ONE PIECE −LOG COLLECTION : ELEANOR−   作:春風駘蕩

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第226話〝義理を果たす〟

「おーい見ろ、今日の新聞だ――‼︎ エニエス・ロビーでの事が出てるぞ‼」

 

 修繕が進むフランキー一家とグリードファミリーの拠点。

 そこに戻ってきた子分の一人が、新聞を手に大急ぎで駆け込んでくる。

 

「つ…ついに出たか‼ おい、何て書いてある⁉」

「おれ達の命運を分ける記事だ!!!」

 

 政府の御膝元で盛大に暴れた後だ。その主犯である自分達に対してどのような判断が下ったのかと、戦々恐々となっていたのだが。

 

「それがよ」

「そ…それが?」

「おれ達の事は…まったく載ってねェんだ…‼」

 

 書かれていた内容に、一家とファミリーは皆目を見開いて呆ける羽目になった。

 

 

 

「どういう事だ? フランキー一家あんだけ暴れたのに」

 

 その報道は、ルフィ達の元にも届いていた。

 一家とファミリーの今後を心配していたのに、手配される事などなく、放置されている事に困惑の声をこぼす。

 

「…お前のじーさんが〝巻き込まれた一般人〟とでも情報イジってくれたんじゃねェか?」

「いやー…そういうこまけェ事は…」

「「「うん、しないと思う」」」

 

 ガープの豪快さを思い返しながらサンジが呟くが、ルフィやナミ、チョッパーとロビンが手を振ってそれを否定する。

 一人、ロビンだけが何かに気付いた様子を見せたが、誰も気づかないでいた。

 

「何にしてもよかった…おれ達ァともかく…あいつらこの先逃亡人生じゃ可哀相だもんな」

「そのかわり、おれ達の事はひでェ書かれ様だ…! 世界政府に『宣戦布告』、島が燃えた事までおれ達の仕業だとよ」

 

 新聞を眺め、自らの凶行を棚に上げた冤罪の内容を見つめ得るゾロ。

 だがその顔はにやりと笑みを浮かべており、自身の悪名が上がる事に喜びをあらわにしているのが、誰の目にも明らかであった。

 

「こりゃまた懸賞金が上がりそうだな」

「お‼︎ おれも賞金首になれるかな」

「まァ可能性はなくもねェが…大変なのはおれだよ…〝巨星現る〟だ」

「何で喜んでんの⁉︎ あんた達、バカか‼︎」

「ほっとけほっとけ、あいつらにとっちゃ名が売れるのは願ったり叶ったりなんだよ」

「……大変ですネ、あなた達…」

 

 なるべく安全に航海をしたいナミからは、喜ぶ男達に対して呆れた罵倒が放たれる。それをエレノアとメイが宥めていたが、彼女達も似たような顔でやれやれと肩を竦めていた。

 

 その時、海賊ルームの扉が開き、リンが欠伸をしながら戻ってきた。

 

「うぃース、ただいマ〜」

「おう、リン‼︎ …いや、今はグリードか?」

「うんにゃ、おれだヨ」

 

 一瞬、どちらが表に出ているのかと迷ったサンジに答え、リンはその場にどっかりと腰を下ろす。隣にフーとランファンも腰を下ろし、青年はその場で寛ぎ始めた。

 

「どこに行ってたんだ?」

「グリードとこいつの子分達ト、この先の相談にナ………おれ達ちょっとややこしい事になってっかラ」

「ああ、まァな…」

 

 一つの身体に、二つの人格が同居している、数奇な人生を押し付けられた男達。

 彼らの苦労を思い、サンジは困り顔で小さく呟く。立場も生活も異なる二人なのにこのような事になって、問題も色々浮上してきた事だろう。

 

「んで二人で決めたんだガ…………おれはここでお前らと別れる事にしタ」

「えっ…⁉︎」

「おれ達はある目的のために旅をしてたんだガ………今回運よく手に入れる事ができてナ、国に戻らなきゃならなくなっタ。割と急ぎの用でネ…」

 

