ONE PIECE −LOG COLLECTION : ELEANOR−   作:春風駘蕩

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第230話〝君の名は〟

「行ケ―――お前ラァ!!! どこまでもどこまでも!!! 夢に向かって突っ走レ〜〜!!! ―――ガッハハハ!!! 負けんじゃねェぞ、兄弟ィ!!!」

「エレノアちゃ〜ん‼︎」

「エレノア〜〜〜!!!」

「頑張レ!!! エレノアさン!!!」

 

 砲弾が降り注ぐ中、遥かな水平線の向こうを目指して突き進む獅子の船首の船を見送り、水の都の住民達が声を上げる。

 その中には、少しの間共に旅をした者、司法の島で共に戦った者、一味の一人と縁深い者の姿もあり、遠ざかっていく彼らを力の限り激励を送っていた。

 

 しかし、突如一味の船で、貼られていた帆が一つ一つ畳まれていく様を目にし、リン達はギョッとなる。

 

「ン⁉︎ 何してんだあいつラ⁉︎」

「なぜ帆をたたんデ…!!?」

 

 推進力を得られない状態で、どうやって海軍から逃げるつもりなのか。

 一味の謎の行動に瞠目しながら、リン達はそれを見守る事しかできずにいた。

 

 

 

 そしてその行動は、一味の数人も首を傾げるものであった。

 訝しみながら、フランキーに指示された通りに歩を畳み、ロープを結んで纏めていく。その間、速度は徐々に落ちる一方であった。

 

「おい、いいのかよフランキー‼︎」

「バカ野郎‼︎ この船を信じろ‼︎」

「そうだ信じろバカヤロー‼︎」

「コノヤローバカヤロー‼︎」

「コンニャロめー!!!」

「手伝え、お前ら‼︎」

 

 困惑の声を上げるサンジに、フランキーは踊りながら笑う。

 その横では肩を組みあったルフィ、ウソップ、チョッパーがゲラゲラと笑っていて、ゾロに激しく叱責を受けていた。

 

「ウソップあんた、ほんの数秒前まで……まあいいけど」

「気にしたら負けだよ、ナミ」

 

 何の違和感もないように、ごく普通に一味の中に戻ってきているウソップに何か言いたげにしていたナミだったが、エレノアに言われてすぐに諦めた。

 

 そして、何が起こるのかも知らないまま帆を畳み終えた時だった。

 

「何⁉︎ 船の名前⁉︎ こんな時に⁉︎」

「そうさ、名もねェ船じゃ出航に勢いがつかねェだろ」

「『何とかライオン号』みてェな感じか?」

 

 不意にフランキーがあげた、この船の名前をどうするか質問に、一味の面々は首を傾げる。

 急に聞かれると、意外と出てこない。海に沈んだ船、ゴーイングメリー号は製作者のメリーがつけたものであり、一から考える機会はなかったのだ。

 

「よーし‼︎ 強そうな名前おれ考えた‼︎『クマ‼︎ 白クマ‼︎ ライオン号』‼︎」

「そんな変な名前の船あるかァ!!!」

 

 いち早く手を上げたルフィだったが、案の定まるで頼りにならない。

 その後も『トラ‼狼‼ライオン号』だったり『イカ‼タコ‼チンパンジー』だったりと、碌な名前が一つも出てこない。その度にウソップのツッコミが飛んだ。

 

「あいつに任せてたらとんでもない名前にされちゃうわ………エレノア、あんた何かない?」

「えー…っと…………キ…『キングライアン5世号』とか?」

「5世どっから出て来た!!?」

 

 急にナミに振られたエレノアが、ぎょっと慌てふためきながら浮かんだ名を上げると、またもウソップからツッコミが飛ぶ。

 恥ずかしそうに顔を伏せるエレノアを他所に、フランキーが不敵に笑みを浮かべる。

 

「船の名前、おれからも候補があるぜ」

 

