ONE PIECE −LOG COLLECTION : ELEANOR−   作:春風駘蕩

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第220話〝迎えに来たよ〟

「おめ"ーらァ〜〜!!! バキャロ"ー、おべーらの心配なんざするかァ、バガ――!!!」

「ガッハハハ!!! ガッハハハハハ!!! ガハハハハハ!!!」

 

 びちゃびちゃと涙と鼻水と涎を垂らし、これでもかと号泣するフランキー。

 その横ではグリードが高らかに笑い、しかし目尻に涙を滲ませていた。

 

「い"〜〜‼︎ 生ぎでだあのバガ共〜〜‼︎ 生ぎでだ‼︎ よがっだ〜よがっだ嬉しいおうおう〜!!!」

「ああ…‼︎ 本当によかった!」

「こうなったラ、アイツらの頭のお前らも生きて戻らねェと意味がないんじゃないカ!!? ―――ガッハハハ!!! 当たり前だァ!!!」

 

 ぐずぐずと鼻をすするフランキー達にゾロとリンが口を挟むと、二人とも何度も頷き返す。

 先ほどまで彼らの中にあった絶望など、粉微塵に吹き飛んでいた。

 

「すぐに正門地点へ向かいますか⁉︎」

「後にしろ、今はこっちだ‼︎ 貴様ら何してる、さっさと任務を果たせ!!!」

「はっ!!!」

「おらァ、いくらでもかかってきやがれ!!!」

 

 上官の指示で襲い掛かってきた海兵の攻撃を、フランキーが果敢に受け止め防ぐ防ぐ。そこへグリードによる拳が放たれ、海兵は大きく宙に吹き飛ばされる。

 

 最悪の砲撃の雨の中でも生き延びる事は出来るのだと、一味が胸に希望を抱いて、戦いに臨み始める――――が。

 

「ルフィ……どうしたのよ、早く来てよ…!!!」

 

 不意に、敵の一人を蹴り飛ばし血反吐を吐いていたエレノアが、はっと振り向き顔を歪める。

 そこに、刃を振るっていたフーも気づき、険しい顔で支柱に取り残されたままのルフィに目を向ける。

 

「まずイ…‼︎ 小僧がさっきから動かんゾ!!!」

「何だと!!?」

「ルッチとの戦いで………傷を受けすぎたんだ!!! 血の量も致死量だ!!!」

 

 横たわったまま、微塵も動く様子を見せないルフィ。

 一味はギョッと目を見開き、ウソップが慌てて橋の端に駆け寄り、大声で呼びかける。

 

「おい‼︎ ルフィ‼︎ 急いでこっちへ来いよ‼︎ 逃げなきゃ助からねェんだ!!!」

 

 必死に仲間を呼ぶが、それでもルフィは動かない……いや、動けない。

 息を荒げながら、焦燥に駆られた表情になりながら、自分を呼ぶウソップや仲間達を凝視するだけであった。

 

「どうしたんだよ‼︎ もう一息だ‼︎ ゴムゴムでこっちへ飛んで来い‼︎ 後はおれが担いでやるから‼︎ 周りは海と軍艦だらけだ‼︎ ここにいたら殺されちまうぞ!!!」

「………ダメだ………」

 

 小さく、か細い声で、ルフィは呟く。

 限界を超えて戦い続けた彼の体は、彼の意思を完全に無視し、ぴくりとも、身動ぎさえ許さない。

 

「体がよ……‼︎ ぜんぜん………動がねェ…!!!」

「……バカ言ってんじゃねェよ!!! 敵は倒したんじゃねェか!!! ロビンも取り返した、後はもう帰るだけじゃねェか!!! 頼む‼︎ 頑張れ!!!」

「ウソップ‼︎ ルフィのいる支柱へ船を回しましょう‼︎ 全員、急いで船へ‼︎」

 

 待っていても来られる状態ではないと察し、ナミがすぐに迎えに行く方針に変える。既に掃除を済ませた脱出船を使い、軍艦の間を抜けて向かおうとしたその時。

 

 ドンッ!と突如砲撃が炸裂し、脱出船はあっと言う間に海の藻屑と化してしまった。

 

「しまった…!!!」

「うそっ‼︎ 脱出船が!!!」

「何てこった…!!! 絶望的だ‼︎ あの船以外にここからの脱出手段はねェんだぞ!!!」

「ココロさん‼︎ チムニー、ゴンベ‼︎ チョッパー!!!」

 

 能力者が面々の大半を占める中、唯一の手段であった脱出船に起きた悲劇。

 ゾロ達が顔を引き攣らせて悲痛な声を上げる中、ナミは先に乗っていたはずのココロ達の事を案じる。

 

