ONE PIECE −LOG COLLECTION : ELEANOR−   作:春風駘蕩

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第4章 戦うコック
第21話〝二人の賞金稼ぎ〟


「できたぞ‼ 海賊旗!!! ちゃんと考えてあったんだ、俺たちのマーク!」

「……そういえば、時々紙になんか書いてると思ったら」

 

 満面の笑みを浮かべて、ヘタクソなドクロマークが描かれた旗を掲げるルフィに、エレノアはジト目でそうこぼす。

 身内の贔屓目でも、その出来はあまりにひどかった。

 

「コイツには…つまり絵心ってもんがねェんだな」

「ううん…もしかしてこれって芸術なんじゃないかしら」

「どういう芸術? キュビズム?」

「海賊旗は〝死の象徴〟のはずだろ……まァ、ある意味恐怖だけどよ」

「どうだ⁉」

「よし、描きなおそう」

「えェ――――っ⁉」

 

 情け容赦なく切り捨てるエレノアに向けて、ルフィの悲しげな叫びがこだました。

 頼りにできないルフィに代わり、ウソップがデザインを担当する。

 その結果できた海賊旗に、ナミは満面の笑みを浮かべた。ルフィの描いたものをまともにしたような、麦わら帽をかぶった立派なドクロのマークに賞賛を送る。

 

「うん! 上手いっ!」

「こんなとこか」

「同じマークとは思えねェな」

「いいな‼ あと帆にも描こう‼」

「じゃ、そっちは私に任せて」

「昔から人ん家の壁に、よく落書き(アート)してたからな。けっこう、おれは芸術に長けてるんだぜ」

「助かるよ。デザインの例がある方がやりやすいからね」

 

 できた海賊旗を確認したエレノアは、貼られたままの帆に向けてパチンと合わせた掌を当てる。

 青い閃光が走ると、無地の帆に残ったペンキが吸い込まれて、みるみるうちに海賊旗と同じマークが描かれていった。

 

「おおーっ‼ 相変わらず便利だなァお前の力は‼」

「へっへ~ん」

「よし! 完成っ‼ これで〝海賊船ゴーイング・メリー号〟のできあがりだ‼」

 

 完成した立派な海賊船に、若者達は満足げな声をあげてはしゃぐ。

 が、色々と作業を続けていた船員達はその場でバタンと仰向けに倒れてしまった。

 

「は――っ、疲れた!」

「じゃ、お茶でも淹れておくよ。でも味は期待しないでね」

 

 まだ体力に余裕のあるエレノアが、船内に備わっているキッチンに向かう。

 その途中、ふとナミが寝返りをうちながら視線を向けた。

 

「ところで、エレノア? 天族ってのはみんなあんたみたいに錬金術使ったり、大きくなったり小さくなったりできるの?」

「知らな〜い。私が会ったことのある同族は母さんだけだったもん」

 

 ナミの疑問に、エレノアは困ったように首を傾げた。

 

「その母さんも……私が小さい頃に死んじゃったし」

「あ。ごめん…」

「気にしないで、もうずいぶん昔の話だから」

 

 言葉を失うナミに、気にするなと言うように手を振る。このご時世、肉親を亡くした人間など探せばどこにでもいるものだ。

 

「ただ私は物心ついたときには体の年齢を変えられるようになってたし……種族での能力なんだと思うよ? 足はまァ………錬金術を使って伸ばしてるんだけど、種族的にも相性がいい力なんだと思う」

「まねできそうにねェな」

「そうでもないさ。私の弟弟子は人間だけど〝国家錬金術師〟になるぐらいの実力があったし」

「…? 何その…国家?」

「国家錬金術師っていうのは…」

 

 ゾロとナミが聞きなれない名称に聞き返し、エレノアが答えようとした時だった。

 ドカーン!と轟音が響き渡り、遠くにあった岩場が吹っ飛んだ。

 船に備わった大砲の練習で、ルフィに代わってウソップが狙撃したらしい。

 

