ONE PIECE −LOG COLLECTION : ELEANOR−   作:春風駘蕩

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第202話〝不夜島〟

『こちら『正門』‼︎『正門』から『長官』及び『本島前門』へ!!!』

 

 エニエス・ロビー本島、CP9長官スパンダムの部屋に、電伝虫による緊急連絡が入る。

 スパンダムはそれに心底面倒臭そうな顔をし、気だるげに手を伸ばして受話器を取る。

 

「どうした、何事だ!」

『侵入者が一名『正門』を越え『本島前門』へ疾走中!!!』

「なんだ侵入者の一人くらい。落ち着いて始末しろ‼︎」

『いえ、それが…』

 

 たった一名の侵入者に何を狼狽えているのか、と鬱陶しそうに顔を歪めるスパンダムに、連絡を入れた海兵は何やら口淀む。

 彼の元へ、本当然門を担当する海兵から通信が入り、同時にスパンダムにも報告が入る。

 

『……こちら『本島前門』、侵入者を確認……今すぐ始末します。ご安心を…』

『気をつけて対応してくれっ‼︎ 私の目が正しければその男…〝麦わら〟のルフィかと…………!!!』

 

 正門を担当する海兵がそう告げた直後。

 

 どかんっ!と何かが爆発するような音と、何人もの海兵達の悲鳴が響き渡ってくる。通信が一気に騒がしくなり、雑音が無数に混じり始めた。

 

『うわァ!!! え!!? ちょっと!!!』

『何⁉︎ 今何て言ったんだ⁉︎』

『懸賞金一億の‼︎ 海賊〝麦わら〟かと思われますっ!!!』

 

 必死に報告をこなす海兵の目に映るのは、麦わら帽子を被ったたった一人の青年。

 

 世間を騒がせる懸賞首が、鬼の形相で拳を振り回し、海兵達を次から次へと吹っ飛ばしていく。

 立ち向かう海兵達が銃弾を放つも、その一切をものともせず、暴風のような勢いで島の奥へと突き進んでいく。

 

『エレノアとロビンはどこだァ!!!!』

『重ね重ね『正門』より報告を!!! 前方の鉄柵を越えて、怪物馬車に乗った不審集団が侵入!!! 援軍求む!!!』

 

 その言葉を最後に、正門の海兵の声がブツッと途切れてしまう。

 破砕音と悲鳴が遠くから聞こえる受話器を手に、一部始終を聞いてしまったスパンダムは呆然と、その場に立ち尽くした。

 

「どうしたァ―――っ!!! 門番!!! 応答しろ!!! 何が起きてるんだァ!!!」

 

 必死な彼の声に、答える者は誰もいなかった。

 

 

 

『門番‼︎ 状況を説明しろ、門番!!! 敵の数は⁉︎ 現在地は!!? 応答せよ『正門』!!!』

 

 気絶した海兵の傍でぶら下がる受話器、その中から響く声に、応える余裕のある者は誰もいない。

 誰も彼もが、海から二体のキングブルに乗ってやって来た数十名の侵入者との応戦に追われ、武器を手に走り回っているからだ。

 

「ロープアクション〝フィギュアオブ・エイト・ノット〟!!!」

 

 パウリーの操るロープが海兵達を縛り上げ、壁に叩きつけられ、互いに頭をぶつけ合わせられていく。

 ぼとぼとと倒れていく彼らを尻目に、1番ドック職長は次なる獲物へ挑みかかる。

 

「〝バズーカバット〟!!!」

「ふが!!!」

「まだまだ…弾が勿体ねェわ!!!」

 

 ザンバイは大砲を撃つのではなく、鈍器として振り回し海兵を昏倒させる。限りがある弾を温存するための、彼なりの工夫だった。

 

「横の扉から鍵が開くハズ、門を開けろ!!!」

「オォ‼︎」

「開けさせるなァ―――!!!」

「「邪魔だわいなァ!!!」」

「ムォオオオオオオオ!!!〝狂瀾怒濤〟!!!」

「〝異彩の閃光(シャンタク)〟!!!」

 

 門を開く邪魔をする海兵達を、モズとキウイが剣を振るい斬り捨てる。

 その後ろでは、猛牛へと変貌したロアが雄叫びと共に突進を繰り出し、蛇の力を持つ女マーテルがナイフを一閃する。

 

