ONE PIECE −LOG COLLECTION : ELEANOR−   作:春風駘蕩

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第肆話〝伝説の海賊〟

 エース達は、突然の事態に酷く困惑した。

 自分達の目の前に、初めて見る顔の客人が文字通り()()()()()からだ。

 

 獅子のような髪を揺らし、和服を纏った巨体をふわふわと浮かばせて、その男は甲板に降り立つ。

 キン、という音がして、よく見ると両足が剣になっている。結構な業物に見える二振りの刃だ。ますます異様な姿である。

 

「――さっきは助かったぜ。礼を言わせてくれ」

「………空からおっさんが降りてきた」

 

 葉巻を咥え、不敵な笑みを浮かべたその男・シキを前にし、エース達は返す言葉がない。初対面から衝撃の大きすぎる邂逅だ、用心するに越した事はない。

 

「その頭に刺さった舵輪…!!!〝金獅子〟のシキ……!!!」

「ほォ…………よく知ってるな。そうだ、おれがシキだ」

 

 シキをまじまじと凝視していたエレノアが、該当する顔と名を瞬時に思い浮かべ、思わず息を呑む。

 彼女の呟きとシキの肯定の言葉に、デュースを始めとした仲間達がざわざわとどよめき出す。

 

「おいおいおい…‼︎〝金獅子〟っていやァ、〝海賊王〟ゴールド・ロジャーと何度もやりあったっていう………!!!」

「伝説の海賊じゃねェか!!!」

「……20年も前にマリンフォードに単独で突っ込んでいって、その後取っ捕まってインペルダウンに連行されたと聞いたが…………」

「ジハハハハ…‼︎ あんなもん屁でもねェさ、かる〜く脱獄してきてやったよ」

 

 海賊を名乗っていて、知らぬ者はまずいない大きな名が飛び出してきて、場はさらなる緊張と困惑に包まれた。

 それをシキ本人はどうでもいい世間話のように笑い飛ばし、エース達に向き直った。

 

「改めてお前さん方にゃ礼を言っておこう………おれの船は天候の影響をもろに受けるもんでな、助かったぜ」

「礼ならエレノア嬢に言ってくれ‼︎ おれ達ゃこいつの言う通りやっただけだからよ」

「まじで〝天族〟の力はありがてェよな」

「天族…!!!」

 

 大物からの礼の言葉に委縮しつつ、キメルとガンリュウが肩を竦めてそう返す。

 

 指し示されたエレノアを見つめ、シキは微かに息を呑む。

 その視線の強さにやや強張った表情を浮かべ、エレノアは小さく会釈を返す。

 

「ジハハハ……なるほど、お前さんエレノアか。随分昔に顔を合わせた事があるだろう。覚えてないか?」

「…………ぼんやりとは、話した事はないと思うけど」

「おれはお前さんをよく覚えてるぜ。お袋さんに抱っこされてる姿を見た」

 

 親し気に話しかけてくるシキに、エレノアは尚も警戒を崩さない。自由の利かない身体のまま、距離を保とうとする。

 そんな彼女の態度に気付かず、エースが困惑の表情のまま話しかける。

 

「あんた…あの船はどうなってんだ? なぜ宙に浮く?」

「んん………? あァ、あれか。あれはおれの〝フワフワの実〟の能力だ。触れたものを重力に関係なく自在にコントロールできるんだ。そうだな……」

 

 問われ、律儀に答えたシキは辺りを見渡し、甲板に置かれた空樽を見つけると、近付いて表面にそっと触れる。

 そして一歩離れ、くいっと指先を動かす仕草を見せると、空樽はまるで羽のように軽々と浮かび、シキの操作で自由に宙を舞った。

 

「おおっ⁉︎」「こりゃすげェ‼︎」

「あんた! おれもフワフワできねェか⁉︎」

「残念………おれ以外の人間や動物……生きてるものは浮かせられねェんだ」

「何だ、そうか…」

 

 驚きの光景に、一味は目を輝かせながら感嘆の声を上げる。

 数人が期待に目を輝かせて請うが、本人から拒まれてがっくりと落胆する。子供のような反応に、エレノアは思わず呆れた目を向けた。

 

 それでも、若き海賊達は〝白ひげ〟と同じ時代を生きた伝説の男に興味津々で、本人の許しを良い事に質問攻めにしていた。

 

