ONE PIECE −LOG COLLECTION : ELEANOR−   作:春風駘蕩

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第224話〝納得の血筋〟

「…コビー? コビぃ〜〜⁇ コビーは友達だけど…もっとチビのコビーしか知らねェぞ、おれは」

 

 自らをコビー……以前、少しの間共に旅をした少年だと名乗る男を前にし、ルフィは訝しげに首を傾げる。

 

 無理もない。目の前にいるのはかなり鍛え上げられた、自身とそう変わらない背丈の男前な青年。見るからに弱そうだった彼の少年とは、雲泥の差がある見た目をしているのだ。

 

「そのコビーです!!! 泣き虫でダメだったコビーです」

「ホントか〜〜〜っ!!?」

「うそ〜〜〜っ!!?」

 

 しかし、その過去を認めて力強く名乗ってみせる青年に、ルフィもエレノアもぎょっと驚愕の声を上げる。

 ゾロもまた、東の海にいる筈の彼がここに居る事に驚き、言葉を失っていた。

 

「まだまだ将校にはなれてないけど…‼︎ 近くに皆さんがいると聞いて‼︎ いても立ってもいられなくて‼︎ 今の僕らがいるのは皆さんのお陰ですから!!!」

「フン、まァ百歩譲ってな」

 

 一切の驕りなく、感謝の言葉を述べるコビーの隣で、奇妙なバイザーをつけた長身の男がぼそりと呟く。

 彼に注目する事なく、ルフィとエレノアはコビーの前へ近づき、大きくなった彼の全身を隅々まで眺めてみる。

 

「色々あって今、僕達本部でガープ中将に鍛えて貰ってるんです‼︎」

「そうなのか‼︎」

「しかし……大きくなったねェ…‼︎ 成長期にも程があるわよ? あんたぜい肉だるっだるだったのに」

 

 感嘆の声を漏らし、苦笑するエレノア。

 なにをどうやったら、あの貧弱を絵に描いたような少年がここまで成長するのだろうか、とガープの鍛え方を気にし、冷や汗を流していた。

 

「事件の後でお疲れなのにすいません」

「いいよ‼︎ 久しぶりだ、宴にしよう!!!」

「ちょっと待てお前らー!!! おれに気づいてねェんだろ!!!」

 

 和気藹々と、詳しく話をしようとルフィはコビーを海賊ルームに案内しようとする。

 だが、そこで今まで放置されっぱなしだったバイザーをつけた男が泣きながら叫び、ルフィ達の注目を引いた。

 

「誰だ?」

「おれだ――っ‼︎ お・れ・だ―――っ‼︎」

「知らねェよ、誰だ」

 

 これでもか、と自分を思い出させようとするバイザーの男だが、ルフィもゾロも全く答えが思い浮かばない。

 するとそこで、何かに気付いたらしいエレノアが、はっと目を見開いた。

 

「……まさか」

「そう!!! 答えは…ヘルメッポだ‼︎ モーガン大佐の息子‼︎ ヘルメッポだァー!!!」

 

 ぱかっ、と目を隠していたバイザーを外し、なかなか特徴的な目をあらわにする男―――ヘルメッポ。

 だが、名乗られてもなお、ルフィとゾロは思い出す事ができないでいた。

 

「お前を磔にして死刑寸前まで追いやった男だよ‼︎ ロロノア・ゾロー!!! ひぇっひぇっひぇっ‼︎」

「?」

「おいおいいい加減にしろよ!!!」

「ホラ…あの七光りのバカ息子だよ」

「あ…あいつか」

「ぅおーい!!!」

 

 首を傾げ続けていたルフィとゾロだったが、エレノアが辛辣な説明をしたおかげでようやく思い出す。

 

 脳裏に以前の姿を思い浮かべ、あいつだあいつだと納得の声をこぼす。

 思い出せなかったのは、彼もまた以前とは比べ物にならないほど鍛えられていて、そして何より最大の特徴であったキノコ型の髪型がなくなっているせいであろう。

 

