ONE PIECE −LOG COLLECTION : ELEANOR−   作:春風駘蕩

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第210話〝鍵を獲れ〟

「来た、来たァア――――っ!!!」

 

 崩れ落ちたテラスの奥でへたり込みながら、信じがたい光景に呆然としていたスパンダムは、悲鳴をあげて後退る。

 彼は直ぐにルッチ達を盾にするようにし、ロビンの手とエレノアの髪を掴んで歩き出す。

 

「チキショー‼︎ 来い、てめェら‼︎」

「く…‼︎」

「あぐ…‼︎」

「さァお前達を解放するぞ『CP9』‼︎ この司法の塔であいつらをギッタギタにしてしまえ!!! 惨殺を許可する‼︎ ルッチ‼︎ お前はおれと来い‼︎ 何をおいてもまず、おれの命を守れ‼︎ いいな‼︎ あんたもだぞ大総統!!!」

「わかっているとも…」

 

 矢継ぎ早に指示、というよりは自分勝手な命令を放ちながら、ずんずんと先を目指すスパンダム。

 途中、室内で自由にさせていた象・ファンクフリード―――ゾウゾウの実を食べさせた剣を元の姿に戻させ、自身に備える。

 

「さァ、〝正義の門〟へ向かうぞ!!! この女共を取り返せるもんなら取り返してみろ、麦わらァ!!!」

 

 6人の暗殺者と、最強の老剣士を引き連れ、スパンダムは二人の女を引きずりながら、悍ましく嗤ってみせるのだった。

 

 

 

 

 ガラガラと崩れる壁の一部。

 司法の塔のどてっぱらに突っ込み、さらに無惨な姿に変わったロケットマンの傍で、フランキーとグリードが叫んでいた。

 

「…おい‼︎ 大丈夫か!!? ココロのババー‼︎ ちびどもっ‼︎ 何で、こんなトコにいんだよ!!!」

「生きてんのかお前ら!!? おい!!!」

「〝ロケットマン〟なんて危なっかしいモン引っぱり出してきて‼︎ お……‼︎ おかげで助かったがよ…‼︎」

 

 自分達とロビンを救う為、遥か深くまで続く滝を越えて来たココロ達。

 しかし、無茶な突撃を果たした彼女達が無事で済むわけがない。最悪の結末を想像し、フランキーの声に涙がにじみ出す。

 

「なァおいババー‼︎ しっかりしろ!!! おい頼むから…‼︎ 死ぬなよ‼︎ 死ぬなァ〜〜〜!!!」

 

 頼むから、これ以上大切な誰かにいなくなってほしくない。

 そんな思いから、横たわる老婆とその孫たちを揺さぶり、声を張り上げて呼びかけ続け。

 

「鼻血でた‼︎」

「「鼻血で済むのはおかしいだろうがよ!!!」」

 

 ひょこっ、と微かな傷だけ見せてあっさり起き上がるココロ達に、フランキーもグリードも目を吊り上げて怒号を上げる。

 先程流してしまった涙を返せと、しかし内心でホッと安堵の息を吐いていた。

 

「よっしゃー着いた―――――っ!!!」

「麦わら」

「さすがゴム人間」

「怪獣のバーさんありがとう‼︎ おいおめェら、さっさと立ち上がれ‼︎ こんなもん平気だろうが」

 

 少し離れた場所で、瓦礫を吹き飛ばしたルフィが大声で仲間達に叱咤する。

 殴られようが潰されようが、伸びるゴムの身体を持つルフィには、この程度の激突など痛くもかゆくもない。

 

 だが、その他の仲間達はそうはいかないのだ。

 

「ゴ…ゴムのお前と一緒にすんじゃねェ……な……生身の人間が…こんな突入させられて………‼︎ 無事でいられるわけ…」

 

 瓦礫の隙間から覗く、ぶるぶると弱々しく伸ばされる誰かの手。

 無数の破片の下敷きになり、身動きの取れなくなった状態に陥っては、命ももう幾ばくも無い……と、思いきや。

 

「「「「「あるかァーっ!!!!」」」」」

 

 全員が、怒りを混ぜた雄叫びを上げて元気よく瓦礫を吹っ飛ばし、立ち上がる。

 全員、それぞれ多少の擦り傷などを負ってはいたが、勇ましく吠える姿からは察するに、五体満足のようだった。

 

