ONE PIECE −LOG COLLECTION : ELEANOR− 作:春風駘蕩
第231話〝報せ〟
「スモーカー准将‼ ご苦労様です‼」
偉大なる航路のある島で、海賊との戦闘を終えた海兵達が後処理に励む中。
海楼石入りの十手を担いだスモーカーが、葉巻を咥えながら詰まらなそうに鼻を鳴らしていた。
「今の海賊が5千万だと⁉ ……ぬるい…軍の基準はどうなってんだ…………‼」
「逆にお前は海賊に対する期待が高すぎるんじゃねェか?」
「うるせェよ」
傍らで手袋を外すマスタングに苦笑され、ちっと舌打ちをこぼす。
かくいうマスタングも、より高い危険度を見せつけた一味と遭遇したがために、今回の戦闘では不満さを感じている様子である。
「…………まったくハリのねェ日々だぜ」
「スモーカーさん‼」
「ロイ‼ スモーカー‼ この手配書を見たか⁉ 妖術師達だ…‼」
そんな二人の下に、上着を脱いだたしぎとヒューズが手配書を持って駆け寄ってくる。
たしぎの方は神妙な顔つきだが、ヒューズは非常にうれしそうな顔をしているのが、大いにスモーカーの癪に障る。
「アラバスタを出発していつの間にかここまで…」
「君は誰に話しかけているんだ?」
「えっ‼ あ…ごっ、ごめんなさい‼」
「メガネをかけろ‼ バカ‼」
まったく関係のない海兵に話しかけていた事に気付き、慌てて眼鏡をかけ直すたしぎに背を向け、スモーカーは瓦礫の上に腰かけ紫煙を吐く。
「海兵は海兵…海軍が『組織』である以上『大佐』で我を通すのには限界がある…おれ達に今必要なのは〝地位〟だ」
「……あまり上に行っても、立場が邪魔になって現場で動き辛くなるぞ」
「できねェ事もできる事もあらァ……」
揉み消された、アラバスタでの真実を思い出して顔を険しくする海兵達。
政府にとってただの駒でしかないという事実を嫌悪し、いいように利用されるだけの状況を憎み、自らの意思を再確認する。
「エニエス・ロビーの一件で世界中の海賊達が〝麦わら〟の一味に一目置き始めている。このおれの誇りにかけて、奴らを〝新世界〟で…叩き潰す!!!」
「止めはしないさ………存分にやるといい。私もそうするよ」
凄まじい威圧感を放ち、呟くスモーカーとそれに頷くたしぎとマスタング。
そんな彼らを横目にしながら、ヒューズは彼らに聞こえないよう、苦笑交じりに呟いた。
「……〝次こそ借りは作らねェ〟…………そう言っているように聞こえるのは、何でかねェ?」
「ニコ・ロビン…………あの女があいつらの船に……しかも世界政府に宣戦布告か。機械鎧の修理で足止め食らってる間に、あいつらはどんどん先に行きやがる…………」
ばさっ、と広げた新聞を生身の片手で支え、一面の記事を読むエドワード。
最初はそれを誇らしげに眺めていたのだが、やがてその顔はくしゃくしゃになり、遂には新聞を放り上げて悔しさをあらわにし始めた。
「やっぱ行きゃあよかった〜〜〜〜!!!」
「動くな‼︎ 最終調整してんだから大人しくしてなさい!!!」
「兄さん……国家錬金術師の立場、完全に忘れてない………?」
目を剥き、ベッドの上で悶えるエドワードの機械鎧を弄りながら、ウィンリィが怒鳴りつける。そして呆れるアルフォンス。
ローグタウンからわざわざ来た専属技師を放置して嘆く幼馴染みを睨みつつ、少女は深いため息をこぼした。
「まったく……ちょっと出掛けたかと思ったらこんな有様にして‼︎ 呼び出される私の身にもなってよね⁉︎ 海軍の船に乗せて貰ったとはいえ、ここまでくるの大変なんだから‼︎」
「こっちは儲かるからいいけどねェ」
ウィンリィの嘆きに、ピナコはエドワードの足の調整をしながら呟く。
にやにやと笑っていた老婆は、次いでエドワードが放りだした新聞を見やり、眼鏡の奥の目を細めて唸り声を漏らす。
「しかしあの小僧共、とんでもない事をやったもんだ。司法の島エニエス・ロビーといえば巨大な『世界政府』へとつながる玄関口…それを落としたとなれば、海軍も海賊も黙っちゃないだろう」
ローグタウンで出会った時には、ここまで大それた事をするなど想像だにしなかった。海賊と呼ぶには気がよく、只の明るい青年達にしか見えなかった。