 一味に真剣な眼差しを向けながら、リンは数日前、グリードと話し合って決めたとある目標について語り始めた。

 

 

 

『―――お前、おれと一緒に〝王〟になる気はねェか?』

 

 多くの子分を抱える身でありながら、別人の身体に宿る羽目になったグリードに、リンはそう提案した。

 当然、どういう事かと呆けるグリードに、リンは不敵に笑いながら詳しい内容を聞かせる。

 

現皇帝(親父)の命だった〝賢者の石〟はお前が持ってル。おれ達ァこうして一蓮托生の身になっちまったわけだかラ、お前が頷くならそいつはおれ達が組んで手に入れたってことになル……そうすりゃ王位継承権はおれにグッと近づク。違うカ?』

 

 こじつけ臭い考えであったが、グリードはその提案を真剣に悩んだ。

 青年の野望の先を想像していると、自分の中の欲望が徐々に鎌首をもたげ始めている事に気付く。そして、自分が決して不快に感じていない事にも気づき始めた。

 

⦅ガッハハハ…悪くねェ。ああ、悪くねェじゃねェか‼︎ おれにも子分がいる。お前が奴らを全員受け入れるってんなら、おれァ文句はねェぜ?⦆

『だロ?』

 

 ゲラゲラと笑いながら、リンの提案に良い反応を見せる。

 乗り気になったか、とリンが期待したその時、リンの中でグリードは口を開き、答えを口にする。

 

⦅……だが、駄目だ⦆

『えェ~~~!!?』

⦅足りねェんだよ……一国の王じゃ、おれァ〝強欲(グリード)〟だぞ? 与えられて満足するような器の小せェ男じゃねェんだよ⦆

 

 頷きそうな雰囲気だったのに、拒否されたリンは思わず声を上げて驚く。

 がっくりと落胆した青年に向けて、グリードはリンを押し退けて表に出て、にやりと獰猛な笑みを浮かべてみせた。

 

『どうせなら……………世界の王を目指そうや、相棒』

 

 そう、青年に―――いや、相棒に告げると、リンは一瞬ぽかんと呆けた顔になる。そしてやがて、グリードと似た凄まじい笑みを浮かべ出したのだった。

 

『おいおイ…ぶっ飛んでるにもほどがあんだロ!!! ―――ガッハハハハ!!! 夢はでっかくねェとな!!! 男ならよォ!!! ガーッハッハッハッハ…!!!』

 

 

 

 そんな会話があった事を伝え、リンはルフィ達に深く頭を下げる。

 フーとランファンはその行為を咎める事をせず、それどころか主と同じように、一味に向けて首を垂れた。

 

「ここまで乗せてくれたお前らにハ、まだまだ恩を返しきれてねェんだガ……」

「何言ってんのさ、十分だよ」

「今回の事件、お前らには何度も助けられた。こっちこそ礼を言いてェぐらいだ…ありがとな‼ しししし」

「……そう言ってもらえると助かるヨ。お前達に巡りあえてよかっタ……!!!」

 

 感謝の言葉を述べると、エレノアとルフィが満面の笑顔を湛えて礼を言い返す。他の面々も同じく、大きな力になってくれた仲間に優しい目を向けている。

 リンは心底嬉しそうに笑い、運命の巡り会わせに感謝しながら、仲間達との別れを惜しむのだった。

 

「ああ、そうそう……ルフィに伝えとかなきゃならない事があんのよ」

「ん?」

 

 その時、忘れていた、とエレノアが声を上げ、ルフィに振り向く。

 キョトンとするルフィに、エレノアは彼が眠っていた間に起こった事を説明する。

 

「え? え―――!!? フランキーが船造ってくれてんのかァ!!!?」

「そうか、お前寝てたもんな」

「やった―――――!!! よかった!!! 何だ、あいついい奴なんじゃねェか⁉︎」

「どんなもんか楽しみだな」

「そういえばゾロ君も外にいたんだっけ」

 

