ONE PIECE −LOG COLLECTION : ELEANOR−   作:春風駘蕩

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第拾参話〝仁義激突(ブレイクアウト)

 唐突に、砲撃の雨は止む。

 かちかちと乾いた音を立てる引き金を確かめ、ウブロが担いでいた擲弾砲を放り捨てる。

 

「弾切れか………」

「だが、まだまだ残ってやがんな」

「挨拶がわりだ、これで十分だろ」

 

 ウブロを皮切りに、他の者達も重火器を捨て、本来の得物に手をかける。

 この時の為に、研ぎ直してきた剣を手にしてセイバーが呟き、前を見据える。

 

 砲撃に巻き込まれ、幾人かの海賊達は既に倒れた。しかし逃げていた他の海賊達が徐々に戻り、エース達の包囲網を作り出す。

 

「し…侵入者共を討ち取れェ!!!」

「「「「「ウオオオ!!!」」」」」

「〝火燕〟!!!」

 

 雄叫びと共に向かってくる海賊達。

 しかし、エースは向かってくる彼らを一瞥もせず、片手で生み出した炎の燕を飛ばし難なく撃退する。

 

「先生‼︎ ウォレス‼ コタツ‼ エレノアを探せ‼︎」

「はい‼︎」

「わかりました」

「ニャーン‼︎」

 

 傍らにいた二人と愛猫に呼びかけ、走らせる。

 捜索能力に秀でたコタツを筆頭に、彼らが大急ぎで大広間から出て行くのを横目に、エースはずんずんと前だけを―――仇敵の姿だけを視界に捉えて進む。

 

「てめェ…エレノアに…!!! おれの惚れた女に何しやがったァ!!!」

 

 ぼっ!と両足に業火を生み、宙へと跳躍する。

 そしてその勢いのまま、右の拳にも真っ赤な炎を纏わせ、シキの顔面へ叩き込む。

 

 渾身の一撃が炸裂し、しかしシキは能力で自身を浮かせ、どこかへ飛び出す。

 

 すかさず後を追うエースの前にDr.インディゴとスカーレットが立ち塞がるが、彼らの前にも一人ずつ仲間が立ち塞がり、妨害を阻んだ。

 

「いってくだせェ、エース!!!」

「道を開けろ、この野郎が!!!」

 

 振り下ろされるDr.インディゴの剣をスカルが鉈を手に防ぎ、拳を振り上げたスカーレットをデュースが蹴り飛ばす。

 火花を散らす彼らの作った道を抜け、エースは宙を貫き進む。

 

「頼む!!!」

 

 仲間達の無言の応援を背に、エースはシキの、逃してはならない最悪の存在の後を追った。

 

 

 

 ―――鉄棒の檻の中、ぐったりと天を仰ぎ沈黙するエレノア。

 じわじわと広がる体中の緑の斑点。毒に侵され、徐々に呼吸も苦しくなってくる極寒の世界で……それでもまだ、意識を保ち続ける。

 

 ふと彼女の視界で、黄色い閃光が弾ける。

 うっすらと瞼を開けてそちらを見やれば、自身を監視していた兵士が黒焦げで倒れ、気絶している様が眼に映る。

 

 その中心で佇む、雷撃(エレキ)鳥がエレノアを見つけ、嬉しそうに一言鳴いた。

 

「……やァ、よく来たね……」

 

 ふっ、と力なく笑みを浮かべるエレノアに、雷撃鳥は心配そうに顔を歪めて近づく。大丈夫?とその顔は尋ねている。

 

「大丈夫…へーきへーき…………それよりさ……頼みたい事があるんだよ…」

 

 ぱちぱちと眩しく放電する巨鳥を見上げ、エレノアは一言、頼む。

 脳裏に浮かんだ危険な賭け。自信が危うくなるのは間違いなくも……今頃王宮に押しかけている仲間達の助けになる作戦に、にやりと不敵に笑いながら。

 

 戸惑いの表情を浮かべる雷撃鳥だったが、やがて『任せろ』というように強く頷いてみせた。

 

 

 

「グルルルル…‼︎」

「くそっ………どこにいるんです、お嬢…‼︎ あいつらの様子から考えるに、何かしでかして捕まってると思ったんだが………」

 

 コタツを先頭に、王宮内を走るミハールとウォレス。

 途中で遭遇した兵士をミハールがいつも通りどこからともなく狙撃し、ウォレスが近づき排除する。

 

 なるべく静かにエレノアをを探し進む一同だったが、未だ見つけられずにいた。

 

