ONE PIECE −LOG COLLECTION : ELEANOR−   作:春風駘蕩

245 / 324
第拾壱話〝支配を望んだ男〟

 ―――〝金獅子〟のシキのマリンフォード襲撃、そして捕縛。

    インペルダウンに投獄された、一週間後。

 

   〝海賊王〟ゴールド・ロジャーの死と共に、〝大海賊時代〟が幕を開ける。

 

「おれの財宝か? 欲しけりゃくれてやるぜ…探してみろ。この世の全てをそこに置いてきた」

 

 その言葉が、処刑台前に集まった多くの者達の欲望に火をつけた。

 大小問わず、多くの悪党や夢見る男達がその影響を少なからず受け、続々と海へ出た。その中には、現在に名を馳せる、若かりし頃の実力者達の姿も多くあったとか。

 

〝海賊王〟と呼ばれた男の最期を見届け、彼の右腕と黒豹の天使、そして仲間達の多くは消息を絶ち。

 代わりにただの見習いであった少年少女達が、徐々に台頭し始める。

 

 ニュースは即日全世界を駆け回り、人々の脳裏にこの先の荒れ狂う海を予感させた。

 

 

 

「恐ろしい時代が始まった」

 

 とある砂漠の国では、一人の王が不穏な未来に冷や汗をこぼし、王妃と共に国を守る決意を強くする。

 その国の民である夫婦も、新聞の記事に目を通し険しい表情となる。

 

「とんでもないニュースが出てきやがったねェ」

「ああ、しばらく海が荒れそうだ………イズミ、今日は日差しが強い。仕事はおれが…」

「いいんだよ、あんた。少しくらい助けさせておくれよ…夫婦なんだから」

「お前…‼」

「あんた…!!!」

 

 ひし、と抱き合う二人。呆れる彼女達の店の店員や、同じ町に住む住人達。

 この先夫婦に襲い掛かる悲劇も、絶望も何も知らないまま、不安を抱きつつ過ごす日々が始まる。

 

「クリケット船長‼ ロジャーが宝残して死んだって、こりゃスゲー!!!」

「ロマンがあるじゃねェか‼」

「だっはっは‼ 探してみっか⁉」

 

 ある海域を根城にする海賊達は、然程恐れる様子もなく愉しげに語り合う。

 彼らが己の生に決着をつける決断を下すのは、まだ少し先の話だ。

 

 影響は表の世界だけに留まらない。

 最強の海賊達が集う〝偉大なる航路〟後半の海〝新世界〟……そこを縄張りとする、ロジャーと争い続けた大海賊達の元にも。

 

 そして、一度敗北した猛者達が収監される最大の監獄インペルダウンにも、その知らせは届いていた。

 

「聞いたかこの大ニュース!!! 海賊王が大秘宝を残して死んだって‼︎」

 

 狂気に満ちた檻の中、囚人同士での殺人も乱闘も珍しくない、地獄を体現したような場所。

 そんな場所に捕らわれる悪党達には、ロジャーの言葉は非常に強く、外の者達とは比べ物にならないほどに響いていた。

 

「海賊達の時代が始まったんだァ!!!」

「シャバへ出てェ‼︎ 今すぐに…‼︎」

「新しい時代が始まった‼︎ 新時代の海賊の海!!!」

 

 血を見るのも、奪う事も、悪事の何もかもを好む彼らにとって、大海賊時代はまさに夢の世界。殺し合いでのし上がってきた彼らが何より楽しいと思う時代。

 

 全身全霊で羨望の声を上げ、騒ぐ彼らを他所に。

〝金獅子〟のシキは、牢獄の中で手足を投げ出し、無気力な様を辺りに晒していた。

 

「なぜ死んだ、ロジャー」

 

 囚人服に着替えさせられ、両足を鉄球の付いた海楼石の錠で封じられ。

 凶悪な犯罪者に何もできないような処置が施された上で、悲しみとも怒りとも取れない複雑な表情で天井を仰いでいた。

 

「くだらねェ………………………宝目当てのミーハー共が海にのさばったって邪魔なだけだ…‼︎ …何が新しい時代…!!!」

 

 隣の牢で、別の牢で騒ぐ悪党達の燥ぎようが、彼には理解できない。

 そんじょそこらの雑魚とは格の違う、本物の強者達を相手に暴れ回ってきた彼にしてみれば、今海に蔓延る輩など児戯も同じ。

 

 それらがさも物語の主人公を気取るように振る舞う事が、彼には我慢ならなかった。

 

「海賊は海の支配者だ……!!! いずれわからせてやる…」

 

 能力を封じられ、硬く分厚い檻に捕らえられ、抵抗は叶わない。

 しかし、獅子はまだ狂気を秘めていた。牙を折ったつもりで油断している看守達を見据え、喉元に食らいき自由を得る瞬間を待つ。

 

 それを―――異なる牢に捕らわれる羊の角と耳を生やした堕天使が、不気味に嗤って見つめていた。

 

「惜しいですね……惜しい、惜しい…………その望みが〝支配〟でなければ……まァ、見てる分には充分面白いですが。めひひひひ…!!!」

 