「一つ聞きてェんだが、あんたのその頭の舵輪はなんなんだ?」

「これはその昔…………うっかり刺さったもんだ」

「どんなうっかり屋さんだ!!?」

「とにかくおれァ、サイクロンの発生を教えてくれた礼がしてェ。どうだ? おれが支配している島に来ねェか?」

 

 いい加減話が進まないと判断したのか、わらわらと寄ってくる青年達を遮るようにシキが誘いの言葉を吐く。またも驚きの声が上がる。

 

「そりゃあ……ありがてェ話だが」

「エースさん、これは渡りに船なんじゃないですか?」

 

 思わぬ誘いに、宴が好きなエースが渋い顔になる。

 エレノアの方を見やり、頷いていいものかと好奇心とは正反対の義務感が待ったをかける。

 

 が、そこへ黙ったままでいたミハールが近づき、エースに耳打ちをしてくる。

 

「…昔に海賊王とやりあった大海賊のところなら、しばらくエレノアさんを隠せますよ」

「そうそう。大艦隊の首領だった男に手を出そうなんてバカヤロウはそうそういねェでしょう?」

「………そりゃ確かに、いい案かもな」

 

 ミハールの案に、魚人のウォレスも同意を示し、エースに説く。

 仲間達に唐突に降って湧いた案を勧められ、段々とエースも魅力的に思えてきたのか、警戒を徐々に解き始める。

 

 礼を受け取り、恩人を守れるのなら、一石二鳥というものかもしれない。

 

「そんならお言葉に甘えさせてもら―――」

「いいえ、ご遠慮させていただきます」

 

 しかし、エースがシキの誘いに乗ろうとしたその時、突如としてエレノアが前に出てバッサリと拒否してみせる。

 思わず一味全員がぎょっと目を見開き、エレノアに振り向いて凝視した。

 

「ゥおいエレノア!!?」

「私達には急ぎの用があるので………そうでしょ? エース」

 

 咄嗟に抗議の声を上げかけるエースに、エレノアはじっと真剣な眼差しを向けて止める。例の東の海の異変の記事を持って。

 図星を突かれたエースはぐっと息を詰まらせ、エレノアから目を逸らした。

 

「だからおれァ……ルフィの事は心配なんて」

「ウソ、顔に全部顔に書いてあるよ。今すぐにでも〝東の海〟に行って無事を確かめたい………何か異変が起こっているなら助けに行きたいって」

 

 隠していたつもりだった本心を暴かれ、青年は眉間に皺を寄せて唸る。

 

 傍から見ればバレバレであったが、言われた通りであったエースは何も言い返せない。思いとは裏腹に責任感に縛られ、動く事ができずにいた。

 エレノアは苦笑し、エースの葛藤を真っ向から否定する。

 

「おれ達はもう〝白ひげ〟の傘下だ……だが、家族の危機に駆けつけないんじゃ、白ひげのおやっさんも怒るんじゃねェか?」

「行きましょう、エースさん‼︎」

「我々は別に構いませんよ? あなたの大事な弟さんがどんな方か、少し気になっていますし」

「……お前ら」

 

 エレノアだけではない。仲間達全員が、〝白ひげ〟の新たな参加としてではなくエース個人の意思を尊重させようとしてくる。

 

 思わず唇をぐっと噛みしめ、がしがしと頭を掻く。

 そうして切り替えてから、エースは改めてシキに向かい合った。

 

「…悪ィ、〝金獅子〟の旦那。招待はありがてェけど、今は乗れねェや」

「ジハハハハ‼︎ ますます気に入った!!! そうか………〝東の海〟はお前達の故郷か。確かにあそこは最近様子がおかしかったからな、さぞかし心配だろう……」

 

 頭を下げ、せっかくの誘いを断ると、シキは何やら思案顔で顎をさする。

 名のある海賊の一人として、情報収集は当然欠かしていないらしい。件の記事の内容を把握し、何やら考え込む。

 

 そしてやがて、ぽんっと掌に拳を当てて笑いかけた。

 

「……よし、わかった‼︎ おれの能力でお前達を船ごと飛ばして〝東の海〟まで連れて行ってやろう」

「⁉︎ 本当か⁉︎ ありがてェ…‼︎」

「何だよエース、やっぱり行きたかったんじゃねェか!!!」

「う、うるせーよ‼︎」

 