「全員無事だ」

「お前らもたいがいオカしいからなっ」

「一応言っとくがよ」

 

 天に拳を突き上げる彼らを見やり、満足げに頷くルフィ。

 しかしフランキー達にしてみれば、人間離れした頑丈さを見せつけられ、思わず困惑の一言を呟いてしまう姿だった。

 

 一味は自身らが無事、司法の塔へと侵入できた事を確認すると、奥へ通じる道がないかを探し始める。

 

「ニコ・ロビンと〝妖術師〟の居場所ハ……んン⁇ 何だこリャ⁉」

「階段を下がっていってますヨ⁇」

「だったら追いつける‼ あそこに階段がある‼︎ 早くあいつらのとこいくぞ‼︎」

 

 気配を探る力に長けたリンとメイの協力で、エレノアたちの居場所を正確に探り当てる。

 そして、門を通り抜けられる前に追いつこうと、全員が走り出そうとしたその時だった。

 

「待て」

 

 不意に、頭上から聞こえてきたその声に、全員がハッと目を見開き身構える。

 壁の隅、天井近くに張り付いている丸い体の大男の姿を発見し、ルフィ達は訝し気に眉を顰める。

 

「何だありゃ‼︎」

「チャパパパパ…‼︎ 侵入されてしまった―――! さっきの部屋へ行っても、もうニコ・ロビンはいないぞー。ルッチが〝正義の門〟へ連れてったからな」

 

 小馬鹿にする口調と態度で、やって来た一味を睥睨する男・フクロウ。

 彼はチャックの付いた奇天烈な口を嘲笑に歪め、ごそごそと懐を探り出す。

 

「今向かってるところだが、行き方も教えないし、おれ達『CP9』がそれをさせない。お前達を抹殺する指令が下っている‼︎ チャパパ、お前達はおれ達を倒さなければ、ニコ・ロビンを解放する事はできないのだ。これを見ろ」

 

 ルフィ達を見下ろしたまま、フクロウは懐から小さな金属の棒―――カギを取り出しえ見せつける。

 何処にでもありそうなそれを前に、ルフィ達は困惑しながらも、何か得体の知れない意図を感じて表情を強張らせる。

 

「鍵⁉︎ 何のだ」

「ニコ・ロビンを捕らえている、海楼石の手錠の鍵だ!」

 

 優越感の混じったその声に、一味の半分がぎょっと目を見開く。

 

 海の力を持った不思議な石、海楼石。それを使った檻や錠は、捕えた悪魔の実の能力者を無力化し、弱らせてしまう大変危険な代物だ。

 故に、確かな実力者であるロビンを容易く捕えているのだと聞かされ、チョッパーなどは怒りで息を荒げさせる。

 

「お前達が万が一ニコ・ロビンを救い出す事があっても、海楼石はダイヤのように硬いので、その手錠は永遠にはずれる事はない。〝妖術師〟であろうとも、拘束を抜ける事は不可能。それでも良ければ、このままニコ・ロビンを助けに行け、チャパパ」

「じゃ、よこせ!!!」

 

 一味を嘲笑うフクロウを見上げ、ルフィが腕を伸ばして鍵を狙う。

 しかし、フクロウは目にも止まらぬ速さで移動し、ルフィの拳は宙を斬り、虚しく壁を壊すだけに終わる。

 

「慌てるな――…‼︎ まだこの鍵が本物とも言ってないぞ」

「何だとォ⁉︎」

「別の手錠の鍵かもしれない、チャパパパ…」

 

 鍵を手の上で弄びながら、空中を跳ねて一味と一定の距離を保つフクロウ。

 どういう意味なのか、と訝しむルフィ達を揶揄うように宙を跳ね、これでもかと鍵を見せつけ挑発を続ける。

 

「この塔の中におれを入れて『CP9』は5人いるが、それぞれ一つ…鍵を持ってお前達を待っている」

「じゃあ、お前らを仕留めて鍵を奪い、ロビンの手錠まで試してみるまで本物かどうかわからねェって事か」

「宝探しゲームのつもりか? ナメやがって…」

「くだらねェ時間稼ぎを…‼︎ そうこうしてる間にロビンちゃん達を〝正義の門〟へ連行しようってんだろ‼︎」

 

