ONE PIECE −LOG COLLECTION : ELEANOR−   作:春風駘蕩

202 / 324
第21章 世界を敵に回してでも〈前編〉
第201話〝合流〟


「うううわああああああカエルお前ェ〜〜〜〜っ!!!」

「ゲロッ!!!」

「ゲロじゃねェよ‼︎ 食うぞコノヤロ―――!!!」

 

 煙を吐き、水を掻き、海を猛然と進むロケットマン。

 数分前より格段に速度が下がった車両の上で、ルフィの怒声と巨大な蛙の鳴き声が上がる。

 

 高潮を越え、海軍大佐を退け、エニエスロビーを目指して一直線に進んでいた海列車とそれに乗る一行だったが、現在彼らは迷子になっていた。

 その理由は、列車の上にしがみつき、ルフィにチョップを喰らっているこの角界ガエルの所為。

 

 列車の間に突然現れた彼、ヨコヅナが張り手を食らわせ、列車を弾き飛ばしてしまったのだ。

 

「おい、一体どうなったんだよこの『海列車』は!!!」

「線路からずいぶん外れたんじゃねェかい⁉︎」

「ココロばーさん、エニエス・ロビーへは辿り着けるんだろうな!!?」

「うるっへーな、今頑張ってんらが…どうにも妙な海流から抜け出せねーんら」

 

 客車の中では、ザンバイやパウリーがココロに問いかけている。

 悪態をつきながら、ココロが何とか列車を線路の方へ戻そうと苦心しているが、海の状態が相当悪いようで難航していた。

 

「ココロさん、島の方角わかるの⁉︎」

「あァ、一応駅のある島の〝永久指針〟は標準装備してあるからね‼︎」

「じゃ、平気‼︎ 私が海を見るから操縦お願い‼︎」

 

 ココロと交代する形で、ナミが窓から身を乗り出し海を調べる。

 目を丸くする操縦士に、ナミは自身に満ちた表情で笑みを浮かべてみせた。

 

「私、〝航海士〟‼︎」

「そうかい、そりゃ頼もしいね‼︎ んががが!!!」

 

 頼もしい姿を見せられ、ココロもすぐに応じる。

 だがすぐ操縦には戻らず、再び窓の外に身を乗り出し、機関部の上にいるヨコヅナを睨みつけた。

 

「その前に、ヨコヅナァ〜〜〜!!! おめェちょっとコッチへ来なァ!!!」

「ゲロ!!? ゲロゲロゲロロ‼︎」

「なァにが無事でよかったら、別にアタシはさらわれたんじゃねェよ‼︎ 早とちりめ‼︎」

「ゲロ!!?」

 

 ココロの姿を確認し安堵するヨコヅナに、ココロも機関部の上に乗りだして怒鳴りだす。

 叱責するココロと、ぎょっとした顔になるヨコヅナの姿に、客車内から覗き込んだザンバイは唖然となっていた。

 

「どうした」

「さっきのカエルとばーさんが会話してる」

「じゃあ、ばーさんはカエルだったのか?」

「確かに人間よりカエルぎみ…………うっ‼︎」

 

 ザンバイの報告にチョッパー達が目を丸くし、迂闊な言葉を吐こうとしたリンの腹にフーの肘打ちが突き刺さる。

 そんな彼らの視線を無視し、ココロはヨコヅナに穏やかに語り掛ける。

 

「おめー、8年前にトムさんを連れてかれたあの事件から、来る日も来る日も〝海列車〟に戦いを挑んで………強くなりたかったんらろ………?」

「ゲロッ‼︎」

 

 そうだ、と言わんばかりに鳴くヨコヅナ。

 大好きだった人を連れ去られてから、もう二度と大切な者を奪われてたまるかと、ずっと自分を鍛え続けてきた。

 

 だからこそ、ココロが攫われたと思い込み、ここまで追いかけてきたのだ。

 

「だったら‼︎ その修行の成果を見せる時は今ら!!! おめェが大好きなフランキーが…トムさんと同じ様に連れてかれちまったんら‼︎ 今、この船もあいつの下へ向かってる。一緒に来るかい!!?」

「ゲロォ――ッ!!!」

 

 雄叫びを上げ、意欲を示すヨコヅナにココロはにっと笑う。

 思わぬタイムロスに遭遇したが、結果的に頼もしい味方が一匹できる事となったのだから。

 

「麦わらぁ、仲間一人追加ら‼︎」

「わかった‼︎ へー‼︎ ばーさん本当はカエルなのか? やっぱ怪獣なのか?」

「んががが、どっちでもいいわねんな事ァ」

 