 その近くでは、海兵の鼻から寝癖を立たせたルルが隙を縫い、ドルチェットと共に刀を薙いでいく。

 

「余所見禁物!!!」

「〝獣の呼吸(ヤガ)〟!!!〝獣の嗅覚(ヤガ)〟!!!〝獣の視線(ヤガ)〟!!!」

「〝竜骨折り〟!!!」

発射(フォイア)ァ!!! …ヒ〜血ィコワイ血ィコワイ!!!」

 

 タイルストンが怪力を駆使し海兵達の背骨をへし折り、パニーニャが義足に仕込んだ大砲をぶっ放す。

 撃った本人が悲鳴をあげていたが、一歩も退く事なく次の敵へと立ち向かう。

 

 混沌と化す戦場を見渡し、セレネが掌に模様が描かれた手袋をはめ、地面に叩きつける。

 

「〝螺湮城教本(プレラーティーズ・スペルブック)〟!!!」

 

 その瞬間、地面に眩い閃光が走り、石が歪に変形し、蛸足のようになって海兵達を叩きのめしていく。

 

 麦わらの一味を先へと進ませるため、フランキー一家とグリードファミリー、ガレーラカンパニーの職長達が立場を越えて奮闘する。

 全ては大恩ある兄貴分達と、命の恩人である白虎の天使を救い出すためだ。

 

「開門だァ~~~~‼〝怪力デストロイアーズ〟!!!」

「「「うおおお~~~~~~~!!!」」」

 

 邪魔な海兵達を薙ぎ払い、閉ざされた門に飛びつくロアと三人の巨体を誇る男達。

 それぞれ一家とファミリーで最も力を誇る者達が、重い扉を渾身の力を込めて押し開いていく。当然、それをよしとしない海兵達が妨害に入る。

 

「開かせるな―――‼ 死守しろォ!!!」

「ウオオ―――!!!」

「どけ、邪魔だァ―――っ!!!」

「なだれ込め!!!」

 

 ゆっくりと、軋む音を立てて開かれていく扉。やってくる海兵達を大砲で吹き飛ばし、麦わらの一味が通る道を作る。

 そしてついに、固く閉ざされていた道が完全に開かれ、一家とファミリーは島の奥へと入る事ができた。

 

「第一の門『正門』突破だァ―――――っ!!!」

「うォっしゃ~~~~~~~~っ!!!」

 

 一般人であれば誰も足を踏み入れない、裁判所に続く道の先。

 周囲をぐるりと滝に囲まれた異様な景色に慄きながら、一家とファミリーは島の奥を、次の門を目指して進む。

 

 最早、誰も自分達を止められまい、そう確信していた時だった。

 

「『正門』が開けられちまったぞ、オイモ」

「あァ、そりゃいけねェな……カーシー」

「寝起きでつらいが」

「仕事だ、いこう」

 

 ふと、そんな声が頭上から聞こえてきて、一家とファミリーの足が止まる。

 ぎょっとした顔で顔を上げ、彼らは門の向こう側から飛び降りてくる、とてつもない巨体を目の当たりにし立ち尽くす。

 

 勝利を信じていた彼らの表情が、愕然と強張ったものに固まってしまった。

 

「ふァ~~…まだ寝足りねェなァ…早ェトコおっぱらってまた寝るぞ」

「オイも」

 

 ズシン、と地震のような揺れを起こし、着地する二人の男―――いや、巨人。

 

 それぞれ斧と棍棒を手にした、怪力デストロイアーズたちが子供のように見える程の体格差を見せつける戦士達が、一家とファミリーの前に立ち塞がる。

 

 快進撃を続けていた一家とファミリーは、とんでもない絶望と相対する羽目になってしまったのだった。

 

 

 

 轟く爆音、響き渡る悲鳴と怒号が、五分にも渡って聞こえてくる。

 

 騒がしくなってきた島を眺めながら、海列車は海を進む。

 ぐるりと大きく弧を描き一度離れると、島の中央を目指して、操縦を担うココロが徐々に速度を上げていく。

 

『――さァ、5分たったよ。門が二つ開いてるハズら‼︎』

『突撃っ‼︎ 突撃っ‼︎』

『ボチボチいこうかね…………』

 

