ONE PIECE −LOG COLLECTION : ELEANOR−   作:春風駘蕩

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第229話〝ごめん〟

「ガープ中将‼〝麦わらの一味〟が見つかりました。南東の海岸、廃船島で今まさに出航目前の様で‼」

「すぐに向かうぞ、全員乗れ‼」

 

 ウォーターセブンの一角に停泊していた海軍の軍艦が、ゆっくりと動き出す。

 麦わらの一味を捕らえるという任務を無視しようとしていたはずの彼らだったが、ある事情で再度ルフィ達の元に向かう羽目になっていた。

 

「ガープ中将、僕らルフィさん達と爽やかに別れた手前、すごく恥ずかしいんですが」

「……」

「文句ならセンゴクに言え‼ あいつに怒られて引き返すハメになったんじゃからな! …偉そうに‼〝金獅子〟の件じゃ内心エレノアに感謝しとったくせに‼」

 

 不機嫌そうな顔で腕を組むガープに、困り顔のコビーが告げ、その隣でヘルメッポも微妙な顔になる。

 互いにさらなる精進を重ね、いずれより強くなって会おうと男の誓いを果たして来たのに、ものの数日で再会する羽目になったのだから無理もない。

 

 そこに、ガープの傍でデッキチェアに気だるげに寝転がった青キジが、ぼそりと口を挟む。

 

「電伝虫で『孫だから』ってアンタ言うからでしょうが」

「やかましいわ、黙っとれ〝青二才〟が」

 

 それぞれ複雑な気持ちを抱えたまま、ガープが率いる軍艦は廃船島に向かって進行を開始した。

 

 

 

「出航―――‼︎」

 

 多くの人々に見送られて、獅子の船首の船が進み始める。

 本来嫌われ、疎まれる存在である海賊達を、人々は心からの感謝を込めた声を送り、見送っていた。

 

「アニキーお達者で―――‼︎」

「フランキー一家は不滅ですぜー!!!」

「しっかりやれよォ――――兄弟~~!!!」

 

 ともに旅立つ事を決意した兄貴分であり兄弟分の背中を、子分達とグリードが手を振って送り出す。

 過去に前例のない暖かな雰囲気の中、進んでいく船の上で、フランキーは仲間達に振り向いた。

 

「ちょっと‼︎ ルフィ‼︎」

「ルフィ――――!!!」

「本当にいいのか、麦わら。もう一人待たなくて」

 

 ナミとチョッパーも同じく、ここにまだ現れていない一人を待たずに出航を決めた船長を凝視する。

 それにルフィは、笑って首を横に振る。明らかに無理をしている、引き攣った顔で仲間達に決定はくつがえらない事を告げる。

 

「待ってたさ‼︎ サンジからあの話を聞いてから、おれはあのガレーラの部屋が留守にならねェ様にあそこでず――っと待ってたけど、来なかった‼︎ これが答えだ‼︎ あいつだってよ…‼︎ 楽しくやると思うよ」

 

 そう語るルフィの脳裏には、数日前にサンジからある情報が。

 出て行ったウソップが、誰もいない海岸で何やら一味に帰った時の予行演習をしていると知った時の様子が思い出される。

 

 

 

 ―――誰一人、こっちから迎えに行く事はおれが許さん。

 

 一味の元狙撃手に戻って来る意思があると知り、大喜びで迎えに行こうとしたルフィ達に、ゾロが厳しい口調でそう言い放った。

 

 ―――間違ってもお前が下手に出るんじゃねェ、ルフィ。

    おれァあいつから頭下げてくるまで認めねェぞ‼

 

 困惑するルフィ達に、ゾロは有無を言わせぬ鋭い目で仲間達を睨みつける。

 彼もウソップのエニエス・ロビーにおいての加勢については感謝しているが、それとこれとは別だと拒絶の意思を見せる。

 

