ONE PIECE −LOG COLLECTION : ELEANOR−   作:春風駘蕩

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第207話〝死にたい〟

 目前に仁王立ちし、異形の姿を見せつける裁判長バスカビル。

 神聖な裁きの場を土足で踏み荒らす、礼儀を弁えていない愚か者達全員に向け、怒りの声を上げる。

 

 しかし、彼に対して注目する者は、侵入した数十人のうち数名しかいなかった。

 

「よし‼︎ おめェらとにかく麦わらさんのいる屋上を目指せ!!! 扉からの追手はヨコヅナと数名で阻止する、おれ達ァおめェらの後ろを守るからとにかく突き進め!!!」

「わかった」

「ねェアレ見て‼︎ 裁判が始まったみたい‼︎」

「ムシしろ、面倒くせェ‼︎ 道はどこだ⁉︎」

「正面見て両側に階段がある‼︎ あれで上階へ」

 

 延々としゃべり続けるバスカビルを完全に無視し、跳ね橋を下げる装置を動かす為に行き先を見据えるゾロ達。

 海兵や黒服達は、そんな彼らの無礼な態度に慄きながら、侵入者を排除しようと銃器を構える。

 

「〝艶美魔夜不眠鬼斬り〟!!!」

 

 が、彼らよりも早く、ゾロがゆらりと鬼女と歪んだ刀身の幻覚を見せる構えを取り、凄まじい突進と共に切り伏せていく。

 木端の如く人が宙を舞う姿に、被害に遭っていない海兵やバスカビルは唖然とするのだった。

 

「さァ行くぞ、道があいた」

「うん」

「………だから何であいつで船長じゃないんだ」

 

 満足感に浸る事など一切なく、淡々と先を目指すゾロに、人を率いる才覚を見たザンバイが思わず呟く。

 片や身勝手な船長。片や慎重に行き先を見定める男。役割が逆なのではないかと、本気で悩んでしまうくらいだった。

 

 と、そうして全員が先へ向かおうとした時、突如サンジが彼らを追い抜いて行った。

 

「あ、スーツの兄ちゃん」

「待て待て待てェ!!! そこを退かんかトナカイにバカ剣士に糸目‼︎ この危険な敵陣‼︎ ナミさんの進む道はこのおれが切り開くのだ!!! どけい!!!」

「うわ‼︎ 危ねェ、てめェやんのかコラ!!!」

「何でケンカ始めてんだ!!?」

 

 一人だけ目立っている事が許せなかったのか、容赦なく蹴りかかってくるサンジに、ゾロとチョッパーが咄嗟に応戦する。

 ザンバイ達から困惑の目を向けられながら、サンジはナミの前を走り出す。

 

「ナミさんこっちだ!!! おれにのみついてきな!!!」

「あなたアホですカ⁉︎ エレノアさン達を助けに来たのニ、味方内で争ってる場合ですカ!!!」

「おお…そうだエレノアちゃんとロビンちゃんが…………‼︎ おれの助けを待ってるんだ!!! 今頃淋しくて泣いてやしねェかな」

「どんだけ都合のいい頭してるんですカ!!?」

 

 女性陣の護衛を務めようと必死になるサンジに、ナミの気持ちを代弁したメイが目を吊り上げて怒鳴る。

 それでもサンジは女の事しか頭にないようで、メイはもう怒るより混乱が先に出てしまっていた。

 

「ん? あ――っ‼︎ 目を離したスキにゾロが!!! 待てゾロそっちじゃねェよォ!!!」」

 

 その時、不意に違和感を覚えたチョッパーが脇見をする。

 するとその先で、チョッパー達とは全く異なる方へ向かい、どこに繋がっているとも知れない通路に向かうゾロの姿を見つけ、ぎょっと目を見開いた。

 

「階段って言ったのにどう間違ったらそっち行くのよ‼︎ ファンタジスタか‼︎」

「うるせェ‼︎ お前の説明が悪いんだろ‼︎」

「私が悪いわけないでしょ!!?」

「君、どういう思考回路してるノ?」

「ロビンちゃんエレノアちゃん、今行くぜー!!!」

「お主はまずその煩悩を何とかせイ!!!」

「アんだとジジイてめェ!!!」

「チョッパー、お前今度薬を作ってやレ」

「わかった、ダメに効く薬だな‼︎」

「ダメって、オイ」

 

 慌てて後をついてくるゾロが逆ギレし、ナミやメイと怒鳴り合う声が響く。

 煩悩を隠そうともしないサンジや、リン達の呆れた声が混じり、あっと言う間に収拾がつかなくなる。

 

