ONE PIECE −LOG COLLECTION : ELEANOR−   作:春風駘蕩

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第206話〝最悪の事態〟

 それが視界に映った瞬間、ゾロとサンジは同時に表情を変える。

 遥か先の建物の上で始まっている戦闘に、二人は顔に焦りを滲ませて眉間にしわを寄せる。

 

「おい‼︎ コック」

「ああ、見えた」

 

 二人の呟きに、他の者達が何事か、と振り向いてくる。

 じりじりと迫り来る海兵と黒服、法番隊に注意しながら、顔色を変えたゾロ達に視線を向ける。

 

「ルフィはもう…『CP9』と戦ってル………!!!」

「え」

「せっかちな奴メ…‼︎」

「ほんとか!!? しまった、出遅れた‼︎」

 

 先にたった一人で強敵と戦っていると聞かされ、ナミ達も前方に目をやり、険しい顔で歯を食い縛る。

 

 だが、今この場で焦ってもどうにもならない。

 迫り来る包囲網の前で少しでも動けば、夥しい数の敵が一気に雪崩れ込んでくる事になるのだから。

 

「しかしこの完全包囲網をどう切り抜けるか………!!! 何者かの鉄球を食らって、ゴモラももう動けねェ!!!」

「もう道は一つしかねェだろ‼︎」

「裁判所までつっきるぞ!!!」

「よし行くぞ野郎共ォ!!!」

 

 突然の強力な一撃を受け、横たわったままのゴモラを置き、先へ進もうと雄叫びを上げる一家とファミリー。

 決死の形相で奮い立ち、海兵達の包囲網を突っ切ろうとしたその時だった。

 

「待てェ!!! 誰も降りるな!!!」

「チョッパー⁉︎」

 

 動き出そうとしていた全員に、鬼気迫る表情で前を見つめたチョッパーが叫び、引き留める。

 困惑の視線を向けられながら、彼は自身が聞き取った、ある男の覚悟の言葉を伝える。

 

 しっかり掴まってろ!!! と。

 血を吐きながらゆっくりと身を起こす、ゴモラの言葉を。

 

「怪物が……‼︎ 怪物がまだ生きてやがる!!!」

「迫撃砲で撃ち殺せ――っ!!!」

「怪物を撃てェ!!!」

 

 ゆっくりと鎌首をもたげていくゴモラに、海兵達が次々に我に返り、銃を構えていく。

 しかし、ザンバイ達がそこへ銃撃を行い、仲間に向けられた凶弾を防ぐ。そして、ゴモラが進むべき道を作ろうとした。、

 

「反撃しろ‼︎ ゴモラを援護しろ!!!」

「バルルルルァ〜〜〜〜〜ァ!!!」

 

 仲間の激励の言葉を耳に、ゴモラが目を血走らせながら吠える。

 ゴロゴロと鰭に装着されたキャタピラを動かし、激痛が走る体に叱咤し、残る力の全てを振り絞り再びの進撃を始める。

 

 だが次の瞬間、ゴモラはなぜか自ら壁に頭を突っ込み、さらなる傷を自身に負わせ出した。

 

「うわァァ‼︎ おいゴモラ!!! お前…何自分から壁に突っ込んでんだ!!!」

「どうした!!? やっぱりもう無理なのか⁉︎」

「違う…!!! 目が見えねェんだ!!! 網膜をやられて視力を落としたんだ!!!」

 

 突然みせたゴモラの異変に困惑の声が上がる中、瞬時にその原因に気付いたチョッパーが息を呑む。

 その間も、ゴモラは光を失ったまま走りだし、壁に体を激しく擦り付けながら爆走を始めてしまう。

 

 その所為で背中の座席は凄まじい揺れに襲われ、ナミ達は大きな悲鳴をあげる羽目になった。

 

「何だと!!? お前…目が見えねェのか!!? ゴモラァ!!!」

「バルルルル!!!」

 

 ザンバイが叫ぶも、ゴモラは焦点の合っていない眼で虚空を見つめ、走り続けるだけ。仲間の声さえ聞こえなくなっているようだった。

 

