ONE PIECE −LOG COLLECTION : ELEANOR−   作:春風駘蕩

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第199話〝口ほどにもない〟

切分け(デクバージュ)〟!!!!

〝アルティメット・ハンマー〟!!!!

 

 扉をぶち抜き、屋根をぶち抜き、二人の男が吹き飛んでくる。

 サンジとフランキー、それぞれが相手をしていたCP9の刺客達が、見るも無残な姿で第二車両の中で倒れ伏した。

 

「お前な…一体どこから」

「アウ‼︎ おめェラーメン野郎は片付いたのか」

「丁度今な。お前の相棒は?」

「海軍のヤベェ奴と戦ってる…が、まァ問題ねェだろ」

 

 凄まじい土埃の中から立ち上がったフランキーに、思わず目を細めるサンジ。

 フランキーは満足げに首を鳴らし、屋根の上を一度見上げてから、にやりと不敵に笑ってみせる。その内戻って来るだろう、という信頼の表れのようだ。

 

「急に騒がしくなったわね」

「護送の為の兵士は全滅か……」

「別に期待もしておらんがのう……」

 

 その様を、第二車両で寛いでいたルッチ達が呆れた目を向ける。

 任務を終えた彼他の手を煩わせないように配置された刺客達。その全員が、こうも容易く蹴散らされた事実に、全員が冷めた目を向ける。

 

「アイツらだろ、直接ロビンちゃん達をさらってったのは」

「気ィつけろ、妙な体技使うぞ」

 

 水の都で冤罪を吹っかけた真犯人であり、一味がばらばらになった原因の一角を担う集団に、サンジとフランキーが油断なく鋭い目を向ける。

 

 しかし、ルッチはサンジ達の敵意など意にも介さず、足元で伏せるネロを見下ろした。

 

「コイツは何だ?」

「コーギーの言っとった『CP9』の新入りじゃろな。ネロとかいう『四式使い』」

 

 詰まらなそうに応え、同じくネロを見下ろすカク。

 やがて、ネロは呻き声とともに体を浮かせ、血反吐を吐きながら、ポーズを決めるフランキーを殺意のこもった目で睨みつける。

 

「畜生ォ………………!!! ハァ…もう許さねェっしょ……‼︎ おれは戦闘の天才と言われた男だぞ‼︎ もう構わねェ………殺してやる」

「…おい新入り」

「……アァ…アンタ…ロブ・ルッチだな。挨拶が遅れたねェ………‼︎」

 

 顔面に強力な一撃を喰らい、すでに満身創痍に近づいているネロは、唐突に話しかけてきたルッチに軽く挨拶の言葉を向ける。

 

「ちょっと待ってくれよ、今あいつを殺して…」

「フランキーは生け捕りだ。感情に任せて任務を見失うとは………イヤ、もういい」

 

 醜態をさらしたことを巻き返そうとしてか、ルッチの前で反撃を宣言する。

 しかしルッチは、計画から外れた行動をとろうとしているネロにため息をつき、不意にスッと冷たく目を細める。

 

「3秒やるから…さっさと逃げろ」

 

 突然の意味不明な言葉に、ネロは一瞬固まり、次いでガバッと勢いよく振り向く。

 目に映る、表情一つ変えていないルッチの顔に、ネロは次第に彼が本気であることを思い知り、困惑しながらも立ち上がる。

 

 CP9の技を使い、ルッチの前から逃げようとしたその瞬間。

 彼よりも早く移動したルッチが、ネロの身体に連続の指突を打ち込んだ。

 

「ぐあァ!!!」

「何もかも半端なお前に、『CP9』は務まらん。『六式』揃ってこその『超人』だ、坊や……」

 

 致命傷を負ったネロは、そのまま物のように放り捨てられ、海列車の外に投げ出される。

 それに背を向け、ルッチは気だるげに口を開いた。

 

「カリファ」

「はい」

「あとで長官に一報を。『新入りは弱すぎて使えませんでした』と」

「了解」

 

 誰一人動揺することなく、常軌を逸する行動を見せたルッチを見る事もしない。まるでそれが当たり前であるかのような、そんな雰囲気がある。

 サンジもフランキーも、残酷な光景を前に開いた口が塞がらない気分であった。

 

「――コイツらが正義の機関か……?」

「どっちが悪だかな…………」

 

 そんな彼らの呟きも、ルッチ達はまるで気にした様子を見せない。

 堂々と正面から侵入し、姿をさらしたサンジ達に、心底面倒臭そうな無表情を向けるだけであった。

 

「お前らの用は……聞くまでもねェか、侵入者。ドアの開け方を見る限り、あまり気の長い質じゃなさそうだな…………」

「ああ、育ちが悪ィもんで」

「…………ニコ・ロビンの事なら諦めろ。お前達が首を突っ込むには問題がデカすぎる。世の中には……死んだ方が人の為になるという、不幸な星の元に生まれる人間もいるもんだ……」

 

 ルッチはまるで、出来の悪い子供を諭すように、抑揚のない静かな声で語り出す。

 ちりっ、とサンジの目に怒りの火が灯り、ひくっと彼の頬が痙攣する事にも気づかず、ルッチは淡々と語り続ける。

 

