ONE PIECE −LOG COLLECTION : ELEANOR−   作:春風駘蕩

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第204話〝ここは請け負った〟

「この門の守備をおおせつかった『法番隊』‼︎ 未だかつて‼︎ 我々の背を見た者はいないっ!!! このライン、誰一人として抜けられんぞォ!!!」

「観念せよ悪党共ォ――!!!」

 

 番犬の上に乗り、爪を構えた法番隊が、まるで津波のような勢いでゾロ達に迫る。

 ナミの生み出した雷は多くの敵を削ったが、それでもまだほんの一部に過ぎなかったのだ。

 

「ちょっとよく見りゃ敵、多すぎ!!!」

「待て!!! こっちへ乗れェ!!!」

「バヒヒヒ〜〜〜〜〜ン!!!」

 

 あまりの敵の数にナミやそげキング、チョッパーが悲鳴をあげた時。

 大きな嘶きの声と共に、二体のキングブルとそれを操るザンバイ、パウリーが駆けつけてきた。

 

「うおお――っ‼︎」

「助かった―――っ‼︎」

「ここへ来た本分を忘れるな‼︎ お前らの暴れる場所はここじゃねェ!!!」

 

 法番隊や海兵達を防ぎ、安堵する一家とファミリーをキングブル達の背に乗せながら、ゾロ達に大声で叫ぶパウリー。

 その言葉に、一味はハッと顔を見合わせる。

 

「……そりゃそうダ」

「確かに……この数相手じゃ日が暮れる」

「ロープをつかめ‼︎ 今は前へ進むんだ!!! フランキー一家、グリードファミリー、全員ゴモラにしがみつけ!!! ソドムに続いて突破するぞ!!!」

 

 キングブルの上からロープを垂らし、パウリーが一味を引き上げる。

 味方が全員乗り込んだ事を確認してから、ザンバイと共に手綱を打ち鳴らし、キングブル達を進軍させる。

 

 しかしそこに、すぐさま後を追いかけてきた法番隊が犬を跳躍させ、キングブルの背中に飛び移ろうとする。

 

「バカめ‼︎ そうはさせるか、番犬達の足はそんな魚なんぞに劣りはせんぞ!!!」

「飛びつけ――っ‼︎」

「飛び乗って来る気だ‼︎」

「ウソ‼︎」

 

 せっかく敵の包囲網を抜けたのに、狭いキングブルの上で戦闘になろうものなら堪ったものではない。

 仕方なく、ゾロやサンジが向かってくる法番隊を迎撃しようとした時、彼らの目の前に手綱が突き出された。

 

「手綱をとってください」

 

 そう告げる、鋭い目で法番隊を睨みつけるセレネとパウリー。

 その眼光の鋭さに、サンジとゾロがそれぞれ目を見開き、敵をじっと見据える二人に言葉をなくす。

 

「お前ら………」

「あいつらに会ったら、言っといてくれよ。てめェらクビだと」

「……必ず」

 

 パウリーの頼みに、ゾロは不敵な笑みを浮かべて頷く。

 それを確認したパウリーとセレネ、彼らの意図を理解したルルとタイルストン、パニーニャがキングブルの背中から飛び降りる。

 

「頼んだぞ‼︎ ガレーラ‼︎」

「〝ハーフノット・エア・ドライブ〟!!!」

「『聴くがいい、魔の響きを!』〝死神のための葬送曲(レクイエム・フォー・デス)〟!!!」

 

 パウリーとパニーニャのロープが敵を絡めとり、セレネの放った音の衝撃波が多くの敵を吹き飛ばす。

 麦わらの一味に近づいていた法番隊を退け、ガレーラの船大工達が、敵に仲間の後を追わせない為に決死の殿を努める。

 

「!!? 何だコイツら――っ!!」

「あいつら…‼︎ 強ェ‼︎」

「ここは請け負った!!!」

 