 侃々諤々と騒がしくなった一味に、ザンバイ達は不安気に肩を落とし始めた。

 

「アニキ達は助かるんだろうか」

「やる時ゃやるタイプなのさ、あいつら。きっと」

 

 口ではそういうザンバイだが、騒がしいままの一味を見ているうちにだんだん自信がなくなってくる。

 どう止めたらいいのか、と彼らが悩んでいた時、突如彼らの頭上に大きな影が差した。

 

「「「この裁判長をシカトすなァ〜〜〜〜〜!!!」」」

 

 ガシャン!と、巨大な剣を振り下ろしてくるバスカビル。

 足場を砕き、刃を突き付け、三つの頭で睨みつけてくるバスカビルに、舌打ちをこぼしたゾロが立ちはだかる。

 

「お前ら、先行け‼︎ おれァコイツを片付けてから後を追う」

「手伝いハ?」

「いらん!!!」

「生意気な海賊共めが、このワシの恐ろしさを見せて…」

 

 殿を務めようとするゾロを前に、忌々しげに顔を歪めるバスカビル。

 しかし、彼は突然自らの両足を掴まれ、ずるずると真下に引きずり降ろされていく。

 

 抵抗もむなしく、階段の下に落下したバスカビルを、ザンバイ達が不敵な笑みを湛えて取り囲んだ。

 

「相手はおれ達だ、ケルベロス‼︎」

「……頼むヨ!!!」

 

 殿を代わりに引き受け、敵陣に留まる事を選んだザンバイ達に背を向け、リンが一言残して走り出す。

 直後、一味の背後で再び、凄まじい戦闘音が響き渡り始めた。

 

 

 

「んががが、あいつらやる事なす事面白いねェ」

「巨人っ♪ 巨人っ♪ 巨人が味方‼︎」

「ニャーニャー」

「常識ある奴なら何があっても、決してこの島には手出ししねェ…」

 

 遥か先でも見える、二つの人影。

 街を破壊し、邪魔な海兵を薙ぎ払い、怒号を上げ、小さな人影を背中に乗せて裁判所を目指し、突き進む巨人達。

 

 それを眺めていたココロが思わず呟き、チムニーとゴンベが海列車の上で小躍りする。

 

「見てなよチムニー…結果あいつらが死のうが生きようが、過去数百年誰一人できなかった事に…この事件に世界中が驚く事になる」

 

 ぐびぐびと酒瓶を傾け、彼女は戦火が立ち上る戦場を見つめて笑みを深める。

 この大騒ぎの中心人物である青年を思い浮かべ、ココロはある確信を抱いていた。

 

「この戦いが終わったら…――あの麦わら小僧の名は…全世界に轟くよ」

 

 

 

「ロ〜〜〜ビ〜〜〜〜〜ン!!! エ〜〜レ〜〜ノ〜〜ア〜〜!!! 迎えに来たぞォ〜〜〜〜〜!!!!」

 

 その声が響き渡った瞬間、スパンダムは悲鳴をあげて後退り、勢い余って後頭部から転倒する。

 鼻水を垂らし、顔全体を引きつらせながら、窓の外から響く大きな声に驚愕をあらわにする。

 

「長官殿‼︎ 裁判所の屋上にて……‼︎〝麦わら〟をかぶった男が叫んでおります‼︎ ……間違いなくあれが一味の頭、〝麦わら〟のルフィかと!!!」

「バカいえ!!! さっき、おれが見た時ァ…屋上にはブルーノがいたんだぞ、見張ってたんじゃねェのか⁉︎ あのバカ、肝心な時に何してやがる!!! どうなってん…!!!」

 

 固まったままのスパンダムに、報告に駆け込んできた男が声を張り上げる。

 スパンダムは慌てて立ち上がり、窓に顔を張り付けるようにして覗き込み、麦わら帽子を被った青年の姿を目の当たりにした。

 

「あいつか…‼︎〝麦わら〟のルフィ」

 

 まさか本当にここまで辿り着いたのか、と冷や汗を垂らす。

 

 そして、ルフィの後ろに横たわる、見覚えのある髪型の黒服の男の姿を確認し、さらに彼の目が大きく見開かれた。

 

「ブルーノ!!? まさか…そんなバカな事が………!!!『CP9』だぞ…‼︎『六式使い』で…『能力者』……‼︎ 道力800を越える超人ブルーノが…!!! あんな小僧に敗けたってのか!!?」

