お前ら一体何なんだ!!!」
「あ? ああ、おれは『改造人間』で……こっちは『人造人間』なのよ…」
「サイボーグ⁉︎ ホムンクルス⁉︎」
あまりにも信じがたい光景が連発したことで、サンジ達は混乱した様子で二人に詰め寄る。
視線を向ければ、抉られたはず脇腹や肩の傷に見る見るうちに筋繊維が伸び、あっと言う間に元通りに再生されていく様が視界に映った。
「体中に鋼鉄や兵器を仕込んである。撃たれりゃ多少痛ェし血が出る事もあるが――まァ効きゃしねェ」
「そんでおれァ、体内の核である〝賢者の石〟が無事ならいくらでも体を再生できる。あとは体表をダイヤモンド並みに硬い鎧にして纏う事もできる………〝最強の盾〟と人は呼ぶぜ」
にやり、と不敵な笑みを浮かべる二人の男―――いや、怪物達。
自分の見たものさえ信じられないほどに、サンジは唖然とするばかりであった。
「…………そんな事があんのか…世界は広いな」
「すげ――‼︎」
呆然と、安い言葉しか出てこないサンジとは逆に、そげキングは興奮した様子でフランキー達に近づく。
そしてどこから取り出したのか、二人の背中にグサッと鋭利な針を突き刺した。
「いだ――――ッ!!!」
「何しやがんだテメ――!!!」
すると、同時に針を喰らった二人は目を剥きながら叫び声をあげる。
針を刺したそげキングまでもが、二人の反応に驚く様子を見せた。
「え! 針くらい効かねェんじゃ」
「このボケ‼︎ おっそろしい実験コーナー始めてんじゃねェ!!! 硬化してない部分は普通に痛ェんだよ!!!」
「言っとくが背中は違う!!! いいか‼︎ この改造は、おれ一人でやったからよ、後ろの面は手が届かなかったんだ‼︎ 前半分が〝改造人間〟だ」
いきなり何をしてくれるのか、と背中を押さえながら怒号を上げるフランキーとグリード。そげキングの行動は、それほどまでに予想ができなかった。
「じゃ、もう一つついでに教えてやる。おれはお腹が〝冷え性〟、なぜでしょう」
「知らねェよ」
唐突に問題が出され、どうでもよさそうにサンジが応える。
そんな二人の前で、グリードがぱかっとフランキーの腹をドアのように開き、冷気に包まれたコーラの瓶を見せた。
「正解は腹にコーラを冷やす冷蔵庫があるからだ‼︎」
「お‼︎ そりゃいいな」
「すげー‼︎ 暑い日最高だ」
驚かせることに成功し、ゲラゲラと笑うフランキー達の前で、サンジとそげキングも興奮で目を輝かせる。
男心をくすぐらせる、秘密基地のような仕組みに、四人の気持ちが近づきかける……が。
「「「「――って言ってる場合かてめェら。もう、この車両敵いねェじゃねェか‼︎ クリアだ次いくぞ‼︎」」」」
はっ、と同時に我に返り、状況も忘れてはしゃいでいた自分自身を叱りつけるように叫ぶ四人。
失態を取り消そうとするように、急ぎ足で次の列車の扉を開いた。
そこにいたのは、何とも形容しがたい姿をした、次なる刺客だった。
「ワンゼだよーん、ワンゼだよ――ん、さっさっさっさっさ――‼︎」
ゴーグルにもじゃもじゃの髪、飛び出た目に飛び出た前歯。
ローラースケートを履いて厨房内を駆け回る謎の男に、サンジ達は思わず唖然としてしまった。
「おっす、お前達っ‼︎ ハラ減ってる⁉︎ おれはワンゼ‼︎ 給仕長だから何でも作れるよ、ラーメンにする⁉︎」
「……」
「じゃ、ラーメンにするけど、その前に一つ知っといてほしい豆知識があるんだよね。おれの鼻毛は‼︎ こう…中で網状に…網タイツみたいになってるって事ね!!!」
答えも聞かず、一方的に喧しく喋り続けるワンゼを名乗る料理人。
彼はボウルの中の小麦粉を口に含み、もごもごとこね始めたかと思うと、鼻の片方を押さえて麺を押し出す。
それを器に盛り、ワンゼは出来上がったラーメンをサンジ達に差し出した。
「さァ、めしあがれ」
