ONE PIECE −LOG COLLECTION : ELEANOR−   作:春風駘蕩

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第209話〝世界を敵に回してでも〟

「ロビン!!! エレノアァ!!! 必ず助ける!!!」

 

 ゴゴゴ……と地響きが鳴り響く裁判所の上で、勇ましく構えるルフィ達がロビン達に向けて叫ぶ。

 下ではザンバイ達や、応援に駆け付けたパウリー達の活躍により、前方の塔に通じる跳ね橋がゆっくりと下がっていた。

 

 しかし、突如跳ね橋の関節部分に砲撃が撃ち込まれ、稼働がピタリと停止してしまった。

 

「跳ね橋が止まった!!!」

「くソッ‼︎ 中で誰か邪魔しやがったみたいダ!!!」

「何だチキショー‼︎ 誰だァ―――っ!!!」

 

 思わぬ事態に、悔しげに声を上げるルフィ達。

 それを見たスパンダムは、冷や汗まみれな顔を安堵で歪め、また下卑た声で嗤い始める。

 

「よ……‼︎ よし!!! よくやった!!! あいつらが渡って来る前に〝正義の門〟へ……!!!」

 

 ルフィ達がまだ突入して来れない事を好機と、スパンダムはロビンの腕を掴み、部屋の奥の階段へと連れていこうとする。

 跳ね橋を直すにしても、その時には既に彼らの手の届かない場所にいる筈であった。

 

「来い!!! ニコ・ロビン!!! 誰か、カティ・フラムと〝妖術師〟を連行しろ‼︎」

「ロビン…!!!」

「フン……‼︎ 取るに足らん、あんな海賊………‼︎ こっちにゃ暗殺集団CP9がいるんだ!!!」

 

 エレノアが横たわったまま声を上げ、血を吐きながら地べたでもがく。

 咄嗟に抵抗するロビンだったが、力を奪われた状態では、ただ引き摺られるままになる他にない。

 

「兵器復活をもくろんだ学者の島の生き残り『ニコ・ロビン』と、その設計図を受け継いだ男『カティ・フラム』、世界最強の海賊の唯一の弱点『アイザック・エレノア』。この大権力を握るチャンスを、みすみす逃してたまるか!!!」

 

 自身の出世、名声、何不自由ない生活。

 自分一人が讃えられる未来を夢想し、近付きたくもない海賊達を視界から外そうとした、その時。

 

 スパンダムの目の前に、何かの紙束を持って立つフランキーとグリードが立ち塞がった。

 

「⁉︎ ぬおっ!!! カティ・フラム!!! グリード!!!」

 

 思わずびくっ!と後退り、フランキー達から距離を取るスパンダム。

 一体何のつもりで、自分の前を塞いでいるのか、と怒りを露わにしようとした時。

 

 彼が持っているものを目にし、ハッと急激に表情が変わった。

 

「それは…お前、まさか……!!! 古代兵器プルトンの設計図!!?」

「……本物だ、信じるか? ルッチ…カク…お前らわかるよな」

 

 ぱらぱらと紙束を捲り、ルッチ達に確認してみせるフランキー。

 描かれた無数の画、縮尺、構図を流し見ていき、彼らの表情が見る見るうちに変わっていく。

 カクも冷や汗を垂らしながら、やがて驚愕の声を漏らした。

 

「まさかとは思うたが………貴様、それを自分の体の中に隠し持っておったのか」

「ほ…本物か⁉︎ 本物なのか⁉︎ よこせ!!! そいつをよこせ‼︎ おれの念願の設計図!!!」

 

 カク達の反応で、間違いなく自分が長年探し求めていた設計図だと確信したスパンダムが、途端にやかましく喚き始める。

 まるで餌を前にした犬のような意地汚さで、フランキーに両手を差し出し目を異様に輝かせる。

 

「ニコ・ロビン。お前が世間の噂通り、兵器を悪用しようとする『悪魔』じゃねェとわかった。…何も、ウォーターセブンの船大工が代々受け継いできたものは、〝兵器の造り方〟なんかじゃねェんだ!!!」

