ONE PIECE −LOG COLLECTION : ELEANOR−   作:春風駘蕩

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|;゙゚'ω゚'))))):<お、お年玉です……なんつって。


外伝 Episode of STORONG WORLD
第壱話〝最悪の冒険〟


「イカれとる」

「……ああ、確かにイカれとるわい」

 

 その光景を前に、二人の老兵が呟く。

 

 海軍本部マリンフォード、政府において最大の戦力が集うその地は今、ある海賊の()()を受けていた。

 老兵達―――ガープとセンゴクは険しい顔で、その下手人のいる空を見上げていた。

 

「こんなマネができる男は…わしは一人しか知らん」

 

 忌々しげに呟くガープの目の前を、大きな影が覆う。

 まるで木の葉のように宙を舞う、海軍の軍艦。それが隕石の様に落下し、町を押し潰し破壊させられる。

 

 轟音が鳴り響き、非常事態に飛び出してきた海兵達が目を剥いて右往左往する。

 

「何だあの島は!!?」

「船!!?」

「悪魔の実の能力者か…!!!」

 

 大きな声で騒ぎ、砲撃で反撃するものの、大質量の雨霰によって真面に攻撃は届かない。砲弾は虚しく海に落ちるだけだ。

 

 それを嘲笑うように、その船は―――獅子の船首を持つ、小さな島をそのまま引っこ抜いて改造したような外見の〝船〟は、遥か高くからマリンフォードを見下ろしていた。

 

「〝海賊王〟ゴール・D・ロジャー時代の生き残り…………20年もどこに姿をくらませていたのか」

「まさか、海楼石の足枷を自分の両脚ごとぶった斬って脱獄するとは……イカれた奴の覚悟は計り知れん」

 

 張られた帆と旗、そこに刻まれた舵輪と骸骨。

 それが意味する船の持ち主の名を思い浮かべ、ガープら海兵達は明確な敵意を示した男を見据え、吐き捨てた。

 

「ジハハハハハハハハハハ!!!!」

 

 海兵達に見上げられ、哄笑を上げる男。船首の上で笑う、獅子の如き金の髪と鶏冠のように突き刺さった舵輪を有する老人。

 かつて、世界を変えた男と何度も鎬を削り合ったという最悪の男が、政府に対して宣戦布告をしてのけていた。

 

「大人しく伝説にでもなってりゃいいものを………今になって何をしに来た。……今更、世界に復讐でもしに来たか……………!!!」

 

 狂った男の頭の中は、誰にも理解できない。

 或いは本人にも、狂気に駆られた自分自身を量る事は出来ていないのかもしれなかった。

 

⚓️

 

 荒く息を吐き、ついつい炎が漏れ出そうになるのを何とか堪え、鬱蒼と茂る草木の間を抜けて歩く。

 体力は十二分にあるのだが、それでも疲弊を隠せなくなるほど歩き詰めで、青年はうんざりとした気分で舌打ちをこぼした。

 

「この島に来てもう1週間か………あいつらちゃんと生きてんのか…!!?」

 

 さくさくと苛立ちをぶつけるように草を踏みつけ、歩くことまた数十分。

 ようやく森の終わりに辿り着き……切り立った崖、いや、島の端から下を見下ろす。

 

 その下には、遥か先にある青―――広がる海と、その途中に浮かぶ別の島が浮かんでいる。

 青年―――エースはテンガロンハットを被り直すと、最も近くにある島に狙いを定め、その場から数歩後退った。

 

「そろそろ次の島に移るか……よっ」

 

 助走をつけ、勢いをつけたエースは思い切り跳躍し、何も無い空間に身を躍らせ……次の瞬間、ボッ!とその身を炎に包む。

 己の体を炎へと変じ、それによる加速を得た彼は難なく隣の島の上へと辿り着き、樹々の中へと突っ込んでいった。

 

 ……そしてその直後、樹海の中を全速力で爆走する羽目になった。

 ある一体の巨大な怪物が、何の前触れもなくエースに襲い掛かって来たからだ。

 

「何だァ、あの平べったいワニは‼︎ ゾウリか⁉︎ サンダルか⁉︎」

 

 どどどどどど、と走るエースを追いかけるのは、彼の言う通り平たい草履のような姿をした鰐だ。

 陸鰐(ランドゲーター)とでも呼ぶべき怪物は樹々を粉砕しつつ、切り裂くより磨り潰すのに向いた牙を大きく開けて、エースを追いかける。

 