「例えば〝世界を焼き尽くす悪魔〟がいたとして……それを呼び起こす力を持っている者が、わずか8歳の純粋な少女であった場合…その少女は、誰かの手で人々の為に殺しておくべきだと思わないか?」

「……何が言いてェ」

「それがニコ・ロビンという女の人生だと教えてるんだ。今となっては本物の犯罪者だが…始まりはたったそれだけの事だった」

 

 サンジの眼の怒りの炎が、より強く燃え上がる。

 フランキーも同じく、聞くに堪えない身勝手な持論を持ち出す男に対し、強烈な苛立ちを抱き始める。

 

 本気で引き下がらせるつもりだったのかはわからないが、間違いなく説得は失敗に終わっていた。

 

「物心ついた時から、自分の存在そのものが〝罪〟!!! 自分が消える事でしか人を幸せにできない、そういう不幸を背負っているんだ」

 

 まったく変わらないルッチの表情だが、どことなく嘲笑が滲んで見える。

 あまりにも憐れな時間を過ごした女に対し、同情よりも強く、憐れみと嘲りの感情が湧き出しているようだった。

 

「本来20年前に死んでおかなけれならなかった女だが、手遅れになる前にあの女が死ぬ事になって本当によかった」

「いい加減にしろてめェ!!! それ以上口を開くな!!!」

 

 我慢の限界に達したサンジが、ルッチに向けて渾身の蹴りを放つ。

 ルッチは平然とそれを受け止め、顔色一つ変えずに押し留める。そして止める事なく、再び口を開く。

 

「――ただし政府は、この先何年もかけてニコ・ロビンの知識・経験・頭脳の全てを絞り出すだろう。これからあの女がどれ程の苦痛の末死んでいくのか、よく噛みしめておけ」

「そんな事はさせねェよ!!!!」

 

 怒りの火に、さらなる油が巻かれてサンジは激昂する。目の前にいる男に対する憎悪を止められず、激情が彼を前へと突き動かす。

 大切な女性達を脅し、意のままに操ろうとする彼らの事を、サンジは決して許す事ができなかった。

 

「ロビンちゃんもエレノアちゃんも!!! てめェらクソ野郎共の好きにはさせねェ!!!」

「……何?」

「何じゃと…?」

 

 感情のままに叫ぶサンジ。その言葉に、ここで初めてルッチ達の表情に変化が現れる。

 思わぬ情報が舞い込んだような、それもとびきりに喜ばしくない事を聞かされたような、訝しげな表情であった。

 

 サンジとフランキーも、予想外の反応を見せる敵に眉をひそめた、その時だ。

 

「おいおい待てロビン、そっちへ行ったら‼︎」

 

 バタンッ、と勢いよく扉が開かれ、厳しい表情のロビンと彼女にしがみついたそげキングが姿を現す。

 五体満足で歩いてくる彼女に、サンジがホッと安堵の息をつく。

 

「ロビンちゃん!!! よかった、無事なのか、ケガは⁉︎ 何もされてねェか!!?」

「どういう事なの…⁉︎ 妖術師さんまで攫ってきたというのは本当なの!!?」

 

 笑みを浮かべ、近付こうとするサンジを無視し、ロビンはサンジと対峙するルッチに怒鳴りつけるように問う。

 ルッチは眉間にしわを寄せ、胡乱気な眼差しをロビンに向ける。本気で、何を言っているのかと困惑しているように見えた。

 

「……そのような任務は受けていないが……?」

「お前達、一体何を言うておる?」

「とぼけんじゃねェ!!! てめェら政府のバケモンってウワサの〝大総統〟とやらが、エレノアちゃんを連れ去ってったってこっちにゃ確かな情報が来てんだ!!!」

 

 カクも同じく、全く知らない情報に対し思わず問い返す。

 しかし、フランキー達にしてみればとぼけているようにしか思えず、声を荒げてルッチ達を睨みつけるばかりだ。

 

「おい‼︎ 本当にエレノアちゃんはいないのか!!?」

「あ…ああ‼︎ 第一車両にはロビン以外誰も………」

 

 埒が明かない、と最も前の車両に向かったそげキングに問うも、懸命にロビンを説得していた彼は首を振る。

 他にいた者といえば、途中でやって来た役人のコーギーしかいなかった。

 

「…………まったくこれは…あの男に詳しく聞かねばならん用事ができたな…!!!」

 

 ルッチの表情が、苛立ちで歪む。

 脳裏に思い浮かべる自らの上司―――鬱陶しい笑い顔を思い浮かべ、どうしたものかと思考を巡らせていると。

 

「どわ――――っ!!!!」

 

 破られた客車の屋根が再び破られ、一人の男が悲鳴とともに落下してくる。

 さらなる土煙が舞い上がり、後退るサンジとフランキー、ロビンとそげキングの前で、大の字になった男―――血塗れになったグリードが血を吐く。

 

「…は!!? え、オイどうなってんだ!!? どうしたんだよ兄弟!!!」

「ガフッ……クソッ!!! あのジジイ…………バカみてェに強ェ…!!! 再生も硬化も追いつかねェってありえねェだろ!!!」

「ジジイ!!?」

 