 これから始まるもう一つの突撃に、ココロも覚悟を決める。

 うなりを上げ、水面を突き進む列車の一番前には、刀を構えたゾロとリンが時を待っていた。

 

『侍マン、鉄柵を頼むよ‼︎』

「任せとけ………!!!」

「さテ………おれ達もおっぱじめるとしようカ!!!」

 

 

「お久しぶりで、長官」

 

 そのころ長官の部屋には、任務を完了させたルッチ達、CP9の4人が勢ぞろいしていた。スパンダムはそれを醜悪な笑みで迎え、大仰に手を広げてみせる。

 

「よく帰った!!! ルッチ、カク、ブルーノ、カリファ」

「セクハラです」

「名前呼んだだけで!!?」

 

 カリファの思わぬ返答に、眼を見開くスパンダム。

 むちゃくちゃな作戦を通させようとした長官は、やはり部下にも嫌われているようだ。

 

 二人のやり取りに構わず、ルッチが代表し報告を始める。

 

「8年前の『ウォーターセブン』でおきた政府役人への暴行事件により、罪人〝カティ・フラム〟。〝西の海〟『オハラ』でおきた海軍軍艦襲撃事件における罪人〝ニコ・ロビン〟。滞りなく連行完了致しました。現在扉の向こうに」

 

 若干の気だるさを感じさせる物言いで告げると、そこへまた別の人影が近づいてくる。

 ルッチ達の同僚であり、これまで別の任務で動いていたエージェント達―――ジャブラ、フクロウ、クマドリの三人である。

 

「懐かしいなァ、ルッチ〜〜…ふてぶてしさは一段と増した様だ」

「貴様のバカ顔もな、ジャブラ」

「よさんか二人共、帰って早々何じゃ…‼︎」

「よよいっ‼︎ そうさァやめなァ二人共ォ〜〜〜っ‼︎ 5年振りのォ〜〜再会じゃあ〜〜あねェ〜かァ〜〜っ‼︎」

「チャパパパ」

 

 再会してそうそう険悪な雰囲気を見せるルッチとジャブラに、カクが呆れ、クマドリが喧しい喋り方で制止をかける。が、二人とも応じる様子がない。

 

 それを眺めていたフクロウが、徐に手を組んで目を閉じる。

 

 すると彼を、ルッチやカク達が突然ボールの様に蹴り飛ばし始める。

 部屋中を跳ねまわるフクロウ。しかし、相当に強烈な一撃を受けても、彼は平然と立ち上がってみせた。

 

「さっそくやってくると思ったわ、フクロウ」

「〝六式〟遊戯!『手合』っ‼︎」

 

 それは、CP9に可能な実力を測り方だった。

 受けた衝撃をもとに、相手の能力を数値として示す遊戯であり、久方ぶりに再会した彼らの成長ぶりを調べたわけである。

 

 その結果示しだされた数値は―――カリファが630道力、ブルーノが820道力、カクが2200道力、ルッチが4000道力というものだった。

 一般的な海兵の実力が10道力とすると、異様といえるほどの強さである。

 

「おォい、意義ありだフクロウ‼︎ ルッチはともかくおれがカクに負けてるとはどういう事だ‼︎」

「チャパパ、カクも強くなってしまったー‼︎」

「おう‼︎ いい気になってんじゃねェぞカク‼︎『手合』はあくまでも体技のレベルを測る技だ。おれは実戦では〝悪魔の実〟の能力が加わるんだ。おめェにゃ負けんという事を忘れるな」

 

 ルッチやカクが自分よりも格上と判断された事が不服らしく、ジャブラが二人に食って掛かる。

 しかしそれにカクは鬱陶しそうに顔をしかめ、ため息を返すだけであった。

 

「好きに思え。わしはそんなものに興味ないわい」

「そうさ、野良犬の話などに耳を貸すな」

「何が野良犬だルッチ〜〜…この化け猫がァ!!!」

 

 ジャブラがルッチに向けて怒りの咆哮を上げた瞬間、二人の姿が変貌していく。

 

 巨大で、鋭く尖った牙と爪に獰猛に輝く両目を持つ怪物。猛獣の力をその身に宿す二人が、互いに唸り声をあげて睨み合う。

 カリファが二人を宥め、ようやくそれは止まった。

 

 ……ちなみにだが、ジャブラの子の不機嫌さの原因は、片想いしていた女に振られたためであった。

 