「止まるんだわいな‼︎ ゴモラ!!!」

「あんたもう走れる体じゃないわいな!!!」

「バルルルルァ〜〜〜〜ッ!!!」

 

 モズとキウイも、ゴモラの暴走を止めようと呼びかけるが、速度が落ちる様子は全く見受けられない。

 他の一家の面々やファミリーが同じく叫ぶも、ゴモラは咆哮を上げ、それらを掻き消してしまう。

 

 彼の目には、彼が命に代えても救いたい大切な男達の姿しか映っていなかった。

 

「『約束したんだ』って…!!! ソドムと!!!『後の事はおれに任せろ』って!!!『おれがお前の分もみんなを乗せて走るから』って……!!!」

 

 ゴモラの咆哮を、チョッパーが通訳し痛々しく顔を歪める。

 置き去りにした片割れの想いを無駄にしないために、約束を果たす為に、命を消耗する暴走を続ける。

 

 だがやがて、爆走する彼の前には裁判所の前に聳え立つ、巨大な壁が近づいてきた。

 

「ゴモラ‼︎ 止まれ、闇雲に走るな!!! 前は行き止まりだ!!! ぶつかって死んじまうぞ!!!」

「止まれ―――っ!!!」

 

 声も届かない、意識さえほとんど朦朧としているキングブルに叫ぶも、やはり彼は止まる気配を見せない。

 このまま彼を見殺しにしてしまうのか、とザンバイ達が悲鳴をこぼし。

 

「行き止まり? そんなもん見えるか?」

「いやァ、どこにも見当たらねェな」

「そーそー、道はちゃーんとあル」

 

 その刹那、三人の男達の不敵な呟きが聞こえ、目の前の巨大な壁に幾つもの亀裂が走る。

 直後、ゾロ・サンジ・リンによる強烈な一撃が炸裂し、分厚い壁が無数の破片となって吹き飛ばされた。

 

「うお――っ!!! やったァ!!!」

「着いたぞ~~~~!!! 裁判所だ、ゴモラ~~~っ!!!」

 

 目前に聳え立つ建物に、倒れ込んだゴモラの背の上でザンバイ達が雄叫びを上げる。

 

 歓喜の声を上げ、飛び降りていく彼らの後で、ゴモラはホッと心の底から安堵した顔で眠りに就いていた。

 

 

 

「見ろ、ファンクフリード」

 

 掌の上に乗せた、金色に輝く電伝虫。

 それをうっとりと見つめるスパンダムが、室内にいる一頭の象に向けて話しかけていた。

 

「〝ゴールデン電伝虫〟…!!!『バスターコール』の権限と同じく…『海軍本部』の大将以上の許可なく持つ事を許されない貴重な種だ…」

 

 それこそが、ロビンが自らの命を賭してでも防ぎたかった、惨劇を招くたった一つのボタン。

 何十隻もの艦隊を呼び、危険因子を完全に葬り去る為、全てを焼き尽くす砲撃を浴びせかける最強最悪の存在であった。

 

「『バスターコール』発動の為、『青キジ』から預かってはいるが、今に見ていろ。『兵器復活』が現実のものとなれば、これを大将から預かる事なくおれ自身がこいつを所持し、軍隊を自在に操れる男になるだろう」

 

 まだ見ぬ、自身に都合のいい未来を夢想し、いやらしく笑うCP9長官。

 そーっとボタンに指を近づけながら、ぞくぞくと背筋に走る震えを愉しみ、にやにやと絶えず笑みを浮かべ続ける。

 

「このボタン一つで島一つ消える。わははは……〝権力〟ってやつもまた…『兵器』みてェなもんだな」

「スパンダム長官っ!!!」

「うわ――っ!!! ビックリした!!! 何だ貴様ァ!!! ノックせんかァ!!!!」

 

 バタンッ、と勢いよく扉を開けて飛び込んできた海兵に、スパンダムはかつてない素早さでゴールデン電伝虫から指を離す。

 うっかりボタンを押すとこだ、とぼやきながら懐にしまい、いきなり入ってきた海兵をぎろりと睨みつけ、八つ当たり気味に怒鳴りつける。

 