 体中に裂傷を刻まれ、真っ赤になったグリードがぼやく。再生がすでに始まっているものの、相当深い傷なのか、なかなか血が止まらずにいる。

 

 ふと、グリードは急に体を起こすと大きく後ろに跳ぶ。

 その後に、屋根の穴からもう一人、ブラッドレイが軽やかに降り立ってみせた。

 

「失礼……手荒な登場で申し訳ない」

「……〝大総統〟……‼︎」

「‼︎ あいつが…‼︎」

 

 ナミ達から名を聞いた、エレノアを無力化し捕らえてみせた海軍最恐と謳われる剣士。

 新たなる敵の出現に、サンジ達は思わずその場で身構える。姿を現すや否や襲ってくる圧に、二人のこめかみに冷や汗が伝った。

 

「悪ィ…手ェ貸してくれるか、兄弟………あのジジイが乗ってきた鳥の背に、〝妖術師〟がいるんだ…!!!」

「おォ…そういう事か…‼︎」

 

 海列車のどこにもいないと思えば、全く違う乗り物に乗せられていたのか、と納得の声を上げるフランキー。

 ならば話は早い、と拳を掲げる彼の前では、ルッチが隣に立ったブラッドレイにじろりと横目を向けている様があった。

 

「どういう事だろうか? 我々は〝妖術師〟まで連れて来いなどという指令は一切受けていないはずだが…」

「んん? ああ…気にするな、これは私に下った指令だ。君達の任務とはまた別口でね………」

 

 そう答えるブラッドレイが、手にした剣に付着した血を布で拭い取る。

 客車内の電灯で照らされ、オレンジ色にてりかえっす刃を構えた彼の片眼が、ギラリと獰猛な輝きを放った。

 

「――だが必要とあらば……君達の仕事を少し手伝ってやろうと思っているのだがね…!!!」

 

 その瞬間、ゾクリ……と。

 言い表しがたい濃密な殺気に襲われ、サンジとフランキー、ロビンとそげキングの背筋に寒気が走る。

 

 まるで敵わない、相手にすらならない敵を前にしてしまったように感じ、サンジ達だけでなくルッチ達も表情を強張らせる。

 ぴりっ、と客車内の空気が重く、張り詰めだしたその時だった。

 

「フランキー君‼ グリード君‼︎︎ 第3車両を切り離したまえ!!!」

「⁉︎ 何すんだよ!!!」

「逃げる!!!」

「逃げる⁉︎」

 

 一人、ブラッドレイのさっきからいち早く抜け出したそげキングが、サンジ達に向けて叫ぶ。

 何をするつもりか、とサンジもハッと我に返り、叫び問い返す。

 

「おい、どういうこった」

「君も急ぎたまえ、勝負は一瞬だ!!!」

「させんよ、そう簡単には―――」

「そりゃこっちのセリフだぜ」

 

 抜かれては面子が立たない、とそげキングに剣の切先を向け直すブラッドレイだったが、それを止める一つの声が上がる。

 ブラッドレイが振り向けば、全身の傷を再生させたグリードが、ミチミチと全身を変質させながら見据えてくる姿が視界に入る。

 

「ア〜〜…!!! これ使うとちとブ男になっちまうんであんまりやりたかないんだが………相手がてめェなら仕方ねェか」

 

 黒く、鋭く、危険な気配を纏った異形の変貌していく彼に、カリファやブルーノがぎょっと目を見開く。

 全員の驚愕の視線を独占したグリードは、ゴキゴキと指を鳴らして、走り出す前の前傾姿勢になった。

 

「骨の10本や20本くらいは…覚悟しろよ、ジジイ」

 

 そう告げ、平然とした顔で佇むブラッドレイに向かって飛び出すグリード。

 二振りの剣を交差させて構えたブラッドレイのもとに、グリードの強烈な斬撃が襲い掛かる。

 

〝制裁の槍〟!!!

 

 ギィン!と凄まじい金属音が鳴り響き、衝撃でブラッドレイの身体が宙に浮き、後方に吹き飛ばされる。

 客車内で最も強力な実力者が吹き飛ばされる姿に、ルッチ達がほんの一瞬呆然となる。

 

 吹き飛ばされた本人は、平然と宙を跳んで床に降り立つだけだったが、それはサンジ達の命運を分ける最大の隙となった。

 

「今だ!!! 長っ鼻!!!」

「おう!!!〝そげキーング煙星(スモークスター)〟!!!」

 

 頷いたそげキングが、足元に煙玉を投げつける。

 その途端、弾の大きさから想像できる以上の量の白煙が噴き出し、客車内が真っ白に染まる。

 

 そして、人影すら見えなくなるような白煙の中から、ロビンを抱えたそげキングが必死の形相で飛び出してきた。

 

「ニコ・ロビンは頂いたァ!!!!」

「「「よっしゃー!!!」」」

 

 いち早く後ろの車両に引っ込み、連結部分を外す作業を行っていたサンジとフランキー、そして元の姿に戻ったグリードがガッとガッツポーズをとった。

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