ONE PIECE −LOG COLLECTION : ELEANOR−   作:春風駘蕩

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第拾肆話〝大乱闘〟

 グォォォォ‼

 

 咆哮を上げ、双方向から向かってくる獅子達。

 強面の貌に唐草模様の将軍獅子と、ふくよかながら力強い突進を向けてくる肥満獅子(ファットライオン)が牙を剥き出しにして迫り来る。

 

「〝爆裂砲弾(バーンバレット)〟!!!」

 

 彼らを見据え、アギー68が砲弾を放って眼前で凄まじい爆発を起こす。

 獅子達は衝撃で吹き飛び、周囲の海賊と兵士を巻き込みながら宙を舞う。彼らは血反吐と共に煙を吐き、ずしん、と地面に横たわった。

 

「狙い撃つのみ…‼〝徹甲弾〟!!!」

 

 クーカイが放った弾丸が襟巻と角の生えた恐竜の土手っ腹に炸裂。鋼とほぼ同等の硬度を誇る鱗を貫き、襟巻角竜(エリマキトカゲプス)をその場に沈める。

 クーカイの後ろには、同じようにして倒れた怪物達が何体も積み重なっていた。

 

「ぬゥ………うららららららららららァ!!!」

「ほォォ…あたァァァァァ!!!」

 

 触手の先にそれぞれ硬い槌を備えた大槌磯巾着(ハンマーイソギンチャク)拳闘人鳥(ボクサーペンギン)が無数の拳撃を受けて倒れる。

 ダッキー・ブリーとドギャ、格闘家の二人組(コンビ)が目の前に立ちはだかってくる怪物を一瞬で昏倒させ、次々に勝利を重ねていく。

 

 その反対側では、自慢の爪を振るうバリーと剣士コーネリアが刃を翻す。

 バリーと切り合う大鎌を持った辻斬鼬(ツジギリイタチ)とやたら俊敏に動く功夫斑点蛙(カンフードット)は、数度の激突により難なく斃されていく。

 

「ルーキーをナメんなよ!!!」

 

 次々に、際限なく襲い来る怪物達を相手に、誰一人として恐れない。退かない。

 真正面から、時に闇に乗じて、そして敵を巻き添えにしながら。破壊と殺戮を齎す怪物達を仕留め、敵同士で潰しあうように誘導する。

 

「調子に乗ってんじゃないよ!!!〝守婦(しゅふ)(とも)〟!!!『百金武(ヒャッキン)』!!!!」

 

 バンシーもまた近くにいた怪物達を叩きのめし、最後の一体である糞燃蝿(バッチ・フライ)と相対する。

 無数の金棒を交差上に投げつけ、さながら蝿叩きのようにして壁に叩きつけ、あっという間にのしてしまう。

 

 ふぅ、と息を吐き、汗を拭うバンシー。

 連戦で流石に疲弊した彼女の背後に、突如スーツを着た巨獣がずしんと降り立った。

 

「…ウホ♡」

 

 サングラスの下から覗かせた目を、ハートの形に変えて。

 

 

 

「うらァァァァァァ!!!」

 

 どがん!と鉈を振り抜いたスカルによって、Dr.インディゴが外の端の上に押し出される。

 扉の破片を撒き散らしながら、Dr.インディゴは刀を捨て、掌の上に緑色に光る火の玉を生み出し、ポンポンと弄び出す。

 

「〝ケミカルジャグリング〟!!!」

 

 妖しく光るそれらを幾つも宙に並べ、スカルめがけて銃弾のように撃ち出す。

 一発、二発は斬り捨て、躱したスカルだったが、続けざまに襲い掛かられては捌ききれず、やがて数発を喰らって爆炎に呑み込まれる。

 

 黒煙に包まれる様に、道化の嘲笑が響き渡る。

 

「ピロピロピロピロピロ……!!! どうだ、〝ケミカルジャグリング〟の威力は………ぬっ!!?」

「曲芸に付き合ってるヒマはねェんだよ…‼︎」

 

 黒煙の中から、微かに体を焦がしただけのスカルの姿が浮かび上がり、Dr.インディゴは顔を顰める。髑髏に宿る鬼火は、未だ健在のまま煌々と光っていた。

 

「なにを〜〜〜〜〜〜!!?〝マス・ジャグリング〟!!!!」

 

 掌の火の玉を頭上で集め、巨大な一つの火炎へ変える。激昂したDr.インディゴはそれを渾身の力で投げ飛ばし、スカルに正面から命中させ業火に包む。

 化学反応によって生み出された特殊な炎が髑髏の男を今度こそ焼き尽くす……そう思われた瞬間。

 

 轟々と燃え盛る炎の中に、悍ましい髑髏が再度浮かび上がる……それも、幾つも。

 

〝奇々怪々〟…

「!!?」

〝髑髏地獄絵図・大叫喚〟……!!!