 が、その巨体に次の瞬間、しゅるしゅると太くて長い何かが巻き付き、宙吊りにする。赤紫色の触手に捕らわれた陸鰐は、直後に叩き込まれた連続の殴打によって完全に沈められてしまう。

 

 背後で起こった一方的な試合終了に気付かず、森を飛び出し大きな広場に出たエースは、続いて飛び出してきた追手―――森蛸の姿にぎょっと目を見開く。

 

「…ん!!? おいおいおいマジかよ!!!」

 

 相手の姿が異なる事に戸惑い、すぐにそんな場合ではないと首を横に振り逃走を再開する。

 何もない石畳の広場、所々に移籍らしき石像が並ぶ白い大地を爆走し……前方から飛来する緑色の影に瞠目する。

 

「カマキリ!!?」

 

 ばばばばば、と羽根を羽搏かせて猛烈な勢いでやって来る巨虫・ドンカマキリが鎌を振りかぶる寸前、エースは炎で加速し一気に前へ飛び込む。

 一瞬の邂逅の間、ドンカマキリの放った斬撃を紙一重で躱し、擦れ違い地面を滑る。

 

 ドンカマキリはそのまま向かってくる森蛸に接近し、両腕の鎌を振り回す。

 殴打の構えを以て迎え撃とうとした森蛸だったが、擦れ違った直後にその触手はばらばらと切り刻まれ、続いて強烈な体当たりを食らって吹っ飛ばされる。

 

 遺跡に突っ込み沈黙した森蛸を見下ろし、勝利の雄叫びを上げるドンカマキリ。

 すると、今度はその細い体に黒い毛むくじゃらの腕が絡みつき、勢いよく投げ飛ばされる。

 

 地面に叩きつけられたドンカマキリの両腕を掴み、持ち上げると、異様に長く大きな手を持つ手長熊(テログマ)は自身の胸に相手を抱え込み、後ろに仰け反って巨虫を脳天から地面に突き立てる。

 

 ぴくぴくと痙攣を繰り返し、やがて動かなくなったドンカマキリを離した手長熊は、思いのほか愛らしい顔を凶悪に歪ませ、凄まじい咆哮を上げた。

 

 そんな光景を―――この島々に来てから嫌というほど見せつけられた景色を眺め、エースは深々と溜息をこぼした。

 

「次から次へと…………この島の生態系は本当にどうなってやがんだ」

 

 心底面倒臭そうに肩を落とし、がりがりと黒髪を掻き毟る。毎日毎日続けられる怪獣同士のバトルロワイヤルには、いい加減飽き飽きしていた。

 

 だが、当人にやる気が湧かずとも、参加者となった事実は変わらない。

 新たな標的にエースを定め、手長熊が爛々と凶暴に目を輝かせ、駆けよってくる姿が目に映る。

 

「やる気か…? 上等だ―――ぶっ!!!」

 

 返り討ちにしてやる、と拳を構えたエース。

 が、手長熊のリーチの長さを把握しきれず、接近するよりも先に手酷くビンタを食らい、上半身が千切れ飛ぶ。

 

 ぼぼっ、と炎に変じた体が元に戻ると、出鼻をくじかれた青年はじろりと通り過ぎた手長熊を睨みつけた。

 

「ンなろォ、挨拶もなしにさっそく一撃たァ、いい度胸してんじゃ……………ん!??」

 

 今度こそ情け容赦ない一撃を叩き込んでやろうと、頬を痙攣させながら振り返る、が。

 突如、手長熊の腕から発せられた圧……能力者である己にとって天敵ともいえる力を感じ取り、目を剥いた瞬間エースはどかん!と宙を舞う。

 

 吹っ飛ばされたエースは森の中に突っ込み、樹々や岩を破壊し、最後には遺跡の壁に大の字に叩きつけられる。我ながら情けない格好だった。

 

「クマが〝覇気〟使うとかアリかよ!!? 痛ってェ!!! くっそ………あのジジイ絶対に許さねェぞ…!!!」

 

 ぶっ、と垂れた鼻血を乱暴に吹き、壁にめり込んだ身体を引っこ抜く。

 

 手長熊は未だ、己を標的と見て向かってきている。

 不意を突かれた一撃はかなり……少し、そこそこには効いたが、それで心が折れる程軟な鍛え方はしていない。

 

「だがまァ………エレノアのしごきよりはるかに軽いぜ」

 

 そう、不敵に呟いた直後。

 ぼっ!とエースの全身から業火が噴き上がり、森を焼き払う。

 

 立ち昇る炎を操り、右腕に収束させ、両足をその場に踏ん張って身構えたエースは、咆哮と共に両腕を振り上げる手長熊を見据え、拳を振り抜いた。

 

〝火拳〟!!!!

