ONE PIECE −LOG COLLECTION : ELEANOR−   作:春風駘蕩

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第拾話〝自由を求めた男〟

 大海賊時代幕開けより約3年前ー『海軍本部』――――

 

『コング元帥‼︎ 新世界エッド・ウォー沖にて〝ロジャー〟と〝金獅子〟が接触を!!!』

「そら来た!」

 

 とある部屋にて〝英雄〟と称される男、若かりし頃のモンキー・D・ガープがその放送を聞き、動いた。

 

 直前まで話していた自身の上司を置き去りに、速足で現場へ向かう。

 それを、組織の長たる一人の男が怒鳴りつけ、止めようとする。

 

「ガープ、待たんか‼︎ 話はまだ終わっとらんぞ!!!」

「あんたがそうでもおれは終わった‼︎」

 

 制止の声も聞かず、さっさと歩き去っていくガープに上司は歯噛みし、苛立たし気に机を拳で殴りつける。

 

 一方で通路に出たガープの元には、大勢の海兵達がぞろぞろと集まり、同じ方向へ歩き始める。

 

「ガープさん、また昇格ケッたんでしょ! 全くカッコイイな〜も〜〜」

「自由にやるにはこれ以上の地位はいらん。おつるちゃん、艦出すなら乗せてくれ‼︎」

「出撃要請出てないんだろ⁉︎ すぐに艦壊すからやだよ、アンタ乗せるの」

「そう言うな、ロジャーの奴だけはおれが仕留めるんだ!!!」

 

 集まるのはクザン、つる、サウロ、サカズキなどなど。

 いずれも後の世に伝説を残す実力者達ばかり。そんな彼らが、颯爽と歩くガープに続くように軍艦に乗り込んでいく。

 

 その中には、左目を眼帯で覆った一人の剣士の姿もあった。

 

「張り切っているな、ガープ。…私の分の獲物も残しておいてくれるとありがたいんだがね。最近張り合いのない相手ばかりで腕が鈍りそうなんだ」

「ぶわっはっはっは!!! 覚えてたらな!!!」

「チリも残らんな、これは」

 

 後に〝大総統〟と呼ばれる男もまた、自由に笑うガープに合わせて朗らかに笑いつつ、軍艦に向かう。既に腰に剣を佩き、戦闘準備を整えている。

 

 そこに眼鏡をかけた一人の海兵……後の知将〝仏〟のセンゴクが目を吊り上げて怒鳴りつける。

 

「ガープ‼︎ シキの件はおれが任されてんだ、引っ込んでろ!!!」

「あー気にするな。手柄は全部お前にやるよ」

「そういうことじゃねェ‼︎」

 

 人の獲物を満面の笑みで狙う同期に怒りを燃やしつつ、センゴクも乗り込む。

 

 一国を余裕で墜とせそうな戦力。それが必要と判断される相手の元へ……世界最悪の犯罪者と世界最大の兵力を持つ男達の対峙する戦場、海兵達は闘志を漲らせて向かった。

 

「うおっ‼︎ センゴク大将にガープ中将、その上ブラッドレイ提督が揃って出るのか‼︎」

「そりゃあロジャーだ…‼︎ ガープさんは放っとかねェ…‼︎」

 

 後に中将の座に就く若き海兵達は、そんな彼らの後姿に羨望と憧憬の眼差しを向ける。

 

 いつか自分達もあのように。

 そんな風に、英雄の卵達は自身を奮い立たせていた。

 

 

 

 荒れ狂う海、渦を巻く波。

 エッドウォーと呼ばれる海域において、一隻の海賊船に乗る少年が悲鳴交じりの声を上げていた。

 

「ロジャー船長ォ〜〜〜!!! 命が一番だって!!! ここは一つ一時的に金獅子の言う事聞いてさ‼︎」

 