 

 だが、フランキーはスパンダムを完全に無視し、彼の傍で囚われたままのロビンに語り掛ける。

 静かな、彼女の身を案じる響きの声に、ロビンはごくりと息を呑む。

 

「なァ、スパンダ……トムさんやアイスバーグが命懸けで守ってきたものは、もし…‼︎ 古代兵器がお前みてェなバカの手に渡り、暴れ出した時…もう一つ兵器を生み出し、その独走を阻止してくれという〝設計者の願い〟だ!!!」

 

 バサバサと風ではためく設計図の束を掲げたまま、目の前の憎い男に話し続けるフランキーとグリード。

 よこせ、おれのものだ、とずっと騒ぐばかりの男に何の反応も返さず、鋭く目を吊り上げる。

 

「ニコ・ロビンを利用できれば、確かに兵器を呼び起こせる……危険な女だ。だがこいつには、その身を守ってくれる仲間がいる!!! だからおれ達ァ〝賭け〟をする」

「兄弟…いいのか?」

「ああ………おれが今、この状況で〝設計者〟の想いをくんでやれる方法があるとすりゃあ、一つだ」

 

 グリードの問いに頷き、分厚い設計図をくしゃくしゃになるほど握りしめるフランキー。

 彼のその覚悟を秘めた目に、グリードはにやりと満足げに、そして楽し気に笑みを浮かべてみせる。

 

「ぐだぐだ言ってねェで早く渡せ!!! それはおれのもんだ‼︎」

 

 一向に設計図を渡す様子がない彼らに焦れ、額に血管を浮かべたスパンダムが怒号を放つ。

 すると、フランキーがゆっくりと設計図を掲げたかと思うと。

 

 

 ゴウッ!と、勢いよく噴き出された炎が、設計図を呑み込み一瞬で燃やしてみせた。

 

 

「うわああああ〜〜〜っ!!! てめェ!!! 何をする――っ!!! 畜生、てめェ殺してやる!!!」

 

 一瞬、呆然と固まったスパンダムは、慌てて黒焦げになった設計図に縋りつき、崩れていくそれらを搔き集めようとする。

 彼のその滑稽な姿に、グリードは堪えきれなくなった様子で、ゲラゲラと声を上げて笑い始める。

 

「ガッハハハ!!!〝抵抗勢力〟を造る為に残された設計図が、狙われちまったんだ!!! こうすんのが正解だろうが!!! ガッハハハハハ!!!」

「本来、こんなもんは人知れずある物で、明るみに出た時点で消さなきゃならねェんだ!!!」

 

 満足げに笑うフランキーとグリードに、ルッチ達から凄まじい殺気が向けられる。

 5年に渡る任務の結晶、他に返る者のない重要物品を無惨な姿に変えた彼らに、常に無表情であるルッチが憎悪に燃える目を向けていた。

 

「――だが、これで〝兵器〟に対抗する力は失くなった‼︎ ニコ・ロビンがこのままお前らの手に落ちれば〝絶望〟だ!!!」

「そんで麦わら達が勝てば、お前らに残されるもんは、何一つねェって事になる。おれ達は、あいつらの勝利に賭けるぜ!!!」

 

 超人たちの殺意を受けても、フランキー達が怯む様子はない。

 それどころか、どうぞかかって来いとばかりに、堂々と挑発染みた言葉を吐く程であった。

 

「フザケたマネを…‼︎ てめェらも今、ここで死にてェらしいな‼︎」

 

 崩れ、風に散っていく設計図の残骸を踏み潰し、怒りに燃えるスパンダムがフランキー達を睨みつける。

 彼もまた、自身の栄光に必要不可避な物品を失わされたことで、凄まじい激情に燃えていた。

 

 一瞬にして張り詰める、その場の空気。

 フランキーとグリードが、彼らに向けて身構えたその時、裁判所の方から幾つもの声が響いてくる。

 

「アニキ――‼︎ フランキーのアニキー‼︎ グリードさーん‼︎」

「おい、司法の塔にアニキ達が‼︎」

「よかった無事か‼︎」

「わ――‼︎ アニキ達だわいな‼︎」

 