 

 炎を散らし、いや、呑み込んで、姿を現す無数の悍ましい髑髏達。

 げたげたと嗤う、地獄に堕ちた罪人達を周囲に従え、爛々と光る鬼火をさらに大きく燃やしてスカルが鉈を鳴らす。

 

 その姿は、まるでこの世ならざる者、冥界から這い上がってきた地獄の死者のようだ。

 

「のわ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!!?」

「お前さん方が犯した罪は二つだ………一つはおれ達を騙して、おれ達に受けた恩を仇で返した事…そしておれ達からお嬢を奪った事………!!!」

 

 悲鳴を上げ、眼を跳び出させるDr.インディゴに、怨念を籠めた恐ろしい声で告げるスカル。がたがたと震える罪人に、凄まじい殺気を伴って宣告する。

 

「地獄の閻魔様に代わって―――おれがてめェを裁くぜ」

「ひィッ!!? く……来るな‼︎ 来るな来るな来るなァ!!!」

 

 恐慌状態に陥ったDr.インディゴは、ありったけの薬品を投入しより大きく危険な極彩色の炎を頭上に生み出す。自身をも巻き込みかねない大爆発を生じる一撃だが、もはや彼に落ち着く暇などない。

 

 慌て、怯える科学者を睨みつけ、スカルは全身に怨念を纏わせたまま走り出す。

 

「〝ケミカル〟―――」

吼吼(くく)随意圧処堕(ずいいあっしょおとし)〟!!!!

 

 道化の一撃が炸裂する寸前、スカルの斬撃が襲う。

 ただ斬るのではない、肉を削り削ぎ落とす悍ましき刑罰をその身に食らい、Dr.インディゴは白目を剥いて悶絶し、空高く撥ね上げられる。

 

 狂気の科学者は恐怖に苛まれたまま、自身が生み出した極彩色の炎に呑まれ、大爆発の中に消え去った。

 

「………うん、今さら……本当にマジで今更だけど、あいつしっかりおれ達の仲間だよな」

「あァ……今聞いても否定すんのかな」

「さァ…」

 

 決着を見届けたフィナモレ達は、スカルの自負する立場の事を思い出し、目を見合わせる。自称・情報屋は、果たしていつまでそれを誇示し続けるのだろうか。

 

「ほれ‼︎ 解毒剤だ‼︎」

「悪い、助かった‼︎」

 

 やがて、駆け寄ってきたスカルがいつの間にか奪ったらしい薬の瓶をフィナモレ達に投げ渡す。

 大事なそれを片く握りしめ、男達は仲間達と合流すべく、激戦止まぬ王城を再び走った。

 

 

 

「ようやく少し片付いたかね…‼︎」

「…ったく、きりがねェな」

 

 ズズン、と倒れ込む巨虫・戦車蜘蛛(スパイダータンク)を足蹴にし、デュースが息を整え呟く。

 その隣の困憊雷竜(グロッキーサウルス)を仕留めたキメルも、肩で息をし杖にしがみついている。戦いが始まってもう随分経つ、仕方がない事だった。

 

「…‼ おい、あれ見ろ!!!」

 

 ふと、仕留めた深山皇帝(ミヤマエンペラー)の上で天を仰いでいたガンリュウが声を上げ、頭上を指差す。

 デュースとキメルが指された方を……叩く聳え立つ塔の頂上を見上げると、確かに何かが動いているのが見えた。

 

 目を凝らせばそれは、どこぞの大猿のように尖塔にしがみつくスカーレットと、その手に捕まるバンシーだとわかる。

 

「ウホ♡ ウホホ、ウホ♡」

「はァ!!? まさかあいつ、オバちゃんを番にでもする気なのか!!?」

 

 目をハートマークにし、唇をバンシーに近づけ酒らえているスカーレット。

 言っている言葉はわからずとも、行為と表情で大体の勘定を察したデュース達は、驚愕と怒りで一斉に声を荒げた。

 