「コイツら、やっぱりおれァ許せねェコビー‼︎」

「仕方ないよ、ヘルメッポさんも過去を受け入れなきゃ」

 

 不本意な覚えられ方をされていた事に、泣きながら怒るヘルメッポ。

 コビーもかつての彼の有様を思い出し、困った顔で苦笑を浮かべる。いやな覚えられ方をしていてもおかしくない所業ばかりだったからだ。

 

 何とも奇妙な再会を果たしたルフィ達を見やっていたガープは、やがて部下達に目をやって口を開いた。

 

「――さて、じゃあ…お前ら」

「はっ‼︎」

「この壁直しとけ」

「え――――――!!? そんな勝手な」

 

 自らがブチ破った壁を指差し、勝手な命令を下す上官に部下達が声を荒げる。上下関係などまるで構わず、激しい口調で全員が猛抗議を始めた。

 

「直すくらいなら、なぜ壊したんですか!!?」

「そうやって入った方がかっこいいじゃろ‼︎」

「そんな理由で壊さないで下さいよ!!! じゃ、我々直すんで、あなたも手伝って下さいよ!!?」

「え――!!? いいよ」

 

 嫌そうに声を上げるガープだったが、その後は割と素直に部下の言う事を聞き、釘と槌を手に壁の修繕に入る。

 伝説の男とはとても思えない、何とも言えない気の抜けた姿を晒す彼に、麦わらの一味がぞろぞろとルフィの傍に近寄った。

 

「偉いんじゃねェのか、お前のじいちゃん」

「さァ、仕事の事はよく知らねェ」

 

 身構えていた自分達が馬鹿馬鹿しく思えてくる姿に、全員ががっくりと肩を落とす。何を警戒していたのやら、と呆れたため息がこぼれる。

 

 するとそこで、言い忘れていたと目を見開いたガープが、ルフィの方に振り向いた。

 

「そういえばルフィお前、親父に会ったそうじゃな」

「え? 父ちゃん? 父ちゃんって何だよ…おれに父ちゃんなんかいるのか?」

「何じゃい、名乗り出やせんかったのか………ローグタウンで見送ったと言うとったぞ!」

 

 突然のガープの確認に、ルフィは訝しげに首を傾げる。

 今まで考える事も無かった、自分の父の存在。急にそれについて尋ねられても、全く身に覚えがなく戸惑うばかりであった。

 

 が、彼の仲間達は皆、興味津々といった様子でガープの話に注目し始めていた。

 

「ローグタウン……って、確か〝海賊王〟が処刑されタ」

「あの町にルフィの親父がいたのか⁉︎」

「……? おれの父ちゃんてどんなんだ?」

「興味ある、ルフィのお父さん…」

 

 破天荒で無鉄砲、他に類を見ないほど身勝手ながら惹かれる何かを持つ、自分達の船長……その父親。

 一体どんな人物なのだあろうか、とナミ達が耳を傾ける中、ただ一人エレノアだけが頬を引きつらせ、棒立ちになっていた。

 

「おい、どうした〝妖術師〟? 顔が真っ青じゃねェか」

「……………………まさか」

 

 顔からさーっと血の気を引かせたエレノアに、グリードが声をかける。

 しかしエレノアは何も答えず、困惑するグリードを他所に、ガープはついにそのものの名前を口にしてみせた。

 

「お前の父の名は、『モンキー・D・ドラゴン』、革命家じゃ」

 

 その瞬間、辺りの空気がびしっと凍りつく。

 ガープの発言を聞いた、ルフィを除いた誰もが大きく目と口を開き、固まる。

 

 そんな中、平然としたまま槌を振るっていたガープが、今度はエレノアに視線を移した。

 

「それとエレノア、お前さん叔母には会えたのか?」

「あー、いえ、そうそう会えるような関係でもないですし………ていうか、そんな簡単に会えるような人だったら、今頃あの人牢獄の中ですよ」

「ぶわっはっはっは!!! そりゃそうじゃ!!!」

 

