ONE PIECE −LOG COLLECTION : ELEANOR−   作:春風駘蕩

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第225話〝恨み辛みは水に流して〟

「え〜〜〜〜〜〜⁉︎ 本当にもう帰んのか⁉︎」

 

 昔話に花を咲かせ、もっと楽しもうと思っていたルフィだったが、コビーもヘルメッポも本部へ戻るという。

 それに対し、コビーは申し訳なさそうに頭を掻く。

 

「サンジ君のご飯食べていけばいいのに」

「僕らは敵同士…馴れ合うわけにはいきません」

「ガープ中将見ててもそんな事言えんの?」

「それとこれとは話が別だろ‼︎」

 

 ぼそりとエレノアが思った事を呟くと、ヘルメッポが難しい顔で否定する。

 海軍の英雄でありながら、孫だからという理由で海賊を見逃す男の気安さと比べられても、という気持ちが二人の顔に表れていた。

 

 コビーは咳払いをして空気を切り替えると、真剣な眼差しをルフィとエレノアに向ける。

 

「ルフィさん‼︎ エレノアさんは知ってるとは思いますが、この〝偉大なる航路〟の…‼︎ 後半の海の呼び名を知ってますか」

「……?」

「〝赤い土の大陸〟の向こう側に広がる最後の海を人は…もう一つの名前で、こう呼びます」

 

 その名は―――〝新世界〟

 ありとあらゆる海の強者達、たった一つの〝王〟の座を巡って跋扈する、血で血を洗う戦いが繰り広げられる修羅の海。聞く者を震え上がらせる、最強にして最凶の海。

 

 並大抵の者であれば、一歩踏み入るより前に尻尾を撒いて逃げ出すような、恐ろしすぎるその世界の話。

 

「次の時代を切り開く者達の集う海‼︎ その海を制した者こそが‼︎〝海賊王〟です!!!」

 

 それを聞かされて尚、ルフィは笑みを浮かべている。

 まだ見ぬ世界への冒険を夢に見て、いつもと同じように楽しそうに笑っていた。

 

「ルフィさん‼︎ 僕らきっとまた、そこで会いましょう!!! 今度は僕があなたを捕まえる!!! もっともっと強くなって‼︎」

 

 ルフィのその笑顔が、コビーの心にも火をくべる。

 

 初めて出会った時に、臆病だった自分を奮い立たせてくれて、旅立つ勇気をくれた恩人達。

 彼らに見劣らないような男になりたくて、コビーは一つの願いを立てる。

 

「僕はいつか!!! 海軍の…た…!!!〝大将〟の座についてみせます!!!」

 

 大きく響き渡る、青年の宣言。

 しかしコビーはその一言を発した事で一気に勢いを削がれてしまったのか、その場にへたり込んでしまった。

 

「ご…ごごごごめんなさい、ちょ…調子に乗りました、恥ずかしい穴があったら恥ずかしい‼︎ あ…あなたに会って僕、ちょっと気が大きくなっ…!!!」

「コビー!!!」

 

 自分がどれだけ向う見ずな大言を口にしたのか、後で恥ずかしくなったコビーがばたばたと顔の前で手を振る。

 だが、ルフィはそれを馬鹿にしなかった。にやりと不敵な笑みを浮かべて、きょとんと呆けたコビーをしっかりと見つめ返している。

 

「おれと戦うんだろ? だったらそんぐらいなれよ‼︎ 当然だ!!!」

「……!!! た…大将ですよ…?」

「今度会ったら……おれ達はもっと強ェぞ、もっとスゲェ!!!」

 

 その夢が、野望が、決して折れる事はないと心の底から信じた眼差しで、ルフィはコビーに告げる。

 その瞬間、コビーの両目からぶわっと、大量の涙が溢れ出した。

 

「何だ、泣き虫はなおってねェな、コビー」

「にゃははは、まずはそれを治さなきゃね〜」

「皆さんに今日また会えて、本当によかった…!!!」

 

 苦笑する、様子を見に来たゾロとエレノアの前で、コビーは目元を拭いながら呟く。

 遥か高い地位を目指す茨の道の夢を、必ずできると信じてくれた恩人達を前に、コビーはがばっと立ち上がると大きく声を張り上げてみせる。

 

