ONE PIECE −LOG COLLECTION : ELEANOR−   作:春風駘蕩

206 / 324
第205話〝行け〟

「では衛兵‼︎ この三人を鎖でつないでおけ‼︎ ニコ・ロビンの〝海楼石〟の錠は決して外すなよ」

 

 スパンダムの命令で、黒服達が現れて三人の拘束を行う。

 だが、その誰もが青ざめた顔をしていて、スパンダムを化け物のように見る者さえいる。しかし彼は、それにすら気付く事はなかった。

 

「この一件で我々『CP9』に与えられる地位がとんでもねェものになる事を祝して、船で一杯やろうじゃねェか‼︎」

「………祝杯という気分でもないですね地位や権力に興味がないので…」

「何ィ⁉︎」

 

 唖然とした顔を元に戻し、背を向けて歩き出すルッチ。

 他のCP9の面々もそれに続き、それを訝しんだスパンダムが声を上げて彼らを止める。

 

「我々の正義は『世界政府』に既存する。『政府があなたを『CP9』の司令官と認める限り、その任務を完璧に全うするまで‼︎何もあなたの思想に賛同する必要もない」

「正論だが…じゃあお前らの求めるものは何だ!!?」

 

 信じられない、といった表情で自らの欲望を否定したルッチに問うスパンダム。

 彼に対し、ルッチはゆっくりと振り向き……人獣の姿に変化し、牙を剥き出しにして唸り声をあげながら、応えてみせた。

 

「〝血〟ですかね。ここにいると…〝殺し〟さえ正当化される」

 

 悍ましいほどの殺意を込めたその言葉に、スパンダムは腰を抜かし、その場にへたり込む。

 だが、やがてそれは安堵の笑みに変わり、暗殺集団の背中を頼もし気に凝視するのだった。

 

 

「撃てェ―――っ‼︎」

「フー‼︎」

「お任せヲ‼︎」

 

 海兵達の号令で、無数の大砲から砲弾が発射される。

 まっすぐに宙を貫き、島の奥を目指して突き進む二体のキングブルに迫るが、寸前で真っ二つに斬り裂かれ爆発する。

 

 その後、爆風で押し戻されたフーが、砲弾を斬り裂いた刃を仕舞い座席に戻った。

 

「――そんでな‼︎ 危うく海王類の胃袋の中で死んじまう所を、ソドムとゴモラはフランキー一家に救出されて、こう言われたんだってよ。『もう腹いっぱいだから、お前らは食わねェ』。その時から命の恩人フランキーに忠誠を誓ったんだそうだぞ‼︎」

「バヒン‼︎」

 

 狙い撃ちされる座席を守る奮闘が繰り広げられる脇で、顔を後ろに向けたキングブルの片割れが、嬉しそうにチョッパーに話している。

 話を聞いたサンジは、やや呆れた表情でキングブルを見つめ返していた。

 

「それはお前、偶然フランキー一家が食った海王類の腹の中に、こいつらが入ってたってだけの話じゃ…………」

「バルルルルーンッ!!!」

「『おれは一生アニキについていくぜ‼︎』だと」

「まァいいけど、前見てくれるか、危なっかしい」

「よっぽど嬉しいんだネ、言葉わかってもらえんのガ…」

 

 自慢げに鳴くキングブル・ソドムに酷な真実を告げるのも忍びなく、まぁいいかと口を閉ざす。知らぬが仏という言葉もあるのだ。

 

「『――ところで一緒にいた仮面の奴は乗って来なかったけどいいのか?』だって、え⁉︎」

 

 不意に、ソドムが尋ねた言葉にチョッパーがハッとなり、次いで他の面々も息を呑む。

 皆で一斉にソドム達の背に乗った筈なのに、確かに仮面の狙撃手だけが姿を見つける事ができなかった。

 

「いねェ!!!」

「何で…!!? あいつ‼︎ 落ちたのか⁉︎」

「いや、そういえば最初っからいねェ〜!!!」

「逃げやがったんじゃ…!!!」

 

