ONE PIECE −LOG COLLECTION : ELEANOR−   作:春風駘蕩

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第219話〝燃える島からの脱出〟

 フランキーとグリードは、凍り付いていた。

 生きていると、逃げ延びていると信じていた弟分達が、目の前で燃え盛る炎に呑まれて死んだのだと聞かされたが故に。

 

『こちら2号艦より報告。島の南東「裁判所」および「司法の塔」、そして橋へ通じる「地下通路」全て破壊完了。残る攻撃対象は〝ためらいの橋〟を残すのみです』

「フランキー…」

「あいつらが……!!!」

 

 淡々と、報告を述べる戦艦からの通信。

 フランキー達に聞かせるためではない、事実だけを伝える味方内の声が、それが揺るぎない事実であると示す。

 

 あまりにも残酷な結末に、一味は真っ青な顔で立ち尽くす。

 

「……ガレーラの船大工達もか………」

「オイモ………カーシー」

「パニーニャ…」

「ヨコヅナも一緒だったろうね…」

「ソドムもゴモラも………‼︎ みんな……!!!」

 

 それぞれが自身と縁ある者の名を呼び、もう二度と彼らの顔を見る事は叶わないのだと苦しげに顔を歪める。急すぎる別れに、それ以上の言葉が出なくなる。

 

「こんなに簡単に…人って死んでいいの?」

「地図の上から……人は見えない。彼らはただ感情もなく、世界地図から小さな島を一つ消すだけよ。それが〝バスターコール〟!!!」

 

 ロビンが見た過去の光景と、今彼女が見ている光景が重なる。

 世界にとって危険だと、一方的に判断された存在を抹消する力に、ロビンは冷淡に吐き捨て、しかし鋭く睨みつける。

 

 しばらく呆然としていたフランキー達は、やがてギリッと歯を食い縛り、支柱に向けて声を張り上げた。

 

「急げ麦わらァ〜〜!!!! 仲間がここで待ってる!!!」

「てめェ……死んだら承知しねェぞォ!!!」

「フランキー……!!! グリード………!!!」

 

 悲痛なその姿に、そげキングから呻くような声が漏れる。

 その時、ルフィがいると思われる支柱の壁で爆発が起き、破片がばらばらと海に飛び散った。

 

「ルフィ!!!」

「ルッチは…強ェ…!!! ……もし麦わらがあの場所でずっとルッチを抑えてなかったら、正直おれ達ァ何人死んでたかわからねェ」

 

 戦艦の砲撃によるものではない、内部から何者かの攻撃によってもたらされた破壊に、思わずナミ達が身を乗り出す。

 実際に相対したフランキーが、険しい表情でその光景を凝視する。

 

 そんな中、無言で佇んでいたグリードが、おもむろに口を開いた。

 

「なァリンよ……あのジジイ、おれにはどうも手ェ抜いてやがった気がすんだ―――…おれも、そう思う」

 

 交代しながら話すリンに、メイが困惑の眼差しを向ける。

 未だに慣れない二重人格者の会話を見つめつつ、彼らがしている気になる会話に耳を傾ける。

 

「じゃなきゃおれ達は………全員殺されてた様に思う―――ムカつくぜ…そのお陰でおれ達ゃ助かってるってんだからな‼︎ そして今は………あのネコ野郎が一番危険ってわけだ」

 

 轟音が立て続けに鳴り響く支柱。どれだけ激しい戦いが繰り広げられているのか、振動は遥か離れたこの場所まで届いていた。

 

「おれ、時々思うんだ…ルフィは始めから、自分が戦わなきゃならない相手を…わかってつみたいだ…」

「………野生の鼻が利くだけよ、あんたよりね」

 

 ふと、脳裏に浮かんだ表現を口にするチョッパーに、ナミが呆れた表情でため息を吐く。

 荒唐無稽な考えを抱く彼にじとっとした目が向けられ、チョッパーは思わずグッと言葉に詰まり、黙り込む。

 

 そんな中、その場に膝をついていたエレノアがチョッパーを見やり、誰にも聞こえない小さな声で呟いた。

 

「………生まれ持った〝王の資格〟…か」

 

 目を細め、支柱を無言で見つめるエレノア。

 そげキングはそわそわと落ち着かない様子を見せ、仮面の下で不安げな顔になりながら、小さく震える声をこぼした。

 

「あいつ…死なねェよな…」

「バカか」

「何をーっ⁉︎」

 