「僕ら…!!! もっともっと強くなりますから!!! 必ずまた!!!〝新世界〟で会いましょう!!!」

「覚悟してやがれ‼︎ お前らァ!!! 今にドギモ抜いてやるぞ、ひぇっひぇひぇ!!!」

 

 コビーの再びの、今度はより強く意志に満ちた宣言に、ヘルメッポもククリ刀を構えて笑う。

 王を目指す青年との出会いによって、大きく人生が変わる事となった二人の海兵は、さらなる意気を胸に抱いて同僚達の元へと帰っていった。

 

「…ルフィ、お前また…とんでもねェ敵生み出したんじゃねェか?」

「コビーはやる男だおれは知ってんだ、しししし‼︎」

 

 コビー達の姿が見えなくなるまで、手を振って再会を願う船長にゾロが意味深に笑う。

 だが、ルフィはむしろそれを望んでまた笑う。互いにもっと強くなって、存分に戦い合えることを願って、友達の背中を見送り続けていた。

 

 エレノアもまた、ふっと微笑みを浮かべて彼らの後姿を見つめ続けるのであった。

 

「頑張れよ〜、コビー君‼︎ 君の行く道は険しく厳しく………それでいて、私の望ましい未来だ」

 

 そんな呟きを残して、エレノアは踵を返し、今の仲間達の元へと戻るのだった。

 

⚓️

 

 じゅうじゅうと音が鳴り、風に乗って香ばしい匂いが辺りに漂っていく。

 串に刺した肉や野菜を完璧に管理し、最高の焼き加減を見極めていたサンジは、さっそく出来上がった数本をさらに移して振り向いた。

 

「んナミさ〜〜ん♡ 水水肉が焼けたよ〜!!!」

「は――――い‼︎」

「んがががいいニオイらね‼︎」

「うほ――――っ!!!」

 

 プールで遊んでいたナミが返事をし、ココロが水中から凄まじい跳躍を行ってプールサイドに降り立つ。

 チムニーとゴンベから感嘆の声を貰いながら、待ちきれなくなった仲間達と共に串焼き肉……もといサンジの元へと集まっていった。

 

「よし、どんどん食えよ!!!」

「んめへへへへへ〜〜〜い!!!」

「んめへへへへへ〜〜〜い」

「んめへへへへへ〜い、水水肉バーベQ!!!」

「そげキング、いつの間に‼︎」

 

 頬の中を肉で一杯にし、ご満悦の顔で悶えるルフィとチョッパー、そしてそげキング。

 いつの間にか混ざっていた仮面の男にゾロが思わず吹き出すも、彼の他に気にする者はおらず、ゾロはすぐに指摘を諦め食事を再開した。

 

「どお? ロビンちゃん、仕込みが違うだろ」

「ええ、おいしい」

「エレノアちゃんもど〜お?」

「サイコーだよ、この焼き加減」

 

 騒がしく串焼き肉を平らげていく男達を他所に、サンジは静かに肉をかじるロビンとエレノアの元にだらしない顔で向かう。

 二人とも、明るい笑顔を見せながらサンジに頷いてみせていた。その所為でサンジの顔がよりだらしなくなったが、いつもの事のため誰も気にしなかった。

 

 と、そこへ何処からともなく、騒がしい足音が大量に向かってくるのが聞こえた。

 

「麦わらさーん‼︎ 目ェ覚ましたって⁉︎」

 

 ザンバイを筆頭に、フランキー一家とグリードファミリー、そしてソドムとゴモラまでもがやって来る。

 全員包帯まみれのままであったが、痛々しさなどまるで感じられない元気な様子で、涎を垂らして駆け込んできていた。

 

「おう‼︎ フランキー一家‼︎ グリードファミリー‼︎ こっち来て食え‼︎」

「うはー、バーベQだァ!!!」

「大好物―――っ!!!」

「おっしゃー‼︎ 混ぜろ混ぜろ〜!!!」

「騒がしい奴め…」

「この際マナーなんて二の次よ!!!」

「おい、多いなおめーら、肉追加しろよ!!!」

「バヒヒ〜〜ン‼︎」

「バヒ〜ン‼︎」

 