「ううおおおおぉォ〜〜〜〜〜〜!!!」

「ぎゃああああああ〜!!!」

 

 自分の見ているものを、夢か幻と思いたい一心で頭を抱えるスパンダム。

 しかしその時、拳を天に突き上げて気合いの雄叫びを上げるルフィの声を聞き、またしてもその場でひっくり返った。

 

「ちょ…長官‼︎ いかが致しますか!!!」

「……‼︎ ルッチ達を呼べ!!!! 全員、ここへ集めろ!!!『CP9』に!!!〝麦わら〟のルフィ及び、その一味の〝完全抹殺指令〟を言い渡す!!!!」

 

 戸惑う海兵にそう命令し、歩き出すスパンダム。

 

 そんな、無駄にうるさい彼と海兵達のやり取りの一部始終を聞き、フランキーとグリードは互いに目を見合わせる。

 そして、二人で一緒に間にいるロビンに視線を移した。

 

「顔を上げろ、ニコ・ロビン……あいつら遂に、こんなとこまで来やがった。おめェコリャとんでもねェ事だぞ…」

 

 フランキーもグリードも、正直言って驚きを禁じ得なかった。

 高潮を越え、数万の敵を薙ぎ倒し、何の迷いもなく仲間の為に窮地に踏み込んできた。

 

 そこまでできる者が、果たしてこの世界にどれだけいるというのか。

 

「お前が仲間の為に、政府から出された条件をのんで連行された事はわかった」

「――だが、その協定って奴もさっきあのバカ長官に破られちまっただろ。お前さんが大人しく捕まってるからっつってこの先、誰が助けるわけでもねェだろ」

「そう…………もう、あいつらの助けに応じてここを脱出するしか道はねェハズだぜ……なのに――ずいぶん冴えねェ顔してるじゃない…」

 

 そう語りかけるが、ロビンは俯いたまま何も答えない。

 青ざめた顔で、今ではない未来を見ているような、冷や汗を大量にかいた怯えた表情で、フランキーの言葉を無視していた。

 

 焦れたフランキーが、もう一度ロビンに促そうと口を開いた時だった。 

 

「―――あなたはまだ、何から逃げ回ってるの…ロビン」

 

 弱々しい、今にも途切れそうな声で尋ねられ、ロビンがハッと息を呑む。

 すぐさま視線を下ろし、血塗れで横たわるエレノアに視界に入れ、じっと見つめられていた事に気付いた。

 

「! エレノア…‼︎ 起きてたのか」

「んん………さっき起きた。身体中メタくそに痛い」

「そりゃ全身切り刻まれちゃ気も失うわ」

 

 身動ぎをするたびに激痛に苛まれているらしく、眉間にしわを寄せて唸る。

 しかし、それでも無理矢理体を動かし、ロビンの顔を見やすいように体勢を変え、じっと真剣な眼差しを彼女に向け、エレノアは問いかける。

 

「もう、あいつらも後に引けないし、引く気もさらさらないよ………あんたが目を逸らしてたら、あいつらはあんたを救えない」

 

 ぐっ、吐息を詰まらせる様子を見せるロビンだが、やはり頷こうとはしない。

 しばらくの間、目を逸らしたロビンを見つめていたエレノアは、深いため息を吐くと、今度はフランキーに視線を移した。

 

「フランキー…悪いんだけど、もう一回手ェ貸してくれる………?」

「わかった」

 

 遠慮がちなエレノアの懇願に、フランキーは迷う事なく応じる。恩人の遠慮や躊躇いなど、彼には全く不要の物でしかなかった。

 

「ニコ・ロビンを〝麦わら〟から遠ざける!!! すぐに正義の門へ向かうぞ!!! 連中を連れて来い!!!」

 

 そしてその場へ、どかどかと靴を鳴らし、肩を怒らせたスパンダムが焦りの表情で向かう。

 

 一刻も早く、頭のいかれた海賊達から離れなければ。

 そんな考えだけで、ロビンとフランキーを正義の門の向こうへ連れていこうと近づいたのだが。

 

「ちょ…‼︎ 長官殿‼︎ しかしフランキーの……‼︎ ケツが膨張していきます!!!」

「うォいなんだそりゃあ!!! 便秘か!!?」

 

 突如、部下の一人が示した光景に―――フランキーの下半身が、風船のように膨らんでいる様に、スパンダムは目を見開きその場に固まる。

 どよめく彼らに横目を向け、グリードがため息交じりに口を開いた。

 