 ―――ルフィとウソップの初めの口論にどんな想いがあろうが、どっちが正しかろうが……‼

    男が〝決闘〟を決意した以上、その勝敗は戦いに委ねられた。

    そしてあいつは敗けて……‼

    勝手に出てったんだ。

 

 痛々しい、仲間同士での戦いの光景が蘇り、チョッパーの顔が悲痛で歪む。

 気持ちは理解できるが、激情のままに船長を罵倒し、決別の戦いを挑み、そして敗北し地に沈んだ姿が全員の脳裏に蘇る。

 

 ―――いいか、お前ら。

    こんなバカでも肩書は〝船長〟だ。

    いざって時にコイツを立てられねェ様な奴は、一味にゃいねェ方がいい…‼

    船長が〝威厳〟を失った一味は必ず崩壊する!!!

    普段おちゃらけてんのは勝手だが、仮にもこのおれの上に立つ男がダラしねェマネしやがったら、今度はおれがこの一味を抜けてやるぞ!!!

 

 ガンガンとルフィの頭を刀の柄で叩き、鋭い声でそう告げる。それじゃ本末転倒だと口を挟むナミに一喝しながら、己の意思は変わらないと鋭く仲間達を睨みつける。

 

 ―――あのアホが帰って来る気になってんのは結構な事じゃねェか。

    だが、今回の一件に何のケジメもつけず、うやむやにしようってんなら、それはおれが絶対に許さん!!!

    その時は、ウソップはこの島に置いていく‼

 

 残酷な言葉に、ナミが思わず止めようと声を漏らすが、ゾロはそれを一蹴し刀の鞘を床に突き立てる。

 普段は仲の悪いサンジも、今回ばかりはゾロに賛成し厳しい視線をナミに向けていた。

 

 ―――エレノアだって頭下げて詫びたんだ………そのくらいの誠意を見せねェ様な奴を受け入れる気はねェ。

    もしこいつが頭を下げる事なく、おれ達の前に居座ってたんなら、おれはエレノアを追い出してた。

 

 ぎろり、とゾロの目がエレノアを射抜き、エレノアの肩がびくっと跳ねる。

 無意識のうちに、ナミと同じくウソップを擁護する言葉を吐きそうになっていた彼女は、やがて諦めたように俯いてしまった。

 

 ―――こんな事を気まぐれでやる様な男を、おれ達がこの先信頼できるハズもねェ……‼

    簡単な話だ…ウソップの第一声が深い謝罪であれば、よし…それ以外ならもう奴に帰る場所はない。

 

    おれ達がやってんのはガキの海賊ごっこじゃねェんだぞ!!!

 

 ウソップが一味に戻る事ができる条件を設定し、ゾロは鋭く言い放つ。

 最後にはルフィもそれで納得し、船が完成し、出航するまでの数日間、ウソップの反応を待つ事を決めたのだった。

 

 

 そして数日間、ウソップが一味の元に顔を出す事はなかった。

 それを悲しみながら、寂しがりながら、ルフィはそれを仕方がない事だと割り切ろうとしていた。

 

「海賊はやめねェだろうから、そのうち海で会えるといいなー‼︎」

 

 陽気に笑おうとしつつ、やはり無理をしているのがまるわかりな様子。

 いつも通りに笑えなくなっているルフィに、仲間達も暗い雰囲気を醸し出しながら、何も言えず航行の役目を果たそうとする。

 

 その時、船の近くで大きな水飛沫が立ち上り、船体がぐらぐらと大きく揺さぶられた。

 

「しまった‼︎ 見つかったぞ、海軍だ‼︎」

「………‼︎ じいちゃん!!?」

 

 波を掻き分け、近付いてくる犬の船首の軍艦。

 その甲板の上にガープが、拡声器を持ってルフィに声を発してくる。

 