 それは、船の製作途中、船首部分を見たガレーラの船大工達との会話の中で上がった単語だった。

 出来上がったそれを見て、船大工達はひまわりだと、アイスバーグとヴィルヘルムに至っては太陽だと勘違いし、勝手にそれに相応しい名前を考えた。

 

 その船の名前こそ―――過酷なる〝千の海〟を〝太陽〟のように陽気に越えていく船。

 

『サウザンドサニー号』

 

 フランキーの口から紡がれたその名に、ルフィ達は皆わっと歓声を上げた。

 

「おおっ!!?」

「かっこいいなそれっ!!!」

 

 獅子の船首でありながら、太陽を元とした名前だが、一味の気質を基としたためか、ひどくしっくりくるように感じる。

 勘違いから発生したものであったが、それ以外にないくらいに一味の心をつかんだようだ。

 

「おれが今考えた『ダンゴ・ゴリラ・ライオン号』よりいい‼︎」

「しりとりかっ‼︎」

「おれの頭をよぎった『ライオネル親方』より…いいな」

「私の『暗黒丸』より…」

「おれの『ムッシュひまわり』より…」

「気は確かかおめーら!!!」

「今日も今日とてキレッキレだねェ、ウソップ君……」

 

 仲間達から次々に上がる名前、あまり呼びたくないそれらにウソップが目を見開いて平手をびしっと振るう。

 以前の一味での彼が戻ってきたと感じ、エレノアは呆れつつもホッと安堵していた。

 

「千の海を越える船って…素敵ね…〝太陽〟も」

「待て‼︎ お前ら今のは序の口だ、おれの考えたこの名前こそ本命‼︎ 聞け‼︎ この船の名前は…」

 

 名前が決定しかけたそこへ、フランキーが待ったをかける。

 数々の船を作り、それら全てに名前を付けてきた彼にとっては、名づけは決して譲れない儀式らしい。

 

 が、意気揚々と告げた彼の名前の案、『ライオンギャングチャンピオン号』という名を聞いている者は、誰もいなかった。

 

「アイスのおっさん達のやつでいこう‼︎ 気に入った‼︎」

「『サウザンドサニー』か、いい名前だ‼︎」

「賛成‼︎」

「名前が決まると出航の気が引き締まるもんだな!」

「よろしくな、サニー!!!」

 

 ルフィ達は既にサウザンドサニーという響きを気に入り、口々に船に呼びかける。フランキーの声には気づいてもいなかった。

 無視されたフランキーはそっぽを向き、唇を尖らせてブーブーとぼやいていた。

 

「おいフランキー、そこで何ブーブー言ってる。早く秘密兵器とやらで振り切れよ‼︎」

「ああ、急げ。おめーの言う通り帆はたたんで、もう軍艦はすぐそこだ!!!」

「わかったよ、うるせェ‼」

 

 ゾロに苦言をぶつけられ、フランキーは声を荒げて反応を返す。

 そしてやがて、にやりと笑って町に背を向けている仲間達に告げる。

 

「︎今のうちにこの美しい〝水の都〟を見納めとけ‼︎ あっと言う間に島のかげも見えなくなるぞ」

「そうか…じゃ。じいちゃ――――ん‼︎ それから……‼︎ コビーと…」

 

 ルフィは頷くと、船尾に進み出て身を乗り出し、自分達を追いかける海軍の船に向けて手を振り、祖父と友人に向けて声を張り上げる。

 何発も拳骨を食らったりしたものの、滅多に会えない存在との再会に対する喜びを大きな声で伝える。

 

「久しぶりに会えてよかった!!!」

「呼べよ!!! おれの名を!!!」

「何じゃいルフィ!!! まだ玉は残っとるぞ!!!」

 

 名前を呼ばれなかったヘルメッポが抗議の声を上げるのをよそに、ガープは砲弾を撃ち込む。

 ルフィはそれを片腕を横に薙ぐ事で弾き、難なく防いでみせた。

 

「ムダだ‼︎」

「ん⁉︎」

「こっからおれ達、本気で逃げるからな!!! またどっかで会おう!!!」

 