「「「「いるかァ‼︎」」」」
料理を舐めているとしか思えない料理を出され、即座に拒絶の怒号を吐く四人。あまりにも汚らしいものを出され、全員嫌悪で顔が歪んだ。
「時間をムダにした。ワンゼ、おれ達は人を待たせてる。先を急ぐんで………じゃあな」
「待て――!!!」
付き合う事すら面倒匂いと、サンジが男を無視して先に進もうとする。
だが、脇を通り抜けようとした彼らの前に、突如身構えたワンゼが立ち塞がった。
「この車両を通りたければ!!! おれを倒してから進め!!!」
「おれ達を止める気か?」
「止めるよ―――っ!!! さっさっさっさー!!! この海列車〝護送任務〟‼︎ こういう万が一の襲撃の為におれはいるんだよ――っ!!!」
見た目も言動もふざけまくっていて、あまり強そうに見えない男の宣言に、サンジ達は訝しげな顔になる。
油断しているように見える彼らに、ワンゼは不気味に笑う。
「罪人を解放したいんだったら、このおれの『ラーメン拳法』に、勝って…………」
「んじゃ通れなくてもいいわ」
挑発するようにワキワキと腕を動かす敵であったが、グリードはもう本気で付き合う気がなかったらしい。
踵を返し、横に向かうと、壁に向かって拳を振るい、大穴を開けてしまったのだ。
「何―――っ!!?」
「ああ…確かにそうだ」
「真面目に真っ直ぐ行く必要はねェよな」
壁をよじ登り、上から前の車両を目指そうとしているグリードに、サンジ達は全くその通りだというように手を鳴らす。
自分を完全に無視している彼らに、ワンゼも流石に苛立ったようだ。
先ほどと同じ生地の中に合金を混ぜ、練り上げると、ワンゼは自分の鼻をサンジ達に向けた。
「行〜〜か〜〜〜〜〜せ―――ない〜〜〜よ〜〜〜〜〜っ!!!」
「またラーメン出す気かっ!!?」
「〝拉麵ビ〜〜〜ム〟!!!」
バッ、と鼻の穴から放たれる無数の麺。それらは真っすぐにサンジ達に向かい、どすどすと勢い良く壁や扉に突き刺さっていく。
「うわあああっ!!!」
「ささる!!! 危ねェ!!!」
「うおっ」
ふざけていながら危険な攻撃に、サンジ達は慌てて左右に飛びのき身を守る。
グリードは自分だけ硬化し、ラーメンの矢はキンキンと甲高い音を立てて弾かれる。
「やめろっ!!!」
厨房の中が棘だらけになりかけた時、宙を舞ったサンジが強烈な蹴りを見舞いし、ワンゼの攻撃が中断される。
そげキング達を庇うように立った彼は、ぐいっと親指で外を示した。
「コイツはおれに任せて、お前ら次の車両へ行け‼︎」
この場で敵を一人相手取る事を宣言したサンジに、フランキーが頷く。
そげキングを促し、グリードがあけた穴に向かってぞろぞろと歩き出す。
「上から回るぞ‼︎」
「ああ、で‼︎ ではサンジ君、頑張りたまえ!!!」
激励を残し、風が吹き荒れる外に乗り出すそげキング達に振り向くことなく、サンジはワンゼを見据える。それを、ワンゼは不気味に笑ったまま見つめていた。
「さっさっさっさっ‼︎ 逃げられた〜〜!!! でも、それもムダだよー‼︎ 次の車両に控えてるのは〝ネロ〟だ‼︎ 新入りとはいえ、正義の殺し屋〝CP9〟!!! あいつら死ぬよーっ⁉︎ ネロは殺しが大好きなのさァ!!! さっさっさーっ!!!」
最初から最後までふざけた顔と言葉遣いで、そして下に見た態度を見せる自称・料理人に、サンジはまた別の怒りを抱き始めるのだった。
「――で? 何なのよ、おめェは」
雨風が叩きつけられる客車の上で、ポーズをとったフランキーが問う。
彼が睨む先には、フランキー達と同じく風に晒されながら屋根の上で佇む、ハットを被った一人の男がいた。
「第3車両に控えますは…〝四式〟使いCP9の新入り〝海イタチ〟のネロ!!! シャウ」
イタチに似た髭を伸ばし、不気味に笑うCP9の一人。