 話すタイミングがなかったゾロも感嘆の声を上げ、ルフィはバタバタと騒がしく喜びをあらわにする。

 2億Bやウソップの件に対してのわだかまりは、既に溶けているようで、エレノアはホッと安堵の息を吐いた。

 

「じゃ! その間ゆっくりお買い物でもしますか!」

 

 懸念事項が着々と解決しつつあることに安堵し、ナミが気分転換を試みる。

 が、その為に必要なケースが見当たらない事に、やがてぎょっと目を見開いて辺りを見渡した。

 

「………あれ? ………ここにあった1億Bは⁉︎」

「ああ…宴の時によ…肉やら酒やら買うのにやった‼︎」

「やった⁇ 私達のお金よ!!?」

「おれ達の宴会だったじゃねェか」

「もう、ほんのちょっとしか残ってないじゃないのよ!!!」

「だろうなー、最後にゃ町中の奴らがいっぱい集まってきて楽しかったなー、あははは」

 

 宴の楽しさを思い出し、暢気に笑うルフィ。

 彼を置き去りにし、仲間達が続々と離れていくのに気づかないまま、凄まじい殺気がルフィの周りに立ち込め。

 

 ルフィの顔面に、ナミの無数の鉄拳が容赦なく襲い掛かった。

 

「んま‼︎ 船は得したんだから、いいじゃねェかっ‼︎」

「やれやれ…」

「船に豪華な家具入れようと思ったのに…」

「ふふふ…掘り出し物を探しに行きましょ」

「いいもの探しに行きまショ」

 

 顔をボコボコにされたルフィを他所に、エレノアとロビンとメイが落ち込んだナミを慰める。悲しい背中を擦りつつ、エレノアは大きなため息を吐く。

 

「あ! ナミ、遊んで来るから小遣いくれ」

「あんたはナシよ!!!」

 

 空気を読まずに話しかけるルフィに、今度はエレノアの強烈な蹴りが容赦なく襲い掛かった。

 

 

 

 そんな騒がしさも知らず、廃船島では鉋と木槌の音が鳴り響いていた。

 六人の船大工と、二人の錬金術師。そしてそれを手伝う屈強な男達と角界ガエル。

 

 老婆とその孫、ペットに見守られながら、いがみ合いを乗り越えた男達の手によって、〝夢の船〟は産声を上げようとしていた。

 

⚓️

 

 一晩、二晩、三晩経ち、一味の傷もほぼほぼ癒えた頃。

 記録指針を確認していたナミが、ぱっと安堵の笑みを浮かべた。

 

「〝記録〟がたまった!!!〝記録指針〟が次の島を指してる‼︎」

「んじゃ、後は乗る船だな‼︎ 楽しみだ‼︎」

「そうね、驚かせるから完成まで見に来るなって言われてるし…」

「おいグリード、お前手伝いは?」

「仕上げ前はいらねェってよ」

 

 エニエス・ロビーに向かっている間、溜めておけなかった磁気がようやく貯まり、次の島へいけると一味全員が期待を寄せる。

 そこに、ココロが酒瓶を傾けながら口を挟んだ。

 

「おめェ達…その記録を辿るとどこへ着くか知ってんのかい?」

「いいえ、どこ? …何だか少し下を向いてる様な…」

「んががが…そりゃそうら、次の島は海底の楽園〝魚人島〟らよ‼︎」

 

 指針の若干の違和感に首を傾げるナミに、ココロが答えを口にする。

 その瞬間、サンジががばっと立ち上がって、眼をハートマークにして身を乗り出した。

 

「え〜〜〜!!? んぎょぎょぎょギョ…ギョ…‼︎『魚人島』〜〜〜⁉︎ ついに!!?」

「ええ⁉︎ どうしたんだサンジ!!!」

 

 鼻息荒く、次なる島へ並々ならぬ執着を見せるサンジに、チョッパーがぎょっと目を見開いて後退る。

 それとは別にナミはかつての事を思い出し、暗い顔でため息をこぼしていた。

 