 不思議そうに問いかけるルフィに笑って返し、客車に戻るココロ。

 そこへ、海の状態を確認し終えたナミが、進路の指示の為に振り向く。

 

「ココロさん8時の方角にいい潮流見つけた‼︎」

「よ――し一気に行くよっ‼︎」

「おい‼︎ ねーちゃんねーちゃん、島に到着する前にキングブルとウチの一家を拾ってくれ‼︎ 絶対役に立つからよ‼︎」

「――だそうらよ」

「わかった!」

「それなら永久指針と同じ方角ダ‼︎ 大勢で固まってる気配を感じル!!!」

「OK!」

 

 ザンバイの頼みとリンの助言で、見失った進路を再び見出す。

 操縦席に戻ったココロが操作を再開し、海列車は雄々しく汽笛を鳴らして車輪を回転させる。

 

「さァ、だいぶロスしちまった、取り戻すよ‼︎」

「ゲロォ―――ッ!!!」

「「「「「ウオ〜〜〜〜〜〜っ!!!」」」」」

 

 

 

「急げ!!! もっとスピード出ねェのか!!?」

 

 荒ぶる海の半ばを進む、キングブルに引かれた戦車型の船。

 逸れた海列車を探しながら、エニエス・ロビーを目指して突き進んでいたフランキー一家とグリードファミリーは、道中に見つけたとある二人を中に迎え入れ、事情を問い質していた。

 

「なァおい‼︎ じゃあアニキ達は自分を犠牲にして」

「ああ、そうだ…ロビンちゃんを助けてくれようとしたんだが…」

「うぉぉう、何て眩しい人だよアニキ達〜」

「急がねェと手遅れになるぞ」

 

 濡れた体を拭くサンジと仮面を被った長鼻の男。

 二人が語る、兄貴分達が身を呈してサンジ達を守ろうとしたという事実に、一家とファミリーは感動で目を潤ませる。

 

 その間も船は進み、やがて進行方向上にある異様な景色が広がり始めた。

 

「おい見えたぞ、不夜島の光っ!!!」

「〝エニエス・ロビー〟だ!!!」

 

 暗天と荒海の中心、雲がそこだけ晴れて、太陽の光が差し込んでいる。

 その地こそ、世界政府の裁判施設がある、常に昼が続く不思議な島―――一家とファミリーの目的地であった。

 

「見つけたぞ!!! デカヤガラ〜〜〜っ!!! お〜〜〜〜い!!!」

 

 と、その時。

 キングブルが引く船の元に、列車の汽笛と青年の声が届く。

 

 振り向き確認してみれば、探していた海列車が線路を辿り、一家とファミリーの元へ向かってくる姿が目に映った。

 

「おい‼︎ アレ見ろ‼︎」

「ルフィ!!!」

「あっ!!! サンジ〜〜!!! と…‼︎ 誰だアレ⁉︎」

「麦わらさんだ〜!!!」

 

 ルフィ達の方も、エニエス・ロビーに向かう船の姿を確認すると、大急ぎで近付いてくる。大事な戦力が、ようやくこの場で合流を果たした。

 

「乗り込む気満々みたい! 世界政府の〝玄関〟へ‼︎」

「エニエス・ロビーも視界に捉えた!!! 全員、決戦の準備を!!!!」

 

 それぞれで新たな追加戦力を得つつ、集った60数人の有志達は憎き世界政府の玄関口に向け、進軍を再開するのだった。

 

 

 

 の、だが。

 新たな戦士と対面したルフィとチョッパーだけは、驚愕と興奮でその場に立ち尽くしていた。

 

「狙撃の島の『そげキング』!!?」

「…そう、ウソップ君の親友でこの度、キミ達の手助けを託かってここにいる!!!」

 

 仮面で顔を隠し、マントを羽織ったその男。

 どう見ても知っている人物なのに、ルフィもチョッパーも目を輝かせ、彼を凝視し続ける。

 

「ヒ…ヒーローだ‼︎ マントしてるからそうじゃねェかと思ったんだおれは‼︎すげェヒーロー初めて見た!!!」

「そうか‼︎ マントしてるから、ヒーローなのか…!!! かっこいいな―――――!!!」

 

 少年心に突き刺さる居住いに、思わず握手とサインを求めてしまう二人。

 しかし彼ら以外の面々は、仮面の男に心底呆れた眼差しを送っていた。

 

