ONE PIECE −LOG COLLECTION : ELEANOR−   作:春風駘蕩

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200話突破ァ!!!
本編の内容は全く祝えませんけどね。


第200話〝恐怖の楔〟

「やったァ‼︎ ロビンを取り戻したぞ〜〜〜!!!」

 

 もくもくと広がる白煙、そして離れていく二つの客車。

 目を見開くロビンを脇に抱え、そげキングが歓喜の咆哮を上げると、それをサンジ達がわっと満面の笑みで迎える。

 

「おっどろいたぜ、しかし急にこんな逃走作戦に出るとは‼︎」

「煙幕なんてくだらなすぎて思いつきもしねェよ普通」

「あんな恐ろしい奴ら、戦わずに目的が果たせるんならそれが一番だ…‼︎」

 

 政府が有する暗殺組織という、肩書だけで恐ろしく感じる相手に対し、煙幕などと言う子供騙しの手が通用した事に驚きつつも、一同はホッと安堵する。

 すると、ひとしきり笑いあったフランキーとグリードが不意に立ち上がり、前方に続く出入り口に向かって歩き出す。

 

「……んじゃ、おれ達ちょっくら行ってくるわ」

「お前らはニコ・ロビンを守ってろ!!!」

 

 態々死地に戻ろうとする彼らに、そげキングはギョッと困惑の目を向ける。

 そして、戦いの最中にグリードが口にしていた重要な情報を思い出し、ハッと息を呑む。

 

「…!!! そうだった‼ エレノアがまだ向こうに残ってんだった!!!」

「妖術師の居場所もわかった………あとは力ずくで取り戻しゃァ、おれ達の完全勝利よ」

「………そうなるわなァ、一人だけ置き去りにゃできねェ」

「わ、わかった…!!! 頼むよ」

 

 バキバキと拳を鳴らし、怒りと闘志を燃やすフランキーと同じく、グリードもガチガチと歯を鳴らす。二人とも、既に油断なく臨戦態勢に入っていた。

 

「何よりおれァ………散々おれをボコボコにしてくれやがったあの野郎に礼をしなきゃ気が済まねェ…‼︎」

 

 切り裂かれた己の身体を撫で、前の車両にまだいるはずの男の顔を思い浮かべるグリード。

 裏町でほぼ無敵を誇っていた自身が、老いた男に一方的に叩きのめされるだけという事実に、獰猛な笑みを浮かべ、こめかみに青筋を浮き立たせる。

 

 その時だった。

 白煙の中から幾本もの黒い何かが飛来し、サンジ達のいる車両に食い込んできた。

 

「⁉︎ 何だ⁉︎」

「トゲのムチ!!?」

 

 ハッと顔を上げ、前の車両を見やり、徐々に晴れていく白煙の奥を覗き込むサンジ達。

 そこには、自前の棘の鞭を握り、二つの車両を無理矢理つなげているカリファの姿がある。

 

「伝って来る気か⁉︎ ムチを切れ!!!」

 

 大慌てで、車両に食い込んでいる鞭の棘を外そうと走る出す。

 しかし、サンジ達が鞭に辿り着くよりも前に、カリファの鞭をブルーノが纏めて握り、気合いの声と共に力強く引っ張る。

 

 その途端、後方車両が一緒に引きずられ、前の車両に思いきり激突する事となる。

 

「おわあああああ!!!」

「ぎゃ――!!! 引き戻されたァ〜!!!」

「何ちゅうパワーだ」

 

 予想外の出来事に、激しく揺れる客車の中で悲鳴と悪態が上がる。

 サンジは忌々しげに顔を歪め、ずかずかと車両を移ってくるブルーノ達を睨みつける。

 

「煙幕とはつまらねェマネを」

「………やっぱ無理あったか。そげキング!!! ロビンちゃんを死守しろよ!!!」

「お…‼︎ おう!!!」

 