 はっ、と目をも開いて振り向けば、裁判所のあらゆる窓から、大切な子分達が顔を覗かせて叫ぶ姿が目に映る。

 彼らは必死に、五体満足でいるフランキーに声を張り上げ、安堵と歓喜の声を上げていた。

 

「アニキ達助けに来たわいなー‼︎」「麦わらさん達と一緒に来たぜー!!!」「ソドムとゴモラも頑張ったんだ――‼︎」「アニキ、おれ達と帰りましょう」「ケガはないですか、グリードさ――ん⁉︎」

「て………てめェら……てめェらコノヤロー誰が助けに来いなんて……来いな"ん"で……だドンダンダデョ―――ウ!!!!」

「ガッハハハハハ!!! さすがはお前らだ!!! よく来たァ!!!!」

 

 次々に聞こえてくる子分達の声に、フランキーの涙腺がさっそく決壊する。

 グリードは泣きはしなかったものの、多くの危険を乗り越えて助けに着た子分達に、最大級の狂喜を抱く。

 

 大きな嬉声が響き渡り、同時にフランキーのなく声も煩くなり始めたその時。

 

「うるせェお前らァ――っ!!!」

「いや鬼かっ!!!」

 

 裁判所の上から、ルフィがザンバイ達に向けて無慈悲な言葉を吐き出す。

 この状況でそれはあんまりだ、とナミ達からツッコミが入るが、ルフィは全く気にせずザンバイ達に怒鳴りつける。

 

「ロビンとエレノアが待ってんだ、早く橋をかけろ!!!」

「あァそうだな、さっさとしろてめぇェら!!!」

「茶番はさっさとやめて戦エー!!!」

「そうよね‼︎ あんたら急ぎなさいよブッ飛ばすわよ‼︎」

「そんな取りとめのないナミさんも好きだー!!!」

 

 そういえばそんな場合ではなかった、と我に返り、ルフィと共に無慈悲な声を上げるナミ達に、ザンバイは「ですよね」と思わずこぼす。

 

 やがて、フランキーはずるずると垂れ流していた涙と鼻水を拭い、表情を整えると、堂々としたタオ度でルフィに向き直った。

 

「麦わらァ!!! 子分達が世話んなった様だな…今度は棟梁の、このフランキー様と…‼︎」

「グリードファミリーの頭‼︎ グリード様が大戦力となってやる!!! 感謝しやがれ!!!」

 

 ここまで手を貸されて、礼もしないようでは男が廃る。

 受けた恩を返さなくては、と張り切る二人だったが、ルフィは彼らにも厳しい顔を向けて怒号を放ってくる。

 

「勝手にしろォ!!! おれは、まだウソップの事根にもってんだからな!!!」

「…いや横にいるだろ…」

「…あいつら人間をどう認識してんだ…」

 

 怒りを見せるルフィと、仮面をつけた長鼻の男を交互に見やり、呆れる他にないフランキーとグリード。

 どう見ても同一人物だろうに……と思ったが、二人とも何も言わなかった。

 

 その時だった。

 何か、金属同士が擦れ合う凄まじい音が、とてつもない速さで近付いてきたのは。

 

『おい‼︎ 海賊共ーっ‼︎』

「え⁉︎ ココロさんっ!!?」

『全部聞こえてるよ、何をグズグズやってんらいっ‼︎』

「グズグズって…でも、橋が半分しか…!!!」

 

 同時に、ナミの胸元の子電伝虫からココロの声が届く。

 困惑する彼女に、ココロは何処か上機嫌そうな声で、ナミ達に新たな指示を与えてくる。

 

『半分かかってりゃ充分ら、あと4秒でそこへ着くよ!!! 思いっきり滝に向かって飛びな!!!』

「バーさんか⁉︎ どういう事だ⁉︎」

「わかんないっ……!!! 滝へ……飛べって………!!!」

 

 金属音は次第に裁判所のすぐそばまで近づき、そして汽笛の音も響いてくる。

 フランキー達や、スパンダムたちも困惑の表情を浮かべ、何が起こっているのかと辺りを見渡し始めた時。

 