 凄まじい勢いで走ってゆくキングブル達を背にし、ガレーラの戦う船大工達は一斉に走り出していった。

 

⚓️

 

「ぬーっ!!! グァ!!!」

 

 全身を棘の鞭で囚われ、血を吐くフランキーとグリードが倒れ込む。

 怯えた顔でそれを見守っていたスパンダムは、彼らが完全に無力化された事を察すると、引き攣った顔のまま下品に笑い出した。

 

「あの時から…気性は変わってねェ様だな、カティ・フラム…」

 

 悔し気に歯を食いしばるフランキーを見下ろし、足蹴にするスパンダム。

 フランキーの隣のグリードは、兄弟分と同じように、憎々しげに敵の親玉を睨みつける。

 

「もっと早くに、お前が生きてて設計図を持っているとわかっていりゃ、こうも苦労する事ァなかった…お前なら過去の罪でしょっぴく事もた易いからな!!! ――それに引きかえ、お前の兄弟子達は厄介だった」

 

 スパンダムは……事態の元凶は語る。

 なぜアイスバーグとヴィルヘルムという男達は、仇である政府と取引を行うようになったのか。

 

 それは自分が持つ設計図を狙い、政府が再び刺客を送ってくる事を予見していたからだった。

 それゆえに、相手が政府でも容易に手を出して来れないよう、政府御用達の造船会社社長、そしてウォーターセブンの町長という立場を手に入れたのだと。

 

 それを聞かされたフランキーは、愕然とした様子で目を見開いていた。

 

(―――それで政府と取り引きを…………‼︎)

「頭のいい男だったよあいつは、ワハハハ‼︎」

 

 笑うスパンダムだが、その表情には確かな苛立ちが見て取れる。

 計画を簡単に済まさせなかった男の周到さに、やはり身勝手な怒りを抱いていたらしい。だがその苛立ちも、直後に綺麗さっぱり消え去っていた。

 

「――だが風はおれの方に吹いてきた…‼︎ ちょうどシビレを切らし、強行策に出ようとしたその時だ」

 

 それが、〝大将青キジ〟より届いた吉報。

 政府が長年にわたって探し続けてきた女、ニコ・ロビンが海賊船に乗って、ウォーターセブンに向かっているという知らせだった。

 

 悪巧みに関しては人一倍頭が働くスパンダムは、即座にある計画を思い付いた。

 

「おれは気を落ちつかせるため一杯のコーヒーを飲んで、『バスターコール』の許可を含む全ての状況を作戦に組み込んだ!!! シナリオに多少の変更はあったものの……見ろ!!! 古代兵器復活の引き金が二人共、今ここにいる‼︎」

 

 がばっ、とフランキーとロビンに目をやり、自慢げに吠えるスパンダム。

 だが当然ながら、彼の計画を称える者は誰もいない。彼の部下であるルッチ達でさえ、冷めた視線を送るだけである。

 

「わかるか!!? 世界中の風は今、おれに向かって吹いているんだ‼︎ 望めばどんな大国も支配できる程の〝力〟が今、おれの手中にあるんだ!!!」

「――青キジはなぜ、あなたに『バスターコール』の権限を……?」

 

 ゲラゲラと醜悪な姿で笑うスパンダムに、疑問を抱いたロビンが口を挟む。

 政府がいくら危険人物を捕える為とはいえ、こうも性格を破綻させた男に重要な権限を貸し与えるだろうか、と。

 

「このおれに質問をするなァ!!! 無礼者めがァ!!!」

 

 そんな彼女の問いに、胡乱気な顔で振り向いたスパンダムが返したのは、容赦ない罵倒の言葉と共に振るわれた本気の拳だった。

 後ろ手に捕らえられていたロビンは踏ん張る事もできず、勢い良く地面に倒れ込み、苦し気に呻き声を漏らす。

 

