ONE PIECE −LOG COLLECTION : ELEANOR−   作:春風駘蕩

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第23話〝新入り二人〟

「今日からお世話になります、新入りの雑用のエレノアです。よろしくお願いします!」

「おれはルフィ‼ どうぞよろしく‼」

 

 荒くれ者のコック達を前に、大人の背丈となったエレノアは丁寧に、ルフィはいつも通り堂々と自己紹介する。

 ルフィはいつもの格好にエプロンを、エレノアは用意があった女性用のウェイトレスの格好に自前でフードを追加し、耳と尻尾と背中の翼が隠れるような改造を施していた。

 そんな彼らを待ち受けていたのは、戦場であった。

 

「3番のオードブルおまちっ‼︎」

「はいっ‼︎」

「6番のデザートまだか‼︎」

「あと20秒待って‼︎ 先に7番の前菜出しちゃおう‼」

「8番の注文取ったの誰だァ!!?」

「今運びまーす‼」

 

 注文に次ぐ注文、運んでも運んでも舞い込んでくるオーダーに汗だくになりながら、エレノアは修理費等のために奔走していた。

 

「いや〜使えるわあの新入り」

「店に手ェ出された時ァブッ殺してやろうかと思ったが、こんだけ動けるならこれからもいてほしいぐらいだ」

「あとかわいいしな」

 

 初めは歓迎していなかった気性の荒いコック達も、真面目でひたむきなエレノアにほだされてデレデレとした笑みを浮かべるようになっていた。

 男しかいない職場は、やはり誰もが辛かったらしい。

 

「あ、パティ! 5番のお客様はたまご使わないで。アレルギーあるから」

「なにィ⁉︎ わ…わかった‼︎」

「あと12番のお客様はデザートおまけしてあげて。プロポーズしそうな雰囲気」

「ちくしょう爆発しちまえ!!!」

「そして何より気配り上手で話し上手だ。今日一日で常連を3人も増やしちまった」

「マネできねェ…‼」

 

 同時に、相当な世渡りの能力を発揮する海賊の娘に、戦慄の目まで向けるようになっていた。

 その傍で、ルフィは暇そうに腰かけた椅子を傾けて遊んでいた。

 

「やることねェんなら皿でも洗ってろ雑用!!!」

「よしきた」

 

 袖捲りをして洗い場に向かうルフィに舌打ちしながら、コックの一人であるカルネは隣で魚をさばくパティに目を向けた。

 

「――しかしいいのかい、パティよォ」

「何が」

「さっきお前が店でボコボコにした野郎はクリークの一味の者だったそうじゃねェか」

「ああ、そんなこと言ってたな」

「もしかしてそれって〝首領・クリーク〟? 東の海で最強最悪って言われてる?」

「おう、それだそれ」

 

 オーダーを取ってきたエレノアが興味を示すと、カルネは待ってましたとばかりに語ってみせた。

 

「50隻の海賊船の船長達を総括する『海賊艦隊』の首領なんだからな、怪物なんだよまさに‼」

「総数5千人を越える大艦隊なんだっけ? 所詮は数だけそろえた烏合の衆じゃないの?」

「だが、例えばさっきの野郎がこのレストランであんな目に遭ったとクリークに伝えたとしたら、象の大群がアリでも踏み潰すかのように、このレストランはミンチにされちまうだろうな」

「じゃあ、あの男にゃおとなしく御馳走してやった方がよかったのかい。それじゃあほかの『お客様』に失礼だろうが‼ 海上レストラン『バラティエ』名物、戦うコックさんの名が泣くぜ!!!」

「私もそう思うよ」

 

 わざとビビらせるような説明をするカルネにパティは胡散臭そうに鼻で笑い、エレノアもジト目で同意する。

 

「大艦隊って言ったって、一人ひとりが象ほどの脅威があるとは思えないな。そんなにやばい勢力なら、すでに〝偉大なる航路(グランドライン)〟で頭角を現していたっておかしくないと思うし」

「それ見ろ、おれ達が今まで一体どれだけの海賊どもを追い払ってきたと思ってんだ?」

「頼もしいね」

 

 パティが大きな腕で力こぶを作ると、よく言ったとエレノアも不敵な笑みを浮かべる。

 その裏では、パリンパリンと甲高い音が連続で鳴り続けていた。

 

「んでてめェは何枚皿割ってんだよ!!!」

「あ、わりい。数えんの忘れてた」

「それを謝んのかっ‼」

 