それがここまでの事件を引き起こすのだから、印象というものは本当に役に立たないのだと突き付けられる。
「今や、この世に知らない奴は一人もいなくなるだろうさ」
「この腕さえ直せりゃ、まともな体さえ戻ってくりゃ、おれ達もこの記事に載ってただろうによ……チクショウ!!!」
「過ぎた事は仕方がないよ、兄さん…………」
「あんた達、本気で〝国家錬金術師〟の称号棄てる気?」
「その方が気楽に旅ができそうだからな……国家機密も当てにならねェってわかっちまった所だし…」
エドワードの呟きに、椅子に座って大人しくしていたアルフォンスも俯いて黙り込む。
死に物狂いで手に入れた情報が、望まぬ物であった。その代わりに、自分達のすぐ近くにあった真実が希望の一端になった。
何とも言えない皮肉さに、笑う余裕さえなくなっていた。
「……追いつきてェな。何年かかっても」
「その為にもまず…………だね」
兄弟の脳裏に浮かぶ、旅の日々。
明るく楽しく、時に激しく派手な冒険の日々―――そして仲間達との関わり。
別れて時が経つにつれ、再びその時間を求める気持ちがどんどんと強くなっていた。
「どのくらいかかりそうだ?」
「最低でも1週間‼︎ それより短くするのはムリよ」
「そっか〜〜……」
ぎりぎりとボルトを締めるウィンリィに尋ね、決して短くない時間に少し落胆する。
だがその分、再出発に向けてのやる気が倍以上に膨らんでいった。
同時に、兄弟の中ではある懸念が強くなる。
姉弟子に忠告され、辿り着いた資料から見出した真実。そこから明らかになった、世界政府が関わった恐るべき研究。
真実の奥の更なる真実、政府が一体どのような思惑を隠しているのか。
知ってしまった兄弟は、何としてでもそれを見つけ出さなければならないと使命感を抱いていた。
「……だったらあと1週間。その間に少しでも〝真実〟を掴まねェと……!!!」
「うん、僕らにできる唯一の事だ………!!!」
片腕で拳を握り、強き意志の炎を宿した目で虚空を見据えるエドワードとアルフォンス。
めらめらと本当に燃えているかのような気迫を見せつける兄弟に、幼馴染の少女は心底呆れた視線を送っていた。
「……まったく、待ってるこっちの身にもなってほしいわよね」
「はっはっは…!」
肩を落とす孫娘を笑い、ピナコは煙管の煙を燻らせる。
そして、床に落ちた新聞―――その束の間からはみ出た手配書に記された海賊の名を見下ろし、眉間にしわを寄せた。
「いつの時代にも、奴らは現れ時代を揺るがす。〝D〟はやっぱり、嵐を呼ぶんだねェ………」
「宴だ――っ‼︎ 今日は宴だ―――っ‼︎」
「東一番の出世頭‼︎ 3億の首、我らがルフィにカンパ―――イ‼︎」
「やかましいわいお前ら‼︎ 恥を知れ‼︎」
東の海、ゴア王国の端にあるフーシャ村、その中にある酒場『PARTYS BAR』。
がしゃーん、と乾杯の音頭と共にジョッキが打ち鳴らされ、若者達が騒ぐ。
それをフーシャ村の村長が睨みつけ、ガンガンと杖を机に叩きつけて怒りを露わにする。
「楽しそう、こんなにカワイイペットまで連れて…このコ達がルフィのお友達なのね」
「お友達というツラか!!! コヤツらが!!! 全世界を敵に回す様な凶悪犯が村から出たんじゃぞ!!! 世界政府にケンカを売る海賊など聞いた事もないわい‼︎」
「ほんとね」
〝麦わら〟のルフィの故郷であるこのフーシャ村で、彼が17になるまでを見守ってきた酒場の女主人・マキノが村長の怒りの声に笑みをこぼす。
彼女の視線はルフィだけでなく、彼と共にある白虎の天使にも向けられていた。
「エレノアちゃんも元気そうでよかった………!!! 元気に歩き回れるようになったみたいね‼︎」
「イカれとるわい………………あんな重傷で〝偉大なる航路〟に戻るなど‼︎ やはり鬼の子は鬼の子か、恐ろしい血筋じゃ………」
「まァヒドい。ふふふ…」
「だいたいガープの奴は何をしとるんじゃ‼︎ 我が孫がこんな事件を引き起こすまで放置するとは‼︎ 親子3代どうかしとるわい…ダダンはこれを知っとるのか…」
海軍中将、海軍の英雄、伝説の〝海賊王〟を何度も追いつめた男。
凄まじき数と質の逸話を誇る男の孫が、世界すらを敵に回した大事件を起こした。
どういう教育をしていればこんな男に育つのかと、村長はふんと荒く鼻息を吹いて虚空を睨む。