 引き攣った顔のまま、虚ろな目で見つめ返してくるエレノアに、ガープは豪快に笑う。

 場の空気が尋常でないほどに凍り付いているのも気にせず、さらなる爆弾発言をその場に投下してみせた。

 

 

「なんせ、元〝海賊王〟の船員で、今や〝革命軍〟の幹部の一人。その上〝白ひげ〟のかつての妻・〝白羽〟オールディの姉というややこしい経歴を持つ女……………〝黒羽〟ニューラじゃからなァ」

 

 

 場の空気が、さらに温度を下げて白く染まったような錯覚まで引き起こす。

 ルフィが今だよくわかっていない顔で、エレノアが遠い目で虚空を見やり出したその直後。

 

「「「「「えェ〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!?」」」」」

 

 麦わらの一味を包囲していた海兵達がみな、とてつもない悲鳴をあげ、あちこちに向かって飛び退いた。

 全員が信じられないと目を見開き、ルフィとガープからずざざざっと大きく距離をとる。

 

「か…革命家ドラゴンに息子がいたのか!!?」

「ルフィさんがあのドラゴンの子!!?」

「じゃ…‼︎ ドラゴンはガープ中将の子!!? 何なんだコイツの家系は一体!!!」

「ドラゴンのフルネームなんて初めて聞いた‼︎」

 

 頭を抱え、自らが耳にした事実に混乱に陥る海兵達。

 それはナミ達も同じ事で、ルフィとエレノアをそれぞれ凝視してぎゃーぎゃーと叫びまくっていた。

 

「〝黒羽〟ってエレノアの叔母さんだったの!!?」

「しかも〝海賊王〟の元仲間ァ!!!?」

「そんでかつての最強の女海賊〝白羽〟の姉ェ!!?」

「家系図にしたらどんだけ恐ろしい事になるんデスカこの人達ハァ!!!!」

 

 あまりの衝撃に、意味も無く辺りを右往左往する一味やココロ達、それにフーやランファン達。

 たった一言ですさまじい混沌と化した辺りを見渡し、ルフィは隣の惨事とナミに視線を向けた。

 

「おい、みんな一体、何をそんなに」

「バカ‼︎ お前ドラゴンと〝黒羽〟の名前を知らねェのか!!?」

「あんたのお父さん‼︎ とんっっっでもない男よ!!?」

 

 困惑するルフィに、その名を知らない事が信じられないと目を剥くサンジ達。

 誰も混乱して答えを教えてくれそうにないと、ルフィは静かに困惑している様子のロビンの方を向く。

 

「おい、ロビン」

「なんて説明すればいいかしら……」

 

 ロビンでさえ、あまりに唐突な話にどうこたえたものか、と頭を悩ませる。

 

 革命軍、それはある一人の男が起こした思想の集団。

 世界政府を直接倒す為、世界中から同志を募り、現在までいくつもの国を斃してきた、政府にとっては危険極まりない敵。

 

 その指導者の名こそ、謎多き男〝ドラゴン〟……そして、もう一人。

 

「そして〝黒羽〟といえば…〝海賊王〟の航海を最後まで見届けたただ一人の〝天族〟。ゴールド・ロジャー、〝冥王〟に次ぐ実力者で、ドラゴンと同じく政府が何年も居所を突き止めようとして、手掛かりさえつかめなかった謎の女性だった…のに」

「のに⁇」

 

 意味深なところで口を閉ざしたロビンに、ルフィが問い質す。

 彼女の視線の先で、黙々と槌を振るっていたガープが―――うっかりしていた、とばかりに頭を掻く姿があった。

 

「あっ‼︎ コレやっぱ言っちゃマズかったかのう!!! ぶわっはっはっはっはっ」

 

 異様な程に軽い彼の態度に、一味や海兵達は再び沈黙する。

 恐ろしく重大で、世界を揺るがすような秘密が明らかになった筈なのに、まるで重く感じられない空気に、全員がぽかんと呆けてしまう。

 