「魚人島か…複雑」

「そうだなァ、お前の村の事があるからなー」

「でもまァありゃ、魚人っつっても〝海賊〟だろ」

「その通りだよくわかってんじゃねェかクソ野郎‼︎ 魚人島は〝偉大なる航路〟の名スポット‼ 世にも美しい人魚達が海上に弧を描き、魚達と共に戯れる夢の王国‼」

 

 そう、熱く夢を語るサンジ。

 しかし傍らに立つココロの姿……肥えた体にしわだらけの、酔っぱらった老婆の姿を視界に入れ、その場にがっくりと崩れ落ちた。

 

「夢見たっていいじゃねェか!!! 海賊だもの!!!」

「いるよ‼︎ ちゃんと若ェのが!!!」

「あんた、ずっと失礼よ」

 

 勝手に落胆するサンジにココロが声を荒げ、エレノアが目を細めて呟く。

 美しい人魚伝説に憧れるのはいいが、他人にその理想を押し付けるのは如何なものかと考えつつ、今更かと諦めて肩を竦める。

 

「――ただ、〝楽園〟には簡単には辿り着けそうにないよ」

「〝海底〟と言うからにはナ…」

「そこはまー、行ってみりゃわかるよ。問題はそこじゃらいね」

「はい、これ」

 

 不意なココロの意味深な言葉に振り向いたナミに、エレノアがゾロの持っていた新聞を渡し、別の記事を見せる。

 

「〝魔の三角地帯(フロリアン・トライアングル)〟……〝魚人島〟へ到達する為には、必ず通らなきゃならない海域だよ」

 

 そこに書かれていたのは―――とある海域で起こる怪奇現象について。

 毎年100隻を超える船が消息不明になり、船員だけが消えた船だけが見つかり……或いは死者を乗せて彷徨う幽霊船の目撃情報が絶えないという、怪しい噂が蔓延る間の海があるのだと。

 

「オバケ出んのか――!!? コエ〜!!!」

「生きたガイコツに会えるのか――!!?」

「お前、どんなイメージだそれ」

「やだ‼︎ 絶対遭いたくない‼︎ 見たくもないっ‼︎ そんな気味悪い船っ‼︎ その海、何が起きるの⁉︎」

 

 ココロとエレノアの語る内容に、一味はそれぞれ悲鳴をあげたり期待に満ちた声を上げたり。

 不気味過ぎる海に怯えるナミやチョッパーに、エレノアはにたりと薄気味悪く笑いながらくつくつと声を漏らす。

 

「さァねェ………何かが起きたとしても、行った連中はその海から出てこないんだもの…わからないんだなァ、これが」

 

 抱き合って悲鳴をあげるナミとチョッパーを見やり、くすくす笑う。

 余計な心労から解放されたからか、仲間を揶揄うその姿は実に楽しそうで、止めようとしたゾロも思わず躊躇っていた。

 

「騒がしい連中メ…」

「こんなんでこの先、大丈夫なんですかネ」

「霧の深い暗い海ら…気をつけな。とにかく遭難の多い危険な海ら。出航前にしっかり準備しておく事ら」

 

 不安がるナミ達に忠告を残し、ココロはまた酒瓶を呷る。

 室内の空気が緊張感に包まれたその時、ロビンがぼそりとナミ達に呟く。

 

「商船や海賊船のなれの果てのゴースト船には…『宝船』の伝説がつきものよね」

「〝ゴースト船〟を探すのよっ!!!」

「まかせろ―――!!!」

「えー‼︎ いやだー‼︎」

「ただの遭難なら食料も充分積んでくつもりだ、心配ねェ」

「宝船か…刀もあるかな」

「いいナー、おれも行きたかったゼ―――ガッハハハ!!! お前は皇帝の座で我慢しやがれ!!!」

 

 その瞬間、先ほどまでの怯えた表情はどこへやらやる気に満ちた声を上げるナミ。当然ルフィはそれに呼応し、次なる冒険へ夢を馳せる。

 一応、注意を促したココロは彼らの陽気な姿に苦笑を浮かべ、ため息交じりに小さく告げるのだった。

 

「……ま、がんばんな」

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