 倒れ込んだロビンとそげキングを背に庇い、ブルーノの巨体と相対する。

 車両同士を合わせている棘の鞭を見やり、サンジは一気にブルーノの懐に突っ込んでいく。

 

「せっかく引き寄せたトコ悪ィが…!!! その手離して貰うぞ!!!」

 

 構えも何も取っていない、無防備に見える腹に向けて、サンジは渾身の回し蹴りを叩き込む。

 しかし、蹴ったブルーノの腹は鋼鉄のように硬く、サンジの方が鈍痛に顔を歪める羽目となる。

 

「何だこの硬さ」

「妙な体技を使うと言ったろ‼︎」

 

 フランキーが自分の忠告を無視された気分で声を上げると、サンジはその場で逆立ちになり、ぐるぐると自分の体を回転させる。

 勢いを増す蹴り、徐々に集まっていく力が、次の瞬間再びブルーノの腹に決まる。

 

「〝粗砕〟!!!!」

 

 先ほどよりも強力で、重い一撃が放たれる。

 まるで鐘を突いたような轟音が鳴り響き、ブルーノはたまらず白目を剥き、ぐらりと体を揺らがせた。

 

「ほう、なかなかやるじゃないか」

「ブルーノ‼︎ ナメてかかるな、賞金は懸かっておらんがおそらくそいつも主力の一人じゃ‼︎」

 

 感心した声を上げるブラッドレイに続き、カクも仲間に忠告の声を向ける。

 生半可な攻撃の効かない鋼鉄の身体というアドバンテージを有していたCP9達が、即座にサンジを脅威と認識し始めた時だった。

 

「うわっ‼︎ ロビンちょっと待て!!!」

「〝八輪咲きクラッチ〟!!!」

「ぎゃあ‼︎」

 

 背後で上がる悲鳴に、サンジがハッと振り向く。

 フランキー達も同じく振り向いてみれば、ロビンがそげキングの身体に手を生やし、容赦のない関節技を極めている光景が目に入る。

 

「ウソップ!!! ちょ…何で……ロビンちゃん!!?」

「何度言わせるの⁉︎ 私の事は放っといて!!!」

「ホラどこに気を取られとる…」

 

 悲痛な声で、助けを拒絶するロビンに、サンジ達は戸惑い動く事ができない。

 その隙を狙われ、サンジはカクの蹴りを浴び、血を流して床に倒れ込んでしまう。

 

 次々に斃れていく同志達の様に、フランキーとグリードの額に血管が浮き始めた。

 

「まったく、お前らどいつもコイツも、何でそう仲間同士で意地をはるのか‼︎」

「お前ら全員面倒くせェな!!! 本当によォ!!!」

「せっかく逃げられる…チャンスだろうがァ!!!」

 

 激昂の声を上げ、フランキーとグリードが同時に飛び出す。

 そのままCP9に向かう……かと思いきや、扉のある壁に突っ込み、棘の鞭やCP9事前の車両に飛び込んでいく。

 おかげでサンジ達のいる車両は解放され、再びルッチ達から引き離されていった。

 

「フランキー!!! グリード!!!」

 

 残った二人の事を案じ、呼びかけるサンジ。ありあわせの同志であったが、それでも敵地にたった二人では非常に不安になる。

 二人は何やら向こう側で話していたかと思うと、破壊した壁から顔を覗かせ、大きく声を張り上げてきた。

 

「アウ‼︎ おめェら‼︎ おれ達の事は心配すんな‼︎ 策がある‼︎ 麦わら達と合流したら、何とか町へ引き返せ!!!」

「こっちはついでに、〝妖術師〟を土産に連れ帰ってやらァ!!!」

 

 頼もしい宣言を残し、フランキー達を乗せた前方車両はどんどん前へと向かっていく。

 サンジもそげキングも、それを険しい顔で見送る他になかった。

 

「あいつら………‼︎」

「何て事を…待って!!! 私は逃げたりしないわ‼︎」

「待てよロビンちゃん‼︎ この期に及んで何だってんだよ!!! オレ達ァ全て事情も知って助けにきたんだぞ!!!」

 