「「「見境なしかてめェは!!!」」」

「どういう意味だい!!?」

 

 望んだ反応ではなかったのだろう、バンシーが真下のデュース達を睨みつけて吠える。若くはなく、美人でもないと自覚しつつも、そういう扱いは気に入らないようだ。

 

「このエロゴリラが…!!! うちの紅一点を奪いたきゃ、相応の覚悟を決めやがれ!!! ……あ、でも最終的には本人の希望に任せます!!!」

「余計なお世話だよ!!!」

「そりゃあなァ‼ 海賊が幸せな結婚を望んじゃいけねェのはわかってる!!! だがなァ………てめェらみてェな屑を拒む権利は誰にでもあるんだよ!!!」

 

 バンシーからの怒号混じりの突っ込みを受けつつ、デュースが尖塔の内部の階段を駆け上がる。

 紅一点の唇が奪われる前に、本人の尊厳を奪われる前に、疲弊した身体に鞭打ち、凄まじい速さで党の最上階まで辿り着き、スカーレットの前まで跳躍する。

 

「おばちゃんを離しな‼〝牙狼腕鎌(ファングラリアット)〟!!!」

「ウホォ~~~!!!」

 

 出会い頭に、大猿の首に鍛え上げた腕を鎌のように叩き込む。

 スカーレットは苦悶の声を上げ、衝撃でバンシーを手放し宙へと放り出す。その首に組み付きながら、デュースは真下に向けて叫んだ。

 

「キメル、頼む!!!」

「おっしゃ‼ …ふんっ!!!」

 

 遥か頭上から落ちてくるバンシーを、下に控えていたキメルが跳躍して受け止める。衝撃を緩和し、さらにガンリュウが二人を受け止める。

 無事にバンシーが救出された事を確認し、デュースはスカーレットの首から離れる。

 

 恋敵を振り払い、怒りを露わにする野獣に、デュースは改めて鋭い目を向ける。

 

「大体よォ…てめェら、女の口説き方がなっちゃいねェ。力尽くで攫うわ、脅して言う事を聞かせるわ、挙句の果てに徒党を組んで痛めつけるたァ…!!! 男の風上にも置けねェ奴等だ!!!」

「ウホォォォ~~~!!!」

「そんな屑共に…‼ エレノア嬢ちゃんは渡さねェ!!! くらいやがれェ‼︎!」

 

 雄叫びと共に振るわれる拳。自身を叩き潰そうと迫り来るそれを、デュースは身を屈めて交わし、懐に入り込み、背後に回る。

 自身を見失い、戸惑うスカーレットの腰を抱え、渾身の力で跳躍する。

 

猿王大落下(コング・バスター)〟!!!!

 

 空中で反転し、さらなる上空から尖塔の頂上めがけて真っ逆さまに落下を始めるデュースとスカーレット。

 慌て、慄くスカーレットの顔面に屋根の先端が激突し、そのまま塔を破壊しながら地上に向かい、ずどん!と凄まじい衝撃が走る。

 

 ガラガラと降り注ぐ瓦礫の中、デュースは沈黙したスカーレットを見下ろし、ふっと不敵な笑みを浮かべてみせた。

 

「――――男なら、黙って背中で口説いてみせろ。…なんてな」

 

 くるりと背を向け、颯爽と歩き出そうとしたデュース。

 

 その肩にぽん、と。

 にっこり笑ったまま額に血管を浮き立たせたバンシーが手を置き、引き留めた。

 

「おかえり、デュース。……とりあえず、あんたも一発喰らっときな」

「え~~~っ!!?」

 

 目を剥き叫んだデュースに、バンシーの平手が炸裂する。

 先に一撃を食らったキメルとガンリュウと共に、彼も仲良く地面に倒れ伏す羽目になった。

 

 

 

 吹雪の止まぬ王宮内を、ウォレスがエレノアを担いで走る。

 そのすぐそばを、合流したスカル達が盾となるように寄り添い走る。二度と奪われまいとした、厳重な護衛陣だ。

 

「とにかく、エレノアさんの安全が第一です。くれぐれも誰かに見つかって戦闘になどならないように!」

「グルルルル…‼︎」

「わかってるぜ、先生‼ もうここに用はねェ!!!」

 

 ミハールはまたしても姿を消し、どこからともなく狙撃して先んじて敵を排除し、逃走路を確保する。この混乱だ、態々捕らえに来る余裕はあるまい。

 あとはもうスパディル号まで駆け戻り、船長の勝利宣言を聞くだけだ―――最も、それが最も困難な役目であるのは確かだが。

 