「も……申し訳ありません。…しかし緊急を要するという事で…エニエス・ロビー『本島』より電伝虫が……‼︎」

「何をォ⁉︎ 電伝虫ならこの部屋に直接かけてくれば…おい‼︎ 受話器がはずれてるじゃねェか‼︎ いつもいつも一体、誰の仕業だァ!!!」

 

 自分が誤って受話器を外したままにしただけだというのに、声を荒げて喚く。

 ぶつぶつと不満を口にしていた彼は、ふと訝しげな表情でやってきた海兵に振り向いた。

 

「――ん? お前、今緊急の要件といったか?」

「はいっ‼︎」

 

 慌てふためきながら、スパンダムは海兵が持ってきた電伝虫を受け取る。

 そして、にやりと不気味に嗤うと、上機嫌にエレノアとロビン、フランキー達がいる方へと歩いて行く。

 

「おい…ニコ・ロビン。エニエス・ロビー本島より緊急の報告があるらしい…緊急って程でもねェだろうが…予想はつくよなァ?」

「………‼︎」

「頑張ってウチの兵士を5人もぶっとばした〝麦わら〟のルフィが、どうなったか」

 

 海兵が来る前に届いた、本島からの通信の内容。

〝麦わら〟のルフィがたった一人で乗り込み、何百人もぶちのめして向かってきたという報告が来たかと思えば、5人の間違いだったとすぐに訂正が入った。

 

 のこのことやって来たはいいが、多すぎた敵に恐れをなし、逃げ回っていたのだ。

 と、そう解釈したスパンダムは、それをロビンに聞かせてやろうとわざわざ電伝虫を持ってきたのだった。

 

「最強の門番オイモとカーシーを前に、お前の仲間達がどうやって踏み潰されたか………世界政府に逆らったバカ共のなれの果てを一緒に聞いてみようぜェ…」

「………最低だなてめェ…‼︎」

「聞くに耐えん…‼︎」

「黙れチンピラ‼︎ …なァ、オイどうだお前。クズのお前を助けに来た連中の末路、知りたくねェか~?」

 

 ニタニタと醜く嗤い、沈黙したままのエレノアに話しかけるが、エレノアは俯せになったまま身動ぎもしない。

 詰まらなそうに舌を鳴らすと、スパンダムは大仰に受話器を手にし、本当の相手に声を発する。

 

「オイ衛兵‼︎ あー…こちらスパンダムだ!!!」

『あっ!!! 長官殿でありますかっ‼︎ よ…よかった、やっと報告を‼︎ えー‼︎ 何から話していいやら…‼︎』

「落ち着けバカ者ォ!!! いいか、情報は要点を短くまとめ、大きな声ではっきりと伝えろ‼︎〝麦わら〟の一味だろ? その後どうした、うっかり殺しちまったか? …まァそれも相手が弱ェのが悪…」

 

 そう切羽詰まる事もあるまいに、と呆れた目を電伝虫越しに相手に向ける。

 結果の報告をするのに、何をそこまで慌てる必要があるのか、と訝しむ彼にもたらされたのは。

 

 

『侵入してきた海賊約60名に、現在エニエス・ロビー『本島』内最終地点『裁判所』前広場まで攻め込まれました!!!』

 

 

 という、あまりにも信じがたい驚愕の報告であった。

 聞こえてきた声に、ロビンははっと目を見開き、フランキーとグリードは息を呑み、エレノアは微かに肩を震わせる。

 

 はっきりと変わった空気に気付かぬまま、海兵は事実を次々に報告していく。

 

『エニエス・ロビー本島全部隊へ!!! 海賊達が『裁判所』前広場へ到達した!!! 全兵直ちに『裁判所』前広場へ!!!』

「は?」

『次いでは『本島前門』の巨人の門番、オイモとカーシーも海賊側に寝返り、只今『本島』中央付近を逆走中‼︎こちらの衛兵の被害総数はおよそ2千人強‼︎ ――その内千人以上を一人でなぎ倒した船長〝麦わら〟のルフィは忽然と姿を消した為――目下捜索中であります‼︎』