 フクロウの挑発もあり、サンジやゾロ達が苛立った表情で眉間にしわを寄せる。

 戦う事を強制するような敵の物言いに、男達は言い返しつつも、思惑通りに戦いに赴きそうになる。

 

「――ですガ、エレノアさン達の方が事を急ぎまス!」

「そうね、まず確実にロビンとエレノア自身を奪い返して、鍵はその後でいい‼︎ あんなの放っといて急ぎましょ‼︎」

 

 女性陣だけが冷静に事態を見極め、フクロウを含むCP9の相手を避けるべきだと告げる。

 一味の頭脳ともいえるナミの言葉に、全員が頷きかけたその時、フクロウが再び小馬鹿にするような笑い声をあげる。

 

「チャパパパ、お前頭いいな。――でもそんな事したら、こんな鍵なんか海へ捨てちゃうぞ‼︎ チャパパパ」

 

 悪戯を目論む悪ガキのような台詞に、一味は一斉に顔色を変える。

 フクロウはその反応をも楽しみながら、強く空中を蹴り、塔の中のどこかへと姿を消してしまった。

 

「おれ達はチャンスをあげてるのだ。じゃあな」

「このっ‼︎ 待てェ〜〜!!!」

「おい待てお前が待て!!!」

 

 遠ざかっていく声に、激昂に駆られたルフィが咄嗟に追いかけようとするのを、ゾロが慌てて止めに入る。

 頬がびよーんと伸びるも、じたばたと暴れて全く落ち着かない。

 

「ふんごがががが!!! 放せくらァ!!!」

「止まれ‼︎ もうちょっとだけだ‼︎ これからの各自の動きを確認するまで待て!!!」

 

 あからさまな挑発に乗り、どこかに消えそうになる船長をどうにか抑え込み、作戦会議に無理矢理参加させようとする。

 いつも通りなルフィに呆れた目を向けつつ、一味は互いに顔を見合わせ、険しい顔で唸り声をこぼす。

 

「あからさまな罠だナ」

「ああ……戦力を分断しつつ、1人ずつ確実に始末していく算段だろ。向こうは暗殺と戦闘のプロ、相手が1人なら余裕だとタカをくくってんだろ。胸くそ悪ィ…」

 

 敗北の記憶が脳裏に過っているのか、ギリッと歯を軋ませ、顔を歪めるリンとフー。たった一人にあしらわれた屈辱は、今も尚彼らを苛んでいるようだ。

 

「〝ルッチ〟ってのはあのハト男の事か?」

「ああ、そうだ」

「そいつとロビンが一緒にいるんなら、ルフィだけでも先に行かせよう。ルフィ! お前はとにかくハト男をブッ飛ばせ‼︎」

 

 未だばたばたとその場から走り出そうとするルフィに、ゾロが告げる。

 敵の陣営の最強の存在、因縁深いその一人と戦う事はルフィの目的であり、止めてもおそらく向かうであろう相手である。

 

 そのほかの面々も非常に危険ではあるが、戦わなければ鍵は手に入らないのだ。

 

「ルフィを除いて、おれ達は11人――ここにいるらしい『CP9』からロビンの手錠の鍵を5本手に入れ、ルフィを追う!!!」

「ロビン君が門をくぐれば全て終わる、何もかも時間との勝負だな」

「気ィつけた方がいいゼ………敵は『CP9』だけじゃなイ、あの最強のジーさんもいるんだからナ」

 

 ウォーターセブンに姿を見せた、あまりに強すぎる覇気を醸し出していた老剣士の姿を思い出し、表情を引き締めるリン。

 同時にグリードも、敗戦の記憶を思い出し、ガチガチと苛立たし気に尖った歯を噛み鳴らしていた。

 

 全員が、一度は敗北した記憶を持ち、そして再戦を願っている。

 奪われた物を取り戻す為、屈辱を晴らす為、反撃の為の鍵の争奪戦が始まろうとしていた。

 

「敗けは時間のロス、全員死んでも勝て!!!」

「「「「「おう!!!」」」」」

 

 一斉に頷き、ゾロがルフィを掴む手を離す。

 猛然と走り出すルフィを筆頭に、一味は塔内にいる暗殺者達を探しに向かうのだった。

 

 

 