「コタツ、ニオイでわかりませんか?」

「グルルル…………ニャーン」

「ダメっぽいな……ほんのりダフトグリーンのニオイが紛れてる。コイツの所為ですか……‼︎」

 

 頼みの綱であるコタツの嗅覚。しかし、空気中に混じるダフトグリーンの強烈な臭いが、エレノアの匂いを覆い隠してしまっているらしい。

 

 どうしたものか、と頭を抱える男達。

 その時、ミハールの声がウォレス達の意識を引き戻した。

 

「コタツ!!! ウォレスさん‼ あそこ!!! あそこです!!!」

「何っ⁉」

「グルッ!!?」

 

 何かを見つけた様子の声に、咄嗟に辺りを見渡すウォレスとコタツ。

 するとやがて、王宮の外、敷地の境目付近で輝く何かに……見覚えのある巨鳥の姿に気が付き、すぐさまミハールと共に王宮の外壁から飛び降りる。

 

 ダフトグリーンらしき植物の壁。その中で輝くのは、孔雀らしき大きな尾羽を広げた鳥……雷撃鳥。雷光を放ち、何やらじっとしている。

 その前で檻のようなものに捕らわれたエレノアの姿を目にし、二人は顔を顰める。

 

「あれは……何を」

 

 ミハールが困惑の呟きをこぼした、その時。

 

 雷を纏った雷撃鳥の嘴が足元に繋げられた導火線にぶつけられ、火がつく。孔雀はすぐさまその場から飛び立ち、ミハールの射程範囲から離れていく。

 何を、とミハールが訝しみながらも、エレノアの元へ急ごうとダフトグリーンの間を抜けた時。

 

 

 毒の樹の幹に巻きつけられた、無数の爆薬に思わず「え?」と声が漏れる。

 

 

 そして次の瞬間、かっ!と眩い光が迸り、次いで真っ赤な炎が辺りに撒き散らされ、続いて爆音が辺りに轟き渡る。

 

 ウォレスとミハール、コタツは爆風で吹き飛ばされ、遠く吹き飛ばされ雪の中に埋まる。痛みで呻きながら、頭を振り辺りを見渡した。

 

「うごごごご…‼︎ な、何が起こったんで…⁉︎」

「ニャーン……」

 

 ぎこちなく周りに目をやれば、焼け焦げた地面が広く視界に映る。

 そして何よりも……王宮の外を彩っていた毒の樹が、根元から圧し折れなくなっている事に、一同は驚きで目を瞠る。

 

「ダフトグリーンが根こそぎ吹っ飛んでる………まさかお嬢、このために…」

「ニャーン‼︎」

「‼︎ そこか‼︎ 待っててください、お嬢!!!」

 

 あの爆薬は、孔雀は、そして一人シキのもとに下ったエレノアはこれを計画していたのか。真相に気付き、息を呑んだ彼らは、同じく吹き飛んだエレノアの姿を見つけ、傍に駆け寄った。

 

「この痣…‼︎ まずいですね、シャオさんのお婆様と同じです。治療してあげないと……」

 

 エレノアの肌に浮かんだ緑の斑点に、険しい顔で唸るミハール。

 とにかく、探し人は見つかった。こんな極寒の空の下では治療もままならない、とウォレスがエレノアを担ぐ。

 

 ―――その瞬間、彼らは耳にする。

 どこからともなく響いてくる、大地を揺らす無数の足音に。

 

「こいつァ………」

「まさか………」

 

 びくっ、と肩を上下させて固まったミハールとウォレス、コタツ。

 ぎぎぎ、と壊れた人形のように歪に、ゆっくりと振り向いた彼らは、その光景を目撃する。

 

 王宮めがけて突っ込んでくる、島に住まう最恐の怪物達の軍勢を。

 

「「うおわああああああああ!!!」」

 

 まるで、毒の樹を使って散々利用され、押さえつけられた鬱憤を晴らすが如く、次々に壁に突っ込み王宮内へ乗り込んでくる巨体の持ち主達。

 地震のような揺れの中、一同は必死の形相でエレノアを担ぎ、その場を後にするのだった。

 

 

 

 怪物達の進撃は、海賊達にとっても悪夢となった。

 

 シキの計略により押さえられていたはずの戦力が、一人の天使の尽力により枷から解き放たれ、暴れ回る。

 咆哮が轟き、地面は踏み荒らされ、王宮内はみるみる破壊されていく。

 

 命を弄んだ愚かな人間達へ天罰を下すかのように、怒り狂った怪物達が無慈悲な蹂躙を齎した。

 