 だが次の瞬間、立ち昇る黒煙の中から、ココロ達を抱えたサンジが飛び出してきた。

 

「ん、何とか無事だァ〜〜っ!!!」

「サンジ君‼︎ あんた一体どこにいたの!!?」

「いや悪ィ、ちょっとヤボ用で‼︎ しかしまいった‼︎ ドえれェ事になった‼︎ こっち側はロビンちゃんがいるから砲撃はねェと思ったのに船が!!!」

 

 どさどさとココロ達を下ろし呼吸を整えるサンジ。野暮用で走り回り、窮地に飛び込んだ彼は肩を上下させて汗を垂らす。

 

「そこまでだ貴様ら!!! お年寄りを解放して大人しく殺され…」

「それ所じゃねェんらよ‼︎」

 

 隙を見せたサンジ達に一人の海兵が飛び掛かるが、ココロの蹴りを喰らってあっさりと沈められる。

 

 そこへ、複数の戦艦から新たに砲撃が放たれ、端に直撃する。

 爆発を受けた橋は片方からみるみる崩落し、一味を徐々に追い込んでいく。

 

「走って!!! ここも狙われてる!!!」

「おわ‼︎ 危ねェ‼︎」

「急げ――!!!」

 

 急いで走り、支柱の上に集まった十二人は、四方八方から砲門を突き付けてくる戦艦を睨み返し、頬を引きつらせる。

 道もない、足場もない、船もない。全ての退路を断たれた彼らは、背中合わせになって悔しさを顔中に表す。

 

「くそっ‼︎ とうとう橋なんかなくなっちまった‼︎ 支柱に追い込まれた‼︎」

「これ以上何もできんゾ!!!」

「ここでコレ全部と戦うしか………!!!」

「バカいえ‼︎ もっと強いのゴロゴロ出て来るぞ!!?」

 

 いつの間にか、一味を追い詰めていた海兵達がいなくなっている。

 一味をこの場で全員抹殺するため、支柱へ追いやる直前のタイミングで、全員戦艦に戻っていた。

 

『第一支柱に一斉砲火用意‼︎ 麦わらのルフィを、ただちに抹殺せよ‼︎』

「ルフォが危ねェ!!! せめてこっちに………!!!」

「メイ‼︎ こっちからどうにかできないの!!?」

「こっちと向こうの間がこうも広くてハ…!!!」

 

 ロビンもメイも、他の者にはない力でのルフィの救出を考えるが、自分達と彼の間にある距離のせいで歯噛みするばかり。

 そうこうしているうちに、ルフィの周囲にも戦艦が集まり、巨大な砲門が向けられていく。

 

『立てー、麦わらさーん!!!』

『エレノア〜〜!!!』

「しっかりしなァ‼︎ 小僧――!!!」

「海賊にーちゃん‼︎」

「ルフィ!!! 立って!!! お願い!!!」

「何か手はねェのかよ、ルフィ―――!!!」

 

 これで何度目かもわからない、死が目前に迫った絶体絶命の窮地。

 今度こそ光明など一切見えない、全員が本気で最期を覚悟しかけた、そんな状況の中。

 

 

「………もう、ホントに……!!! どうしてこんな所に来ちゃうかなァ…!!!」

 

 

 エレノアがこぼした声に、仲間達が視線を向ける。

 その次の瞬間、一味全員の耳に、ある者の声が届けられる。

 

「⁉︎」

「誰?」

「何だコリャ」

「下を見ろって…‼︎」

「誰ダ、この声ハ…⁉︎」

 

 はっと虚空を見上げ、訝し気に眉をひそめ、どこから誰が発している声なのかと耳を澄ませる。

 敵か、味方か。それすらもわからない、初めて聞く何者かの声に、一味全員が困惑した顔で辺りを見渡したその時。

 

「海へ飛べ―――!!!!」

 

 言われた通りに下を見て、その誰かの姿を目の当たりにしたウソップが叫ぶ。

 全員に行き渡るように、自分の想いが突き動かすままに、力一杯に涙を流して吠える。

 

「ロビン‼︎ メイ‼︎ ルフィを海へ落とせるか!!?」

「任せて‼︎」

「ヘ⁉︎ あ、エ!!? りょ、了解でス!!!」

「あんた達‼︎ 今すぐに海に飛び込みな!!!」

 

 意図を理解したロビンが頷き、メイも困惑しながらロビンに合わせに行く。

 棒立ちになったままのフランキーやグリードに向け、エレノアがやや粗い口調で告げる。

 