 大きな赤鼻の目立つ少年―――後の〝道化〟のバギー。

 彼は目前に迫る悪夢のような光景を前に、情けなく泣き顔になりながら頭を抱えていた。

 

「お前、いくら切られても死なねェ体になったんだからいいじゃねェか」

「弱点はいっぱいあんだよ‼︎ バーカ‼︎」

「だから日頃からもっと鍛えとけって言ったのに………」

「うっせー‼ 脳筋女ァ!!!」

「あんだとデカっ鼻ァ!!!」

 

 同い年の少年、後の〝四皇・赤髪〟のシャンクスに言われてツッコミを入れ、隣に立つ栗鼠の耳と雀の翼を持つ少女と睨み合う。

 

「戦闘だいすきっ娘のてめェと一緒にすんじゃねェ!!! こんなやべェ状況でへらへら笑えるとかイカレてんのかリジーてめェコラァ!!!」

「違いますー‼ あんたが弱っちすぎるだけですー‼ 僕に一度も勝てないあんたが情けないだけですー‼ やーいロジャー海賊団の恥さらし~!!!」

「ふざけんな!!! てめェが不意打ちばっかするからだろうが!!!」

「ちはははは負け惜しみ~!!!」

「仲良いなァ、お前ら‼」

「どこがじゃ!!?」

 

 げらげらと、戦場とは思えない愉しそうな雰囲気が流れる甲板。

 ただ一人、心底死を恐れるバギーは、くるっと後ろに立つ銛を持った男、船医クロッカスに振り向き縋りつく。

 

「そうだクロッカスさん、船長の容体はどうだ‼︎ 戦わねェ方がいいよな! ドクターストップかけてくれ」

「生憎だが絶好調だ」

「諦めろ。長ェ付き合いだが、おれ達がロジャーを止められた事はねェ‼︎」

 

 こきっと首を鳴らし、構えるクロッカスに合わせ、ギャバンという名の海賊が呆れたようにバギーの肩を叩く。彼もまた、目の前の戦場に好戦的に笑ってみせていた。

 

 最後の望み、とばかりに、バギーは背後の眼鏡の男―――〝冥王〟シルバーズ・レイリーに泣きつく。

 

「レイリーさん!!!」

「トムの船、オーロ・ジャクソンを信じろ‼︎ ―――ロジャーにはもう時間がない…‼︎」

 

 レイリーが見やる先には……彼らの船長の姿がある。

 外套を羽織り、黒い髭を蓄え……何より尋常ではない覇気を醸し出す男。

 

 世界最悪の犯罪者にして、世界政府が最も危険視する海賊―――ゴール・D・ロジャーが目前の()と雄々しく相対していた。

 

「この話は何回目だ、ロジャー‼︎ 若ェ頃にゃあ色々あったが水に流そう‼︎ お前が在り処を知る〝世界を滅ぼす兵器〟と!!! おれの兵力!!! そしておれが長い月日を費やして立てた完璧な計画があれば、今すぐにでもこの世界を支配できる!!! おれの右腕になれ、ロジャー!!!」

「おれは〝支配〟に興味がねェんだよ、シキ!!! やりてェ様にやらねェと海賊やってる意味がねェだろ?」

 

 相対する男の名は〝金獅子〟のシキ―――海軍を除いて最大の兵力を持つ、当時においても最も海賊らしい海賊。

 

『世界の支配』を望み、その為に幾度もロジャーを誘い続ける彼は今。

 数十隻の獅子の船首の船でロジャーのオーロ・ジャクソン号を囲み、交渉という名の脅しをかけていた。

 

―どんな圧力をかけて来ようとも、お前の申し出は断る!!!〝金獅子〟ィ!!!