 さらなる思わぬ返答に、咄嗟に心からの感謝の言葉が漏れるエース。

 それを茶化され、思わず顔を赤らめ憎まれ口を叩きながら、内心では深々と安堵の息を吐いていた。

 

「…何もそこまで」

「ジハハハ!!! 受けた恩はきっちり返すのが仁義ってやつだろう⁉︎」

「…………流石に、ここまで言われて断るわけにもね」

 

 まだ少し距離を取り、しかし今度は申し訳なさそうな色を表情に混ぜたエレノアが呟くと、シキは豪快に笑って返す。

 父の言いそうな言葉を返され、流石のエレノアも口を挟めなくなった。

 

 

 

 海を走るスパディル号が、ふわりと船体を浮かばせる。

 シキに触れられ、重力の制限から解放された船が飛沫を垂らして海上ヘ、空へと突き進み、大きく旋回しながら進行方向を変える。

 

 その前を、島船が先導するように進んでいく。その光景は、やはり夢でも見ているようだ。

 

「すげェな……〝フワフワの実〟の力…………!!!」

「海面がもうあんなに…」

 

 空を飛ぶ、という人類の夢ともいうべき現象を直に体験し、一味はもうどのように感動を語ればいいのかもわからない。足りない語彙力に、力不足を感じざるを得ない。

 

 空はいつもより近く、海はより遠くの水平線が見え。

 普段とは全く異なる不思議な乗り心地を心ゆくまで味わい、わーぎゃーと喧しく騒ぎ堪能する。

 

 そうしてしばらくの間、不思議な空中航行を楽しんでいると。

 

「な、何だありゃあ…!!?」

 

 不意に、デュースがそれに気づき声を上げる。他の仲間達もそれを目撃し、あんぐりと口を開けて目を奪われていく。

 

 それは、空に浮かぶ幾つもの島々だ。

 春夏秋冬、それぞれの季節が表れた島々が十六程、海諸共に宙に浮いている。

 

 おそらくはこれが、シキの語った自身が支配している島々。

〝白ひげ〟も縄張りにしている島が幾つもあるが、迫力の規模が異なる凄まじい光景だった。

 

「これもみんな、あんたの力でか?」

「ああ……元々は海に浮かんでいた島をおれが宙に浮かべた。一旦こうして浮かべたものは、遠く離れていてもそのまま浮かび続ける。おれが意識を失うなりして能力が途切れるまでな」

 

 そう言って、シキは―――にやりと笑みを浮かべ、エレノアを見る。

 その笑みは先程の好々爺じみたものとは異なる……邪悪で、己が欲望のままに突き動かされる、海賊そのものを表すような笑みだった。

 

「ここは〝メルヴィユ〟‼︎ 冒険好きのお前らにはうってつけの場所だろう………〝東の海〟に行く前に、ちょっと遊んでくるがいい!!!」

「え―――」

 

 空を進んでいたスパディル号が、島々の上で突如静止する。全員が嫌な予感を抱き、一斉にシキに振り向く。

 

 エレノアが困惑の声を漏らした直後、がっ!とシキの腕がエレノアを抱え、車椅子から引き剥がす。

 そのまま荷物のように担がれ、拘束される天使の姿に、異変に気付いたエース達が同時に各々の得物を構えた。

 

「てめェ!!!」

 

 エースが先陣を切り、エレノアを取り戻そうと飛び出す。

 

 だがその瞬間、シキは「どっこいしょ‼」とスパディル号に手を翳し―――能力を解除する。

 スパディル号は一瞬で元の状態に、すなわち重力に囚われ、凄まじい速度で落下を始めた。

 

「〝妖術師〟はもらった!!! ジハハハハハハ!!!」

「てめェ‼︎ このクソジジイ!!!」

「エレノア〜〜〜〜〜!!!!」

 

 船に続いて、島々に向かって落下を始める一味を見下ろし、エレノアを抱えたシキが厭らしく嗤う。

 

 エースは諦めず、全身から炎を放ちエレノアに向かって加速する。

 だが、そこへ壁が―――シキに操作されたスパディル号が迫る。

 

「は⁉ ちょ……待っ!!! ぶっ!!!」

 