 独り言の呟きに、隣のゾロから本気で呆れた声が返され、そげキングは咄嗟に掴みかかろうとする。

 

 しかしその寸前、支柱と橋の間で爆発が起こる。

 一隻の戦艦から放たれた砲撃が、突如橋の途中地点で炸裂したのだ。

 

「な…」

「橋を半分壊しやがった!!!」

「どういうこった!!?」

 

 砲撃の意図がわからず、困惑の声を上げて身構える一味。

 その理由は、戦艦が急に動き出し、自分達がいる場所の周囲に回り込み始めた事で明らかとなった。

 

 幾隻もの戦艦に、完全に逃げ道を閉ざされてしまったのだ。

 

『全艦〝ためらいの橋〟の周囲へ布陣。橋の上と護送船には〝海賊狩り〟のゾロと〝妖術師〟エレノア、ニコ・ロビンを含む海賊9名を確認』

「ロビンをまた奪いに来るぞ」

「そうはさせないわよ‼︎」

 

 聞こえてくる通信に、ナミは完成版天候棒に雷光を走らせながら構え、勇ましく吠える。

 他の面々も背中合わせになり、ロビンとエレノアも隣り合って、近付いてくる戦艦と海兵達を見据えた。

 

「おい‼︎ あそこ見ろ‼︎ ルフィ君〜〜っ‼︎ ここだ――っ!!!」

 

 その時、辺りを警戒していたそげキングから声が上がる。

 はっと振り向いてみれば、支柱の壁がほとんど破壊され……全身から煙を上げ、荒い呼吸を繰り返すルフィの姿が目に入った。

 

「全員無事橋へ着いたぞ――っ!!!」

「こっちは心配いらないぞ、ルフィ君‼︎」

「エレノアちゃんもロビンちゃんも助けたァ!!!」

 

 そげキングが呼ぶと、ルフィははっと目を見開き、橋の上の仲間達に気付く。

 そげキングに合わせ、フランキーやリン達も大きく手を振り、声を張り上げてみせる。

 

「あとはお前‼︎ そいつに勝て!!! 生きてみんなでここを出るんだ!!!」

 

 無事でいる……一人は重傷だが、生きてそこにいる二人の仲間の姿を目の当たりにし、ルフィはにっと笑って頷く。

 そしてあらためて、自身が相対する最強の敵に向かい合った。

 

「………あとはこっちの、耐久力勝負だな…」

 

 一味の頭がまだ五体満足で戦っている事を確かめると、ゾロは刀を抜き、戦艦とその上に乗る海兵達を見やる。

 

『少佐以下出陣不要。「大佐」及び「中佐」のみ、精鋭200名により速やかに始末せよ』

「……スモーカー大佐と同レベルの相手か」

 

 これまで戦ってきた島の番人とは比べ物にならない、強力な気配が無数に感じられる。

 その事が、気配を感知する能力にたけたエレノアには一目でわかる。そのうちの何人かが申し訳なさそうにしていたり、悔し気にしている事も。

 

「やったるか!!!」

「おうよ!!! ―――行くぜオラァ‼︎」

「船から離れなきゃ!!! 傷つけられたら脱出できない!」

「二度と捕まったりしないわ!!!」

「おで‼︎ 動げねェよ――!!!」

 

 迫り来る敵に、一味は全員が臆する事なく闘志を燃やす。

 重傷を負ったフーとランファンはもちろん、エレノアも血反吐を吐きながら、ギン、と鋭い目で敵を睨みつける。

 

 そしてついに、恐るべき実力を誇る海兵達が、一斉に戦艦から飛び降りた。

 

 

『ニコ・ロビンを奪還せよ!!!』

 

 

 凄まじい殺気を伴って、一味に襲い掛かる海兵達。

 ゾロやフランキーは、やってくる彼らに果敢に挑んでいく……の、だが。

 

 刀を突然サビでボロボロにされ、殴りかかった相手の体がブドウの粒のようにばらばらになるという異様な光景と、ゾロやフランキーは対面させられる。

 

「気ィつけろ‼︎〝能力者〟もまざってるぞ!!!」

「それは…お互い様よ‼︎」

 

 注意を促すフランキーに、ロビンは複数の敵の体に腕を生やし、容赦のない関節技を決めていく。

 ボキボキと骨が折れる音が響き、海兵達は白目を剥いて倒れていく。

 

「あたしら人質らよ――っ‼︎」

「か弱いよーっ‼︎」

「ニャー‼︎」

 