 身の毛もよだつ嗤い声を上げ―――やがて彼女の手から、小さく赤黒い閃光が迸った。

 

 監獄内の雲行きは、それから少しして変わり出した。

 

「署長‼︎ 報告します‼︎〝金獅子〟のシキが逃走しました!!! まだ獄内のどこかに!!!」

 

 副署長を務める、毒の能力を持つ男が当時の署長の部屋に飛び込み、急ぎ報告する。

 思いもよらぬ、未だ一度たりとも例のない報告に、監獄内で最強の座に就く署長はかっと目を見開き、尋ね返す。

 

「海楼石の枷はどうした、外されたのか!!?」

「いえ、枷は外れていません!!! 自分の両足を切断して……!!!」

 

 血の滴る、足首から先だけが残された光景を思い出したのか、青い顔で背筋を震わせる副署長。署長はすぐさま、インペルダウン中の看守達全員に向けて命令を発した。

 

「何としても探し出せ!!! あんな大物逃がしてはコトだ!!!」

 

 看守全員を動員し、逃げた囚人の捜索と捕縛に向かわせる。

 霞の様に消え去った最悪の存在に恐怖感を抱きつつ、看守達は血眼になって施設中を探し回り。

 

 やがて……一人の看守が、頭上から舌たる赤い雫とその持ち主に気付いた。

 

「ジハハハハハ……おれの剣を2本知らねェか…? 名剣だ。『桜十』、そして『木枯し』」

「シ…‼︎ シ……シ……昇格したい‼︎ あ‼︎ 間違えた‼︎ シキ!!!」

「おめェらにゃあ悪いが、ここは出て行かせて貰う…‼︎ 足はいらねェんだ…やるよ」

 

 頭上の梁に腰かけ、どこで手に入れたのか葉巻を咥え、煙を燻らせるシキ。

 未だ血を流す両脚をぶらさげ、いまだ監獄内にいるにも拘らず、凄まじい殺気と狂気の笑みを湛える男に、被り物をした看守は真っ青な顔で震え上がった。

 

「2年間世話になったな」

「マゼラン副署長〜〜‼︎ シキいました助けてェ〜〜〜!!!」

 

 情けない悲鳴を上げ、上司に助けを求める看守。

 捕縛よりも、己の身を守る事を優先したお陰か、彼は大した怪我を負う事なく最悪の男の魔の手から生還する。

 

 代わりに彼らは、最悪の罪人を逃すという失態を犯す羽目になる。

 

 ―――そして、一度は牙を折られた海賊〝金獅子〟は檻を破り――再び海へと解き放たれた。

 

 

 

『センゴクだ、休暇中悪いが…ガープ、金獅子の事だ』

「ああ、聞いた。気を付けた方が良いな…平安を求める様な男じゃない」

 

 平和な海、東の海。

 その一角……故郷であるゴア王国の端にあるフーシャ村にて、ガープは同僚からかかってきた通話に顔を顰めた。

 

 心身を休める気で、そしてある目的の為に戻ってきたのだが、気力を養う暇はなくなりそうだ。

 

「――だが、すぐには仕掛けちゃ来んだろう。用意周到な男だからな」

 

 今すぐに、何かが変わる……終わりを迎えるわけではない。

 何かが始まる前にこちらでも備えておくべきだ、という結論に達し、英雄達は一度通信を切った。

 

 その後彼は……ある男から預かった己の孫の顔を見に、山奥の山賊の根城に向かっていった。

 

 大悪人の脱獄の凶報は、ニュース・クーを通じて世界中に報道され、多くの人々の目に、耳に入る事となる。

 人々は皆、恐ろしい敵がこの世のどこかに身を潜めているという事実に怯え、海賊の増加に加えて、不安な日々を過ごす事となる。

 

「〝金獅子〟……ねェ」

「母さん、そんな大物がこんな田舎の海に来るはずないよ」

「そうかねェ…? まァ、心配するだけムダか」

 

 とある機械鎧の工房を営む老婆と、その息子夫婦はそう話しながら、ここではない何処かで起こるかもしれない悲劇に顔を歪め。

 考えても仕方がない、と不安を振り払い、失った四肢の代わりを求める客達の相手に勤しみ。

 

「何だ、珍しいな。旅の船か……?」

「ヤソップって男の評判を聞いて来たんだ。あ…おれはシャンクス。こっちはアル・リジー。海賊だ」

「よろしく~‼」

 

 ある島に住む青年の元には、栗鼠の耳を生やした天使を相棒にした赤い髪の青年が小舟で尋ね、仲間に勧誘し。

 

「あなた、進捗はどう?」

「ああ、う~ん…何とかやってるよ。悪いね、君に負担をかけてばかりで…」

「いいのよ、家族なんだから助け合うのは当然でしょ」

「…そう…だね。ありがとう」

 

 極寒の冬の島、医療技術の発達した国に住む錬金術師は、妻に慰められながら貧しい暮らしを捧げ研究に没頭し。

 それでも巧くいかない毎日に頭を掻き毟り、暗い感情を少しずつ胸の内に溜め込み続け。

 