「ワッハッハッハッ!!! 悪魔の土地オハラの忌まわしき血族め‼︎ 貴様の存在価値など、おれが見い出してやらねば〝無〟に等しいものだったんだ!!! おれには充分感謝するんだな!!!」

 

 口の端から血を流し、眉間にしわを寄せるロビン。

 フランキーやグリードが怒りに満ちた目で睨むのを無視し、スパンダムはふと思い出した様子で口を開く。

 

「ああ、そういえば………さっき、そんなくだらねェお前を取り返しに来たバカがいたなァ」

「!!? まさか……‼︎」

「なァに、もう今頃全員捕まってる頃だろうが………‼︎〝麦わら〟のルフィとその一味だ……‼︎ このエニエス・ロビーの一万の兵力の前にはゴミ同然だったようだな!!!」

 

 麦わらの青年が島に侵入したという知らせの後、報告を行った海兵からスパンダムが最後に聞いたのは、被害者は5人だけという意外なものだった。

 スパンダムはそれを真に受け、来たはいいが海兵達の人数に圧倒され、逃げ回るしかなかったのだと、勝手に考えていた。

 

 そして彼は、にやにやと性根が腐った笑みをロビンに見せながら、ある決定を聞かせる。

 

「まァどうせ監獄の船を出すとこだ、手土産にちょうどいい。このまま『インペルダウン』へ連行するつもりだ」

 

 はっ、と息をのみ、顔を上げるロビン。

 聞き間違いと信じたかったが、悪意に満ちたスパンダムの顔が、全て本気だという事を示していた。

 

「待って…約束が違うじゃない!!!! 私があなた達に協力する条件は、彼らを無事に逃がす事だった筈よ!!!」

「………何を必死にイキリ立ちやがって…あいつらはウォーターセブンを無事に出航して…ここへ来たんじゃねェのか⁉︎」

 

 必死に抗議の声を上げるロビンに、スパンダムは心底面倒臭そうに吐き捨てる。

 唾でも吐きそうなほど、ロビンたちの剣幕を鬱陶しがっている彼の態度に、ロビンだけでなくフランキー達も唖然となる。

 

「何ですって…!!? まさか、そんなこじつけで、協定を破る気じゃ……!!!」

「………っ、どうしようもねェクソだな、コイツら」

「仁義のかけらも持っちゃいねェ…おれが一番キライな輩だ!!!」

「何だと? 黙れこのクズ共ォ!!!」

 

 動けない分、口で怒りをぶちまけるフランキーとグリードに、頭に血を昇らせたスパンダムが何度も蹴りを浴びせかける。口答えが気に入らなかったようだ。

 

「そもそもてめェら悪人との約束なんざ、おれ達が守る必要すらねェんだ!!! 調子にのんじゃねェ!!! 海賊をダマしてとっ捕まえる事くらい、海軍ですら公然とやってる事だ!!!」

「………ハア………‼︎ 卑怯者……ハア………!!!」

「人を裏切り続けてきた女が…今更理想的な死を選べると思うな…‼︎ ハハハハ…」

 

 数秒間ロビンとフランキー達を蹴り続け、息を切らせたスパンダムがなおも醜悪な顔で嗤う。

 悪党の分際で仲間の心配をするロビン達に、心の底から呆れた目を向けつつ、次なる悪意を口にしようとした時だった。

 

「話の途中のようだが……失礼してもいいかね?」

 

 コツ、コツと革靴の音を鳴らし、一人の海兵が入室する。

 片わきに赤黒い何かを抱え、温和な表情で声をかけてきた彼―――ブラッドレイを、スパンダムは満面の笑みを浮かべて迎え入れた。

 

「おお…‼︎ お待ちしていた!!! 面倒な仕事を頼んで申し訳なかったな、〝大総統〟殿…!!!」

「そう苦労はしなかったよ………ただ、少し手がかかった」

 

 言いながらブラッドレイは、抱えていたそれをどさっと床に放り捨てる。

 