 炎と言えど、物をすり抜けられるわけではない。ましてや大事な船だ、燃やしてしまいかねない。

 エースは甲板に大の字に叩きつけられ、そして他の者達も船体に激突し、ばらばらの方向に弾き飛ばされてしまった。

 

「エ――ス~~~!!!!」

 

 遠く、豆粒の様に消え去った仲間達の姿に、エレノアが悲痛な悲鳴を上げる。

 藻掻き、拘束を逃れようと暴れるも、傷付き体力の落ちた体では身を捩る程度の事しかできない。

 

 虚しく響くその声を掻き消すように、シキの哄笑がどこまでも響き渡るのだった。

 

 

 失態を思い出し、立ち尽くしていたエレノアは、どたどたと近づいてくる足音にはっと我に返る。

 

「シキ様‼︎ 新しい進化のカタチが出現しました‼︎ ご覧下さい‼︎」

 

 振り返れば、何やら大きな鳥籠を担いだDr.インディゴが、シキの前にそれを置いた。

 籠の中に入っていたのは、黄色い羽毛を全身に生やした、アヒルのような大きな水鳥。やはり見た事もない種類だ。

 

「え? ギター?」

「鳥だろどう見ても!!!」

「「ハイッ‼︎」」

 

 持ち込まれた謎の生物を見たシキがボケを放ち、Dr.インディゴがツッコミを入れ、また全員で雑で強引な締めが行われる。

 

 すると、鳥籠の中から水鳥が抜け出し、シキの頭に乗っかる。

 そして―――バリバリバリ!と眩い雷撃を放ち、二人と一匹を仲良く黒焦げにしてみせた。

 

「こんちきしょうが!!!」

「うおっ!!?」

「これが進化か⁉︎」

「はい、電撃技に特化したタイプのようでして…………」

 

 頭に血を昇らせたシキが、水鳥を引っ掴んで投げ飛ばす。

 どかっ、と頭から倒れ込んだ水鳥は、咄嗟に駆け寄ったエレノアの後ろに回り、怯えた顔で身を縮こまらせる。

 

 まるで隠れ切れていない水鳥を庇い、エレノアは胡乱気な目をシキ達に向ける。

 

「進化って……どういう事?」

「んん…? あァ、そうか、エンジェルちゃんは知らなかったな」

 

 思わず問いかけると、シキはにやりと意味深に笑い、パンッと衣服を整えて向き直る。勿体ぶるような、腹立たしい態度にエレノアは顔を顰める。

 

「この島にはな、おれが来る前から独特な進化を遂げた動物が数多く棲みついていた。奴らはみな危険な能力を持っていたが、見かけとは裏腹に温厚なものがほとんどだった………その特異な進化の原因は、この島の固有種であるとある植物によるものである事を我々は突き止めた」

 

 そう言って取り出したのは―――試験管の中に入った一輪の花。

 花弁と花芯の形が丁度IとQの形に見えるそれは、エレノアであっても見た事がないものだ。

 

「それがこれ―――〝IQ〟と名付けたこの花だ。コイツを摂取すると、動物の脳…………特に防衛本能を司る部分に作用し、環境に応じた進化を促す」

「IQ……」

「そしてこの島に住み着き20年…!!! IQの研究と実験を積み重ね、おれ達は新たな薬を発明したのだ!!!」

 

 もう片方の手で取り出され、掲げられる黄緑色の液体の入った小瓶と、試験管に入った丸薬のようなもの。

 見るからに毒々しいそれに、エレノアは嫌悪の眼差しを送る。話を聞かずとも碌でもないのは間違いない。

 

「その名も〝SIQ〟!!! この薬を動物に撃ち込むとより戦闘的な進化を遂げる‼︎ 大量に投与すればさらに凶暴性を増す事もできる………この島には、メルヴィユ群島にはそうした最強最悪の動物達がうじゃうじゃいるのさ!!!」

「……何の為にそんな事を」

「いずれわかるさ……おれの仲間になればな」

 

 不気味に嗤い、変わらず一方的な勧誘を続けるシキに、嫌悪感丸出しの視線を返す。

 

 聞けば聞くほど、目的が見えない。

 最強最悪の生物を生み出して、逃げ場を失くした浮島に隔離して暴れさせ、殺し合わせ。

 

 そうまでして何を望むのか、何一つ理解ができなかった。

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