 

 

 どごぉん!と、王宮のあちこちから爆音と破砕音が聞こえる。

 どこもかしこも混乱に陥り、しかしお陰で天使が拘束から抜け出し逃げている事に誰も気づいていない。

 

 僅かに余裕を取り戻したミハールは、ウォレスの背のエレノアを簡単に診察し顔を顰めた。

 

「どうです、先生…⁉︎」

「かなり危険ですね………ようやく呼吸しているような状態です。一刻も早く治療をしなければ」

 

 廊下を走り、庭を飛び越え、一時的にでも安全な場所を探す一同。エース達が全て片付けるのを待っていては、間に合わなくなるかもしれない。

 その時、ミハールがはっとした顔で顔を上げた。

 

「そういえばあの時、シャオはバアさんのダフト病を治す為にIQとかいう花を探してましたね…」

「それだ‼︎ そしてこの島の生物を怪物に進化させた薬〝SIQ〟の材料もIQだったはず!!!」

「そいつをシキの奴が独占しているという事は…‼︎」

「王宮のどこかに大量にあるはず!!!」

 

 希望が見えた、と目を輝かせた二人が速度を上げようとした時。

 全速力で庭を駆けていた彼らの目の前に突如、巨大な岩の塊が落下し、進路を塞いだ。

 

「わ〜〜〜っ!!?」

 

 驚愕に声を上げ、停止するミハールとウォレス。急な動作だったが、何とか背中のエレノアを落とす事なく、ざざざっと目の前の大岩からも距離を取る。

 

 同じく圧死を逃れたコタツは、不意にきっと空を見上げ―――そこに浮かぶ仇敵に向け、低い声で唸り始めた。

 

「グルルルルルル…!!!」

「どうしました、コタツ………ってシキ!!!」

「くっ…‼︎ この忙しい時に……‼︎」

「やってくれたな、小娘………よほど死にたいらしい」

 

 びきびきと顔中に血管を浮き立たせ、凄まじい覇気を全員から放ちながらシキが告げる。

 

 偽りの忠誠を誓われ、計画を台なしにされた上、若僧に殴り飛ばされ恥辱を味わい、王宮まで滅茶苦茶に破壊された。

 虚仮にされる、という段階をとうに超えた散々な状況に、老人は憤怒と憎悪に燃えていた。

 

「絶望のうちに死ね!!!〝獅子威し・御所地巻き〟!!!!」

「ギャー!!!」

「ニャーン!!!」

 

 シキの能力により、辺りを舞い散る雪が動く。

 そこら中から集められた大量の雪が一つとなり、巨大な獅子の貌を作って咆哮し、ミハール達とエレノアに襲い掛かる。

 

 絶体絶命、せっかく助けたのにここまでか……そう思われた瞬間だった。

 

〝蛍火〟……〝火達磨〟!!!!

 

 ぼぼぼぼぼぼっ!

 

 不意に、雪獅子の周囲に舞い上がった蛍のような光。

 それらが無数に集まり、一斉に弾け、最後は巨大な爆発となって雪獅子を吹き飛ばし、霧散させる。

 

 炎の連鎖爆発から寸前で逃れたシキは、目下を睨みつけ眉間に皺を寄せた。

 

「まだ足掻くか、小僧………」

 

 そこに立つ、炎の男。

 エレノアと仲間達を背に庇い、シキに勝るとも劣らぬ覇気を迸らせる。

 

 礼服を燃やし、鍛え上げられた上半身を晒し、背に刻んだ偉大なる父の海賊旗(ジョリー・ロジャー)を見せつけながら……エースは背後の天使に笑いかけた。

 

「エレノア………あいつをブッ潰して、みんなで帰るぞ」

「…………うん」

 

 ウォレスの背から、微かに聞こえる肯定の声。

 エースはそれだけで満足気に笑い、すぐに険しい表情で頭上の老人を見上げ、炎の温度を数段階上げる。

 

 決して自分の背後へは行かせない、そんな覚悟を示すように。

 

「ここは任せろ。エレノアを頼む」

「おう!!!」

「わかりました…‼︎」

「どこに逃げようと、皆殺しの運命に変わりはない………ここがおれのシマである限りな」

 

 走り出すミハール達を追わんと、シキが片手を上げて再び雪の獅子を生み出し、大岩を浮かばせ弾丸のように射出する。

 

 しかしそれらはエースの放った火炎によって粉砕され、逆にシキに熱波が襲い掛かる。

 