 フランキーの足元で、エレノアがもぞりと身動ぎを行う。

 

「……フランキー………!!!」

「エレノア…!!?」

 

 かすれた声で呼ばれ、すぐさま視線を下におろすフランキー。

 この状況で何の用か、と訝しむ彼の前で―――エレノアはカッと目を見開き、壮絶な笑みを浮かべてみせた。

 

「後全部託すよ……!!!!」

 

 血塗れの天使が、そう彼に告げた瞬間。

 

 エレノアの身体を中心に、赤く禍々しい光が迸り、直後に彼女の真下に罅が走る。

 そして、ばがんっ!と轟音を立てて足場が崩壊し、その場にいた全員が空中へと投げ出された。

 

「ぎゃあああああああ!!!」

「おわーっ!!?」

「これは…」

「無茶をしおる…!!!」

 

 無数の瓦礫と共に、数十m下に向けて真っ逆さまに落下させられ、スパンダムが情けない悲鳴をあげる。

 その間に、エレノアが翼を羽搏かせ、ロビンの方へ拘束を解いた手を伸ばす。

 

「ロビン…!!!」

「妖術師さん……‼ なんてマネを…!!!」

 

 ロビンは驚愕しながら、差し出された手に向けて必死に手を伸ばす。

 痛々しく、血に濡れた手を苦しげに見つめつつ、躊躇いなくエレノアの方へ向かっていく。

 

「―――悪いが、そういうわけにはいかないんだ」

 

 しかし、すぐにルッチ達が宙を跳ね、ロビンとエレノア、そしてスパンダムを抱え、元居た部屋へと戻っていってしまった。

 

「ああっ!!! チクショウ、あいつ無茶しやがって!!!」

「いくぞ!!!」

 

 フランキーとグリードだけが落ちていく姿に、そげキングが思わず悔しげな声を上げ地団太を踏む。

 すると、前方を睨んだままのルフィが両腕を伸ばし、左右の仲間達を全員抱えたかと思うと、ココロの指示通りに滝に向かって飛び出す。

 

「まだ走れるよ‼︎『ロケットマン』は‼︎ 伝説の造船会社トムズワーカーズをナメんじゃらいよォーっ!!!」

 

 悲鳴をあげ、涙を流すナミ達の下に、裁判所内を暴走する海列車を操る、ココロの高揚した声が届く。

 幾つもの壁を突き破り、裁判所を貫いた海列車は、そのまま下りる途中の跳ね橋を昇り、ルフィ達を受け止め、そして―――。

 

「んがががががが‼︎」

「滝だ――――っ‼︎」

「ニャー‼︎」

「「「「「ああああああああ‼︎」」」」」

 

 島に突入した時と全く同じように、再び空へと飛び上がってみせた。

 

 もはやサメの船首は原型を留めていない。半ば破壊された蒸気機関を無理矢理動かし、最後の大暴走をしてみせたのだ。

 

 ―――……懐かしいねえ、トムさん…。

 

 泣き叫ぶ青年達、驚愕するチンピラ達、そして孫娘達の声を聞きながら、ココロは想う。

 大切な上司だった男と、友人になった破天荒な男の事を。

 

 ルフィによく似た、後に〝海賊王〟と呼ばれた大馬鹿者の男の事を。

 

「ロジャーの奴も………こんなバカ野郎だったねえ………――そいであんた、手ェ貸してやったんらよね…性懲りもなくトムズワーカーズ総出で、海賊小僧に手ェ貸しちまってるよ…‼︎ んがががが」

 

 自分でも馬鹿だと思いながら、ココロは誇らしげに笑う。

 可笑しなことでも、これっぽっちも間違っていない行いだと、彼女は心の底から信じていた。

 

 ―――あんたでもこうしたらろ?

    トムさん…。

 

 そんな、亡き人への言葉を胸中に浮かべながら。

 暴走海列車『ロケットマン』は、司法の塔の最下層へ、深々と突っ込んでいった。

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