 辺りを見渡す一味だが、どこを探しても見当たらない。

 色んな意味で最悪な想像をする彼らに、ゾロが鋭い目で前方を睨みながら口を開く。

 

「とにかく…乗ってねェモンは今更迎えに戻れねェ…‼︎ あいつはあいつで何とかやるさ」

「でも衛兵だらけの島よ、ここは‼︎ ルフィじゃあるまいし一人でいたら命が…」

「ここに来ると決めたのは奴の意思‼︎ それで死んだところで本望であろウ……」

「おい、フー…」

「ちょっと…そんな言い方!!!」

 

 フーもゾロに賛同し、リンに呆れた目で睨まれる。

 しかし、ゾロは全く顔色を変える事なく、そして姿の見えないそげキングへの苛立ちを見せる事なく、憮然とした態度で仲間達に告げる。

 

「一つ島を越える度、おれ達は全員知らず知らず力を上げてる。あいつも行く島々で毎度、死線を越えて来てんだ。ちょっとやそっとで死ぬ様なタマはウチにゃいねェよ‼︎」

「ハハハ……大した信頼ダ‼︎」

 

 無事かどうか確かめられずとも、必ず生きていると宣言するゾロに、フーが思わず声を上げて笑う。

 老臣の珍しい態度にリンが片目を開けて口笛を鳴らすのを無視し、フーは前方に見え始めた建物を見据える。

 

「見ロ、裁判所へもう一息ダ…‼」

 

 着実に、仲間と彼女達を攫った宿敵が近づいている。

 いよいよ本丸に乗り込むのだ、と全員が気合いを入れ直そうとしたその時。

 

 ソドムの胸で突如、大きな爆発が起こった。

 

「しまった………‼︎ キングブル‼︎」

「よっしゃ、一匹仕留めたぞォ―――!!!」

「ソドム!!!」

 

 呻き声をあげ、進む足が止まるソドム。

 血を吐き、痛みに震えるキングブルの背の上で、血の気を引かせた顔でサンジ達が叫ぶ。

 

「ソドム‼︎ ふんばれ、まだ倒れるな!!!」

「お前ら、すぐにこっちへ移れ!!! ぐずぐずするな!!!」

 

 懸命に前へ進もうと踏ん張るソドムに呼びかけていた所へ、もう一体のキングブル・ゴモラの背に乗ったザンバイ達が声を張り上げる。

 重傷を負ったソドムに痛ましげな目を向けながら、しかし覚悟を決めた顔で麦わらの一味に促す。

 

「ソドムはもうダメだ!!! 迫撃砲で胸筋をやられた‼︎ 倒れる前に早く!!! お前らが進まなくて誰が報われるんだ!!!」

 

 その気迫に、一瞬ではあるが気圧されたように黙り込むサンジ達。

 そこへ、ソドムが激痛の走る体に叱咤し、彼らに振り向いて一声鳴く。

 

「バヒン!!!」

「『行け』って!!!」

 

 彼の言葉を聞き、チョッパーが悔しさと申し訳なさでぐしゃぐしゃになった顔で告げる。

 

 一味はすぐさま、ゴモラの背に次々に飛び移り、座席にしがみつく。

 ゴモラはソドムの差し出した鰭に自分の鰭を当て、彼の意思を先へ引き継ぐ事を誓った。

 

「行くぞ、ゴモラァ!!!!」

「バルルルルァ!!!!」

 

 ザンバイの声に、雄叫びを挙げて応えるゴモラ。

 力尽き、倒れ込んだ相棒の意思を無駄にしないため、大切な兄貴分の元へ爆走を再開する。

 

 海兵達は残ったキングブルを調べ、誰も乗っていない事に気付くと、先へ向かったもう一体を集中的に狙い始めた。

 

「〝迫撃砲〟だ、避けろゴモラァ!!!」

「この中央の道はマズイな…!!! 準備万端で待ち伏せてやがる‼︎ 道を変えるぞ!!!」

「バルル‼︎」

 

 目的の場所までまっすぐ伸びる道は通りやすいが、広い分狙われやすいと判断し、進行方向を変えるゴモラ。

 