 

 だが、ロジャーは微塵も臆さない。退かない。

 絶望的なまでの兵力差、戦力差、悪天候を前にしても、まさしく鬼のように恐ろしい笑みを浮かべ、獅子の脅しを撥ね退けていた。

 

「やめてー‼︎ 船長〜〜‼︎ コレ何十隻いると思ってんだよォ!!!」

「にゃひひひ…‼︎ 腕が鳴るというものだ!!! お前も存分に暴れろ、バギー!!! リジー!!!」

「あいあいさー!!!」

「勘弁してくれニューラさん〜〜!!!」

 

 彼の仲間は誰一人……一人を除いてだが……彼と同じく好戦的に笑い、降る素振りを見せない。

 ロジャーに付き従う黒豹の耳と鷲の翼を生やした女、〝黒羽〟のニューラはより一層にやる気を見せ、ばりばりと青い閃光を走らせる始末だ。

 

 そして、望む答えを得られなかったシキは―――びきびきと顔中に血管を浮き立たせ、ロジャーを睨みつけた。

 

 

つまりその答えは、今ここで殺してくれという意味だよな!!!?

てめェら全員叩き潰すって意味だよ!!!

 

 

 ロジャーの答えは変わらず拒絶、そして、先制の砲撃。

 荒れ狂う海を舞台に、男達の雄叫びと爆音が広く高く轟き渡った。

 

 ―――海賊大艦隊の大親分として知られる〝金獅子〟のシキと後の〝海賊王〟ゴールド・ロジャーが激突――――

 

    世にこれを『エッド・ウォーの海戦』と呼び

    絶体絶命と思われたロジャーの船は突如大きく荒れ狂う天候に救われ

    結果、シキの大艦隊の半分を海に沈め――――さらにシキに襲いかかった不慮の事故により

    からくも痛み分けとなり戦場を突破した――。

 

 

 

「どうだ? 舵輪は」

 

 激突から数日、医務室に訪れたシキの部下・Drインディゴが医師に問う。

 意識を取り戻したシキの頭頂部……割れた舵輪が突き刺さり、鶏冠のようになった頭を確かめた医師は、やがて諦めたように険しい顔で首を横に振った。

 

「ああ…Dr.インディゴ。抜けませんね………えらく深く食い込んでいて、無理に抜けば命にかかわる」

「そうか…まあいい、よくある事だ」

「戦闘中うっかり舵輪が頭にめり込んで抜けなくなる事はそうそうありませんよ」

「しかしその生命力はさすが」

「そりゃ、おれは〝金獅子〟に例えられるほどの男だぜ」

 

 感嘆する部下や呆れる医師に答えつつ、シキは立ち上がる。

 そのまま命を落としてもおかしくないような大怪我だというのに、それを微塵も感じさせない自然な動作に、恐ろしさの方が勝る。

 

 が、ふと鏡の前に立ったシキは、間抜けな顔で映った自分の顔を見つめた。

 

「あれ? あそこに鶏が」

「おめェだよ!!!」

「「ハイ!!!」」

 

 気の抜ける漫才に、たった一人の観客にさせられた医師は、曖昧に返す事しかできなかった。

 

 

 

    約2年後――――ロジャー海賊団はついに不可能と言われた〝偉大なる航路〟制覇を成し遂げ、ゴールド・ロジャーは〝海賊王〟と呼ばれる様になる。

    その後、ロジャー海賊団は謎の失踪―――さらにそれから1年が過ぎた頃………。

 

『海賊王逮捕』のニュースが世間をあっと驚かせる。

 

 

 

「ロジャーが………捕まったァア!!?」

「確かな情報で……‼︎」

「ウソをつけェ!!! そんな事が信じられるかァ!!! あいつがどれほど強ェ男か…!!! てめェら知ってるハズだぞ!!!」

 

 荒ぶるシキの咆哮と共に、どんっ!と銃声が響き渡る。

 報告をした部下が足を撃ち抜かれ、痛みで艦橋を転げ回る。それに目もくれず、シキはずんずんと荒々しい歩調で踵を返す。

 

「親分っ‼︎ お静まり下さい‼︎」

「いい加減な事言ってんじゃねェよ!!!」

「親分‼︎ ……どこへ!!?」

 

