ONE PIECE −LOG COLLECTION : ELEANOR− 作:春風駘蕩
「おおオッ!!!」
「っしゃアァッ!!!」
気合いの咆哮を上げ、ルフィとリンが猛烈な勢いで飛び出し、各々の得物を放つ。
高速で放たれる拳打と、目にも止まらぬ速さで振るわれる刃。
しかしルッチもブラッドレイも、それを難なく躱し逆に相手の懐に入り込む。
「『指銃』〝黄蓮〟」
至近距離から放たれる、無数の拳。ゴムの体に打撃は通じぬも、凄まじい衝撃によりルフィは大きく吹き飛ばされる。
同じくリンも、自身を遥かに凌ぐ速さの剣撃により、咄嗟に構えた防御ごと弾き飛ばされた。
「麦わらァ!!! 糸目!!!」
「若ァ!!! …オノレ、小童ガ!!!」
どかん! と木箱に突っ込む二人に呼びかけるフランキー。
白煙の中に消える主の姿に、フーとランファンが激昂し刃を伴って飛び掛かる。しかし双方向から振るわれる刃を、やはりブラッドレイは難なく防いでいた。
「いやいや、おれの使命はあの扉を抜ける事!!!」
助けに向かおうかと悩むフランキーだが、彼らからの頼みごとを思い出し、首を振って駆け出す
しかしその瞬間、彼の前にはいつの間にかルッチが立ちはだかっていた。
「ムダだ」
「〝ストロング〟‼︎〝ハンマー〟!!!!」
通路を塞ぐ敵を吹っ飛ばすため、鉄人は鋼鉄の拳を構え、一切の手加減なく叩き込む。
だが、渾身の一撃はルッチの体を吹き飛ばす事が敵わず、それどころか一歩たりとも後退らせる事ができなかった。
「……‼︎ 何だ、ビクともしねェ‼︎〝チャパパ〟は十分吹き飛ばせたんだがな…」
「成程、フクロウを破ってここへ…だが残念、おれの道力は、奴の5倍だ」
直後、フランキーの腹にルッチの蹴りが襲い掛かり、くの字に折れ曲がる。
血を吐き、想像以上の重さに驚愕するフランキーに、ルッチは冷酷な目を向けて指を突き付ける。
「フクロウを倒せたのは見事だ。お前も十分超人の域にいる、だが…死ね」
人体を容易く貫く指が、フランキーめがけて振り下ろされようとする。瞬く間に迫る窮地に、腹に走る痛みに悶えながら、ぎょっと目を見開く。
回避する方法が全く思いつかず、迫り来る凶刃が自身の首を切断する―――そう思った瞬間。
「〝ゴムゴムの〟……!!!〝JET銃〟っ!!!!」
突如、真横から放たれた衝撃が、ルッチを大きく吹き飛ばす。
思わぬ一撃を喰らった彼は、宙を跳んで体勢を整え、危なげなく着地し衝撃が来た方をぎろりと睨みつけた。
「……お前、一体!!! 何だその煙は!!!」
「〝ギア2〟!!!」
窮地を脱したフランキーは、全身から煙を噴き上げるルフィの姿に目を見開く。
明らかな異常で、明確に現れた強化。独自の方法で自身の戦闘能力を上昇させたルフィは、健在な敵を見据えて気炎を吐く。
「あんまり長ェ時間持たねェけど、あいつを止めるから先に行け、フランキー‼︎ メイ‼ お前も一緒に行ってくれ!!!」
異変を見せるルフィを見つめ、ルッチはにやりと不気味に嗤う。口元に垂れた血を拭うと、各々の得物を構えて再び青年達に相対する。
「は…はイ‼」
「よし、麦わら‼︎ 何だか知らんが、それであいつをタタんじまえ!!!」
「そうは…させんと…‼︎ 言った筈…!!!」
駆け出すフランキーとメイだが、その前にまたルッチが立ちはだかる。しかも人の姿でではなく、メキメキと膨れ上がった異形の姿で。
初めて見る、獰猛な獣と混じり合ったその姿に、二人は思わずぎょっと息を呑む。
「ぐわー‼︎ てめェも能力者だったのか‼︎」
「とんでもない奴ばっかりが立ちはだかりやがっテー!!!」
「まずお前達を消そう‼︎」
「あまり長居はできなくなったのでね……君達の勇気は賞賛に値するが―――ここで死んでくれたまえ」