「「「カンパーイ‼︎」」」
「やかましい‼︎」
しかし村の若者達は、そんな村長の苛立ちもものともせずに、有名人になった村の子供の勇姿を讃え続けるのであった。
「〝狙撃の王様〟…‼︎ 本当ね‼︎」
「間違いないわ、ウソップ君だよ‼︎」
仮面の男が映った手配書を見つめ、カヤとロゼが明るい声を上げる。
代わった面で隠されてはいるものの、大きく目立つ特徴が中心に映っており、見間違えるわけがなかった。
「だろ〜〜〜〜〜!!?」
「キャプテンでしょ⁉︎ この鼻‼︎」
「村のみんな信じないんだよー‼︎ そりゃ3千万だもんな〜〜‼︎」
「カヤさんとロゼさんならわかってくれると思ったよ‼︎」
「みんなキャプテンの凄さを知らないんだ‼︎」
「キャプテンはホラを全部本当にかえる男なんだ‼︎」
ウソップを慕う三人の嘘吐き少年達が興奮気味に二人を見上げ、目をキラキラと輝かせる。
歓喜の雄叫びを上げる三人に微笑みかけていたカヤは、しばらくすると腰を上げ、歩き出す。そうすると、ロゼも笑みを湛えてその場を離れようとした。
「あれ? 2人ともどこいくの⁉︎」
「帰って医者の勉強続けるわ! 私も早く一人前になって…! ウソップさんが傷ついて帰って来ても、全部治してあげられる様になってなきゃ‼︎」
「…それじゃ私は、お腹を空かせて帰って来たウソップ君の為に、仕込みの続きをしようかね…‼︎」
にこにこと嬉しそうに、軽い足取りで歩き出す二人の少女。
思わず見とれてしまうような笑顔を目の当たりにした三人の少年達は、ぼーっと彼女達の後姿を見送るばかりであった。
「………いいなー、キャプテン」
「カヤさんとロゼさんを不幸にしたらなぐろうぜ」
今日も今日とて、強く深く雪が降るドラム王国―――いや、新たに生まれ変わったサクラ王国。
月が照らす中を、巨大なウサギが引くそりに乗った魔女が滑り降りてくる。
「ヒーッヒッヒッヒッヒッヒッ‼︎」
「ギャ――Dr.くれはが城から降りて来るぞ〜〜〜〜!!!」
「ハッピーかい⁉︎ ガキ共‼︎」
ぼふん、と雪煙を舞い上げ着地したそりから、いつも通りの腹出しルックのくれはと合成獣の娘・ニーナが降りてくる。
そして二人は、すぐ傍で自分達を舞っていたサクラ王国国王・ドルトンに厳しい視線を向けた。
「ドルトン! 何だい、人を呼びつけて。あたしゃ忙しいんだよ‼︎」
「いそが、しい」
「やあ、申し訳ないDr.くれは、ニーナ。あなた方にコレをぜひ見せたくて‼︎」
苛立つ二人を前に、ドルトンは全く気を悪くした様子を見せずに歩み寄る。
しかし代わりに、ドルトンの臣下となった男がくれはを睨みつけ、声を荒げだす。
「Dr.くれは‼︎ 国王に対して何だ、その口ぶり」
「何だい? 若さの秘訣かい?」
「いや聞いてねェし‼︎」
悪政を敷いた専横が消えた後、国民からの支持を受けて新たに王となった男に対し、全く物怖じしない老婆。
臣下達はまだもの言いたげな表情をしていたが、ドルトンはやはり気にする事なく、元気そうな彼女達を見つめていた。
「だいたいドルトン、お前国王らしく城に住んだらどうだい。部屋なら貸すよ」
「いや…私は住み慣れたこの村がいい。あと食べ物は栗ごはんがいい」
どうでもいい事を口にしながら、ドルトンは持っていた物を―――手配書の束をくれはに渡す。届くや否や、彼も我慢できず笑みを浮かべてしまった代物である。
「…おやおや、麦わらの小僧達だね……」
「先日の大事件での手配書が出まして…」
ついでに新聞を見せ、一面に映し出された大事件の記事を見せるドルトン。
そして九枚ある内の一枚、くれはとニーナにとって最も縁が深い人物の顔が写されたそれを見せると、二人の表情がすぐさま変わった。
「…………‼︎ おにい、ちゃん‼︎」
「チョッパー………」
「額は何かの不手際だと思いますが」
綿あめを前に目を輝かせる、半獣の生き物。
50Bという手配書として成立しているのか疑問を抱かせるそれを見やり、くれははにっこりと優しい笑顔を浮かべてみせた。
「…ヒッヒッヒッヒ、顔が見れたら何だっていいさね……そうかい…何よりの頼りだよ…」
息子が元気でやっているのだという便りは、何よりも嬉しい報せであった。