 部下達の制止の声も聞かず、シキは去った。

 己の目で真偽を確かめる為に―――何より、自らの手で始末をつける為に。

 

 

 

 その日、海軍本部に衝撃が走った。

 誰も攻め込むはずのない、世界政府の最大戦力の拠点・マリンフォードに攻め込む者があったからだ。

 

『侵入者です!!! 場所はマリンフォード湾岸の広場‼︎』

『敵の数は!!?』

『一人です!!! 敵は…〝金獅子〟のシキ一人!!!』

 

 マリンフォードは瞬く間に血の海に染まった。

 侵入者の排除に動いた海兵達を、シキは愛刀たる二振りの剣で斬り捨て、高い屍の山を築いた上に立った。

 

 そして自身を囲む海兵達に向け、殺意に満ちた目を向け吠えた。

 

「ロジャーがおめェらみてェなカス共に捕まるハズがねェんだ、このおれが認めた男だぞ!!!」

 

 狡猾に、冷静に、己の欲を満たす為の計画を念入りに練る男。

 本来ならば、彼はこのような無謀な突撃に走る筈がない。襲撃を懸けるならば、年月と金をかけて兵力を揃え、策略を巡らせて襲っただろう。

 

 そんな手段に出られなくなるほど、シキの頭には血が昇り、冷静な思考ができなくなっていた。

 

「海賊王⁉︎ それが何だ!!! あいつがおれに手を貸せば、おれ達は全世界を支配できた!!! 適合する事はなかったが、あいつとは同じ時代をやって来たんだよ!!!」

 

 シキには許せなかった―――己の元に降らず、無様に捕らわれ死を待つだけのロジャーの最期が。

 一度でも己が欲した者が、自分の手の届かぬ場所で無意味に消え去ろうとしているなど、受け入れられない唾棄すべき結末だった。

 

「いるんなら連れて来い!!! 殺すならおれの手で殺してやる!!!」

 

 怒りと憎しみと悲しみ、あらゆる感情を混ぜてシキが吠える。

 そんなシキの求めに応じるように、海軍の英雄たる二人の男達が姿を現し、怒り狂った海賊と相対した。

 

「センゴク大将…‼︎」

「ロジャーは〝海賊王〟。お前との勝負なら――奴の勝ち逃げだ。処刑は一週間後奴の生まれ故郷〝東の海〟の〝始まりの町〟―――『ローグタウン』

「ガープ中将…‼︎」

「ロジャーの死は、あらゆる海賊達の心をへし折るだろう」

 

 ぎりっ、とシキは歯を軋ませ、自身にとって残酷な決定を口にした二人を睨みつける。

 

 最弱の海東の海(イースト・ブルー)。大した海賊も集まらない、吐き気がする程に穏やかで平和な、支配する気にもならない何もない海。

 そこであの男が、全てを手に入れた男が処刑される……それが、自分が全力で欲した男の最期だというのか。

 

「海賊王ロジャーの伝説が………あの最弱の海〝東の海〟で終わるのか、笑わせるな!!! それはあのクソったれに対する最期の侮辱だよな」

「最弱とは言い様だ…〝東の海〟は平和の象徴………‼︎」

「処刑の邪魔はさせん…!!!」

 

 ガープとセンゴクは正義の外套を脱ぎ捨て、ネクタイを緩め、袖を捲る。

 相手はロジャーに次ぐかもしれない最悪の海賊。さらなる増援は必要ない、居ては逆に邪魔になる。

 

 互いを鋭く睨みつけ、闘志を全身に漲らせ、三人は同時に動き―――激突した。

 

 

 ―――〝ガープ〟〝センゴク〟〝金獅子〟。

    3者の戦いはマリンフォードの町を半壊させるまでに及び、決着をみた。

    かくして海賊〝金獅子〟はインペルダウンへ投獄される事となる―――。

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