異形の前で立ち止まったフランキーに、さらに剣を振り上げたブラッドレイが迫る。
びくっと肩を震わせた彼が驚愕の表情で振り向き、前後の危険な敵を交互に見て、右往左往する様を狙っていた。
「闇の侠客、ここに参上…!〝
しかしその寸前、割り込んだ影が刃を盾にし、ギィン!と甲高い金属音が鳴る。
自身の両腕を漆黒に染め、握りしめた刀剣も黒くさせたリンがにやりと不敵に笑い―――その口に咥えた、いくつもの火薬の球を見せつけながら。
「お前の相手はこっちだヨ…!!!」
言ってから、リンはブラッドレイの胸に思い切り蹴りを放つ。
剣士の体が後ろに飛ばされるのと同時に、リンが放った爆ぜ玉と、フーとランファンが投げた火薬がカッ!と光を放つ。
直後、炸裂した爆ぜ玉による衝撃波により、ブラッドレイは爆炎の中に呑み込まれる。そして煙の中で彼は、部屋の床に開いた大穴の中に落下していった。
「リン!!!」
「いいから……行け!!!! あいつらの事を頼んだぞ!!!」
振り向くルフィにそう告げ、リンは迷わず大穴に飛び込む。その後をフーとランファンが続き、ひゅるる…と風切り音が遠く離れていく。
姿を消した仲間に背を向け、ルフィはルッチと再度向き合った。
「フランキー!!! メイ!!! あいつらを頼むっ!!!!」
「はイっ!!!」
「スーパー任せとけ!!!!」
ルフィの声にすぐさま応え、走り出すフランキーとメイ。
当然、そこへルッチが邪魔をしに動くが、それよりも早くメイが苦無を地面に突き立て、バシッと光を迸らせる。
「押し通りまス!!!『桃園仙術式目。三魄飛んで七魄霧散! これすなわち……』〝地飛爽霊・火尖槍!!!〟」
床が動き、雷が弾けた直後、数本の炎の槍が生み出されルッチに襲い掛かる。
轟音とともにルッチの姿が炎に呑まれ、その横をフランキーとメイは全速力で抜けていく。
炎が晴れ、身体の各所を焦がしたルッチが顔を出す。その顔は、非常に不機嫌そうに歪んでいた。
「あいつらの事は、フランキーとメイに任せた………!!!」
「…………ウカツだった……まさか貴様らが、これ程の力を持っているとは」
言ってしまったものは仕方がないと、ルッチは目の前の麦わら帽子の青年に意識を集中させる。
彼の放った一撃は重く、油断して何度も受けられるような攻撃ではなかった。警戒をしなければ、自身もどうなるかわかったものではない。
「ずいぶん息が上がってる様だが…‼ その蒸気のせいじゃないか?」
「お前らに勝てれば、それでいい!!!」
「成程…手強いな」
自身の命すら顧みない、不退転の覚悟を見せるルフィに、ルッチは実に楽しそうに笑みを浮かべた。
「…フム、地下空間でここまで遠慮なく暴れるとは。まだ少し、君達を甘く見ていたかもしれんな」
がらがらと崩れ落ちる瓦礫の中、ぱっぱっと服に付いた誇りを祓いつつ、ブラッドレイが呟く。
暗い、得体の知れない無数の機械が転がる謎の部屋の中、彼は軽くため息をつき、自分と同じく落下してきた青年達を見やる。
「ふンッ!!! ――――オイオイ……えらく深い所にも部屋があったもんだナ。だが丁度いい。いヤー、助かった助かっタ…」
瓦礫を踏み砕き、ごきごきと首を鳴らしながら進み出るリン。
二人の家臣を左右に置き、彼はブラッドレイを見つめ返すと、薄目にしていた鋭い目を開き口角を上げた。
「あんなところで一緒に暴れたラ、お互いに足を引っ張り合いそうだったもんネ。河岸を変えてホントによかっタ…」
「………各個撃破のつもりかね?」
「まァ、こうするのが一番だと思ったんでネ。…付き合ってもらうぞ、〝大総統〟」
不敵に、個人に対しての宣戦布告を行うリン。