 

 視界の全てが赤に染まり、空気さえも焼く熱波が手長熊を呑み込む。

 毛皮を燃やし、皮膚を焦がし、強烈な爆発で吹き飛ばされた手長熊は砲弾のような勢いで吹き飛ばされ、反対側の遺跡に大の字に叩きつけられる。

 

 白目をむき、沈黙した手長熊がその場に崩れ落ちる様を見やったエースは、満足げに笑みを浮かべて構えを解いた。

 

「…へっ、どんなもんだ」

 

 復讐完了、とばかりに笑った彼は、くいっとテンガロンハットのつばを指先で上げて鼻を鳴らす。

 そこでふと、ぎゅるるるる…と盛大に鳴り響いた自身の腹を押さえ、がっくりと肩を落として舌を垂らした。

 

「朝から走り回ってっからな……腹へったァ。…………このタコ焼きゃァ、ちっとは腹の足しになるか?」

 

 全力で逃げ続け、能力を使った代償か急速に落ち込む体力にげっそりした彼は、遠くで沈黙している森蛸を見やり、ごくりとつばを呑む。

 

 この島における最強決定戦は取り敢えず……エースが頂点となったようだ。

 

 

 

 ひらひらと紅葉が舞い散る、水に覆われた遺跡の道を三人で歩く。

 弁当でも持って散歩をすればさぞ気分が良いだろう場所なのに、敵があちこちで身を潜める油断ならない場所なのが口惜しい、とスカルは独り言ちる。

 

 ふと、どこかから轟音のようなものが聞こえてきて、スカルは立ち止まって辺りを見渡す。

 

「…なァ、なんかどっかからモノスゲェ音聞こえませんでしたかい?」

「そんなもんここじゃしょっちゅうだよ。どうでもいいことさ……それより、早く他の奴らを探すよ。エレノア嬢ちゃんが一番心配だ」

「はァ……」

 

 前を歩く二人、銃使いの侍クーカイとオバちゃんことバンシー、髭面の男オッサモンドに話しかけるも、にべもなく適当にあしらわれてしまう。

 確かに、皆と一刻も早く合流しなければ、と歩き出した時。

 

 ざわざわざわざわざわ…!と、背後から響いた()()にまた立ち止まり、振り返る。

 

「ん…?」

 

 その視線の先で……わらわらと凄まじい勢いで近付いてくる黒い粒の群れ、軍隊蟻の集団を目撃し、スカルはぎょっと息を呑んで飛び上がった。

 

「おわ―――――――――っ!!!」

 

 猫のように後ろ髪を逆立てて飛び上がったスカルは、悲鳴を上げて前を歩いていたクーカイ達に追いつく。

 何事か、と振り向いた三人も、凄まじい速度で迫る黒い津波を目撃し目の色を変える。

 

「軍隊アリ…か!!?」

「この数全部を相手にすんのは無理そうだね…‼︎」

「とにかく逃げろ!!!」

 

 咄嗟に得物を構える三人だったが、一匹一匹が凶悪な上に数えきれない量で向かってくるそれらには無意味と悟り、すぐさま逃走一択に絞る。

 だが、鎧兜で武装した虫の軍隊の進軍速度は異常で、走っても走っても逃れられそうになかった。

 

「ちょい!!! アリを追っ払う家庭の知恵ってなんかありやせんでしたかィ!!?」

「あるにはあるけど、あの手のアリには効かない手だよ!!!」

「チクショウが!!! 家庭の知恵にも裏切られたか!!!」

 

 一縷の希望を抱き、バンシーに問うてみるも、苦虫を噛み潰したような顔で首を横に振られスカル・クーカイ・オッサモンドは怒号を上げる。

 水の中ならあるいは、と視線を左右の水没した遺跡に向けたその時。

 

