ONE PIECE −LOG COLLECTION : ELEANOR−   作:春風駘蕩

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第22話〝バラティエ〟

「着きやしたっ!!! 海上レストラン‼ ゾロの兄貴‼ ルフィの兄貴‼ ウソップの兄貴‼ ナミの兄貴‼ エレノアお嬢‼」

「なんで私がアニキなのよ…」

「私だけなんでお嬢?」

「ん?」

「おおっ」

「ああっ!!!」

 

 ジョニーの声で、ルフィたちは慌てて船首の方へと集まる。

 そして進路上に停泊しているその船の外観に、彼らは歓声をあげた。

 

「ど―――っすかみなさんっ!!!」

「でっけー魚っ‼」

「うわ――っ」

「ファンキーだな、おい‼」

 

 魚の船首を備え、派手ながらも清潔そうな装飾の施された船がそこにはあった。

 華やかで愛嬌のある店の佇まいに、一同が期待を寄せていた。

 その時だった、一隻の大型船が近づいてきたのは。

 

「え? か…海軍の船‼」

「おっと…」

 

 カモメを模したマークを掲げた戦艦の登場に、メリー号の上で動揺が走る。

 ざわめく一同を差し置いて、甲板に一人の男が顔を出すと、エレノアはさっとフードをかぶって顔を隠した。

 

「見かけない海賊旗だな…おれは海軍本部大尉〝鉄拳〟のフルボディ。船長はどいつだ、名乗ってみろ」

「おれはルフィ。海賊旗はおととい作ったばかりだ!」

 

 うろんげな目でメリー号を見やる、鋼鉄のグローブをはめた海兵・フルボディに、ルフィは全く臆する様子もなく名乗る。

 その後ろで音もなく下がるエレノアに疑問を抱いたナミが、訝しげな表情で彼女を見下ろした。

 

「…なんでいきなり顔隠してんのよ?」

「んー、一応念のために?」

 

 要領を得ないエレノアの答えに首をかしげるも、ナミはそれ以上追求することなく口を閉ざす。

 この少女に謎が多いのは今更だし、幻の種族ゆえの理由か何かがあるのだろう、と自分を納得させたらしい。

 

「運が良かったな、海賊ども。おれは今日定休でね。ただ食事を楽しみに来ただけなんだ。おれの任務中には気をつけな。次に遭ったら命はないぞ」

「……胆に銘じておくよ」

 

 脅しのようなフルボディの捨て台詞に、エレノアはやや警戒しながら呟く。

 賞金こそかかっていなくとも海賊は海賊、問答無用で沈められる事態にならなかっただけでも得だと、エレノアはフルボディに背を向けた。

 

「おい、やべェぞ!!! あの野郎大砲で、こっち狙ってやがる!!!」

 

 だが、その目論見が甘かったらしい。

 ルフィ達が油断した隙に、部下に命じたフルボディが大砲を用意させていたらしい。

 甲板でフルボディが親指を下に向けた瞬間、砲門が火を吹いて勢いよく砲弾を吐き出した。

 

「撃ちやがったァ~~っ!!!」

「ン任せろっ!!!」

 

 絶叫するウソップに代わり、ルフィが向かってくる砲弾の前に立つ。

 その場で大きく息を吸い込むと、ボンッと自らを巨大な風船のように膨らませて砲弾を受け止めた。

 

「なぬ――――っ!!!」

「なに…!!?」

「返すぞ砲弾っ!!!」

 

 かつてバギーにやってみせたように、受け止めた砲弾をゴムの張力で跳ね返すと言う離れ業を披露する。

 が、今回は受け止めかたが悪かったのかもしれない。

 

「あ、直撃コース…向こうに」

 

 エレノアがポツリと呟いた直後、跳ね返った砲弾は狙いを大きく外し、バラティエの屋根の一部に炸裂した。

 

「「「「「「どこに返してんだバカッ!!!」」」」」」

 

 爆音と瓦礫が飛び散り、黙々と煙が立ち上る大惨事に、ルフィ達もフルボディも言葉を失って立ち尽くす。

 エレノアもまた顔を真っ白にして立ち尽くし、ほろりと涙を流した。

 

「慰謝料……修理費………はぅっ」

 

 恐ろしい勢いで貯金が消えていく様を幻視したエレノアは、ぽてりと枯れ木のように倒れ伏したのだった。

 

 

「オーナー、本当に大丈夫なんですか!!?」

 

 予想外の襲撃を受けたバラティエ、その直撃を受けた店主の部屋。

 そこでは、木製の義足をつく、血まみれになった大柄な老人が憤怒の形相を浮かべていた。

 

「大丈夫じゃねェっつってんだろうが!!! いいから早く店へ戻れ‼ 働け‼」

「しかし‼ 店長の体が…‼」

「てめェらおれを怒らすのか⁉」

「……‼」

「客にメシを食わしてやるのがコックだ!!! おれの店を潰す気か、ボケナスども!!!」

 

 若いコック達の心配も鬱陶しいと怒鳴りつけ、バラティエのオーナー・ゼフは砲撃の犯人に対して怒りを燃やす。

 