「まったく会ったとたんにくだらねェ番付なんぞ始めるからだ。お前ら全員『六式』を極めた時点で常人の域をはるかに超えているんだ‼︎ 道力500もあれば十分超人だろう」

「長官の道力は〝9〟だー」

「言うな‼︎ いいんだおれは、司令長官なんだから‼︎」

「長官の弱さは昔から存じていますので」

「グサ‼ おお~~‼ お前、少し歯に衣着せたらどうだ、カリファ」

「セクハラです」

「え!!? 受け答えしたから⁉」

 

 呆れた声をこぼすスパンダムに、カリファとフクロウが容赦なく情けない事実を吐くと、彼は顔を真っ赤にしたり真っ青にしたり。偉いわりに能力はないらしい。

 

 仲間とは思えない刺々しい会話が続く中、気を取り直したスパンダムがゆらりと立ち上がった。

 

「………ともあれお前達、5年の任務実にご苦労だった…」

「それより長官……一つお聞きしたい事があるのだが」

「まァ待て、募る話はあるだろうが今は置いておけ……確認が先だ」

 

 気を落ち着かせたスパンダムは、にやりとまた厭らしい笑みを浮かべてルッチ達を見やる。

 自身が長年追い求めてきた二人。自身が栄光を手に入れる為の、何者にも代えがたい二つの鍵を前に、男は欲望に目を輝かせた。

 

「後で渡してェ物があるんだが…とりあえず合わせてくれ…‼︎ 全世界の〝希望〟に!!!」

 

 

 

「フフフ………ワハハハハハハ!!! 最高の気分だ……!!!」

 

 勿体ぶったような歩き方で、スパンダムは彼らの前に近づく。

 

 手錠で後ろ手に拘束されたロビンと、何本もの鎖で封じられたフランキー、そのついでのグリード。

 古代兵器を復活させるカギを持つ超重要人物達に、スパンダムは歓喜に肩を揺らして、それぞれを満足げに眺める。

 

「8年前のあの事故で………よく生きていられたもんだ…‼︎ カティ・フラム――そして世界が危険視し、追い求め続けた女ニコ・ロビン」

 

 挑発するような物言いに、ロビンは眉一つ動かさない。

 もう、そんな嘲りの言葉など聞きなれてしまったとでもいうような、そんな醒めた表情だ。

 

「世間の人間共は、今日の日の我々の働きがどれ程尊く偉大であったを知らん。それを知るのは事実上まだ数年先の話になるだろうな」

 

 自慢げに語るスパンダムを、フランキーはただ黙って睨みつける。

 険しい表情で、身勝手な自慢話を吐く憎い男を、ただじっと見据え続けていた。

 

「おれに言わせりゃ、今の政府のジジイ共の正義は生ぬるい‼︎ 犠牲を出さねば目的は果たせねェ、こちとら全人類の平和の為に働いてやってんだぜ!!!」

 

 グリードもまた、べらべらとしゃべるのを止めないスパンダムに胡乱気な目を向け、眉間にしわを寄せる。

 ガチガチと歯を噛み合わせ、募り続ける苛立ちを示す。

 

「そのおれの邪魔をする愚か者共は、大きな平和への犠牲として、殺してよし!!! おれ達がよこせと言う物すら大人しくよこさねェ魚人も、正義への謀反者として殺されて当然だァ!!!」

「…………!!! トムさんが命を賭けて設計図を守ったのは、てめェみてェなバカがいるからだろうがァ!!!!」

「ウザってぇ演説なんざ聞かせてんじゃねェぞこのゴミ野郎が!!!」

「ぎいゃああああああ」

 

 敬愛する師への暴言に、ついにフランキーの我慢が限界に達する。

 不用意に近付いてきたスパンダムの頭に、同じく怒りを露わにしたグリードと共に噛みつき、歯を思い切り食い込ませた。

 

「た…!!! ただだっ‼︎ 助けろお前らァ――っ!!!」

 

 情けない悲鳴をあげ、部下に助けを求めるスパンダム。

 それに、ほんの一瞬であるが嫌そうに口元を歪めたカリファが、目にも止まらぬ動きで接近し、強烈な蹴りを食らわせる。

 

 防御もできない体勢で受けた一撃に、フランキーとグリードは血反吐を吐きながら、その場に崩れ落ちた。

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