 そこに打ち捨てられたもの……全身を斬り刻まれ、白い肌と髪、翼と尾が血塗れになったエレノアの姿に、ロビンとフランキー達が再び絶句する。

 

「途中何度も目を覚ましては逃げようとするものでね……その度に大人しくさせる必要があったくらいだ」

「……!!? 妖術師さん…!!?」

「〝妖術師〟…!!!」

「てめェ…‼︎ そいつに何しやがったクソ野郎!!! おいエレノア‼︎ お前…生きてんのかオイ!!!」

 

 がしゃがしゃと鞭に囚われたまま体を起こし、横たわるエレノアに呼びかけるフランキー。

 しかし、俯せになったエレノアは沈黙したまま、ぴくりとも動かない。呼吸すら定かではなく、ロビンの背筋にぞっと嫌なものが走る。

 

「……こじつけすらする気がないの……!!? こんな姿に変えて…!!!」

「はァ〜〜…いちいち説明しなきゃいけねェのか、お前はよ………コイツは〝麦わら〟の仲間じゃねェだろ」

 

 怒りを声に表すロビンに、スパンダムはやれやれと肩を竦める。

 わざとらしく大きなため息をこぼし、エレノアの頭を軽く足で小突きながら、小馬鹿にした態度で語り始める。

 

「大海賊〝白ひげ〟の娘が、あんな弱小海賊共を本気で守るわけねェだろ………この女はお前と同じだ。自分以外の全部を利用して生き延びようとしてるクズなのさ」

 

 エレノアの気持ちを一切聞く事なく、勝手な偏見でものを言うスパンダム。

 目に余る暴言にまたフランキー達が唖然とするのを横目に、スパンダムは嘲笑の目を向けて喋り続ける。

 

「だからおれは約束を破っちゃいねェ…だから別件で〝大総統〟に頼んだんだよ、バカめ!!!」

「バカはてめェだ、スパンダ!!! お前………そいつに手を出したらどうなるかわかってねェのか!!?」

「スパンダ()だ!!! わかっているとも…世界政府は忌々しき〝白ひげ〟との交渉カードを手に入れる!!! おれの功績で、大海賊の一人がおれに首を垂れる事態になるんだ!!! 最高じゃねェかよ、おい!!!!」

 

 机上の計算、いや最早妄想としか言えない未来を語るスパンダム。

 あまりにも現実を無視した計画を平然と語る彼に、フランキーもグリードも顔をしかめる。両手が自由なら顔を覆っているほどの呆れだ。

 

「バカだ………こいつ本物のバカだ。何が起こるかマジでわかっちゃいねェ…‼︎」

「とんでもねェ戦争になるぞ!!! てめェは英雄どころか世界最悪の大罪人になるに決まってんだろが!!!」

 

 大海賊〝白ひげ〟の力がどれほど恐ろしいのか、知らないのか。

 伝聞で知るだけで、絶対に敵対してはならないと察せる相手だというのに、何故わざわざ彼の宝物を傷つけて誘き寄せようというのか。

 

 意図を探ろうとしたが、スパンダムの目にあるのはちんけな欲望だけ。巨大な野望や大志など、一切感じ取れなかった。

 

「ワッハッハッハッ…〝白ひげ〟を葬る事ができるなら、何やったってお釣りが来るさ。おれの行いこそが正義なんだからな…!!!」

 

 悪魔のような顔で醜悪に告げるスパンダムに、ルッチ達もいつの間にか愕然とした目を向けていた。

 自分達が受けていた任務とは全く異なる任務、その内容のあまりの軽率さに、一応の上官に対して怖気が走る。

 

 だがスパンダムは彼らの雰囲気に気付く事なく、愉快そうにロビン達を見下して告げる。

 

「仲良く死ねばいい………巨大な正義の前には全てが無力なのだ」

 

 正義を騙りながら、全てが悪意に満ちたその言葉に、ロビンは何も言い返せず、項垂れる他になかった。

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