「スゲ――当たった、一発で‼」

「うげっ‼ 当たった、一発で‼」

「…………」

「あー、うん、いいわ。先にアイツらどついて来ちゃいなさい」

 

 話の腰を折られ、頬をひきつらせるエレノアの肩を、ナミは同情しながらポンと叩いた。

 

 

 ルフィとウソップの脳天に仲良く一つずつたんこぶを作らせたのち、エレノアは全員の分の紅茶を淹れる。

 設備の整ったキッチンは見事なもので、エレノアも心地よく作業を進められた、が。

 

「うん、普通ね」

「普通にうまいな」

「ああ、普通だな」

「修行が足んねェぞ」

「文句あるなら飲むなっ‼ こういうのはあんまり得意じゃないんだよ!!!」

 

 振舞われた紅茶の出来は、仲間達には不評であったらしい。

 不満げな彼らの眼差しに抗議しながら、エレノアはどっかりと椅子に腰を下ろした。

 

「でもまァ、こんだけ立派なキッチンがあるなら欲しい役割が出てくるね…」

「ああ!〝偉大なる航路(グランドライン)〟に入る前にはそいつが必要だ」

「長旅には不可欠な要因だな」

「そう思うだろ?」

 

 ルフィが何を言いたいか察した一同は、船長らしい台詞が聞けたことに安堵する。

 が、この男の考えはやはりずれていた。

 

「やっぱり海賊船にはさ、音楽家だ」

「アホかてめェっ‼」

「めずらしくいいこと言うと思ったらそうきたか‼」

「あんた航海を何だと思ってんの?」

「だって海賊っつったら歌うだろ⁉ 当然みんなで」

「そう思ってんのはあんただけだよドアホ」

 

 仲間全員から一斉にツッコミを受けながらも反論するルフィに、エレノアはジト目を向けて本気で呆れたため息をつく。

 そんな時だった。

 

「出て来い海賊どもォ―っ!!! てめェら全員ブッ殺してやる!!!!」

 

 そんな怒鳴り声が聞こえた直後、樽が蹴り潰される激しい音が響く。

 いきなり暴れまわっている見知らぬ男に怒りを燃やし、ルフィは険しい表情で甲板に飛び出していった。

 

「おい‼ 誰だお前!!!」

「誰だもクソもあるかァ!!!」

 

 サングラスをかけた男は、ルフィ以上の怒りを燃やしながら幅広の刀を振り回す。

 怒りのままに暴れる男を、ウソップとナミは船内から恐る恐る窺っていた。

 

「相手何人だ」

「一人…かな」

「じゃ、あいつに任せとけ」

 

 ゾロはそう言い、ルフィが騒ぎを収めるまで気長に待つ体勢に入る。

 しかしウソップとナミの後ろにいたエレノアが、ピクピクと耳を動かしながら首を傾げた。

 

「…いや、もう一人いるね。でも…」

「え?」

「…死にかけてる」

 

 そんな中、ズダン!と言う鈍い音を立てて男が倒れ込んだ。ルフィにいい一撃をくらったらしい。

 

「く……か……‼ 紙一重か…」

「分厚い紙一重だね、賞金稼ぎのジョニー」

「ジョニー…?」

 

 ジト目を向けるエレノアがサングラスの男の名を言い当てると、彼だけでなくゾロも驚きの表情を浮かべた。

 

「え…、ゾ…ゾロの兄貴!!!?」

「どうした! ヨサクは一緒じゃねェのか」

「それが……‼」

「知り合いか、なら話が早い。多分、下の小舟に乗ってるのがそうじゃない?」

「何⁉」

 

 エレノアの一言で、ゾロは慌てて船の端に駆け寄っていく。止められている小舟を確認すると、ロープを伝って横になっていた男をメリー号に移した。

 真っ青な顔で気を失っている彼に、ゾロは眉間にしわを寄せた。

 