「おお…スパンダ…兄弟はなァ、てめェの命の淵を悟り、自爆って道を選んだんだ…せめて憎たらしいてめェらを道連れにな………!!!」

「何ィ!!?」

「直径3㎞の大爆発をもって…おれの人生の幕を引くんだ。止めてくれるな」

「漢フランキーの最後の華!!! せめて見届けてくれよ長官殿!!!」

 

 凄まじい気迫を伴い、虚空を見据えて何やら力を込める様子を見せるフランキーと、覚悟を決めた顔で天井を仰ぐグリード。

 どう見ても、本気で自ら命を断とうとしている二人に、スパンダムや海兵達は愕然とした表情で後退る。

 

「バカ…‼︎ おいバカ待てやめろ!!!」

「3…」

「助けてくれおれを巻き込むな―――!!!」

「2…」

「畜生死んでたまるかァ〜〜〜!!!」

「1…」

「やめろォ〜〜〜〜〜っ!!!」

 

 始まるカウントダウンに、スパンダムたちは大慌てで走り出し、そして同じように転んで階段を転がり落ちていく。

 彼らの視線がなくなったその瞬間、フランキーはロビンを両脚で挟み、グリードもエレノアの襟を咥えてロビンにしがみついた。

 

ひゅんいはんひょう(準備完了)……!!!」

「行くぞ、ニコ・ロビン。〝風来(クー・ド)〟…〝噴射(ブー)〟!!!」

 

 もごもごと合図を送ったグリードに頷き、フランキーは自身の腹にためたエネルギー……というかガスを思い切り解放する。

 反動でフランキー達はとてつもない勢いで飛び出し、壁を幾つも突き破っていく。

 

 そして最後には窓際のフェンスに激突し、ようやく発射の勢いが緩やかになった。

 

「だー待て待て兄弟!!! 飛ばしすぎだ!!!」

「あ……‼︎ 危ねェ!!! 落ちる!!!」

 

 歪んだフェンスの上で慌てふためき、自身らを戒めていた鎖が外れている事を確認した二人は、ロビンとエレノアを抱えて思い切り跳躍する。

 

「「ん〜〜〜…スーパ〜〜!!!」」

 

 声を合わせた二人は、フェンスを踏み台に足場に飛び移り、ホッと安堵の息を吐く。

 真下で暗闇の中に落ちていくフェンスの残骸にぞっと背筋を震わせながら、遥か先にある向こう岸を悔しげに見やった。

 

「ハァ………‼︎ コーラあと1本ありゃあ、もう一発〝風来砲〟で向こう岸まで行けたんだが、まァいい…〝麦わら〟がいるぞ」

「ホラよ。ちゃんと応えてやれや」

「お――――っ!!! ロビ―――ン!!! エレノア――!!! よかった‼︎ まだそこにいたのかァ!!!」

 

 姿を見せたロビンに気付いたルフィが、満面の笑みを浮かべて手を振る。

 そこへ、エレノアたちを奪還しようと海兵達が向かってくるが、フランキーとグリードが盾となり、それを遮る。

 

「ザコが、どいてろ〝ウェポンズ左〟!!!」

「邪魔すんなや!!!」

 

 吹っ飛んでいく海兵達を背後に、立ち上がったロビンは遠くにいるルフィを見つめる。

 

 笑うルフィとは対照的に、ロビンの表情は硬く、顔色も悪いまま。

 それを訝しみながら、転がったままのエレノアはじっとロビンの返答を待ち続けた。

 

「よし‼︎ そこで待ってろ!!! 遠いけど飛んでみる!!!〝ゴムゴムの〟ォ〜」

「待って!!!!」

 

 距離を取り、跳ぼうとしたルフィにロビンが叫び、止める。

 訝しげに目を見開いた彼に、ロビンは悲痛な声で続けて吠えた。

 

「何度も言ったわ、私は…‼︎ あなた達の下へは戻らない!!! 帰って!!!! 私はもう、あなた達の顔も見たくないのに!!!!」

「………⁉︎」

「お前、何言って…」

「どうして助けに来たりするの!!? 私がいつそうしてと頼んだの!!?」

 

 ルフィ達の想いの全てを踏み躙るような言葉に、ルフィも思わずその場に立ち尽くす。

 絶句するフランキー達を放置し、ロビンは自身の望みを吐き出した。

 

「私はもう…死にたいのよ!!!!」




エレノア「久々に喋ったな、おい」

ごめんよ、オリ主様。
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