 いきなりの事に、まだ理解が追い付いていないサンジ達がウソップを睨む。

 

「バカ野郎‼︎ 自滅する気か!!!」

「ヤケになっても助からねェぞ!!!」

「助かるんだ…‼︎ 助けに来てくれたんだ!!! まだおれ達には………‼︎ 仲間がいるじゃねェかァっ!!!」

 

 ウソップは顔中を涙で濡らし、サンジの襟首に掴みかかる。

 どういう事かと戸惑うサンジの視界の端で、メイが渾身の力で五本の刃を点に投げ、ルフィの元に届かせる姿が映る。

 

 メイの錬丹術で坂ができ、そこへロビンが腕を生やしてルフィを転がしていく。声が望む通りに、全員が海へ向かって走り出す。

 

「バカ…‼︎ ホントに…!!! バカ………海へ飛べェ―――!!! 」

「海へ―――っ!!!」

「海へ‼︎」

「海へ―――!!!」

 

 ばっ、と麦わらの一味と同志達が、一斉に空中へ身を乗り出す。

 砲撃が放たれ、彼らの頭上を通り支柱に炸裂する中、遥か下の海へ―――その上を進む、もう一人の仲間の元へと飛び降りる。

 

 ―――帰ろう、みんな‼︎

    また…冒険の海へ‼︎

 

 そこに、彼はいた。

 小さな体で荒波に抗い、ぴんと張ったマストで風を受け、黒い海賊旗を確かに示して。

 

 

メリー号に!!! 乗り込め〜〜〜!!!!

 

 

 一味の冒険をずっと支え続けていた勇者は。

 どんなに傷ついても、大切な仲間を次の岸へと運び続けた勇敢な船は、優しく笑って彼らの元へと戻ってきた。

 

 ―――迎えに来たよ‼︎

 

 海へと落ちた一味は、すぐさま彼の元へ泳ぐ。

 泳げないルフィとナミとチョッパー、そして重傷のエレノアはココロに放り上げられ、甲板の上に乗せられる。

 

 そうして久しぶりに、一味は乗り慣れたメリー号の上に降り立つ事ができた。

 

「急げ‼︎」

「メリ―――!!! メリー号が生きてた!!!」

「ほんっとにも〜…!!! こんな危険なところまでついて来やがってこいつめェ…!!!」

「メリーだ、メリー号だ―――‼︎ うお―――‼︎ おれやっぱりメリー号大好きだ――!!!」

 

 ゴロゴロと転がりながら、傷だらけの船の感触を確かめるエレノアとチョッパー。命の恩人となった彼に、全身全霊でそれぞれの想いを示す。

 

「信じられねェ…この船はあの時海に…‼︎」

「一体、誰が乗って来たの⁉︎」

「そんな話は後にしロ‼︎ 航海士‼︎ 指示を出セ、ここを抜けるゾ!!!」

 

 困惑するのは、この状況を奇跡と受け止めきれない頭の固さを持つ者達。

 一体何がどうなって、寿命間近のこの船がここまでやって来たのかと考えるも、そこからリンが現実に引き戻す。推理している場合などではないのだ。

 

「ぶはー‼︎ 危なかった、軍艦に殺されるかと思ったー‼︎ おい! ロビン‼︎ メイ‼︎ 助かった、ありが…ムグ‼︎」

 

 自分を支柱の爆発から救ってくれたロビンとメイに礼を言おうとするルフィ。

 だがその言葉はロビンが生やした手に塞がれ、そして反対にロビンとエレノアの方が、この場に集まった全員に感謝の眼差しを向けた。

 

「みんな‼︎ ありがとう」

「本当に…‼︎ ありがとうね…!!!」

 

 その言葉に、一味は皆微笑みを浮かべ、努力を誇示するような真似はしなかった。

 ただ、当たり前の事を下までだというように、彼女達を見つめていた。

 

「気にすんな‼︎ ししし!!!」

 

 むず痒くなったルフィが、満面の笑みを浮かべて答える。仰向けで痛々しい姿のままだが、心の底から嬉しくてたまらないという顔になる。

 暖かな空気が流れる船の上であったが、不意に彼らを睥睨したゾロがため息交じりに口を開いた。

 

「んなくだらねェ事言うのは、ここ逃げ切ってからにしろよ‼︎」

「くだらねェとは何じゃマリモォ――!!!」

「この無神経男がァ―――!!!」

「うるせェ‼︎ ここで死んだら元も子もねェだろ!!!」

「謝レ‼︎ この空気をぶち壊した事を本気で謝レェ!!!」

 