 別の洗い物を命じられるルフィに、呆れた目を向けるエレノア。

 そこへ、パティが小さく耳打ちしてきた。

 

「おい新入り、張り切ってくれんのはありがたいが、サンジに目ェつけられねェように気ぃ付けろよ」

「なんで? 紳士っぽかったけど」

「女癖が悪ィんだよ。今も店内(ダイニング)で客くどいてるぐらいだしな」

「またか…‼ だいたい俺はあいつが〝副料理長〟やってることだけでムナクソ悪ィんだ」

「しょうがねェよ。あいつは店一番の古カブなんだから」

「…そんなに長くいるんだ」

 

 かなり若かったために勘違いしていたが、意外と年季が入っているのだなと驚く。

 ということは相当幼い頃からこの店にいるということか。

 

「熱ぢい!!!」

「厨房から出てってくれェ!!!」

「すみませんすみませんウチのアホがほんとにすみません」

 

 その横で、使ったばかりを大鍋を洗おうとして手を焼かれ、のたうちまわるルフィにコック達から怒号が飛ぶ。

 エレノアはもう、平謝りする他になかった。

 

「あんたはもういいから、注文取ってきて。お客が何を食べたいのか聞いてくる、これだけ」

「むい」

「ちゃんとパティが教えたように接客するのよ‼」

「わかった」

 

 不器用な上に馬鹿力なこの男には、もう厨房で任せられる仕事はないと、エレノアはダイニングに追い出す。

 そこはかとなく漂う疲弊感に、パティは思わずエレノアの肩を叩いていた。

 

「…苦労してるな、お前」

「いっつもこんな感じさ………もう慣れたよ」

「……ちょっとだけつまみ食いしてけ、オーナーには黙っとくから」

 

 できたての料理を少しだけよそってくれるカルネに、エレノアは不覚にも泣きそうになった。

 その向こうで、今度はルフィが客と大騒ぎしている声が聞こえてきた。

 

「な…‼ 何てことするんだお前はァ」

「てめェが何てことするんだ!!!」

 

 厨房に重たい沈黙が降りる。

 全員が新入りウェイトレスに同情の眼差しを抜け、いたたまれなさそうに顔を歪める。

 がっくりと肩を落としたエレノアは、くっと涙をこらえて厨房を後にした。

 

「…………すみません、行ってきます!!!」

「カルネ…‼ おれァあいつが不憫でならねェ…!!!」

「あとでうまいまかない食わせてやろう、な?」

 

 気苦労の絶えないエレノアを目の当たりにし、パティは男泣きする。

 なんであんな船長について行っているのか、疑問でしかなかった。

 

「あんたは一体何やってるの!!? …ってああ、みんなか」

「あ、エレノア! その制服かわいいじゃない!」

「コイツと一緒に半年ってのはさぞ大変だろうなァ…」

「もっと叱ってやってくれ。このアホおれに鼻くそ飲ませようとしやがって」

 

 騒ぎの聞こえた方に行ってみれば、ルフィが注文を受けに行っていたのは仲間達の席だった。

 みんな雑用期間で足止めを食らうことに文句はなさそうではあったが、エレノアは申し訳ない気持ちでいっぱいだった。

 

「なんかホントごめんねー。こんなことになっちゃって」

「そんなに落ち込むことはないよエンジェル…むしろ君が犯した罪のお陰で、僕らはこうして出会う事が出来たのだから」

「ん?」

 

 肩を落として謝罪するエレノアの腰を、甘ったるい声をかけながら一人の男が抱いてきた。

 

「君の話は聞いているよエレノアちゃん……横暴な船長とあのクソジジイのために、ここに縛り付けられてしまったんだろう? 可哀想に…でも安心して。僕がいる限り、君に孤独なんて許さないから♡」

 

 気障ったらしい言葉でエレノアを慰める、副料理長サンジの姿がそこにはあった。

 デレッデレに緩んだ顔で、エレノアとナミのいるテーブルに口説きにやってきたのだ。

 

「ああ海よ、今日という日の出逢いをありがとう。ああ恋よ♡ この苦しみにたえきれぬ僕を笑うがいい。僕は君達となら海賊にでも悪魔にでもなり下がれる覚悟が今できた♡ しかしなんという悲劇‼ 僕らにはあまりに大きな障害が‼」

「サンジくん…ブレないね、君」

「障害ってのァ、おれのことだろうサンジ」

 

 エレノアが呆れていると、雷のように低い声がかけられる。

 料理長ゼフの登場に、サンジはげっと忌々しげに顔を歪めた。

 また小言を言われるのかと思えば、ゼフの口から出てきたのは驚きの一言であった。

 