「ワハハハハハハ‼︎ 助けは来ねェぞお前ら‼︎ そもそも奴らは〝正義の門〟へ辿り着く手段を知らねェんだ!!!」

「…君も意地の悪い事を」

 

 ロビンの手を引きながら、ゲラゲラと下品に笑うスパンダム。

 その横を、エレノアを肩に担いだルッチと、呆れたため息をこぼすブラッドレイが付き従い、門へと通じる()()()()を歩いていく。

 

 

 

 そしてルフィは、先ほどまで彼らがいた場所を目指し、階段を凄まじい速さで駆けあがっていた。

 

「さっきまでそこにいたんだ、どっかでぶつかるはず‼︎〝正義の門〟には行かせねェぞ―――‼︎ エレノアー!!! ロビ――ン!!!」

「待て!!! ルフィ!!! 言ってももう居ないってあのフクロウ野郎が言ってただろうが!!!」

「若‼ お気をつけヲ!!!」

 

 人の話を全く聞いていない、さっそく時間をロスしようとしている青年に叫び、目を吊り上げるリン。

 その後を、階段などまだるっこしいとばかりに壁を跳び、フーとランファンが追いかけていく。

 

「早いですネ、あの人…!!! というかどこに向かってるんですカ!!?」

 

 その後を、段差を登るのもまだるっこしいとばかりに壁を飛び跳ね、メイが必死に追いかける。

 

 

 

「チャパパパパー‼︎ おれは噂が大好き〝音無し〟のフクロウ。鍵欲しいか?」

「くそッ…‼︎ 燃料(コーラ)補給前に……!!!」

 

 戦いの前に、燃料となるコーラを補給しようとしたフランキーの前に立ち塞がるフクロウ。

 決戦を前に、彼はさっそく不利な状況に陥らされる羽目になっていた。

 

 

 

「いねェ。いねェ。いねェ。なんだ、誰もどこにもいねェぞ……‼︎ わはは‼︎ さては、私におじけづいたか‼︎」

 

 並んだ扉を次々に開け放ち、内心いないくてもいいと思いながら敵を探すそげキング。

 余裕を抱いたまま、最後の扉を開けた彼は。

 

 和風に改造された巨大な部屋の中心で熟睡する、鍵を置きっぱなしにした男を前にし、驚愕で棒立ちになってしまった。

 

 

 

「よよいっ!!! よいよい!!! おのれ海賊、ここで会ァったが100〜〜年〜〜目ェ〜エ!!! あいやしばし、あしばし待ァちゃ〜がれェ〜〜いっ!!! よよいっ!!!!」

(うるさい…‼)

 

 奇妙な通路に辿り着いたナミは、錫杖を手にやかましい口上を垂れる大男と対峙し、鼓膜をつくような大きさの声に胸中で毒づく。

 

 

 

「ここはどうだァ!!!」

「おらァ!!!」

 

 どういう因果か、同じ道を行く事になったサンジとグリードは、片やドアを蹴り破り、片や壁をぶち抜いて室内に入る。

 そして、中に誰もいない事に、二人とも不満げに顔を歪める。

 

「クソッたれ…ここにもいねェな‼︎」

「何処だ…‼ あのジジイはどこにいる!!? ……いねぇんなら仕方ねェ、んじゃ次だ」

「どうぞごゆっくり」

 

 焦りを抱き、敵の姿がない事に落胆を覚えた二人は、急ぎその部屋を後にしようとする。

 だが、そんな彼らを、いつの間にか彼らの死角に立っていたカリファが、妖艶な笑みを浮かべて流し目をくれた。

 

「お茶でも…入れましょうか」

「あ、お願いしまふ♡」

「おい」

 

 即座に目をハートマークにさせるサンジに、グリードの冷淡なツッコミが飛んだ。

 

 

 

 そして、とある部屋に辿り着いたゾロは二本の刀を抜き、悠然と待ち構えていたカクに不敵な笑みを浮かべてみせていた。

 

「もう刀を抜いとるのか…」

「血を吸いてェと唸るもんで」

 

 

 

 一味のそれぞれが、鍵を持つ敵と相対し臨戦態勢に入る。

 捕らわれた仲間が門の向こうに行くまでをタイムリミットに、決して敗けられない戦いが、新たに始まるのだった。

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