ONE PIECE −LOG COLLECTION : ELEANOR−   作:春風駘蕩

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第241話〝死者達の闘技場〟

 がしゃん、がしゃん、と音を立て。

 金色の鎧を纏った何者かが、暗く不気味な通路を歩き、目を凝らす。

 

「どこへ消えた…あいつら一体……‼︎ ゾロもサンジもまったくよー」

 

 ぱかっ、と面頬を開けて目を露わにしながら、ルフィがやれやれと溜息をこぼす。

 その後頭部に、フランキーが呆れた顔で平手の突っ込みを入れた。

 

「こんな時に何やってんだよ、おめーは‼︎」

「おい!!! ヨロイがそこにあったなら‼︎ 着るのが男のロマンじゃねェのかよ〜〜〜‼︎ お前は鉄の体を手に入れて…そんな心も失くしちまったのか⁉︎」

「ロマン⁉︎ ………もっともだ、勘弁してくれ‼︎ おれは何も心まで鉄にかえたつもりはねェのに‼︎」

 

 フランキーの至極真っ当な指摘に、なぜかルフィの方が怒りを露わにして抗議する。その言葉に、フランキーの方が衝撃を受けた顔で後ずさる。

 

 ぐすっと目尻に涙をためた彼は、どこからともなく取り出したギターを構え、儚く奏でた。

 

「――何か大切なものを失って、心に吹くのはすきま風…聴いて下さい。『サイボーグ鋼鉄旅情』」

「よっ‼︎ 歌えー‼︎」

「広間に出たわよ…」

「んー、何とも言えない妙な気配の数々…」

 

 やんややんやと勝手に騒ぎ出す男達。

 彼らをよそに、通路の終わりを確認したロビンとエレノアが奥を覗いて報告する。ひどい温度差が男女間に生まれていた。

 

「コイツら状況わかってんのか?」

 

 案内役として連れてこられた豚の剥製が思わずこぼすほど、ルフィ達からは緊張感というものが感じられない。

 これまで屋敷を訪れた多くの者達と異なりすぎる反応に、異形はただ呆然となっていた。

 

 そこに、一通り騒いで満足したらしいルフィとフランキーがエレノア達の方へ近付いた。

 

「広間? ウソップ達は⁉︎」

「さァ、それどころかこの広間の奥は、もう外みたいよ」

 

 暗い通路の中から、薄暗い外へ。

 

 そこにあったのは広い空間で、天幕がいくつも張られた奇妙な雰囲気を感じる場所だった。

 中心には円形の台座もあり、そこで誰かが立つ事を……戦う事を想定するかのような、そんな造りとなっていた。

 

「何これ、闘技場?」

「ブヒヒヒ、そんな生易しいもんじゃねェブヒ」

 

 思わずエレノアがぽつりと呟いた時、豚の剥製が意味深に答える。

 どういう意味か、と振り向いたエレノアが訊き返そうとしたその時。

 

 ぴくっ、と彼女の耳が震え、即座に血相を変えて傍に立つ鉄の男に呼びかけた。

 

「フランキー‼︎ 上!!!」

「うお!!!」

 

 至近距離で叫ばれ、咄嗟にその場から飛び退くフランキー。

 

 彼が動いた直後、頭上から飛び降りてきた()()が、鋭く剣を突き立ててくる。狙いは外れたものの、剣の勢いは強く、衝撃がびりびりとルフィ達に襲いかかった。

 

「フランキー!!!」

「……‼︎ 誰!!?」

 

 即座に身構え、襲撃者を睨みつける四人。

 彼らの目の前でそれは、鎧を纏った何者かはぎちぎちとぎこちなく立ち上がり、再び剣を構える。

 

 胸を貫く大槍が、それが生者ではない事を示していた。

 

「動くヨロイ…‼︎ アルの親戚か!!?」

「ンなわけあるか!!!」

「…ああ、彼の事ね」

「あン!!? あんな不気味な奴が知り合いにいんのか⁉︎」

「……それ以上はやめたげろ……」

 

 旅の途中で出会い、そして再会を誓って別れた数奇な運命を辿る仲間の事を思い出し、ルフィが叫ぶ。

 ロビンはそういえばそんな者がいたなと頷くだけだったが、顔も知らないフランキーは大層困惑する。遠慮のない一言に、エレノアは頭を抱えた。

 