 身も蓋もない言い方をする彼に、サンジとリンが蹴りかかり、チョッパーががぶっと噛みつく。場の雰囲気を台なしにする発言に、他の面々も無言で頭を抱えていた。

 

「サンジ君、リン、舵とって‼︎」

「ア――イ‼︎ ナミさ――ん♡」

「まったク………あいヨ!!!」

 

 しかし、ナミは然して気にせず、この場を切り抜けるために全員に指示を送る。サンジはすぐにだらしない声で応じ、リンも舌打ちをしながら従う。

 

 絶望の中に見出した希望の糸を掴み、全員が生き延びる未来を引き寄せようとした……その時だった。

 

「オウオウ……冗談じゃねェ………‼︎ このまま逃がす気かよ……!!!」

 

 奴が、激痛が走る体を引きずり、その場に姿を見せる。

 顔を腫れまみれにし、原型を留めさせていないにも関わらず、電伝虫を起こし自身の声を辺り一帯に撒き散らす。

 

『逃がすくらいならば、ニコ・ロビンごと吹き飛ばせ!!!! ――と‼︎〝大将〟青キジよりことずかっている‼︎ 全艦砲撃用意!!!』

 

 その声に、一味だけでなく海軍もはっと目を瞠る。

 どれだけの犠牲を払っても、処刑ではなく確保を命じられていた女に対し、殺しの許可を出した大将の名に、海兵達から困惑の声が漏れ出す。

 

「あいつ…‼︎」

「スパンダの野郎‼︎ 生きてやがったか!!!」

 

 耳に届いた仇敵の声に、エレノアとフランキーが忌々しげに顔を歪める。

 殺すつもりで叩き潰したというのに生きているとは、どこまでしつこく、欲望に満ちた男なのだろうか、と。

 

「狙って来るぞ!!!」

「右舷から風を受けて東へ!!!」

「ダメだ‼︎ 八方塞がれてるっ!!! こっち向いてる砲口の数もハンパじゃねェぞっ!!! 当たらねェなんて不可能だ!!!」

 

 スパンダムの命令のせいで、一撃でも当たれば即死が間違いない砲弾が、あちこちから向けられる。

 再び訪れる絶体絶命の窮地。助かったと思ったのに、またこんな形で終わりを迎えるのか、とウソップが頭を抱える、そして―――。

 

『撃て――!!!』

 

 上官の号令と共に、放たれる砲弾の雨。

 それらは真っすぐにメリー号に向かい、真っ赤な花を咲かせて木端微塵にする―――事はなく。

 

 それどころか、戦艦同士に砲撃を放ち、大きな損傷を負わせ合っていた。

 

「じ……自爆!!?」

「他の弾も全然当たりませんヨ!!!」

 

 他の戦艦も次々に砲撃を放つが、照準が勝手にずれてしまい、一発たりともメリー号に当たる気配を見せていない。

 

 その理由は、海に再び起こり始めた大渦だった。

 前回になっていた正義の門がゆっくりと閉ざされ、海流に狂いが生じ始めたからだ。

 

「うっひょー、想像以上‼︎」

「サンジ‼︎ まさかお前さっき‼︎」

「根性だけで逃げきれる敵じゃねェだろ?」

 

 異様な光景を、サンジ一人だけが満足そうに眺める姿に、ウソップが思わず目を見開いて尋ねる。

 そんな彼にサンジは不敵に笑い、自分の頭をトントンと軽く叩いてみせた。

 

「す……!!! すげーぞサンジ!!!」

「天才か、お前」

「でかしたぐるまゆゥ!!!」

 

 驚愕の声を上げ、眼を跳び出させるルフィとウソップ、チョッパー。

 全身全霊で贈られる、おべっかなどでは絶対にない称賛の声に、サンジは思わず頭を掻いて照れる。

 

「喜んでばかりいられねェ、渦潮はおれ達にとってもヤベェだろ‼︎」

「そうだ!!! しぬー!!!」

 

 そこにゾロの声が混ざり、我に返ったチョッパーが悲痛な叫び声をあげる。

 再び騒がしくなる甲板の上で、海の流れを見据えていたナミがぎろりと、狼狽える男達を睨みつけて声を上げる。

 

「おだまりっ! あんた達、私達が乗ったメリー号に越えられなかった海はないっ!!!」

「うおー‼︎ そうだ!!! 頼むぞ航海士!!!」

 

 仲間が全員揃った今、最早恐れる事は何もない。

 類稀なる能力を持つ美人航海士に、一味は期待の声を上げ、彼女の指示に全力で従うのだった。

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