 

 思わず固まるスパンダムに、海兵もやや混乱した様子を感じさせる。

 

 口にする情報の全てが、自分達に不利なものばかり。

 悪夢か何かの間違いではないのかと疑いたくとも、響いてくる海兵達の悲鳴、全て現実だとこれでもかと知らしめていた。

 

『おそらくこれは――エニエス・ロビーの歴史始まって以来、他に例をみない最悪の事態かと思われます!!!』

「うははは」

「ガッハハハ‼︎」

 

 震えた声で響く海兵の声に、フランキーとグリードが心底愉快そうに笑う。

 呆然と、立ち尽くしたまま固まるスパンダムは、顔中から汗を噴き出させ、やがてよろよろと後退り、虚空に向けて叫び始めた。

 

「……どうなってんだ…………!!! 今、この島で何が起きてるんだァ〜〜!!!!」

 

 

 

『バスカビル!!! 裁判長バスカビル!!! 応答しろ、おれだァ!!!』

 

 三つの頭を持つ、異形の姿をした裁判長バスカビル。

 裁判所にて罪人を待つ彼の元に、ずっと待っていた上官の声がようやく届いた。

 

「おお‼︎ スパンダム長官っ‼︎ こちら〝左〟の『左バスカビル』」

「アタクシ〝右〟の『右バスカビル』‼︎」

「そして‼︎〝中央〟におる、このわしこそが!!!『中央本線一人旅』」

「「誰だよっ!!!」」

『そっちの状況を知らせろ!!! 裁判所前の広場まで海賊達が来ているらしいが‼︎』

 

 一人、ふざけた事を口にする中央の髭面の老人に、左右の頭が頭突きを食らわせる。

 持ちネタなのか癖なのか、度々起こるこのやり取りを丸々無視し、スパンダムは彼からは見えない事態について説明を求める。

 

「状況!!?」

「ウーム状況!!!」

「状況はン! 広場というより、まさに内部がン」

 

 知らせろ、と言われて、バスカビルは少し悩む様子を見せる。

 焦っている様子のスパンダムの為に、事態を簡潔に語る言葉を探し、彼らはある一つの単語だけを口にしてみせる。

 

「「「〝最悪〟かと」」」

『何だとォ―――!!?』

 

 スパンダムの叫び声にうるさそうに顔を歪め、棒立ちのままでいる裁判長バスカビル。

 

 彼らの目の前では、屋内でありながら突如発生した竜巻が、何十人もの海兵達を空中へ吹き飛ばす姿があった。

 ぼたぼたと落下する海兵達の中で、虫の息の一人がバスカビルに手を伸ばし、か細い声で声を上げる。

 

「裁判長‼ 報告します‼ ついに裁判所の巨大石扉をも斬り崩され、海賊達が侵入して参りました!!!」

「「「もう見えとるわいアホたれ!!!」」」

 

 今さら無駄な報告を上げる部下に怒鳴りつけ、目を吊り上げるバスカビル。

 

 どうでもいいコントを見せる彼らを無視し、あらゆる障害物を根こそぎ叩き切ってきたゾロが、前だけを見据えて歩み出てくる。

 

「意外と人数はいねェ様だ、一気に進めそうだが…」

「何だイ、ありゃア…」

「うおっ‼︎ 3つ首人間っ‼︎ 3つ首の番犬ってのは物語に聞いた事あるが、あいつは一体…‼︎」

 

 ぞろぞろと、開かれた入り口を通って裁判所の中へ入ったゾロ達は、最奥に立つ三つの頭を持つ男に驚愕の目を向ける。

 どよどよと戸惑いの声が上がる中、バスカビルの中央の頭が突如、声を張り上げた。

 

「者共静粛に‼︎ ここは神聖なる裁きの殿舎‼︎ 覆す事叶わぬ貴様らの運命を、これより裁決してくれる!!!」

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