「ゾンビがご立派に武装しやがって……‼︎ 驚かすんじゃねェよ!!!」

「フランキー‼︎ 気を付けて‼︎ そいつさっきのゾンビ達よりずっと強い!!!」

 

 不意打ちを食らいかけた苛立ちからか、フランキーが拳を振り上げ鎧の死人に挑む。ゆらゆらと揺れる敵の土手っ腹めがけ、一撃を叩き込む。

 

 そこらの雑魚を容易く吹っ飛ばせる拳撃。

 だが、鎧の死人はそれに耐え、即座に剣を振り上げ反撃を放ってきた。

 

「うおっ!!!」

 

 十字に振るわれる斬撃をなんとか躱し、後退し、フランキーのこめかみを冷や汗が伝う。

 しかし鎧の死人は攻めを止めず、先程の意趣返しのように強烈な一閃をフランキーの胴体に食らわせた。

 

「うわっ‼︎ フランキーが!!!」

 

 どしゅっ、と飛び散る血飛沫にルフィが目を見張る。

 鎧の死人は次の標的にルフィ達を見つけ、斬りかかろうとし……立ち上がったフランキーに背後から頭を掴まれ、止められる。

 

「やられやしねェよ…‼︎ こんな死人なんぞに!!!」

 

 目を吊り上げ、荒く息を吐き、フランキーが鎧の死人を思い切り投げ飛ばす。

 がしゃん、と激しい金属音が鳴り響き、巨体が横たわるが、鎧の死人はすぐさま身を起こし、最初と変わらぬ様子で再度剣を構え出した。

 

「…まだ立ち上がるぞ…!!!」

「ラチがあかねェ……!!! 悪ィ、エレノア………お前の言った通りだ。手強い…!!!」

 

 明らかに、これまでの敵と違う。手を抜いたつもりは全くないのに、倒れた敵が平然と起き上がる。

 思わぬ事態に、一味はようやく緊張感を取り戻す。厄介な性質を持つ敵に、自然と構えに力がこもる。

 

「ブヒヒヒヒヒヒヒ‼︎ 思い知るがいい‼︎ それが本当のゾンビの恐さだ‼︎ 故障はあっても痛みなど感じねェ‼︎ 武装した将軍ゾンビ達は一人一人が生前に名を揚げた強硬な戦士達なんだ!!! ブヒ!!!」

 

 そんなルフィ達を嘲笑い、いつのまにか離れた場所にいる豚の剥製が声を上げる。手の届かない位置から、焦るルフィ達を馬鹿にしていた。

 

「おめェらなんかに勝てるわけねェんだよ‼︎ ブヒヒヒ!!! おめェらの仲間だって誰一人、無事じゃねェよザマー見…………」

「うるさい」

 

 げらげらと下品な声を上げる豚の剥製に、眉間にしわを寄せたエレノアがぱちんと指を鳴らす。

 空気中に火の粉が弾け、みるみるうちに集まって炎の短剣へと変わり、それを豚の剥製に向けて投げ飛ばす。

 

「カベゾンビ‼︎」

「おう」

 

 放った一刃は、通路の上から降りてきた口を聞く壁によって防がれ、その間に豚の剥製はどこかへ逃げ去ってしまう。

 閉ざされた退路と消えた敵に、エレノアはちっと小さく舌打ちし、さらに表情を険しくする。

 

「道を塞がれた‼︎」

「チッ……仕留め損なったか」

「塞がれたのは…後ろだけじゃないわよ」

 

 悔しがるエレノアに、ロビンが正面を見据えて呟く。

 つられて前に振り向いたエレノアとルフィ、フランキーは……片や頬を引きつらせ、片や興奮で目を輝かせる。

 

 がしゃん、がしゃんと近付く重い金属音に、フランキーの目が鋭くなる。

 

「…おれの経験から物を言わせて貰うと…」

「うーおー!!!」

 

 現れたのは、鎧の軍団だった。

 全身傷だらけ包帯だらけの屈強な死人達が、分厚い鎧に身を包んで勢揃いしている。

 

 中には腕が4本あったり下半身が象であったり、人の形すら保っていない異様な姿の者までいて、全員が凄まじい敵意を醸し出していた。

 