「どうだい、海列車」

「たっ…‼ あっ…‼ ‼ …‼ ‼ …‼ まずまずだ」

「おれが手伝ってんだから大丈夫だ‼」

「こいつが武器つけたがるんだ」

「全く…ありがた迷惑な」

 

 水の都にて、島を救う希望を作り出そうと試みる船大工達が、然程不安もなさげに語らい笑い合い……同時に、遥か昔より託された〝力〟を隠す事に尽力し。

 

「………シキめ、今更何をしようというのだ」

 

 未だ種火である、世界を変える意思を持った男の元では。

 一人の〝王〟の最期を見届けた黒豹の天使が、新聞の記事を睨みつけながら訝しげに吐き捨てていた。

 

 

 

 多くの人々の心に不安の影を残しつつ―――〝金獅子〟は一人、旧い知人の元を訪れていた。

 

 

 

「ロジャーのいねェ海はどうだ? ――おれ達を阻む壁はなくなった。今はお前の時代の様だな〝白ひげ〟…」

「つまらねェ事を言いに来たんなら今すぐ海に沈めるぞ、〝金獅子〟」

「ジハハハハ、相変わらずムカツク野郎で安心したぜ」

 

 ロジャーに続き『最強』の名を冠する大海賊、己を配下に父と呼ばせる変わり者の大海賊。

 唐突に姿を見せ、にやにやと嘲笑うような態度を見せるシキに、白ひげは苛立たしげに顔を歪め睨みつける。

 

 息子達はただ黙って、父とその知人の話す姿を見守るほかにない。明確な敵とわかりきっていれど、口を挟むわけにはいかなかった

 

「――しばし姿を消そうと思う……生ぬるいこの時代に、本物の海賊の恐さを教えてやる」

「――また何か企む気だな……」

 

 意味深に笑うシキに、己と関係などなくも、悍ましい計画を目論む様は不快だと白ひげは吐き捨てる。

 

 と、不意にシキの視線が白ひげの隣に向く。

 白ひげの旗揚げから常に傍に寄り添い続ける、『お袋さん』と呼ばれる女傑―――雪豹の耳と尾、鷹の翼を持つ天使がそこに立っていた。

 

「よォ、奥さん…………相変わらずゾッとするほどの別嬪だな。旦那はちゃんと満足させられてんのか」

「殺すぞ、クソガキ。毎日毎晩アッツアツだわ」

「ジハハハハハ…!!!」

 

 神々しいまでの美貌と、凛とした佇まいを見せる女傑だが、口からこぼれた言葉は荒々しく敵意に満ちている。

 シキは向けられる殺気もものともせず、女傑の腕に抱かれる幼子を―――女傑によく似た顔立ちの、白虎の天使の顔を覗き込む。

 

「…………そいつはお前らの娘か」

「見るな、汚れるわ」

「海賊の……それも〝白ひげ〟と〝白羽〟の娘じゃ男を探すのにも苦労しそうだな。おれが貰ってやろうか」

「下らねェ事言ってると今ここで潰すぞ…‼︎」

 

 じっと見つめられ、怯えたように母の胸の中に逃れる幼子。

 冗談なのか本気なのか、判断し難い態度で娘を欲しがるシキに、白ひげと女傑両方から凄まじい殺気が―――覇気が迸る。

 

 バリバリバリッ!と大気を震わせ、天候すら歪ませるそれを真向から受けながら、シキはげらげらと下品に、平然としたまま嗤った。

 

「覚えておけよ、おれァ欲しいと思ったら手段は選ばねェ……せいぜい大事に……金庫にでも入れて守っておくんだな。ジハハハハハ…!!!」

 

 狂気に満ちた男の嗤い声は―――幼子の心に深く刻まれ、しばらくの間、母の傍から離れなくさせた。

 

 

 

 シキはその後、ある島を訪れた。

 

 雲に届く程に高い標高を有する島、その上に広がる密林。

 鬱蒼と茂る緑の大地には、見た事もないほど大きく、強く、恐ろしい生態を持つ怪物達が棲んでいた。

 

「Dr.インディゴ‼︎ 研究は進んだか」

「発見が一つ…ありまして」

 

 眼下に広がる光景……無数の怪物達が闊歩し、時に激しくぶつかり合い、破壊を齎す様を心底愉しげに眺める。

 

 己に必要な物。戦力、兵力、何よりも破壊力。

 煩わしいものを跡形もなく消し去れる純粋な〝力〟が多く蔓延る景色に、狂喜が湧き出していた。

 

「どうやらこの島、いくつかの植物によってバランスが保たれている様で、いずれも地上にはない種の………」

「早ェ話がだ、インディゴ‼︎ おれの計画が実を結ぶのに何年必要だ」

「そうですね…10…15…いや早くても…20年」

「……よし……」

 

 にやり、とシキは嗤う。

 長く、入念に、どれだけ金も労力もかけようとかまわない―――己を否定したあの男に、そしてあの男が作り出したこの世界そのものに、復讐する為ならば。

 

「よかろう、計画発動は20年後だ!!! 地上に地獄を見せてやる!!!」

 

 

 

 ―――そして20年の時が流れる―――

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。