「いい機会だ、海賊になっちまえ。お前はもうこの店には要らねェよ」

 

 その言葉にサンジは目を見開き、すぐに怒りに顔を歪めた。

 エレノアも驚き、その場に立ち尽くしてゼフとサンジを交互に凝視した。

 

「…おいクソジジイ。おれは、ここの副料理長だぞ。おれが、この店に要らねェとはどういうこった‼」

「客とは、すぐ面倒起こす。女とみりゃすぐに鼻の穴ふくらましやがる。ろくな料理も作れやしねェし、てめェはこの店にとってお荷物なんだとそう言ったんだ」

 

 今にも噛みつきそうな勢いでサンジが反論すると、ゼフはそれ以上に忌々しそうに吐き捨てる。

 

「知っての通りてめェはコックどもにケムたがられてる。海賊にでも何にでもなって早くこの店から出てっちまえ」

「何だと、聞いてりゃ言いてえこと言ってくれんじゃねェかクソジジイ!!! 他の何をさしおいてもおれの料理をけなすとは許さねェぞ‼ てめェが何を言おうとおれはここでコックをやるんだ‼ 文句は言わせねェ!!!」

料理長(オーナー)の胸ぐらをつかむとは何事だ、ボケナス!!!」

「うわ‼」

「おっとっと!」

 

 ゼフに掴みかかったサンジだが、ゼフの背負い投げによってテーブルの上に叩きつけられる。

 とっさにエレノアが手を伸ばし、犠牲になりかけた料理をとって避難させた。

 

「てめェが、おれを追い出そうとしてもな!!! おれは、この店でずっとコックを続けるぞ!!! てめェが死ぬまでな!!!」

「おれは死なん。あと100年生きる」

「……オーナーならホントに生きてそうなのが怖いな」

「口の減らねェジジイだぜ………‼」

 

 背を向けるゼフに宣言するも、ゼフはもう振り返りもしない。

 肩を怒らせていたサンジだったが、心配そうに見つめてくるエレノアに気づくとすぐに表情を変えた。

 

「ごめんよ、エレノアちゃん…怖いもの見せちゃって。あのジジイにはあとできつく言っとくからさ」

「なに言ってんの。こちとら海賊だよ? あれより恐いものなんてもっとたくさん目にしてきたんだから」

「でもこれで許しが出たな。これで海賊に」

「なるか‼」

「はいはい、もういいから! ルフィもサンジくんもさっさと注文取りに行って」

 

 使い物にならないテーブルを片付けながら、エレノアは二人に元の業務に戻るように告げた。

 が、席を移動した先でまた問題が起きた。サービスと言ってデザートをつけてもらったナミが、色っぽい表情でサンジに迫り始めたのだ。

 

「ところでねえ、コックさん?」

「はい♡」

「ここのお料理、私には少し高いみたい」

「もちろん‼ 無料(ただ)で♡」

 

 簡単に色仕掛けに乗るサンジに、エレノアは呆れて深いため息をつく。

 パティの言っていた通り、女性にはとことん甘い性格のようだ。逆にゾロやウソップには微塵も気遣いなどしていない。

 流石に、これ以上は見逃せなかった。

 

「サンジくん。その料理の分、君のお給料から天引きしとくからね」

「うっ!!! お…お金のことになると急にシビアになるね、エレノアちゃん……」

「〝等価交換〟だからね、ビタ壱文容赦はしないよ」

「…そのそっけない所も素敵だよ」

 

 バッサリとサンジの給料カットを宣言し、エレノアは注文を厨房に運ぶ。

 ことに金勘定で彼女は容赦をするつもりはなかった。

 そんな、年上であろうが男相手だろうが臆することのないエレノアに、ゼフは思わず唸り声をあげていた。

 

「おい雑用。タダ働き一週間にまけてやるから、お前んとこのあの娘うちにくれ」

「いやに決まってんだろ。何言ってんだおっさん」

 

 横暴な提案を、テーブルで茶を飲んでいたルフィは即座に拒否する。

 厨房からは、コック達の期待の眼差しが刺さりそうなほどに送られていたが、その要求は流石に飲むことはなかった。

 

「ところでてめェは何をくつろいでんだ雑用っ!!!」

 

 無論、サボっていたルフィはサンジに容赦のないかかと落としをくらっていた。

 エレノアは自由の日はいまだ遠いことを感じ、深いため息をつくのだった。

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