『おいルフィ〜〜、聞こえとるかー‼︎ こちらじいちゃん、こちらじいちゃん』

「おいじいちゃん‼︎ 何だよ‼︎ おれ達の事ここでは捕まえねェつったじゃねェか‼︎」

『いやあしかしまあ、色々あってな。すまんがやっぱり海のモクズとなれ‼︎』

「え〜〜〜っ!!?」

 

 一方的な決定に、思わずルフィが目を剥いて声を上げる。

 安心してゆっくりしていろと言っていた筈なのに、正反対に意見を変えて捕まえようとして来る祖父の身勝手さに驚愕が止まらない。

 

 なお、自身も大体似たような性分である事は、まったくもって無自覚でいた。

 

『お詫びと言っちゃあ何じゃが、わし一人でお前らの相手をしよう‼︎』

「それはハンデじゃないよ⁉︎ 死刑宣告ってんだよガープ!!!」

『ぶわっはっは‼︎ まァそう言うなエレノア‼︎』

 

 海兵達を後ろに下がらせ、上着を脱ぎ捨てるガープの言葉にエレノアが目を剥く。

 人員を減らそうが手加減しようが、一人で何十何百人分もの戦闘力を有する男が相手では、ほとんど意味がないとしか思えなかった。

 

〝拳・骨…隕石〟!!!

 

 そして、ガープが手にした砲弾が凄まじい勢いで飛来し、廃船島の一角に炸裂する。

 爆発を起こしたその箇所を凝視し、サンジがぎょっと目を見開いた。

 

「す…素手で大砲撃った!!?」

「大砲よりよっぽど強く飛んで来たぞ、野球のボールじゃあるめェし!!!」

「ぶわっはっはっは‼︎ 年は取りたくないもんじゃ、最近パワーが落ちていかんわい‼︎」

 

 戦慄するサンジとゾロの耳に、豪快に笑いながら腕をさするガープの声が届く。

 最近は力が落ち。ならば全盛期はさらに凄まじいものだったのか、と海軍のまだまだ底の見えない力に背筋を震わせる。

 

「何っつージイさんだ……―――おいお前ラ!!! 踏ん張れヨー!!!」

 

 住民達の間から身を乗り出し、グリードとリンが一味を応援する。

 敵に回すには明らかに危険すぎる男に狙われ、絶体絶命の窮地に置かれる仲間達に、何も出来ない自分を不甲斐なく思いながら叫び続ける。

 

「仕方ないっ‼︎ とにかく逃げるわよ⁉︎ 新しい船が粉々にされちゃうわ!!!」

砲弾(タマ)1000発持って来い!!!」

「「「はっ」」」

 

 ガープの命令で、海兵達がガラガラと砲弾を乗せた台を運んでくる。

 本来、大砲の傍に設置して次々に装填するための道具だが、海兵達はそれをガープを中心に配置する。

 

 それを見て、コビーとヘルメッポも戦慄の表情を浮かべた。

 

「〝拳骨流星群〟!!!」

「あーあ、あんなのくらったら船の一隻なんてひとたまりもねェぞ‼︎」

「……さァ始めようか、小僧共」

 

 ぼきぼきと拳を鳴らし、手近な位置に置かれた砲弾をつかみ取る。

 それをまさに野球の球のように構える姿を目の当たりにして、ルフィ達は同時に震えあがり、慌てて動く。

 

「船は全速前進‼ おれ達は砲弾を潰す‼」

「ああ」

「了解!」

 

 速度を上げるため、砲弾を防ぐため、ナミが全員に指示を送る。

 直後、ガープが放った砲弾が次々に飛来し、ルフィ達は船体に直撃しそうなものを次々に破壊していく。

 海面に炸裂したものでも、大きな波を生じさせて船体を揺らすものだから、堪ったものではなかった。

 

 その時、双眼鏡を手に町の方を覗いていたチョッパーがハッと息を呑み、一味に振り向いた。

 

「きた!!! きたぞウソップが」

「本当⁉︎」

「おい、みんなーウソップが来たぞー‼︎」

 