 ざばぁっ!と大きな水飛沫を上げ、巨大な緑色の影が水上へと飛び出してくる。

 

「うおおおおおっ!!?」

「今度は何だ!!!」

 

 思わず立ち止まり、頭上を舞う巨体を見上げる四人。

 

 巨大な怪物―――蛇のように太く長い体を持った、鉄さび色の模様の皮膚を有した鮫が、スカル達を頭上から見下ろしてくる。

 どっぱーん、と再度盛大に水柱を立ち昇らせて着水した暴鮫(バクザメ)は、水上に背鰭と鬣を浮かばせながら、ぐるりと旋回しスカル達に襲い掛かる隙を伺う。

 

「前門の蛇サメ……後門の軍隊アリか」

「どっちとやる⁉︎」

「どっちもゴメンだね…………!!!」

 

 敢えて言うなら、まだ戦う余地のありそうな暴鮫か。

 先にあれを潰して水中に潜るべきか、と三人が得物を構えたその時、一直線にスカル達を目指していた軍隊蟻達が突如進軍先を変える。

 

 暴鮫が再度水上に飛び出した瞬間、軍隊蟻達も一斉に空中に身を躍らせ……より巨大な()()に食らいつく。

 

「……!!!」

 

 がじがじがじがじがじ!と小さな黒い軍勢と接触した瞬間、暴鮫の肉も皮膚も全てが食われ、真っ白な骨だけになっていく。

 唖然とした表情で立ち尽くすスカル達の目の前で、頭から尻尾の先までを綺麗に平らげられてしまった暴鮫の骨は、どぼんと水に沈み憐れな骸を晒した。

 

「……一瞬で骨になっちまった」

「悪食にもほどがあるだろ…‼」

「いいな、あれ。良いドクロができた」

「アレもコレクションに入れる気か⁉ やめておけ」

 

 開いた口が塞がらないバンシーの隣で、スカルは顎に手をあてながらしげしげと暴鮫の骨を見つめる。ドクロマニアの悪い癖がこんな状況でも出て来たらしい。

 

 と、呆然としている場合でもなかった。

 暴鮫を食い尽くした軍隊蟻達が道に着地し、ぐるりと再びスカル達の方へ振り向いたからだ。

 

「まずいまずいあいつらまだあれで腹一杯になってないのかい!!?」

「いいから走れ!!! 追いつかれるぞ!!!」

 

 喰い過ぎだ、と喚くバンシーに叱咤し、石畳の道の先に見える森を目指して足を動かす。

 

 が、ようやく陸地に辿り着き、紅葉の中へ逃げ込もうとした彼らの前に、また別の巨体が立ち塞がってきた。

 細長い顔の先の口からちろちろと長い舌を覗かせる、微妙に愛らしい顔をした珍獣だ。

 

「なんか前にいるぞ!!!」

「ア、アリクイ〜〜〜!!!」

 

 何とも言えない絶妙なタイミングで姿を現した巨獣を前に、スカル達はキキッと急ブレーキをかけて停止。まじまじと珍獣を凝視する。

 火蟻喰(ヒアリクイ)は四人には目もくれず、自らやって来る軍隊蟻をじっと見つめると、徐に細長い口をぷくっと膨らませ。

 

 ぼう!と、真っ赤な炎を吐いて軍隊蟻達に浴びせかけ始めた。

 さすがの高熱に、凶悪な蟻達も一瞬で丸焼きにされ、からんと虚しい音を立ててその場に転がった。

 

「ほゥ…………ウェルダン派かい? あの火力は欲しいね…」

「…取り敢えず助かったか」

「――そうでもないぞ!!?」

 

 主食が自らやってきてくれて、ご満悦で食事を始める火蟻喰を興味深そうに眺めていたバンシーにオッサモンドが叫ぶ。

 大人しく食事に没頭していた火蟻喰が、ある程度軍隊蟻のソテーを食べきると、喜びをあらわにするように辺りに火を噴き散らし始めたのだ。

 

 周りの紅葉に引火し、景色をさらに真っ赤に染めるほどの勢いで。

 

「「「「あっちゃあああああああ!!!」」」」

 

 炎に焼かれかけた四人は大慌てでその場から跳び、水の中に頭から突っ込んで火蟻喰の放つ業火から逃れる。

 地獄のような景色の中で、火蟻喰は独り、只管楽し気に傍迷惑な食事を続けるのだった

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