「…薬が効いてきたのか、呼吸が穏やかになって来たな。何よりだ…‼」

「だがこんな所じゃ休めやしねェ。さっさと船に戻ろう」

「ああ‼ 脱出の準備もしなきゃならねェ!!!」

 

 奪った解毒剤を投与し、しばらく。荒かったエレノアの呼吸も、多少ではあるが落ち着き始めているのがわかり、男達はほっと安堵の息を吐く。

 

 その時、ウォレスの背から呻き声が聞こえ、はっと一同が視線を向けた。

 

「………先生、ちょっと…待って……」

「‼︎ よかった、目を覚ましたんですね。………心配しましたよ、全く」

「にゃはは…………手間をかけたねェ…」

 

 ウォレスがほっと安堵の息を吐き、笑みを浮かべる。

 年上に見えてまだまだ若い強面の顔が緩むのを見て、エレノアはまだ苦痛の滲んだ顔で苦笑する。

 

 やがて、天使の顔が次第に罪悪感で歪むのを見て、男達はぐっと息を呑んだ。

 

「足手纏いになって…………ごめ…」

「エレノアさん。私達が欲しいのはそんな言葉じゃありませんよ」

 

 その言葉を発する直前、どこからともなくミハールが告げる。

 エレノアは目を見開くと、何かを逡巡するように唇を噛み締め、ウォレスの背に顔を埋める。

 

 静まり返った一同の中で、小さな呟きが漏れ聞こえる。

 

「デュース、スカル、フィナモレ、ドギャ、アギー、キメル、セイバー、ミハール、コタツ、バンシー、オッサモンド、ウブロ、バリー、レオネロ、ダッキー、ウォレス、クーカイ、コーネリア、ガンリュウ………エース」

 

 この場に感じる、皆の気配。

 父の気配は感じられない……こんな事態、来ないはずがないのに。という事は、彼らは父や兄達の助けも借りぬまま、この場へ来てくれたという事になる。

 

 その無謀に、深い想いに、愛に―――自然とエレノアの目には涙が滲んでいた。

 

「……ありがとう……!!!」

 

 返された心からの言葉に、全員がにやりと笑う。

 礼を言われるまでもない……そのくらい当たり前だ、そう言わんばかりの暖かな雰囲気の中、一同は走り続けた。

 

「あとはエースがシキを倒しゃ全てが片付くんだが………‼︎」

「相手は伝説の海賊だ。そう簡単にはいかねェだろ」

 

 心配そうな声を上げるフィナモレとレオネロ。彼の強さを間近で見てきて、信頼している彼らだが、相手にしている敵の実力がそれを阻む。

 叶うなら加勢したいところだが、実力の足りない自分達が言ったところで足手纏いになりかねない。不甲斐なさが胸中で燻っていた。

 

「……待って」

 

 その時、不意にエレノアが顔を上げ、周囲を見渡し始める。

 ウォレスが思わず立ち止まると、何事かというように他の者も立ち止まる。敵陣で静止するのは危険だが、天使が見せる切迫した表情が別の危機感を煽った。

 

「どうした?」

「……ずいぶん気圧が下がってる。嵐が近いんだ」

「何だとォ!!?」

 

 ぎょっ、と全員が慄き目を見開く。

 天族の能力の確実さは、航海の中で恩恵にあやかり体験している。普段ならば頼もしい限りなのだが……この状況では更なる不安の種でしかない。

 

 逃げ場のない空の上では、即座の対応ができないのだから。

 

「じゃあ、さっさとこの島から逃げねェと…‼︎〝フワフワの実〟の能力は天候の影響をモロに受けるって、シキの奴が自分で言ってたんだぞ!!!」

 

 長い年月を鍛錬に費やし、凄まじき力を発揮した悪魔の実の能力。それでも相性というものが存在し、伝説の男といえど完全な克服には至っていない。ここにいては間違いなく巻き込まれる。

 

 右往左往する男達を横目に、不意にエレノアがにやりと意味深な笑みを浮かべた。

 

「…いや、この状況は利用できる」

「え?」

「王宮に戻るよ。……策がある」

 

 未だ痛々しく病魔に侵された姿のまま。

 最強の男を父に持つ天使は、父に似た不遜な表情で、堂々と男達にある考えを語ってみせた。

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