 全員が町に視線をやれば、確かに一人の青年が何かを叫びながら、町から飛び降りて駆けてくる姿が目に入る。

 しかしルフィもゾロも、彼の元に向かおうとする素振りを全く見せなかった。

 

「ゾロ君!!!」

「聞こえねェよ…‼」

 

 降り注ぐ砲弾を防ぎながら、響いてくる声を無視するルフィ達。

 チョッパーやフランキーがそれを咎めるが、誰も振り向こうとしない。響いてくる言葉が謝罪の言葉ではないために、決して迎えに行こうとしなかった。

 

「別れの言葉………二度も言わせてくれねェのかよ…‼︎ そっちがその気なら…最後に一つ…言わせて貰うぞおめェら…」

 

 廃船島の縁に立ち、遠ざかっていく船を見つめて荒い息を吐くウソップ。

 何の反応も返してくれない仲間達をキッと睨み、拳をきつく握りしめると、その場で大きく息を吸い込み。

 

ごめ"――ん!!!!

 

 町中と、遠ざかる船にも届くような大きな声で、そう叫ぶ。

 ボロボロと涙を流し、顔をぐちゃぐちゃにした長鼻の青年の声が、ルフィ達を懸命に呼び止めようと響き渡った。

 

「意地はってごべ―――――ん!!! おれが悪がったァ――!!!! エレノアァ〜!!! ヒデーこと言っでホントにごべんよォ―――!!!」

 

 ぼたぼたと涙と鼻水を混ぜ、地面に垂らす。嗚咽で肩を震わせていた彼は、やがてその場にがっくりと膝をつき、土下座をしながら悲痛に泣き叫ぶ。

 

「今更みっともねェんだけども!!! おれ"、一味をやめるって言ったけど!!! アレ…!!! 取り消すわ"けにはいかねェがなァー!!! ダメ"かな"ー!!! …頼むからよ、お前らと一緒にいさせてくれェ!!! もう一度…!!!」

 

 情けなくて、見っともなくて、それでもこれからも共にいたいという気持ちで、恥も何もかも捨てた必死の姿を見せる。

 こんな形での別れなど御免だと、懸命に頭を下げて懇願してみせる。

 

「おれを仲間に入れてくれ"ェ!!!!」

 

 海の向こうに響き渡る、自分の声。

 それに応える声が何もない事に、ウソップががっくりと項垂れかけたその時。

 

 

 彼の目の前に、獅子の船の後部から伸ばされた船長の手が、大きく手を開いて差し出された。

 

 

「バガ野郎――はやく掴ばれ――っ!!!!」

 

 ふっ、と不敵に笑っていたルフィの顔が、ウソップと同じくぐちゃぐちゃに崩れる。ぶわっと噴き出した涙と鼻水で、見るも無残な有様になった。

 

 そんな船長の姿をエレノアはけらけらと笑い、目尻に涙を滲ませて大きく叫んでみせた。

 

「そんなの最初っから怒ってねーんだよ!!! バ―――――カ!!!!」

「むあ…!!!」

「バカはおめェらだ‼︎」

「アハハ…!!! カッコ悪いわね、あんた達っ」

 

 途端にやかましく、しかし重苦しかった雰囲気を霧散させるルフィ達にゾロ達が苦笑し、ナミが呆れて笑う。

 ウソップが伸ばされた手をつかみ、まるで釣りのように引き戻しながら、ルフィは仲間達に向けて泣きながら叫んだ。

 

「やっと…全員揃った!!! さっさとこんな砲撃抜けて‼︎ 冒険にいくぞ野郎共〜〜!!!」

「「「「「「「「「お―――っ!!!」」」」」」」」」

 

 一度は切れかけ、そしてあらためてより強固に繋ぎ直された絆を確かめながら。

 一味は新たな海を目指して、改めて進み出すのだった。

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