 全員どたばたと凄まじいやって来て、早速大皿に盛られた串焼き肉に飛び掛かる。

 想定以上の勢いにサンジが苦言をこぼし、すぐに何人かが追加の買い出し係を買って出て、串焼き肉を咥えて飛び出していく。

 

「ハラ減ったな」

「オイも」

「ウオー!!! 麦わら‼︎ 起きたのか―――!!?」

「バーベQ!!!」

「私達もいーれーてー!!!」

「おめェらプールで何を…」

 

 すると、新たな客が次々にやって来る。

 造船所の修理を手伝っていたオイモとカーシー、裏町の修繕を行っていたガレーラカンパニーの面々、そして職長達もぞろぞろとやって来る。

 

 その際、ナミの水着姿にパウリーが叫ぶのだが、ここもいつも通りなため誰も気にしなかった。

 

「ンマー、いい匂いがするな」

「ご相伴にあずかるとしようか、娘よ」

「し、仕方がないですねェ」

 

 さらには、アイスバーグとヴィルヘルム、セレネまでやって来るのだから余計騒ぎは大きくなる。

 セレネに至っては言葉ではつんつんしつつも、頬を染めてちらちらと集まりを見やっていて、周りからは微笑ましいものを見る目を向けられていた。

 

「船造りは一旦、中止だわいな‼︎」

「おォよ‼︎ 宴をケッちゃあ男がすたる!!! おれ様の席はあんだろうなァ!!!」

「だろうなァ、だわいな‼︎」

 

 そしていつものリズムに乗りながらフランキーとスクエアガールズまでやって来る。早速船作りに着工しようとしていたが、空腹には耐えられなかったようだ。

 

 そして、どどどど…!という一際大きな地響きと共に、黒い影が複数向かってくるのが見えた。

 

「おれも食うゾ!!! も〜我慢できネェ!!! ―――つーわけでたらふく食わせてもらうぜ麦わらァ!!!」

「では我らモ…」

「混ざらせてもらおうカ!!!」

「私もいいですカ〜!!?」

 

 口周りを涎で汚したリンが、グリードと交代しながら叫ぶ。

 フーとランファンは口では冷静を装いつつ、眼が爛々と光っていて欲望を隠しきれていない。メイに至っては可愛い声を出しながら、シャオメイと同じく野獣のような顔になっていた。

 

 だんだん収拾がつかなくなってくるプール。

 飛び込み台の上に昇ったそげキングとエレノアが、マイクを手に下の面々を見下ろして声を張り上げる。

 

「1番そげキング!!!〝妖術師〟君と一緒に歌います!!!」

「その耳かっぽじってよく聴けェ〜!!!」

「よーし‼︎ 宴だァ!!!」

 

 仮面の戦士と白虎の天使、二人の歌声が響き渡る中。

 激戦を共に乗り越えた同志達は、一時の休息の為、力の限り飲んで騒いで愉しみまくるのだった。

 

 

 楽しい宴が終わって、しばらく経った頃。

 

 しゅわっ、しゅわっ、と鉋が木材の表面を削り、薄い膜が辺りに飛び散る。

 廃船島の一角を使って行われている作業。そんじょそこらの木材とは比較にならない強度を誇る『宝樹』を相手に、フランキーが一心不乱に作業に没頭していた時だった。

 

「アニキ、アイスバーグ達だわいな」

「わいな」

「やってるな、フランキー」

「こりゃまた妙な所で…」

 

 キウイとモズの声に顔を上げれば、アイスバーグにヴィルヘルムがぞろぞろとやってくる姿が目に入る。

 

「んん? おめェら何しに来やがった」

「ンマー…何だ、おれ達が手伝っちゃマズイのか?」

 

 フランキーが訝しんでいると、アイスバーグは不敵に笑ってみせる。

 思わぬ助力に、フランキーは思わずぽかんとした顔になっていたが、やがてにやりと意地の悪い笑みを浮かべてアイスバーグ達を見やった。

 

「ケッ…てめェらおれの設計について来れんのか⁉︎」

「お前こそ、解体ばかりで腕がナマってんじゃねェか? ……図面見せてみろ」

 

 木材の量を確認し、続いてフランキーが書いた図面を確認し始める。

 しばらくそれを眺めていた彼が、時折感嘆の声を上げていると、フランキー達の元にさらに助っ人が訪れる。

 