 凄まじい勢いで突き進む、海の巨獣の背にしがみついていたナミは、不意に胸元で震えるあるものの感触に気付き、仕舞っていたそれを取り出した。

 

「はい、誰⁉︎」

『アタシらよォ‼︎ ウィー』

「ココロばーさんだ」

「何の用だ?」

『よかった、まだ生きてる様らね、んががが‼︎』

 

 取り出した子電伝虫を起こし、届いたココロの声に答える。

 切迫した状況に繋がった通信に、ゴモラの上にいた全員が何事かと振り向き、耳を傾けてきた。

 

「どうしたの⁉︎」

『あァ、いい忘れてた事があったんれねェ…忙しいらろうからさっさと話すよ、よく聞きな』

 

 ココロ曰く、このまま進んでもエレノアたちの元へは辿り着けないのだとか。

 

 裁判所から司法の塔へ向かうには、間にある架け橋を下ろさなければならず、その上架け橋を動かすスイッチは裁判所に隣接する二つの塔にあるのだと。

 

「ばーさん、なんでそんな事知ってんだ⁉︎」

『昔トムさんと橋の修理に来たんらよ!!! コノ恩知らずのバカ政府が!!!』

「おれにあたるなよ……‼︎」

 

 素直に驚きの声を上げると、ココロから憤慨した声が帰って来て、ザンバイは困り顔で消沈する。

 とにかくこの情報のお陰で、裁判所で立ち往生せずに済んだわけだと、全員が新たにできた役割について考え始める。

 

『それからチムニーが…』

『もしもし―――っ⁉︎ 海賊ねーちゃん聞こえる――――っ!!?』

「わ‼︎ 何? チムニー」

 

 次いで、ココロが何か話そうとした時、祖母を押し退けるようにしてチムニーが声を上げる。

 声の大きさに驚くナミに、チムニーは興奮した様子で自身が見たものをナミ達に説明する。

 

『あのねー‼︎ ゴムの海賊にーちゃんが裁判所の屋上に登ってったの見たよー‼︎』

「ほんと⁉︎ ルフィが!!?」

『あと屋上で石が崩れるのも見えたから、何だか暴れてるみたい‼︎』

「屋上で⁉︎ …わかった、ありがと」

 

 勝手に先に向かい、今頃どこにいるのかと悩みの種になっていた男の動向がわかり、ナミは内心で心の底から感謝を抱く。

 何処ぞで迷子になっていまいかと心配していたが、目的地の目前には辿り着いていたようだ。

 

『それと娘っ! 電伝虫はつないどきな、こっちに状況がわかるからね』

「了解っ――だって‼︎」

「これで目的地が決まったナ…‼︎」

「ああ」

 

 ココロの連絡が終わり、ゾロとサンジも不敵に笑う。

 船長の居場所も、奥へ通じる道を開く鍵も同じ場所だとわかった。これで、必要最小限の戦いで強敵との戦いに臨めるというものだ。

 

「頼むぞゴモラ!!! 裁判所まで!!!」

「バヒヒーン‼︎ バルルルァ!!!」

 

 嘶きを上げ、速度を上げ、邪魔な建物を押し潰すような勢いとなるゴモラ。

 この調子ならば、すぐにでも敵の本陣に乗り込めるはず、とザンバイ達の目が期待に輝いていた。

 

 

 ゴモラの首に、巨大な鉄球が激突し、背後の壁に叩きつけられるまでは。

 

 

「ゴモラァ!!!!」

「オオ"――…!!!」

「くそォッ………!!! 誰だあいつら!!!」

 

 ぐらり、と傾ぐゴモラの巨体に、ザンバイが悲鳴のような声を上げて慄く。

 あまりに突然の襲撃。攻撃には十分注意していた筈なのに、まるであの大きさの鉄球が突然音もなく現れたようにしか見えなかった。

 

 動揺する彼らの周囲に、海兵と黒服達が容赦なく集結し、銃口を向けて囲んでいく。

 

