ONE PIECE −LOG COLLECTION : ELEANOR− 作:春風駘蕩
「海賊にーちゃん達〜‼︎」
「ニャ〜〜」
「麦わら〜〜っ‼︎」
ルフィ達が次なる海への期待に心を躍らせていると。
そこへチムニーやゴンベ、そしてスクエアガールズ達が息を切らせ、ルフィ達の元に駆け込んできた。
「フランキーのアニキが…!!! みんなを呼んで来いって…!!!」
「〝夢の船〟が完成したんだわいな!!!」
「すっごいのできてるよ――っ‼︎」
海賊ルームに入って来るや否や、ぱっと輝くような笑顔を浮かべて伝えてくる彼女達に、ルフィ達も歓喜の声を上げて出迎える。
「えー⁉︎ もうできたのか⁉︎ 随分早ェ!!!」
「超一流の船大工が7人で夜通し造ってたんだわいな‼︎」
「よし! すぐ行こうぜ‼︎」
「うおお――!!!」
最大の懸念であった船が用意できた。これでもう後は荷物を運び込み、出発の準備を整えるだけだ、とさらなる期待を抱く。
新たな船が一体どのようなものか、一刻も早くその姿を拝見したいとルフィ達が胸を躍らせていた時だった。
「麦〜〜わら〜〜さ〜〜〜…ん!!!」
大きな声を上げて、今度はザンバイを始めとして、一家とファミリーの全員が途轍もない勢いで駆け込んで来る。
全員が慌てた様子で、必死の形相をルフィ達に向けて、彼らの目の前で土下座を行う。
「フランキー一家…‼︎」
「あんた達どうしたんだわいな? 息切らして…‼︎」
「実は…無理聞いて貰おうと」
顔中汗まみれにしながら、ザンバイは懐から十数枚の紙束を取り出す。
深々とルフィ達に頭を下げ、何事かと訝しげに見下ろしてくるルフィ達を凝視し、息を切らせる口を開いた。
「……手配書……‼︎ 見ましたか⁉︎」
「手配書?」
「あんた…‼︎ とんでもねェ額ついてるぜ‼︎ 麦わらさん、それに…他のみんなも追加手配されちまってる‼︎ 話すより………見てくれ‼︎ あんたら8人全員の首に賞金が!!!」
そう言って、ザンバイが目の前に件の手配書を、現在の一味全員の顔が載った八枚の手配書を並べる。
その中に記されたそれぞれの賞金額を目の当たりにし、ルフィ達は皆一斉に言葉を失った。
〝麦わら〟のルフィ 懸賞金3億B
〝妖術師〟エレノア 懸賞金2億8000万B
〝海賊狩り〟のゾロ 懸賞金1億2000万B
〝悪魔の子〟ニコ・ロビン 懸賞金8000万B
〝泥棒猫〟ナミ 懸賞金1800万B
〝わたあめ大好き〟チョッパー(ペット) 懸賞金50B
〝狙撃の王様〟そげキング 懸賞金3000万B
〝黒足〟のサンジ(写真入手失敗) 懸賞金7700万B
大幅に賞金額が上がった者、初めてで非常に高い賞金額がついた者、想像よりも遥かに低い額が提示された者、顔写真ではなく下手くそな似顔絵で示された者。
と、決して全員にとって喜ばしくない結果が続々と表示されたのだった。
「うは――っ‼︎ 上がったー!!! そんでエレノアに勝った〜!!!」
「えェ〜…私今回全然暴れてないんですけど………」
「……………ま…まァ心中お察しするというか……色々と言いてェ事はあるだろうが、その…ま――待ってくれっ。おれ達の頼みってのはこっちなんだ、コレ見てくれ」
歓喜の声を上げるルフィや、不敵に笑うゾロ。愕然となるナミやチョッパー、サンジ、苦笑するエレノアやロビンを見渡し、ザンバイは同情の声を漏らす。
だが本題はそれではないと、すぐに別の二枚の手配書を取り出して一味の前に広げてみせる。
〝
〝黒鉄〟グリード 懸賞金4千200万B
そこに描かれた二つの顔写真を前に、一味は全員ギョッと目を見開いて固まった。ともに激戦を潜り抜けた者達が、かなりの高額で手配されてしまっていたのだ。
「フランキー‼︎ グリードも‼︎」
「――そうなんだ。おれ達は何とか免れたが…アニキ達はダメだった…」
「よかったじゃないの、お前おれと合体しててヨ―――へっ、名が売れるチャンスだったのによ‼︎」
ルフィ達が驚きの声を上げる中、リンは意地の悪い笑みを浮かべてグリードを揶揄い、悪態を返される。
しかしすぐに二人とも真面目な顔になり、もう一枚に記された兄弟分の顔を凝視する。自分達はいいが、もう一人は間違いなく大きな問題になるだろう。