 この期に及んで、助けが来てなお敵の元に向かおうとするロビンに、サンジもそげキングも全く理解ができず、叫ぶように問い返してしまう。

 なぜこうも、自分達に救われる事を望んでくれないのかと、焦りの感情さえ浮かび始めていた。

 

「政府の『バスターコール』って攻撃さえ何とかすりゃ、ロビンちゃんがあいつらに従う事は、ねェハズだろ⁉︎」

「その『バスターコール』が問題なんだ」

 

 そう、喚くロビンを説得していたサンジの耳に、知った声が響く。

 一瞬固まり、そしてハッと強張った顔で振り向けば、直後に斬り裂かれ、サンジは再び倒れ込んでしまう。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()姿()()()()()ブルーノによって。

 

「サンジィ!!! な…何だ!!? あいつ何もねェ所から現れた!!!」

 

 不気味に開かれた扉を凝視し、そげキングが目を見開き叫ぶ。

 サンジも自身の傷口を押さえつつ、得体の知れない能力を見せつけるブルーノを見上げ、睨みながら歯を食いしばる。

 

 すると、ロビンの腕を掴んだブルーノが、呆然としていたそげキングも蹴り飛ばす。

 

「ウソップ!!!」

「やめて、私は逃げる気はないわ、それでいい筈よ!!!」

「向こうからかかって来るんだ、仕方ない」

「……じゃあ、早くここを離れましょう」

 

 ブルーノの手を振り払い、ブルーノが明けた扉に向かうロビン。

 一瞬、何かを堪えるような厳しい表情を浮かべ、しかしすぐに前を向き直る彼女に、そげキングが口を開く。

 

「待て!!! ………大丈夫だ……‼︎ ロビンお前……大丈夫だぞ………お前まだなんか、隠してんな………‼︎ 別に……それはいい」

 

 息も絶え絶えに、弱々しく語りかけてくるそげキングに、ロビンは悲痛に顔を歪めながら振り向く。

 明らかに、自分の気持ちを押さえつけている彼女に向けて、そげキングは優しく語りかけ続ける。

 

「……ただし海賊は…船長の許可なく一味を抜ける事はできない…!!! だからお前……‼︎ ルフィを信じろ」

 

 そう、真っ直ぐにロビンの目を見つめ、告げる。

 ロビンは言葉をなくし、グッと唇をかみしめていたが、やがて大気のドアを潜り、向こう側に立ち去ってしまった。

 

「ロビンちゃん!!!」

「ムダだ、ニコ・ロビンは協定を破らない」

「……何でそう言える!!!」

 

 抗う姿勢を崩さないサンジ達に飽きれるような様子で、ブルーノが吐き捨てる。

 その言葉を認められず、サンジが険しい顔で怒鳴りつけると、ブルーノは一切表情を変える事なく、淡々と語り始めた。

 

 サンジ達がロビンを救う事ができない、その決定的ともいえる根拠を。

 

「――その昔、発動された海軍の『バスターコール』によって、ある島が焼き尽くされ跡片もなく滅びる事件が起きた。その時のたった一人の生き残りが、まだ幼い日のニコ・ロビンだ」

「何だと…⁉︎」

「――つまり『バスターコール』とは、あの女にとってのぬぐいきれない〝悪夢〟。幼い頃植えつけられた恐怖の記憶そのものが仲間達に向けられていては――もはや逆らう気力も失せる」

 

 ため息交じりにそう答えるブルーノ。

 サンジもそげキングも、彼が語った真実に目を見開き、信じられないと言った顔で凍りつく。

 

 ロビンの過去も、それを平然と語ったブルーノも、咄嗟に理解することができないでいた。

 

「まさか…それ全部知ってて…!!!」

「当然だ」

「どこまで腐ってんだてめェらはァ!!!!」

 