「病気⁉」

「ええ…数日前までピンピンしてやがったのに、突然青ざめて気絶をくり返す…‼ 原因は、まったくわからねェ」

 

 医学に乏しいジョニーという男は、もうどうしたらいいかわからないという様子で俯いている。

 一方でエレノアは、冷静に男の症状を診断していた。

 

(歯が抜け落ち…傷が開いて出血…この症状は…)

「ナミ、キッチンのライム使うけど、いいよね?」

「…ええ、こいつらにはあたしが説明しとくわ」

「全く、たかが『壊血病』程度で大騒ぎしちゃって…」

 

 大きなため息をついたエレノアは、本気で一味の先行きに不安を覚えながらライムを探した。

 

「壊血病は、一昔前までは航海につきものの絶望的な病気だったの。でも原因はただの植物性の栄養の欠乏、昔の船は保存のきかない新鮮な野菜や果物を載せてなかったから…」

「お前すげーな、医者みてェだ」

「おれはよ、お前はやる女だと思ってたよ」

「船旅するならこれくらい知ってろ‼ あんたたち、ほんといつか死ぬわよ‼」

「感心しとらんでさっさとライム絞れボケどもっ‼」

「ら…了解(ラジャー)っ‼」

 

 持ってきたライムを絞り、果汁を別の器に移しながら怒鳴るエレノアに従い、ルフィとゾロは作業を手伝う。

 絞られたライムを飲んだ瞬間、真っ青になっていた男の顔色が戻りその場で小躍りまで始めた。

 

「ひゃっほー‼︎ 治ったァー‼︎」

「治るか!!! そんな急に!!!」

「いいからもう寝てなさいよ…」

 

 エレノアもナミも、ヨサクに呆れて小言を漏らす。

 病は気からと以前エレノアは言ったものの、ヨサクのそれはただのバカな勘違いにしか思えなかった。

 

「申し遅れました、おれの名はジョニー‼」

「あっしはヨサク‼ ゾロの兄貴とはかつての賞金稼ぎの同志‼ どうぞ、お見知りおきを‼ あんた方には何とお礼を言ったらいいのやら、さすがにあっしァもうダメかと思ってやした」

「しかしあらためて驚いた。〝海賊狩り〟のゾロがまさか海賊になっていようとは」

「ブヘェッ……!!!」

「ぬあっ!!!? 相棒ォ―――!!!」

「いいから黙って休んでろ‼」

 

 血を吐いて倒れるヨサクに、ゾロはややハラハラしながらおとなしくしているように頼む。

 ピクピクと痙攣しているヨサクを見下ろし、ナミは深刻な顔で一味の顔を見渡した。

 

「これは教訓ね……」

「長い船旅にはこんな落とし穴もあるってことか」

「あいつだってこの船に遭わなきゃ死んでた訳だしな」

「船上の限られた食材で長旅の栄養配分を考えられる〝海のコック〟…この船に足りていない一つは、それだね」

「よし決まりだ‼〝海のコック〟を探そう!!! なにより船で美味いもん食えるしな!!!」

「アニキアニキ! 海のコックを探すんなら、うってつけの場所がある。まー、そこのコックが付いて来てくれるかは別の話だけど」

 

 ジョニーはそういうと、この先の海にあるという店の話を語ってみせた。

 

「「「「「海上レストラン⁉」」」」」

「そう、ここから2、3日船を進めれば着くはずだ。でも気をつけねェとあそこはもう〝偉大なる航路(グランドライン)〟のそばだ」

「…やばい奴らが出入りしてるってわけね。賞金首チェックしとこ」

「よかったら案内しますぜ」

「たのむ――っ‼」

 

 ジョニーの提案に、ルフィ達はノリノリで拳を突き上げる。

 こうして一味は一旦進路を変更し、新たな仲間を勧誘すべく海上レストランを目指すのだった。

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