「このウォーターセブンにいちゃあアニキの命が危ねェんだ‼︎ 今度捕まったって…おれ達の力じゃもう助け出せねェ!!! きっとアニキはおれ達が心配で島を出ようとしねェからよ…‼︎ そんで…みんなで話し合ったんだ……‼︎」
ザンバイの言葉に、一家もファミリーも全員ぶるぶると震えながら頷く。
悲痛に顔を歪め、涙でぐちゃぐちゃにして、ザンバイは一家を代表して困惑の表情を浮かべる一味に懇願する。
「麦わらさん、頼む!!! 無理矢理でもいい!!! アニキを海へ連れ出してくれ!!! あの人元々海賊の子なんだよ!!!!」
部屋に置いてあった荷物を全て背負い、忘れ物一つしていない事を確認してから、一味は水の都に別れを告げる準備を終える。
たった一人、数日前まで仲間であったはずの青年の事を気にしながら。
「お前ら、ウソップの事はちゃんと腹を括ったな⁉︎ これが〝筋〟ってもんだ…」
「……わかった」
ゾロの確認に、数人がまだ少し受け入れ難く思っている様子の声を返す。
その者たちは、いつまでも悩んでいられないと気持ちをどうにか切り替え、荷物を運び出す作業に集中する。
しかし、ウソップの件とは別に悩んだまま、その場から動かなくなっている者が、一人だけいた。
「おい、いつまで落ち込んでんだ。最初からその額すげェぞ」
「うるせェ!!! 何でおれだけ絵なんだよ!!! これのどこがおれだ⁉︎ あァ!!?」
「そんなもんだぞ、お前…」
「△□×〰◑※❖♨*〰✕⚙」
「言葉にしなさい、わかんないから」
不服しかない似顔絵の出来に、サンジは陰鬱さを顔全体に表し、言葉にならない呻き声をこぼす。同情すべき悲惨さであったが、エレノアも他の者も誰も彼を慰めなかった。
「急ぐんだわいな! アニキ達が待ってるわいな」
「もう行っちゃうのー? 海賊ねーちゃん達」
「忘れ物すんなよ――!!! 船とフランキー貰って出航するぞ」
「サンジが動かねェ」
「放っとけ、そんなぐるぐる」
「あァア!!?」
ドタバタと慌ただしくしながら、麦わらの一味は部屋を後にする。
彼らの背中を名残惜しそうに見送り、ココロ達はゆっくりと、海辺に向けて歩き出した。
そして一味は大荷物を担ぎ、フランキー達が作業を行っていた廃船島へと辿り着く。
そこには昼夜問わず作業を続けてきたアイスバーグやヴィルヘルム、セレネや職長達が横たわり、満足げに眠りに落ちている姿があった。
「アーニキ〜〜‼︎」
「呼んできたわいな〜〜〜‼︎」
キウイとモズが声を上げ、フランキーを呼ぶ。
しかしそこにフランキーの姿はなく、代わりにアイスバーグとヴィルヘルムがぱちりと瞼を開けて起き上がった。
「ん? ……来たか」
「おお‼︎ でけェのがあるぞ‼︎ あれか――っ‼︎ お――い‼︎ 来たぞーフランキー!!! 船くれ――っ!!!」
アイスバーグ達のすぐそばに鎮座する、布に隠された巨大な何かを見つけたルフィが大急ぎで駆ける。
起き上がったアイスバーグ達は一味を迎え、出来上がったものがよく見えるように横へ退いた。
「アイスのおっさん! ビルのおっさん!」
「来たかね…悪いがフランキーは今外していてね、でも船は出来てるよ。我々が代わりに見せよう」
「この船はすごいぞ、図面を見た時目を丸くした。あらゆる海を越えて行ける。この船なら世界の果ても夢じゃない」
「フランキーからお前らへの伝言はこうだ、麦わら」
言いながら、同じく目を覚ました職長達とセレネに見守られ、アイスバーグとヴィルヘルムは布に手をかける。
二人がかりで布を取り払いながら、兄弟弟子から託された言葉を一味に向けて贈る。
『おまえはいつか〝海賊王〟になるんなら、この〝百獣の王〟の船に乗れ!!!』
そうして現れる―――獅子の貌。
巨大な船体に、赤と白と気で鮮やかに彩られた、つぶらな瞳の獅子の船首が飾られた海賊船が、その姿をあらわにした。
「うお―――――――っ!!! でけ――!!! かっこいい〜〜〜〜!!!」
待ちに待った新たな船、まだ名もなき立派な仲間にして家を前に、ルフィが大歓声を上げる。
他の仲間達も同じく高揚した声を上げ、ドン、と雄々しく鎮座する船に駆け寄っていく。
「色々飛び出しそ〜〜〜〜!!!」
「うおお、コレくれるのか――!!?」