「連れてきました‼ オーナー‼ 犯人はコイツらです‼」

 

 しばらくすると、一人のコックがルフィとエレノアを担いで店主の元にやってくる。

 連れ込まれたエレノアはルフィに先んじて膝をつき、フードを取り払うと完璧な土下座の体勢で深々と頭を下げた。

 

「この度はうちのものが多大なご迷惑をおかけしましたことを深くお詫びします申し訳ございませんでした」

「すまん、おっさん」

「もっとちゃんと謝れボケェ!!! …本人にもしっかりと反省させます」

「…おい、お前海賊じゃなくてただのどっかの母ちゃんだろ」

 

 ガゴン、と容赦なくルフィの頭を殴りつけるエレノアに、ゼフは冷や汗を流しながら呟く。

 少なくとも荒くれ者には見えなかった。

 

「ず…ずびばぜんでじだ……」

「本人もこの通り反省して入ります。本来ならばお詫びの品や弁証と言った誠意をお見せする場なのでございましょうが、あいにく我々は航海を始めたての弱小海賊でございましてお渡しできるものが何一つなく………」

「もういいもういい…丁寧すぎてケツがかゆくなってきた」

 

 エレノアの話し方に疲れたのか、単に慣れていないのかゼフはうんざりした顔で手を振る。

 誠心誠意謝罪されていることはわかるが、性に合わない言葉遣いを受けても困るだけであった。

 

「金がねェんじゃ働くしかねェよな…」

「そうだな。ちゃんと償うよ」

「……ちなみに、どのくらいの期間に」

「1年間の雑用タダ働き‼ それで許してやる」

「「い…1年!!?」」

 

 思ったよりも高く代償がついたことに二人は驚きの声をあげる。

 だがエレノアは、諸々の慰謝料を省みて妥当だと諦める他になかった。何割かはフルボディのせいだが、あれはあれで仕事をしただけなのだから。

 が、この男は納得しなかった。

 

「1週間にまけてくれ」

「おいナメンな…人の店を砲弾で破壊し、料理長のおれに大ケガを負わせといて、たった1週間のただ働きで落とし前はつくめェよ…」

 

 強面の顔をさらに険しくするゼフに、エレノアはこれ以上怒らせるべきではないと諌めようとするが、長年の夢がかかっているルフィは一歩も引かなかった。

 そしてついには、心底お怒りの様子のゼフがノコギリを取り出してみせた。

 

「…よし小僧。そんなに時間が惜しいのなら、手っ取り早いケジメのつけ方を教えてやろう。足一本、置いてけや!!!」

 

 自分と同じように片足になったら許してやろうとうことか。

 流石に等価ではないだろうと冷や汗を流すエレノアは、困ったように目をそらした。

 

「あ…足1本と申されましても」

 

 ためらいがちに服の裾を持ち上げ、自分の金属の足をゼフに見せる。

 すると流石に驚いた様子のゼフが、大きく目を見開いてエレノアの足を凝視した。

 

「私もうこんなんですし」

「おお!!? …そ、そうか。そりゃ悪いことを…」

 

 初心者とはいえ海賊相手に凄んでいたゼフは、少女が思った以上の苦難を抱えていることを知って同情する。

 が、すぐに我に返った。

 

「って、おれァてめェに言ってんだよボケナス!!!〝料理長ドローップ〟!!!」

 

 しれっと場を流そうとしたルフィに、ゼフは怒りの一撃を食らわせる。

 しかしゼフの攻撃は、傷ついた店主の部屋には強すぎたようで、踏みつけたその場がめこっと沈み込んだ。

 

「ぬ」

 

 あ、しまった。

 そんな表情のまま、ゼフはルフィを踏みつぶしたまま床を踏み抜き、階下のダイニングへと勢いよく落ちていった。

 

「「ああああああ!!!」」

「…なんて元気なケガ人」

 

 片足とは思えない暴れっぷりを披露したゼフに、エレノアは戦慄の表情を浮かべて体を震わせる。

 しかしいくらなんでも一年は長すぎると、なんとか代価にできるものはないかと当たりを見渡し、ふと思いついた。

 

「……直せなくても、作りかえるぐらいはできるか。ちょっとぐらいは誠意を見せとかないとね」

 

 自分にできることといえば、そもそもこのぐらいのことでしかないのだとエレノアは苦笑する。

 リフォームリフォーム、とエレノアは両手のひらを合わせ、青い閃光を部屋中に走らせた。

 

「こんなもんか! よし」

 

 数分後、元の形とは大きく異なりながらも綺麗に作り直された部屋がそこにはあった。

 瓦礫から元の形を想像し、より豪華な仕様になるようにデザインした結果、万人が唸る内装に変えることができたとエレノアは満足げに頷いた。

 

 ―――海賊クリークの手下を逃がしてしまいました‼

   〝クリーク一味〟の手掛かりにと、我々7人がかりで、やっと捕まえたのに…!!!