「海賊達にもう足はないぞ!!!」

「取り囲んで討ち取れェ――っ!!!」

 

 視界一杯に集まってくる白と黒。時が来れば、彼らは軍隊蟻のように容赦なく一味を蹂躙する事だろう。

 包囲を狭める彼らの姿は、絶望が形を成してやって来るようにも見えた。

 

『エニエス・ロビー全衛兵に告ぐ‼︎ 南東部Dブロック中央にて海賊達の乗るキングブルを仕留めた!!! 全兵力を招集し、Dブロックを完全封鎖せよ!!!」

「マズイぞこりゃァ……!!!」

「大変だ‼︎ 敵は何千人もいるのに‼︎」

「こんなところで囲まれたら!!! やられちまうよォ――っ!!!」

 

 チョッパーの悲痛な叫びが、エニエス・ロビー全体に木霊する。

 囲まれた麦わらの一味は、まさに孤立無援の絶体絶命に陥ろうとしていた。

 

 だが、たった一人の男が、敗北の運命を見事捻じ曲げてみせた。

 

 

 

「おおォ‼︎ やったァ‼︎ オイモとカーシーが復活したぞー!!!」

「早くあいつらを踏み潰せ!!! あの5人を何とかしろ巨人共ー!!! がははは」

 

 ズシン、と地響きを立て、二人の巨人の門番が起き上がる。

 俯いた彼らの顔は、よく見えなくとも怒りに満ちている事がわかり、海兵と黒服達、法番隊は歓喜の声を上げ、反対に奮闘していた船大工達は愕然となる。

 

「何てこった…………!!!」

「あんなの相手にする体力なんてもうないよ……‼︎」

「ここまでですか…‼︎」

「さァあの5人を殺せ――!!! 巨人共ォ!!!」

 

 体力の限界も近づき、膝をつき項垂れるパウリー達に、法番隊と黒服達が雄叫びを上げて囃し立てる。

 血まみれの彼らは、自分達を散々手こずらせた侵入者が無惨に薙ぎ払われる姿を期待し、巨人達に早くしろと促す。

 

 そんな彼らを見下ろし、オイモとカーシーはゆっくりと自身らの得物を振りかぶり、そして。

 

「「よくもおれ達をダマしたなァァ!!!!」」

「「「「「ぎゃああああああああ!!!」」」」」

 

 凄まじい咆哮と共に、眼下の法の番人達を薙ぎ払う。

 怒りに燃え、こめかみに大きく血管を浮き立たせながら、決して許すものかと雷鳴のように声を轟かせる。

 

 ぼとぼとと落下していく法番隊や黒服達を睨みつけ、巨人の門番達はさらに怒気を噴き上がらせる。

 

「お頭の無事を喜ぶ前に…無駄な歳月を悲しむ前に…」

「気の済むまで怒りのままに………!!! 暴れてくれる!!! 共にゆこう!!! 狙撃の王よ!!!」

 

 そう、巨人達は肩に乗る一人の男に―――真実を教えてくれた恩人に呼びかける。

 仮面を被り、マントを羽織ったその男は、右往左往する敵を見る事なく、ただ前だけを見据えて二人に吠えた。

 

「くるしうない!!! 今こそ、反撃ののろしを上げろ!!! 同志達の下へ急ぐのだ!!!」

 

 

 

 巨人の門番、オイモとカーシー。

 かつての巨兵海賊団……〝青鬼〟のドリーと〝赤鬼〟のブロギーが率いる一味に属する海賊達。

 

 決闘騒ぎから50年、戻ってこない彼らを心配し海へ出た彼らを捕らえ、海軍はある契約を結ばせた。

『我々が捕まえたドリーとブロギーを解放したくば、今後100年エニエス・ロビーの門を守り続けよ』と。

 

 そして彼らは50年門を守り続け、そして―――彼らの船長達を師と仰いだ男により、真実を知った。

 

 故に彼らは、怒りのままに、力の限り暴れ続ける事を決める。

 そんな怒り狂う彼らを引き連れ、狙撃の王は仲間達の元へ、巨大な凱旋を始めるのだった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。