「へえ…メリー号の2倍はあるな!」
「おっきな縦帆‼︎〝スループ〟!!?」
「キッチン見せろ‼︎ キッチン‼︎」
「立派な船…! 船首は何のお花かしら?」
「ライオンじゃないかなァ……?」
それぞれで慌ただしく騒ぎながら、全員が早速船に乗り込み中を見る。
図書室に風呂に医務室、居間もあれば立派な台所もあり、マストも帆も大きく、より勇ましい航海が期待できる構造が目立つ。
海賊船とは思えないほどに洒落て洗練された造形に、一味の興奮は全く冷めそうになかった。
「
「夢に見た鍵つき冷蔵庫があった~~‼ 巨大オーブンまで‼ フランキーありがとう、この船サイコーだぜ‼」
「なァおっさん達、フランキーどこだ⁉︎ 礼も言いてェのにっ‼︎」
「――もうお前らに会う気はねェらしい」
エレノアやサンジでさえ、見つけた部屋にきらきらと少年のように目を輝かせ、部屋の中を走り回る。
想像を超える贈り物を貰った事で、ぜひ礼が言いたいと姿の見えないフランキーを探すルフィ。だがアイスバーグ達はそれに、苦笑混じりに首を振ってみせた。
「麦わら、あいつを〝船大工〟として誘う気なのか?」
「うん‼︎ よくわかったな‼︎ おれ、あいつに決めたんだ、船大工‼︎」
「彼はそれを察した様でね」
困ったように肩を竦めるアイスバーグとヴィルヘルム。
この場にいない兄弟弟子に呆れているような素振りを見せる彼らに、ルフィは訝し気に問い返す。
「イヤって事か?」
「その逆さ。面と向かって誘われたら、断る自信がないのさ…だから身を隠した」
「ンマー、おそらく本心は…おめェらと一緒に海へ出てェのさ……‼︎」
やれやれと首を左右に振るヴィルヘルムを見上げ、セレネが無言で目を細める。
厄介者としての意識がいまだ強い男の、真の姿のようなものを見たセレネは、複雑そうにその場に立ち尽くし、父たちの話に耳を傾けていた。
「今まで大切に温めてきたこの〝夢の船〟を託す事で充分わかるだろ。フランキーはおめェらの事を心底、気に入っちまったんだ。だが、あいつはずっとこの島にいなきゃならねェ〝義務〟を自分に課してる」
「義務?」
「我々に言わせれば、すでにバカバカしい執着だよ」
それぞれで肩を落とし、姿を消した兄弟弟子への悪態をこぼす二人。
かつて男が犯した罪、その責任感から自分の望みに素直に従う事ができず、惑い続けている彼に対し呆れと共に悲しみも抱いているようだった。
アイスバーグ達は少しの間無言になると、ルフィ達に振り向いて真剣な眼差しを向け始めた。
「君達がもし…本当に彼を連れて行きたいんなら、手段は選ぶな。力尽くで連れて行きなさい。それが彼を解放できる唯一の手段さ」
「ムリヤリ? そんなんでいいのか⁉︎」
仲間として誘うには、思いのほか強引な方法に、ルフィは思わずきょとんと呆けた反応を返すのだった。
そして、それから数分後の事。
フランキー一家とグリードファミリーの協力により、フランキーの海パンを奪取し廃船島まで誘導。
最後は一家名物の何でも砲を使用し、フランキーを直接廃船島まで送り届けたのだが。
「……何っつー事になってんだあの野郎は」
リンと交代し、一味を見送りに来たグリードが、船の残骸の中に逆様に突き刺さっている姿を見て思わず呟く。
下半身を丸出しにした醜態は町中の人間の悲鳴と怒号を呼び、一味を見送る場はとんでもない騒ぎになっていた。
「うがァ!!!」
「フランキー‼︎」
わーぎゃーとそこら中から声が上がる中、正気に戻ったフランキーが起き上がり、怒りの声を上げる。
下半身を丸出しにしたまま、自分にここまで醜態をさらさせた子分達の姿を探そうとして、そこで自らが生み出した船の上に立つルフィの姿に気付く。
「船‼︎ ありがとう!!! 最高の船だ、大切にする!!!」
「…………ああ、お前らの旅の無事を祈ってる」
子分から渡された海パンを手に、感謝の言葉と強い視線を送るルフィ。
フランキーはにやりと不敵な笑みを浮かべ、旅立ちの時を迎えようとしている若き船長を見やる。
ルフィはそんな彼をじっと見下ろし、にっと明るく笑いながら。
「このパンツ返して欲しけりゃ、おれの仲間になれ!!!!」
彼の愛用の海パンを旗のように掲げて、大きな声で告げるのだった。