(ウソップじゃねェか)

(ウソップ、無事でよかった)

(フランキーハウスに乗り込んできた長っ鼻だ…)

(アニキと一緒に捕まった長っ鼻だわいな)

(シフトステーションで会った兄ちゃんだ)

(ニャー)

(何してんダ、この兄ちゃんハ…)

(誰ですかネ、この人ハ…)

 

 誰一人として、そげキングの正体に気付いていない者はいない。

 だがあえて、わざわざ窮地に戻ってきてくれた本人の意思を尊重しようと、誰も暴くような事はしない。

 

 ただ生温かい目で、謎のヒーローと少年達のやり取りを眺めていた。

 

「じゃあ…ウソップはどこ行ったんだ?」

「彼は無事、全く心配御無用だ。とにかく今はロビン君救出に全力を注げと彼は言い去った」

「うん…‼︎ 確かにそうだ」

「そ‼︎ そ‼︎ 狙撃の島ってどこにあるんだ⁉︎」

「………それは」

 

 さらさらとサインを描くそげキングに、チョッパーが興奮したまま尋ねる。

 一瞬黙ったそげキングは、ルフィとチョッパーの手をそれぞれ握ると、彼らの目を覗き込んで答えてみせる。

 

「君達の………心の中さ………」

「心…」

「どこですカ」

 

 メイの容赦のないツッコミが飛ぶが、三人ともまったく気にしない。

 何とも言えない、見ているだけで恥ずかしくなる雰囲気が漂うが、やはり誰もそれ以上の茶々を入れる事はしなかった。

 

「―――ナミさん…」

「何? サンジ君」

「それとついでにナミさん以外のアホ共。ロビンちゃん・エレノアちゃん救出の前に、一つ聞いといてくれ」

 

 空気を切り替えるように、サンジが真剣な表情で語り出す。

 ロビンに再会し、彼女の言動や態度を見て感じ取った、彼女が隠す何かについて。

 

「――そういうわけで…ロビンちゃんはその〝CP9に何やら過去の〝根っこ〟を掴まれちまってる」

 

 険しい顔で、虚空を睨みつけるサンジ。

 ルッチ達にやられた傷跡を押さえながら、一度敗北した悔しさに耐えつつ、自身が感じ取ったロビンの真意を思う。

 

「別に奪い返せなかった言い訳してェんじゃねェが、これから敵地へ乗り込んだからと、ロビンちゃんがおれ達に身を委ねてくれるかはわからねェ」

「んなもん関係あるか―――っ!!! 絶対許さんぞ――!!!」

「うお――!!!」

「おっシャ―――!!!」

 

 そんなサンジの悔恨をブチ破るように、ルフィとチョッパー、リンが両手を天に突き上げて吠える。

 一方的にやられるだけであった悔しさ、仲間を信じ切れなかった自分への怒り、そして何より……ロビンに対しての憤りで。

 

「ロビンめ――っ!!!」

「何でよ!!!」

「そうじゃねェか、何で、おれ達が助けに来るのをイヤがるんだ!!!」

「助けられた後のこの一味を心配して苦しんでんのよ、ロビンは‼︎」

「そんな事まで知らんっ!!!」

 

 ロビンの気持ちを全く考えていないように見るルフィに、苦言をぶつけるナミだが、ルフィはそれを一蹴する。

 彼にとっては、仲間の重い過去など悩む理由にはならないのだ。

 

「放っといたらロビンは殺されるんだろうが!!! 死にてェわけねェんだから助けるんだ!!!」

「それは勿論そうだけど……!!!」

「やめとけ…やるべき事は変わらねェよ。助けるだけだ」

「なんもかんもブッ飛ばしてやる!!!」

 

 憤り、戦いに意欲を見せるルフィ。

 

 なおも言い募ろうとする所をゾロに止められながら、ナミは思う。

 はたして、ロビンの過去とやらを解決せずに、彼女を救い出す事が本当に可能なのか、と。

 

「お前ら、ちょっとコレ見ろ」

 

 そんな中、懐から一枚の図面を取り出したパウリーが、全員に説明を始める。

 

 かつて線路の整備に来たときの記憶をもとに描かれた図面に描かれているのは、エニエス・ロビーの大まかな全体図であった。

 

 島の入り口はたった一つ。周りは滝に囲まれ、空でも飛ばなければ辿り着く事ができない構造となっている。

 さらに島の奥に進むためには、門を二つ抜け、跳ね橋を操作し向こう岸までかける必要があるというのだ。

 