 

 その時、自分の耳が階下で起こる騒ぎを捉える。

 気になる名前を聞いたエレノアは、眉間にしわを寄せて記憶を辿った。

 

「…クリーク?」

 

 不穏なことを聞いたと、エレノアは店の外側から下の様子を伺う。

 聞くところによれば、悪名高いクリーク海賊団の一人を七人がかりで捕らえたはいいが、尋常ではない生命力で逃げ出してきたらしい。

 しかしすでにボロボロの様子の彼は、バラティエのコックらしい逞しい腕の男に滅多打ちにのされてしまっているようだ。

 

「代金払えねェんなら、客じゃねェじゃねェか‼」

「いいぞコック‼」

「海賊なんてたたんじまえパティさん‼」

「客じゃねェ奴ァ消え失せろ!!!」

 

 客商売とは思えない形相と口調で海賊を叩き出したコックは、エプロンの端を持ち上げて客達の拍手喝采を受ける。

 いつもよくあることのようだ。

 

「さーどうぞ『お客様』どもっ‼ 食事をお続けくださーい‼」

 

 わっと歓声が上がり、乗客達はバラティエに喝采を送ると、また食事に戻っていく。

 エレノアは久しぶりに感じる恐怖に、ブルブルと肩を震わせた。

 

「……お、おっそろしい店だな、海賊より海賊みたい…オーナーさんにも逆らわないようにしとこ」

 

 よくもまあルフィはあの男に逆らったものだ。

 できるだけ早く贖罪を終えてこの船を降りたいものだ。割と切実に。

 

「…雑用一人で1年か。じゃあ私も合わせて半年…さっきリフォームした分で5か月…いや、4か月にしてもらえないか交渉するか」

 

 こういうことはどちらかといえばナミの方が得意そうだが、巻き込むのも気がひけるために今回はなし。

 いきなり前途多難だ、とエレノアは肩を落とすのだった。

 

 

 バラティエのコック・パティに蹴り出され、空きっ腹を鳴らしながらうずくまる海賊・ギン。

 空腹に苦しむ彼の前に、コトリとピラフが盛られた皿が置かれた。

 

「食え」

 

 そう言ってギンの隣に腰を下ろすのは、金髪にぐるぐるとぐろを巻いた眉が特徴的な若い男、バラティエ副料理長のサンジ。

 ギンは目の前に置かれた食べ物に目を輝かせると、飛びつくようにそれを口に掻き込んでいった。

 

「面目ねェ…‼ こんなにうめェメシ食ったのは…おれははじめてだ…!!!」

 

 温かく美味な料理を口に入れるたびに、ギンの目からはボロボロと涙がこぼれる。

 海賊として生きてきた、あくどいことばかりをやってきた彼にとってその暖かさは、苦しいくらいに幸せなものであった。

 

「……!!! 面目ねェ、面目ねェ‼ 死ぬかと思った…‼ もう、ダメかと思った…………!!!」

「クソうめェだろ」

 

 ただただ感謝の言葉しか出ないギンに、サンジは誇らしげに笑うのだった。

 

「………どうなることかと思ったけど、探し物は見つかったね」

「おう‼」

 

 二人の様子を見ていたエレノアは、ルフィに任せるように肩を叩く。

 同じく、離れた場所でその様子を見ていたゼフの元に行き、エレノアは姿勢を正した。

 

「オーナー、さっきの件なんですが…」

「…てめェがアレ、直したのか」

「あ…」

 

 少し慌てていたからだろうか、家主の許可なく勝手にリフォームを行ったと今更になって気づいた。

 真っ青になるエレノアを、ゼフはフンと鼻で笑った。

 

「見てくれは良くてもところどころ雑だ。修理費は確かに浮くが、あれじゃせいぜい二か月分ってところだ」

「………じゃあ!」

「あの小僧と一緒に5か月…‼ カッチリ働いてもらうぞ」

「はい‼」

 

 不敵な笑みを浮かべて背を向けるゼフに、エレノアは感謝の笑顔を見せる。

 天族としての姿を見せても何も言わないところをみるに、なかなか懐が広い人らしい。

 

「とりあえず、着替えはこっちで貸してやるから着替えて来い。

「はい! …って、あれ? オーナー? あんな荒くれどもばっかりのレストランなのに、なんで女子の制服が…」

「一応募集に性別は不問だったんだが、誰一人来なくてホコリをかぶってただけだ。数だけはあるからてきとうに選べ」

「りょ、了解…」

 

 それなりに願望はあったのだな、とエレノアはゼフの印象が少し変わるのを実感する。

 さて先ずは仲間に事情を説明しなければ、と歩き出そうとしたエレノアの耳が、また声を拾う。

 

 ―――行けよ、ギン…。

 ―――ああ…悪ィな、怒られるんだろ…。

    おれなんかにただメシ食わせたから。

 ―――なーに…。

    怒られる理由と証拠がねェ。

 

 皿が割れる音と、海に落ちる音が届き、エレノアはふっと笑みを浮かべる。

 荒くれ者しかいないレストランに、とんだお人好しがいたものだ。

 

「サンジ‼ 雑用‼ てめェらとっとと働けェ!!!」

 

 ゼフの怒号に急かされる二人を見やりながら、エレノアは期待に胸を膨らませる。

 思った以上の成果が得られそうだ。

 

「…彼の勧誘は任せたよ、ルフィ」

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