彼を見つめ、ブラッドレイもまた、実に愉し気に目を細め―――キン、と自身の得物を構えてみせた。
「正義の門〝門衛〟‼︎『海軍本部』護送船海兵‼︎ 現在CP9No.9スパンダム長官が、司法の塔より最重要犯罪人を連行し、橋を渡られているところだ! 全員整列の上敬礼!!!」
「「「はっ!!!」」」
「ワハハハハハ‼︎ 見ろ、出航準備は万端だ、もう邪魔するものなど何もない!!!」
ずるずると、黒髪の美女を引きずり、血濡れの少女を抱え、一人の男が橋の上を進む。
ニタニタと歪んだ貌は、人間の持つ醜さを全て詰め込んだかのように見え、引きずられる女達にいやおうなく嫌悪感を抱かせた。
「ニコ・ロビン、アイザック・エレノア。お前達に一ついい事を教えといてやろうか」
スパンダムは語る。これまで彼が進んできた道には、無数の地雷が仕掛けてあるのだと。
通り抜ける際にそれらを全て動かし、追ってくる者が一人でもいればたちまち爆発が起こるようにしてあるのだと。
「ワハハハ、だがその点心配すんな。階段に辿りつける奴なんざいねェよ‼︎」
誰もお前達を助けに来る事はできないのだと、ゲラゲラと下品に笑いながら告げる。どんなに頑張っても無駄なのだと、ロビンの努力を全否定する。
だが、それでもロビンは、自身の表情を絶望で染め上げる事はしなかった。
「でも…門はくぐらない…………!!!」
「あァ!!?」
「…『助ける』と……言ってくれたから…!!!」
閉ざされた道の向こう、当の上から叫んだルフィの言葉が、彼女に力を与えていた。
どんな逆境が立ち塞がる事があろうとも、必ず傍に駆け付けると誓ってくれた仲間達の想いが、ロビンの心を守っていた。
「誰も来やしねェよバカ女!!! どいつもこいつも〝バスターコール〟の業火に焼かれて死ぬんだよ!!! 神聖なる旗を海賊に撃ち抜かれたという我々の赤っ恥さえ〝バスターコール〟はかき消してくれる!!!」
そんな彼女の想いを、スパンダムは苛立たし気に否定する。
罪を裁かれる事を、何より自分の出世を邪魔ばかりする女達を疎みつつ、甘い考えを抱く彼女達を絶望の淵に付き落とそうとする。
「20年前オハラで暴れた巨人海兵の一件の様に………‼︎」
その言葉に、ロビンははっと息を呑み硬直する。
その隙に、スパンダムはロビンの襟首を掴み、力尽くで引っ張っていく。もう門までは、長い直線をまっすぐ進むだけだ。
『長官殿お急ぎを!!!』
「わァってらうるせェな!!! 英雄だぞおれァ!!!」
電伝虫越しに急かしてくる海兵に怒鳴り返し、ひたすら橋の上を歩く。
戦者ではない故に、若干息を切らせて罪人を引きずる彼は、絶句している彼女に下卑た目を向け、歪めた口で語り始める。
「てめェ…おれは何も知らねェとでも思ってんだろ。元海軍本部中将ハグワール・D・サウロの乱行……‼︎ 貴様の母オルビアの事、あの時、オハラで何が起きたのか、おれは全部知ってる!!!」
「何…を……⁉」
「聞かされたからさ…!!! オハラという悪魔達の住む土地へ踏み込み、その大罪を暴き!!!〝バスターコール〟の合図を出したのは、当時『CP9』の長官だったおれの親父〝スパンダイン〟だからだ!!!」
自慢げに話されたその真実に、ロビンの思考は今度こそ凍りつく。
あまりにも救いがないその事実に、全身から抵抗する気力が失われてしまう。
「ワハハハ…あの時オハラにいた者達は全員死に絶えたもんだと、政府は逃げ出した一匹のガキを見落としていた」
スパンダムは一旦足を止め、へたり込んだロビンの顔を覗き込む。
悔しさと悲しみで、ぶるぶると震える美女の顔を見下ろし、醜悪な笑みを見せつける。