 幼き頃に刻まれた恐怖を、彼女を縛り付ける心の枷を、何の罪悪感もなく利用している彼らに、サンジの怒りが爆発する。

 ブルーノは冷めた目のまま、ため息とともに大気のドアを潜り、ゆっくりと閉じていく。

 

「全ては正義の為、あの女には深く同情してる」

「ふざけんなァ!!!!」

 

 激情に駆られ、大振りな蹴りを放つサンジ。

 しかしその時には既にドアは閉じられ、元の何もない虚空だけが残される。

 

「畜生ォ〜〜〜〜!!!」

 

 大切な仲間を取り戻せなかった事、蹴り飛ばしたい相手に触れる事さえできなかった事。

 その全てに、サンジとそげキングは激しい悔恨に苛まれ、叫ぶのだった。

 

 

 

 海列車は走る。

 客車を大きく減らし、よりその速度を上げながら、目的地エニエス・ロビーへ急ぐ。

 

「生きてる? オ…本当かそりゃあ!!!」

「……………………ええ、そう言ってたわ……」

 

 第一車両に対面で座り、フランキーが目を見開く。

 手錠をはめられ、自由を奪われた彼は、ロビンの語った事実にしばらくの間呆けていたが、やがてホッと安堵の息をついた。

 

「バカバーグの野郎…そうか、おれァ殺されたと聞かされて………‼︎ よかった、そうか生きてたか」

「よかったじゃねェか兄弟」

「『CP9』は殺したつもりなんじゃないかしら………黙っておいた方がいいわよ」

「………そういうの親切って言うんじゃねェの?」

 

 座席の背もたれに体を預け、天井を仰いでいたフランキーがロビンのそう呟く。

 サンジ達から事情を聴いてから、ロビンのこれらの態度が全て、自分を遠ざけさせるための演技にしか見えなくなっていた。

 

「…………しかしまァ、『兵器』の設計図を持つおれと…存在する『兵器』を呼び起こせるお前と…これで政府はまんまと『古代兵器復活』への二つの鍵を手に入れたわけだ」

「そんで実際にその〝力〟がこの世に出現したらだ…………当然政府は海賊達の時代を終わらせ、後に持て余した軍事力が世界を揺るがし破滅させる。頭の悪ィ話だ」

「それくらいの脅威ある代物だ、『古代兵器』は」

 

 世界政府、その一部であるCP9の計画に、フランキーもグリードもげんなりとした顔になる。

 10年前の事件に関わっていないグリードでさえ想像するに難くない未来であり、真面に受け止めるだけで吐き気がしそうだった。

 

「ウチの師匠が設計図を守る為に命をはったのは、そんなくだらん未来の為じゃねェ。おれは、このまま捕まる気はねェぞ」

「しゃーねェ………ここまで来たら、最後までとことん付き合ってやらァ」

「おうよ、頼りにしてるぜ、兄弟」

 

 手錠で繋がれたまま、互いの拳をぶつけ合うフランキー達。

 しかし彼らの前で、ロビンは沈痛な表情のまま俯き、黙り込んでいる。それを見て、フランキーが厳しい口調で話しかける。

 

「となりゃおれ達だけ逃げ切れても意味はねェ、お前も何とか麦わら達のトコへ帰るんだ」

「ムリよ、私は一緒にいるだけで、彼らを傷つける…‼︎」

「傷つけるのはお前じゃねェだろ? 政府の人間もお前の存在を罪というが、どんな凶器をかかえてようとも、そこにいるだけで罪になるなんて事はねェ‼︎」

 

 その資格がないというように、首を横に振るロビン。

 自分を責め、苦しむ顔を見せる彼女に向けて、フランキーとグリードは同時に告げる。

 

「存在する事は罪にならねェ!!!」

 

 自分の葛藤の全てを否定する、力強い言葉。

 その圧に、思わず圧倒され絶句する彼女を乗せたまま、海列車は荒海の中を走り続けていった。

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