「〝トムズワーカーズ〟お揃いで」

 

 パウリーにタイルストン、ルルにパニーニャ、さらにはセレネ。

 彼らはフランキーの姿を確かめると、彼が作業を行っている場所を見やって顔をしかめさせた。

 

「いやいや……何もこんなトコで船造らなくてもさ」

「ウオ―――‼︎ 麦わら達の船なんだってなァ――‼︎ 手伝える事はあるか⁉︎」

「一人で急いで、仕事が雑になっちゃイカンからな」

 

 パウリー達はそれぞれ散らばると、担いできた大工道具を地面に広げて準備を始める。

 高潮の被害痕の修繕を行っているはずの彼ら、しかもその主力たちが揃ってこの場にやって来ている事に、ヴィルヘルムが意外そうな視線を向けた。

 

「君達、裏町はいいのかい?」

「あの燃えた海賊船に替わる船を造るんなら、おれ達だけでも手ェ貸してやってくれと社員みんなが」

「腕が鳴るってもんですよ‼ 最高の船を作ってあげようじゃないの!!!」

 

 パウリーが笑みを見せると、パニーニャはグッと力瘤を作り、それをパシッと叩いてみせる。

 

 フランキーが言葉を失っていると、パウリー達に続くようにまた別の影が幾つもやって来る。

 フーにランファン、メイとシャオメイ、その筆頭を務めるグリードに、フランキーは大きく目を見開く。

 

「オウ!!! おれもいるぜ、兄弟‼︎」

「グリード‼︎ …糸目は何つってる?」

「やらせてくれとよ。雑用でも何でもいいから、あいつらのために何かしてやりてェんだと―――勝手に言うんじゃねェヨ!!! グリード!!!」

 

 ゲラゲラと笑いながらグリードが告げると、即座にリンが表に出て来て目を吊り上げる。勝手に言われたのが恥ずかしいのか、頬は少し赤く染まっていた。

 

 ガレーラカンパニーの誇る社長達と職長達、そして兄弟分とその臣下達。

 縁を繋いだ多くの者達が、見返りを求めるつもりなど一切なく、自分を手伝おうとしている。その光景に、フランキーの目に涙が滲む。

 

「おめェらどいつもコイツも…足引っぱんじゃねェぞ‼︎」

「よォし、1番ドックの腕っぷし見せたらァ」

 

 雄々しく吠える鉄人の声に、船大工達と助っ人達は勇ましく応える。

 優れた技術を誇る彼らの手により、木材は見る見るうちに、新たな姿に生まれ変わっていくのだった。

 

 

 

「にゃはは……やってるやってる」

 

 そんな、かつてはいがみ合っていた者達が手を取り合って、恩人の為の仕事をこなそうとしている姿に、エレノアは物陰に潜みながら笑みを浮かべる。

 

 あの様子を見るに、旅の移動手段が出来上がるのにそう時間はかかるまい。

 問題は旅の最中、今回のような強敵と遭遇した場合の対処についてだ。

 

(………さて、あんだけ啖呵切ったからには、やれるだけの事はやらないとな。まずは〝武装色〟と〝見聞色〟の基礎を叩き込んで……あいつらなら体に覚えさせるのが一番かな)

 

 造船の現場から踵を返し、歩きながらエレノアは考える。

 体調も随分回復した今ならば、今後に備える―――つまり、ある程度仲間達を鍛える事ができる。

 

(おそらく、あいつらの懸賞金額は大きく跳ね上がる………多くの有力な敵に狙われるという事と共に、数多の困難に遭遇する確率が増えるという事。今のままじゃ、それら全てを越えられるわけがない…………()()()()()()()()()()、私ができる全てをあの子達に託そう)

 

 仲間の事を考えて、干渉は必要最低限にするつもりだった。

 しかし、どこへ向かうにも強敵が並び、手を出さざるを得なくなってしまった。

 

 もう、こうなれば一蓮托生だと覚悟を決めていたエレノアは、やがてフッと自嘲気味に笑みをこぼしていた。

 

「やれやれ……やる事は山積みだな」

 

 どうしてこうも苦労を背負う羽目になったのだろうか。

 自分の性分と仲間達の運命の複雑さを恨みながら、エレノアは軽い足取りで宿へと戻るのだった。

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