 非戦闘員であるココロとチムニー達は、自分達が狙われないように目立つ場所に立ち、大きく手を振っていた。

 最早無意味かもしれないが、自分達に注意を向ける彼女達なりの支援だった。

 

「ルフィが来るまでこらえろ!!!」

 

 折れた刀の代わりとして、敵の剣を奪って使うゾロ。

 使い心地に違和感を覚え、徐々に押され始める仲間達に焦りを抱きつつ、向かってくる男達を片っ端から斬り捨てていく。

 

 その時、戦闘の手を止め、支柱を凝視して棒立ちになるそげキングの姿に気付く。

 

「おい!!! 何ボーッとしてんだ!!! そげ…」

「ルフィ〜〜〜っ!!!」

 

 怒鳴りつけるゾロを無視し、そげキングは―――いや、仮面を取り外して、ウソップが必死の形相で叫び出した。

 

「お前、何やってんだよォ!!! 起きろー!!! ルフィ―――――!!!」

 

 険しい顔で、遥か先のルフィを―――ルッチに幾度も致命傷を喰らわされ、俯せに倒れた男に吠える。

 沈黙していたルフィは、ぎこちない動きで振り向き、姿を見せた長鼻の男に驚愕の視線を返す。

 

「ウソップ………⁉ お前…来てたのか…!!!?」

「か……‼ 勘違いすんじゃねェぞ!!! おれはロビンを助ける為にここへ来たんだ!!! お前の顔なんか見に来たわけじゃねェ!!!」

 

 意地を張り、大きく手を振って否定の言葉を吐くウソップ。

 彼はルフィから視線をずらし、未だ余裕を残してこちらを見上げてくるルッチを睨みつけた。

 

「おいコラ『CP9』のボスネコ‼ さァおれ様が相手してやる!!! かかって来い‼」

「え!!? おい…やめろ……!!!」

 

 巨大パチンコを構え、勇ましく名乗り出るウソップに、我に返ったルフィが慌てて止めようとする。

 黙って佇んでいたルッチが、おもむろに踵を返し、ウソップたちの方へと歩き出したことで、彼の焦燥はますます強くなる。

 

「やめろよ‼ ……お前………ハァ…あいつに手ェ出すな………‼」

「…すでに敗北した貴様に用はない。どの道全員殺すんだ」

「よォし、来い‼ ボスネコ、吹き飛ばしてやる!!!」

 

 強烈な威圧感を放つルッチを前に、まだかなりの距離がある為か、ウソップは彼を堂々と呼びつける。

 ルフィは歯を食い縛りながら、蛮行に手を出そうとしている男を強く睨み、血反吐を吐きながら体を起こそうとする。

 

「バカか!!! やめろウソップ、殺されるぞ!!!」

「だまれ!!! じゃあ死にぞこないのお前に、何かできるってのか!!?」

「こいつはおれがブッ飛ばすんだ!!!」

「だったらすぐに立てよ!!! だったら‼ 死にそうな顔してんじゃねェよ!!!お前らしくねェじゃねェか!!!」

 

 いまだ、ルフィは立ち上がれていなかった。

 受けた傷と痛みが限界を超え、這いずる事すらできない程になっている。

 

 だが、ウソップはそれを嘆きも、哀れみもしない。なぜさっさと立たないのかという苛立ちで、厳しい言葉を吐き捨てる。

 

「爆煙で黒くたって空も見える、海も見える…!!! ここが地獄じゃあるめェし!!! お前が死にそうな顔すんなよ!!! 心配させんじゃねェよチキショ――!!!」

 

 渾身の力で放たれた、男の咆哮。

 それに、麦わらの青年は……ゆっくりと、膝を立て体を起こし始めた事で応えた。

 

「………わかってる………ここは地獄でも何でもねェ………!!!」

 

 ゆらり、と立ち上がるルフィの体から、再度煙が激しく吹き出す。

 護謨の心臓が血液を強烈に送り出し、ゴムの血管を血流が途轍もない速度で巡り、全身に力を与える。

 

 その肉体の活動のエネルギー源は、命か、想いか。

 

「勝って!!! みんなで一緒に帰るぞ、ルフィ!!!」

「当たり前だ!!!」

 

 叫ぶように答え、ルフィは再びルッチに向けて飛び出す。

 拳をぶつけ合わせ、投げ飛ばされ、相手の最強の一撃を再び体に受けて。

 