 追跡など何の意味もない。何と言われようとも、祖父の強さにも負けない大海賊になってみせると宣言するように、ルフィは堂々と告げる。

 その不敵さに、ガープはカチンと怒りを抱き、目を吊り上げて孫を睨みつける。

 

「おんのれ、わしの子供の子供のくせに生意気な!!! ルフィ〜〜!!!」

「ガ…ガープ中将、ちょっと冷静に‼︎」

 

 拳をわなわなと震わせるガープを、ヘルメッポが必死に宥めようとし、その横でコビーはルフィの堂々とした姿にさらなる憧憬を抱く。

 ガープから放たれる圧が膨れ上がる様に、ルフィは楽しそうに笑いながら、今度はウォーターセブンに向けて声を張り上げた。

 

「アイスのおっさーん!!! ビルのおっさーん!!! 船の名前貰ったぞ!!! いい名前ありがとう!!!」

「パニーニャも‼︎ セレネも‼︎ ガーフィールさんも‼︎ ホントにありがと〜!!!」

「みんな色々ありがとう―――!!! おれ達行くからよ―――っ!!!」

 

 もう、声など発しても届かないであろう遠い距離。

 それでも、旅の助けをしてくれた事への精一杯の感謝を伝えたいと、一生懸命に手を振って叫ぶ。

 

 町ではそんな彼に苦笑しつつ、一味の無事を願う暖かい視線が向けられていた。

 

「わしをナメとったら、ケガするぞ――!!!」

 

 その時そこへ、軍艦と殆ど同じほどの巨大な鉄球をガープが大きく腕を振りかぶり、振り下ろしてくる。

 迫り来る鋼鉄の球体、いや最早壁と呼ぶべき凶器を前に、一味が全員そろって悲鳴をあげた、その瞬間。

 

 

風来(クー・ド)バースト〟!!!

 

 

 サウザンドサニー号の後部に備わった、大きな穴。

 その奥から光が漏れ出し、直後に凄まじい衝撃が発生し、船を遥か空へと飛び立たせた。

 

 船が空を飛ぶ。これまで見た事がない光景に、一味も海兵達も全員、驚愕で目を見開いた。

 

「うおお―――――っ!!!」

「……この感覚は…!!! 覚えがある!!!」

 

 天を突き進むサニー号にしがみつきながら、ルフィ達ははっと息を呑む。

 凄まじい速度で空を舞うその感覚は、かつてメリー号と共にエニエス・ロビーから脱出する際に感じたもの。

 

 コーラを使ったフランキー自慢のシステム。

 1㎞飛行できる前代未聞のその力を、フランキーは自慢げに語る。

 

「お前らの乗ってきたゴーイング・メリー号にできて、この船にできねェ事は何一つない‼︎ 全てにおいて上回る‼︎ だが、あの船の勇敢な魂は‼︎ このサウザンドサニー号が継いで行く!!!」

 

 海に沈んだ勇敢なる船に対して最大級の敬意を表し、その経験の全てを詰め込んだものを作った、とフランキーが笑う。

 彼にも負けない海賊船にするために、フランキーはここから先の旅を望む。

 

「破損したらおれは完璧に直してやる!!! 船や兵器の事は何でもおれを頼れ!!! 今日からコイツが‼︎ お前らの船だ!!!」

「「「「「おおォ―――っ!!!」」」」」

 

 海賊達の雄々しき雄叫びと共に、獅子の船は水平線の彼方へと飛んでいく。

 その様を、ガープを始めとした海兵達は驚愕と称賛の混じった眼差しで見送るのだった。

 

 

 砲弾の雨もやみ、穏やかになった海。

 遠く、見えなくなってしまった一味の向かう先を眺めていたリンが、不意にため息をこぼした。

 

「やれやレ……騒がしい奴らが皆行っちまっタ」

「いたらいたで鬱陶しい連中だったガ………どうしたものカ、あの騒がしさが恋しく思えてくるわイ」

 