「とはいえ全員で島へなだれ込んでも、『CP9』に出くわして実際勝つ事ができるのは、お前達だけだ。一緒に列車に乗ってきてその強さがよくわかった」

 

 苦々しい敗戦の記憶を辿り、パウリーが真剣な表情で告げる。

 たった4人のCP9を相手に、手も足も出せずに終わった屈辱が、逆に彼らに冷静な思考を与える。

 

 自分達ではなくルフィ達にこそ、CP9と再戦する資格があるのだ。

 

「こっちはたかだか60数人、敵は2千や3千じゃおさまらねェ筈」

「麦わらさん達はとにかく‼︎ 無駄な戦いを避けて『CP9』だけを追ってくれ!!!」

「ああ!!! わかった!!!」

 

 パウリーの確認に、ルフィが力強く頷いて見せる。

 そして説明が行われているうちに、海列車はエニエス・ロビーの正面まで目と鼻の先という距離まで迫っていた。

 

「さァおめェら、島の正面らよ!!! エニエス・ロビーの後ろの空をよーくごらん!!! アレが〝正義の門〟ら……!!!」

 

 ココロの言葉で、車内の全員が窓から身を乗り出し、それを視界に映す。

 

 島の遥か先に聳え立つ、巨大な扉。

 カモメのマークを中心に描いた、頂点が見えないほどに巨大な壁と門が、ルフィ達を阻むように存在している。

 

 あの先に進めば、ロビンはもう二度と日の光は拝めないのだ。

 

「連行された罪人を取り返してェなら、あの門を通過するまでが制限時間って事ら‼︎ ぐずぐずしてるヒマはないよっ!!!」

「そんじゃおれ達ァ作戦通り先行する!!! 援護は任せとけ‼︎」

 

 目的地を前に、ザンバイ達はぐっと握りこぶしを掲げて意気を示す。

 敵の主要人物達との戦いはルフィ達に任せ、あくまでその他の雑兵や道を作る役割に徹するらしい。

 

 しかし、よく見ると本来ルフィ達と共に行くはずの二人まで、ザンバイ達に混ざっていた。

 

「オイ、そこ二人はこっちじゃねェのか」

 

 ゾロがぼそりとツッコミを入れるも、いつもの事なのでそれ以上何も言わない。

 呆れた肩を竦めていた時、きょろきょろと車内を見渡していたリンがふと声を上げた。

 

「…なァ、ルフィはどこ行っタ?」

「え? さっきまでここに…」

「あれ!!? 麦わらさんっ!!?」

 

 一味の頭の姿が見えない事に、ザンバイ達はハッと表情を変えて車内を探す。

 そしてやがて窓の外に見えた、ルフィが島を囲う鉄柵を支えに、ゴムの力で島の中へ飛んでいく姿に気がつき、全員が騒然となった。

 

「何やってんだあいつは、勝手に―――――っ!!!」

「あの人、作戦全然わかってねェ〜〜〜〜〜っ!!!」

 

 怒りを孕んだ声を上げ、パウリーとザンバイが叫ぶ。

 効率よく、最前の手段で島の奥へ向かう方法を態々説明してやったのに、それをすべて無視した突撃を決行されたのだ。怒り狂っても仕方がない。

 

 ただ、ゾロたち麦わらの一味は、わかり切った様子で肩を落としていた。

 

「………」

「ムダだった」

「『わかった』って言ったよな」

「5分〝待つ〟とかムリだから」

「そりゃそうか」

「ありゃりゃ〜…」

「……お前達、大変だナ」

「気持ちはわかル…」

「んががが、気の早ェ奴らね」

「ニャー」

「いけー‼︎ 海賊兄ちゃん!!!」

「ゲロー!!!」

 

 それぞれ落ち込み、それを宥め、心底呆れた声をこぼす。

 チムニーとヨコヅナ、そしてヨコヅナだけが元気に、ただ一人突っ込んでいったルフィを応援する。

 

 その声に発破をかけられたのか、ザンバイ達も島の方を睨み、各々で威勢をつけ始める。

 

「遅れをとるな、ソドム‼︎ ゴモラァ!!!」

「「バヒヒヒ〜〜ン!!!」」

「鉄柵をよじ登り『正門』をコジ開けろ――――っ!!!」

「「「「「うおおお〜〜〜っ!!!」」」」」

 

 二体のキングブル、そして60数名の荒くれ者達が意思を一つにし、敬愛する兄貴分を救いに向かうのだった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。