 それでもなお、彼は倒れなかった。確固たる意志を以て、勝利を確信し背を向けた男に、鋭い目を向けていた。

 

「〝ゴムゴムの〟……」

 

 無防備になったルッチを前に、ルフィが両拳を構える。

 咄嗟に全身を鋼のように硬化させ、防御の体勢を取ったルッチに向けて―――ルフィの最大最強の攻撃が放たれる。

 

 

〝JET銃乱打(ガトリング)

 

 

 どっ!と襲い掛かる無数の拳、機関銃の如き勢いと数の強烈な拳の雨嵐。

 血と共に吐き出される雄叫びと共に、ルッチの全身に突き刺さる拳打が、超人の鋼の盾を貫いていく。

 

 そして、とてつもない轟音を響かせ、ルッチが大きく吹き飛ばされる。

 全身に大量の傷を負わされ、白目を剥いたルッチが、支柱内の壁に激突し―――そのままどさりと倒れ込む。

 

「ハァ…終わった………これで…いいんだ…」

 

 同じくルフィも倒れるが、しかし意識を失う事はなく、仰向けになって天を仰ぐ。

 そして最後の力を振り絞り、仲間達に伝える歓喜を、天高く叫んでみせる。

 

「一緒に帰るぞォ!!! ロビ~~~~ン!!!! エレノア~~!!!!」

『ぜ…全艦へ報告!!!「CP9」ロブ・ルッチ氏がたった今…‼︎ 海賊〝麦わら〟のルフィに!!! 敗れましたァ!!!』

 

 海軍の通信すらも認める事実。

 前代未聞の大騒動、誰も逆らおうとも思わない世界政府の御膝元で起こった大事件―――世界に逆らった海賊が勝利したという報告に。

 

 ロビンはポロリと、無言で喜びの涙を流した。

 

「ル…ルフィが!!! 勝ったァ―――!!!」

「ヒヤヒヤさせやがって」

「ついにやったか‼︎ 麦わらァ!!!」

「ルフィ…‼︎」

「よもヤ…!!!」

 

 ウソップを始めとし、他の面々もホッと安堵の息を吐き、あるいはやれやれと肩を竦める。

 フーなどは全く信じられないと言った様子で、何度も首を横に振っていた。

 

「全員、すぐに脱出船へ!!! 船を出すわよ!!!」

「急ゲ、お前達‼」

「やりましたヨ――!!! ルフィさン〜〜!!!」

 

 海兵達を蹴散らしながら、喜び勇む男達に指示を送るナミとランファン。

 その横でメイが歓喜のあまり飛び跳ね、男達が慌てて彼女達の指示通りに動こうとした時だった。

 

『やったぜ麦わらさ〜〜〜〜〜ん!!!』

『うお〜〜!!!』

 

 突如、どこからともなく……島のどこかから、騒がしい声が聞こえてきた。

 数十もの声が、一箇所からギュッと濃縮されて響いているような、そんな音が通信から伝わってきていた。

 

「え?」

『バ…バカお前ら、向こうまで、聞こえちまうだろ‼︎』

『いいんだ、知らせてやるんだよ!!!』

『アニキー!!! アニキ―――‼︎』

 

 耳に届いたその声に、ウソップ達は絶句する。

 もう二度と聞く事はできないだろうと思っていた声を聞き、フランキーとグリードは唖然と立ち尽くす。

 

「この声は………!!!」

『やめろ‼︎ このまま逃げりゃおれ達は死んだ事になったのに‼︎』

 

 強張っていたエレノアの表情が、あっと言う間に明るくなっていく。

 確かに今、ここで耳にしている声が、彼らの生存をはっきりと示している……その事実に、一味は歓喜で声もあげられなくなる。

 

『ガレーラのロープは切れないよ!』

『―――ったく、黙ってろってのに』

『おれ達ァ全員無事ですよー!!!』

『ゲロォ!!!』

『砲撃は全部巨人が受けてくれたわいなー‼︎』

『また軍艦が来ちまう前に急げ!!!』

『早くおめェら先に登れ』

『オイも血がのぼる――‼︎』

『逃走手段もあるんで、こっちは大丈夫でさァ‼︎ フランキーのアニキ‼︎ グリードのアニキ‼︎ 後で生きて会いましょう‼︎』

 

 フランキー達に向けて、ザンバイが元気に告げる。

 一度絶望を抱きかけた彼らを、また新たな希望の光が照らしたのだった。

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