 そしてガープは、絶句する彼らの前で再度その口を開いた。

 

「じゃ、今のナシ」

「「「「「ええェェ〜〜〜〜〜っ!!??」」」」」

 

 怒涛の展開に、最早誰も彼も、叫ぶほかに何もできない。

 エレノアもまた、虚ろな目を点に向け、乾いた笑い声をこぼすばかりであった。

 

 

 

「お前はわしの孫なので!!! あと孫の嫁もいるので!!! この島で捕らえるのはやめた!!! ――と、軍にはうまく言い訳しておくので、安心して滞在しろ」

「言い訳になってないので『逃げられた』事にしましょう」

 

 海兵達を皆引き上げさせ、改めてルフィとエレノアに対面したガープがそう告げる。

 不要な事を言いかけている上官に苦言を送る部下を他所に、ガープはコビーとヘルメッポを顎で示してみせる。

 

「何よりワシは二人の付きそいなんでな、こいつらとはまァ…ゆっくり話せ。わし帰る」

「うん、じゃあな」

「軽すぎるわァー!!!」

 

 あっさり別れの言葉を吐くルフィに、再度ガープの拳が襲い掛かる。

 敵であっても孫に愛されたいと宣う、伝説の男の身勝手さに血の繋がりを感じ、エレノアは心底呆れたため息をこぼすのだった。

 

 そしてルフィとエレノアは、本社跡地に移動し、久しぶりに会った友達との会話を始めた。

 

「ほんじゃお前らも、あの山越えて〝偉大なる航路〟へ来たのか⁉︎」

「あ…いえ、リヴァースマウンテンは越えてません」

「何で?」

「『本部』の軍艦は〝凪の帯〟を抜ける事ができるので…勿論100%ではないですが」

「えー⁉︎ ずるいじゃねェかー‼︎」

「ずるくないずるくない。向こうの目的は冒険じゃなくて治安維持だから」

 

 喚くルフィを宥めつつ、エレノアはコビーたちの話に耳を傾ける。

 どこかで聞き耳を立てている航海士に気付きながら、海軍を支える高度な科学技術について詳しく尋ねた。

 

 悪魔の実を物に喰わせるなど、普通では考えられない技術について……そしてそれを発明してみせたある天才について、次々に情報を仕入れていく。

 

「そういう画期的な技術の裏には必ず軍の科学者Dr.ベガパンクがいて。彼はすごいんですよ」

「そうだ、あいつは本当にスゲェ」

「そういやァ……何度か名前を聞くよね」

 

 いつだであったかどこであったか、そこらで聞く有名なその名に、エレノアは感嘆しつつ警戒を抱く。

 いつか敵になった時にどうするか、それを考えながら、ルフィと共に友人達との会話に花を咲かせていた。

 

「ふーん、なんかすげーのがいんのか」

「すごい人だらけですよ‼︎ 世界は‼︎ 僕はルフィさん達に会うまで、どれだけ狭い世界で生きていたのかをこの海で思い知りました」

 

 目を輝かせながら、コビーは興奮気味に語る。

 海に出る前の自分が想像もできないような世界にいるのだと、高鳴る気持ちを抑えられずに自身の感想を語る。

 

「ルフィさんがあの日…エレノアさんがあの日下から降りて来なければ、僕は今でもアルビダの船でへつらって、雑用をしてたにちがいない」

「にゃはははそうそう、アルビダの船にいたのよね」

「ホント面白かったよな、だいたい船に乗ってる理由がよ‼︎」

 

 初めての出逢いから、別れまで。

 けらけらと揶揄いながら笑うルフィとエレノアに、コビーははずかしがりながらも笑顔で、ヘルメッポは憤慨の声を上げる。

 

 実に楽しそうな彼らの声を聞きながら―――電伝虫での盗聴を行っていたナミは、微笑みながら通話を切ったのだった。

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