「どうだった、8歳のガキが何度金目当ての大人に殺されかけた事か。寄って来る人間すべてが信用できない、安心して眠れる場所もねェ……食う物もねェ、そんなクソみてェな20年、おれァ想像もしたくねェ」
たまらず、ロビンの目からボロボロと雫が垂れ落ちる。
その隣で、地面に放り出されたエレノアは歯を食い縛り、スパンダムを刺し殺すような目で睨みつけていた。
「ハハ…‼︎ 泣く程不幸だったか。20年前…お前の首に賞金を懸けたのは、おれの親父だ!!! ワハハハ!!! 世界平和の為にな!!!」
「お前……お前ェ………!!!」
「そして20年たった今……‼︎ 息子のおれが、そのたった一人の生き残りを狩り…‼︎ オハラの戦いは幕を閉じる‼︎ オハラは敗けたんだ!!!」
平和を理由に、ただ過去を解き明かそうとした者達を根こそぎ葬った男の息子。
それを自慢げに語る姿は、単純に殺しを愉しんでいる狂人のようにしか見えなかった。
「まだ私が生きてる!!!!」
「そのお前が死ぬんだろうがよ!!!!」
ロビンが吠えたその時。
彼らが歩いてきた橋の向こう側で、突如爆発が起こる。
はっと目を見開いたスパンダムが目を凝らすと、煙に包まれ、黒焦げになった海パン姿の男が落ちていく姿が目に映る。
「カ……カティ・フラム!!! 地雷か……!!! なぜあいつがここに!!?」
「フランキー……‼︎」
「あァ…ワハハ‼ だがかかった‼︎ バカめ!!! あのバカかかった!!!」
息を呑んだが、懸念していた追手が一人、荒海へ落下したことに安堵を覚え、哄笑をあげる。
エレノアが顔を歪め、堕ちていく男を凝視していると、スパンダムは彼女の翼を掴み、今度こそ離すまいと引き摺り歩く。
「こりゃいけねェ‼︎ 万全を期していてよかった‼︎ 急ぐぞ!!! 来い!!! 船を出せ海兵共、飛び乗るぞ――!!!」
『は…はい、了解。出航だァ!!!』
また追いつかれてはたまらないと、さっさと司法の島その者から離れる用意をするよう、電伝虫で命令を下す。
ばたばたと慌ただしくなる門の向こうに舌打ちをしつつ、スパンダムは悠々と歩を進める。
頭の中では、自分が英雄になった姿を夢想し、輝かしい栄光に期待を膨らませていた。
「よく見ておけ‼︎ この一歩こそ、歴史に刻まれる英雄の!!! 第一…」
いよいよ門が近づき、通ればだれも手が出せなくなる境界線を越えようとした、その瞬間―――。
「ポガバ!!!」
突如、スパンダムの顔が爆炎に呑まれ、ロビンとエレノアを手放して吹き飛ばされる。
投げ出され、横たわったエレノアとロビンは、倒れ込むスパンダムを見て困惑に目を見開く。
「何だァ!!? 何者だ!!?」
「橋には誰もいないぞ!!!」
「いないハズはない、どこかに隠れてるんだ!!!」
「探せ――っ!!!」
煙を上げるスパンダムを見て、海兵達が困惑の声を上げる。
しかし、銃を手に飛び出してきた彼らもまた、突然炎に包まれて、ドサリと倒れ込んでいく。
「うおい!!! 何やってんだてめェら揃いも揃って」
「しかし長官、敵が確認できません!!!」
どこからともなく、自分達を狙撃している何者かがいる。
そう気づいたはいいが、一体どこから狙っているのか見当がつかず、右往左往するばかり。
そしてやがて、双眼鏡を除いていた一人が、その狙撃手の居場所に気付いた。
「あ…いた…長官、あれを‼︎」
「何だよ‼︎ どこだ!!!」
「司法の塔のてっぺんに…!!!」
「司法の塔だと!!? あんなトコから、何ができるってんだよ‼︎」
そんなわけがあるか、と怒号を放つスパンダム。
貸せ、と海兵から無理矢理双眼鏡を奪い取り、彼が見ていた方向を覗き込んだ彼の目に。
遥か先、司法の塔の屋上で、指を天に突き付け、ポーズをとる仮面の男の姿が映った。
「何だあいつはァ〜〜っ!!?」