フランキーはポーズを変えながら、明らかに自分の邪魔をするつもりの相手を見据える。
「しかし何だァ…アンタじゃ殺すわけにはいかないねェ、大切な罪人だもんねェ…」
「おゥお兄ちゃん、何でこんな屋根の上に出てきてんのよ! 待ってりゃおれ達から行く所を」
「そりゃわかんないっしょ。ズルして飛び越してたかも知んねェっしょ、シャウ‼︎」
「まァ警戒は大事だわな…それよりオイ、お前の後ろにあるのは何だ?」
不意に、ポーズをとる事を止めたフランキーが、ネロの背後を指差す。
急な指摘に、何事か、とつられて背後を振り返るネロ。
その直後、一気に距離を詰めたフランキーが、ネロの横面に強烈な殴打を浴びせかけた。
「ブハッ……‼︎ 汚ェぞ!!!」
「ウハハハ‼︎ 結構、町じゃ悪党の親玉でね!!!」
「何より人の悪名を傘に暴れるわ、満身創痍の女を攫うような連中に卑怯者とは言われたくないねェ!!!」
倒れ込み、頬を押さえたネロが抗議の声を上げるが、フランキーは全く気にしない。
海賊相手に手段は択ばず、いくつもの敵を解体してきた彼にとって、不意打ち程度子供騙しの技でしかない。
何よりも、大きな恩があり、それでいて重傷を負った女を攫って行くような相手に、手を抜くつもりなどさらさらなかった。
「はァ!!? 満身創痍の女を攫うって……ニコ・ロビンは怪我なんてしてねェし、第一あの女は自分から――――」
「手を貸そうか…? 新入りのネロ君…」
ネロは困惑した様子で、フランキーの言葉に眉を顰める。
そんな彼に、聞き覚えのない声がかけられ、客車の上にいた三人は一斉にそれが聞こえた方に目をやる。
バサバサッ、と音を立て、翼を持った何かが降り立つ。
その背中から、二振りの軍刀を腰に提げた初老の男が降り立った。
「あ……あんたは…」
「?」
ネロはその男を目の当たりにし、大きく目を見開き絶句する。
顔中に冷や汗を噴き出させ、そしてぶるぶると小刻みに震え始める彼に、フランキーは訝しげに首を傾げる。
グリードがいち早く、その男―――〝大総統〟ブラッドレイ・キングに、鋭い敵意の詰まった目を向ける。
「あァ……お前がアレか。海軍最強って噂の剣士…………〝大総統〟ってのァ」
「いかにも」
「…⁉︎ あいつが…」
子電伝虫からの連絡で聞いた、CP9に続くもう一人の敵。
現場に駆け付けようとしたエレノアを下し、連れ去った張本人であると知ったフランキーも、ぎろりと鋭く男を睨みつけた。
「この任務は実に重要なものでね………邪魔をされると非常に困るんだ。そういうわけだから…邪魔をする君達には、少し大人しくしていて貰いたい」
「エレノアを攫う事もか!!?」
「まァそういう事だ」
一切悪びれる事なく、己の行いを自白するブラッドレイ。
フランキーはより一層の怒りを燃やし、グリードもガチガチと歯を鳴らしだすが、その一方でネロは困惑したまま、両者を交互に見やる。
「お、おい大総統殿!!?〝妖術師〟が一体なんだって……!!!」
「邪魔だぜ、ザコが」
ガキン!と硬化させた両拳を打ち合わせ、前に出るグリード。
響き渡る金属音に、ブラッドレイは平然とした表情のまま、腰の剣をすらりと抜き放つ。
余裕綽々と言ったその姿に、フランキーがグリードに向けて口を開く。
「…あっちは任せていいか、兄弟。流石に一緒に戦うにはここは狭すぎらァ」
「ああ、いいぜ。〝最強〟なんぞ持て囃される野郎がどの程度のものか…………おれがきっちり見極めてやるぜ」
にやにやと、不敵に笑っていたグリードが次の瞬間―――凶暴な獣のような恐ろしい形相になって走り出す。
「おおおおおおおおおおおお!!!」
獣の咆哮のような雄叫びを上げ、宙を舞ったグリードの放った黒い爪が、ブラッドレイの剣と激突して火花を散らす。
ギィン!と響き渡る金属音が、荒海の遠くまで伝わった。