 肩を落とすリンの隣で、フーも肩を竦める。

 悪態をつきながらも、分かれた仲間達に対して寂しさを感じている事を察し、リンはにやにや意味深に笑う

 

「さてト…旅の目的は達成しタ。とっとと故郷(くに)に帰ってクソ親父から玉座を奪い取るとしようカ……」

 

 ぐいっ、と勢いをつけて立ち上がり、踵を返そうとするリン。

 しかしその前に、ぼんやりと海を見つめるメイに目をやり、その傍に徐に近付いていく。

 

「おれァそういうつもりだから、お前も覚悟しとけよチャン・メイ。後継者争いは今日この時を持って終わル」

 

 その言葉に、メイの肩がびくっと震える。

 目指していた物を、政敵に先に奪われ、自分の旅が無意味になってしまった事に対して、酷く落胆を覚えているようだ。

 

 暗い顔で俯く少女に、リンはふんと鼻を鳴らして自分を指差した。

 

「んデ………お前の部族も全員受け入れてやル」

「…エ?」

「おれはこの不死身の怪物すら受け入れた男だゾ? 敵対部族の一つや二つすくい上げたっテ、痛くも痒くもねェヨ」

 

 平然と、時に殺し合いにまで発展しかける程に険悪な仲である政敵を受け入れる宣言をしたリンに。

 メイはすさまじく険しい顔で、涙目でぶるぶると身体を震わせた。

 

「……何つー顔してんだ。安心しろ、シン国の人間は盟約を決して破らねェんだゾ」

「全部だなんて強欲すぎヨ!!! ヤオ・リン!!!」

「あー…合体してるせいかグリードのが移ったか―――ガッハハハハハ!!!」

 

 自分が思いのほか、同居人に影響を受けている事を自覚し、頭を掻く。

 その時、交代したグリードの元に、グリードファミリーの面々が全員揃って跪き、首を垂れてくる。

 

「おれ達ァどこまでもお供しますよ、グリードさん‼」

「ついでにお前にも従ってやるよ、糸目‼」

「シン国だろうがどこだろうが行ってやらァ!!!」

 

 姿が変わり、時折人格が交代するというややこしい状況になりながらも、変わらず忠誠心を向けてくる彼ら。

 その様に、グリードは満足そうに口角を上げ、肩を揺らした。

 

「ガッハハハ、頼もしいな、お前ら!!! ―――さァ…これから忙しくなるゼ。だがその前ニ………」

 

 再度リンと交代し、若き皇子は表情を切り替える。

 

 虚空に見るのは、司法の島で相まみえた最強の剣士。

 辛勝、とすら言えないようなお情けの勝利。そこから生じた悔しさが、リンにさらなる活力を与える。

 

「仕切り直しだ…!!!」

「「「「「はっ!!!」」」」」

 

 王となる道を、そしてその途中に立ちはだかる数々の衝撃を幻視し、リンは新たに加わった多くの臣下に告げる。

 まだ見ぬ過酷な旅を想い、そして同じだけ険しい道を進もうとしている仲間達と兄弟分を想い、リンとグリードは不敵に笑うのだった。

 

 

 

 ―――その頂に流れ出る伏流の水美しく

    鳴り響くのは職人気質の槌の音

 

    町の活気にリズムを合わせ

    かんな木槌を打ち鳴らす

 

    煙ふく鉄の列車に願いをのせて

    振り返らざる――その島の名前は

 

   〝水の都〟『ウォーターセブン』

 

 

 

「ほんじゃあらためて……‼︎ 帰ってきたエレノアとロビンとウソップ‼︎ そして新しい仲間フランキーと海賊船〝サウザンドサニー号〟に‼︎ 乾杯だァア!!!」

 

 サニー号の甲板の上で、ジョッキを手にぶつけ合う。

 飛び散る酒の水飛沫を浴びながら、ルフィは次なる目的地に向けて、夢と期待を膨らませるのだった。

 

「行くぞ、次は‼︎〝魚人島〟!!!!」

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