「おれ達の運命を……てめェが決めんじゃねェ!!!!〝炎戒・炎天華〟!!!!」

 

 空気を焼き、周囲を赤く染め、エースの炎がシキを狙う。

 是が非でも仲間の後を追わせない、愛した女の元へ行かせまいと凄む青年に、シキは嗜虐心に溢れた不気味な笑みを湛えた。

 

「東の海には行かせねェ!!!」

「いいぞ………その希望‼︎ 今、絶望に変えてやる!!!」

 

 

 

『――とにかくIQです‼ 毒にやられたお嬢さんを助けるには、IQが必要です‼ こっちは先にお嬢さんを逃がしますんで、そっちは解毒剤を探し脱してください!!!』

「わかった…‼ 気ィ付けろよ!!!」

 

 電伝虫で入ったミハール達からの連絡に、思わずフィナモレは顔を顰める。

 目的は果たした……が、新たな問題の浮上に不機嫌な唸り声が漏れる。攫うわ毒を撒き散らすわ、どこまでも邪魔をするシキに、苛立ちが募るばかりだ。

 

「とは言ったものの……一体どこを探しゃいいのか」

「ああ…」

「…‼ おい、あれ見ろ」

 

 がしがしと頭を掻き、考え込んでいたフィナモレとレオネロにセイバーが呼びかける。

 つられてフィナモレが振り向くと、確かに気になる()が視界に映り、二人は訝しげな目でそれを凝視する。

 

 無数の箱が並ぶ部屋、薬品らしき便が幾つも入ったそれを持ち、どこかへ逃げる男達。その手に生えた羽根に既視感を覚え、フィナモレ達は息を殺して様子を窺う。

 

「あの腕の羽根………シャオと同じだな」

「海賊じゃねェようだな…ほっといてもよさそうだ」

 

 去っていく彼らの背を見送り、意識を逸らしかけた時。

 セイバーがぎょっと目を見開き、男達が手に持っている物を凝視し息を呑む。

 

「ってちょっと待て。あの植物……IQじゃねェのか?」

 

 シャオを村まで送り届ける間、ずっと彼女が握り締めていた一輪の花。

 それと全く同じものが、男達の手に大事そうに抱えられ、運び出されている。一輪見つけるだけでもシャオが死にかけたというのに、あんなにも大量にあるとは。

 

「なるほど……ここがIQの研究を行っていた施設というわけか」

「じゃあ、ここに解毒剤があるって事だな‼︎ ………………で、どれだ?」

 

 足音が聞こえなくなってから、フィナモレ達は男達が出て行った部屋へと入る。

 確かに、解毒剤などいくらでも作れそうなほど薬が揃っている……どれがどの種類で、どれが薬か毒なのかさえわかればだが。

 

「仕方ねェ、片っ端から持って――――」

 

 専門知識のない彼らには、判断などしようがない。

 その辺りはデュースやミハールに任せよう、と手あたり次第に持って行こうとした時。

 

 放屁のような足音を放つ一人の男が、彼らの目の目前に近づき立ち塞がる。

 

 青い髪に道化の化粧をしたその男に、フィナモレ達は慄きつつ、男から漂う鼻に刺さる臭いに咄嗟に身構える。

 

「………薬品の匂いが漂ってくるな。お前、科学者だろ」

「ああ‼︎ とびっきり優秀のなァ!!!」

「そうか…だったら話が早ェ‼︎ ダフトグリーンの毒素に効く薬を出せ!!!」

 

 三叉槍を手にレオネロが吠え、切先を突き付ける。

 すると、Dr.インディゴはにやにやと馬鹿にしたような笑みを浮かべ、懐から小瓶を取り出した。

 

「ピロピロピロ…!!! 誰が渡すかバカ者!!! これの事だろ? 応急用にいつも持ち歩いているからなァ!!!」

「ほー……ありがとうよ、親切に見せてくれて」

 

 ゆらゆらと小瓶の中の液体を揺らし、取れるものなら取ってみろとばかりに見せつけるDr.インディゴ。

 

 そんな彼の後に続くように、暗闇の中に鬼火が灯る。

 怪しく光る炎を眼孔から漏らしながら、髑髏の仮面を被った男が鉈を引きずり姿を現す。

 

「スカル…‼」

「寄越さねェなら力尽くで奪うまでよ…!!!」

「奪うだとォ……⁉︎ この弱小海賊の馬の骨がァ〜〜〜!!!」

 

 強烈な殺気を互いに放ち、道化と髑髏が刃を携え、ぶつかり合った。

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