「コリャさすがに………手強すぎるぞ………!!!」

「ヨロイだらけだー!!!」

 

 あっという間に、闘技場は死者の戦士達で埋め尽くされ、逃げ場がどこにも見当たらなくなる。

 退路は断たれ、正面を目指すしかないが、それがいかに厄介かを先ほど嫌という程見せつけられたばかりだ。

 

「うっわ……あれ多分〝キャプテン・ジョン〟だな。それに〝憤怒の騎士〟オルガに〝闇纏〟テン、〝血河〟のルクセリスかな? 若干異形になってるからわかりづらいけど………」

「要はとんでもねェ奴らがゾンビになって蘇ってきたって事だろ! 気味悪ィ…」

「そうだね……胸糞悪い…‼︎」

 

 一見してようやくわかるほど変貌した、錚々たる面々を前にし、エレノアは呆れながら嫌悪感を滲ませる。

 生命を弄ぶ、真っ当な錬金術師の逆鱗に著しく触れる所業に、彼女が怒りを抱かないわけがなかった。

 

 だが、彼女が苛立ったところで状況が好転するわけでもない。じりじりと近付く戦士達に、場の打開のために思考を巡らせる。

 

「一人に対してあれだけ攻撃してもこたえねェんだ。コイツら全員まともに相手してちゃこっちが消耗しちまうだけだ‼︎」

「――そうか、それもそうだ。ここが最終戦じゃねェもんな」

「この広間をまっすぐ抜けると……おそらく中庭に出られるわ」

「ん! じゃあ私達4人、一旦そこで落ち合おう。また誰か消えない様に気をつけて‼︎」

「ふふ…そうね」

 

 約束を交わし、鎧の死人達の向こう側を見やる。

 強固な兵士の壁で塞がれたその先を目指し、四人は眼光鋭く表情を引き締める。

 

「いくぞっ!!!」

 

 だっ、と一斉にばらばらに走りだし、ひたすらに先に進む。

 

 象の下半身を持つ豪傑をフランキーが殴り飛ばし。

 数体の敵の全身に腕を生やさせたロビンが関節技を決め。

 ルフィが渾身の掌底を放って何体もの相手をまとめて吹き飛ばす。

 

 四方八方から襲いかかり、武器を振り下ろしてくる鎧の死人達の間をかいくぐり、あるいは叩きのめし、広場の向こうへ急ぐ。

 

「ゾンビならこれでしょ! 燃えろ‼︎〝屠殺陽槍(アラドヴァル)〟!!!」

 

 ばちっ、と閃光が走り、エレノアの手に炎の槍が生み出される。

 ごうごうと燃え盛るそれを振り回し、構え、いかにも弱点に効きそうな鎧の死人達に向けて投擲する。

 

 かっ、と炎の中に一旦は飲み込まれる死人達だったが。

 

「バケツ用意‼︎」

「うそォ!!?」

 

 ざばっ、とどこからともなく取り出したバケツをひっくり返し、用意していた水を被って鎮火する。

 あまりの用意の良さに、エレノアはぎょっと目を向いて絶句した。

 

 だが、呆けている暇はない。敵は待ってなどくれず、どんどん周囲を取り囲み逃げ道を奪っていた。

 

「あァもう‼︎ 次から次へとうっとうしい…!!! 落ち合うのも楽じゃなさそうだ…!!!」

「――油断大敵」

「は!!?」

 

 近くにいた一体を蹴り飛ばし、いっそ飛んで行くかと翼を広げる時機を見計らおうとした時。

 不意に至近距離から何者かの声が聞こえ、はっと目を見開いて振り向く。

 

「〝不意打ち御免〟!!!」

「ふぎゃっ!!?」

 

 本能的に文字通り飛び退いたエレノアの真下を、銀の軌跡が通り抜ける。

 ひゅんっと風を切ったそれは、エレノアが地面に降り立つと垂直に立てられ、微かな光を受けて鈍く光る。

 

 同時に、新たな敵の姿をエレノアの視界に映し出した。

 

「ふん…!!! 避けたか……」

「いきなり斬りかかるとは無作法だね…‼︎ …ん?」

 

 周囲に蔓延る異形の戦士達に比べ、人の形を保っている鎧を纏った剣士。一文字に開いた隙間から、鬼火のような眼光が漏れている。

 確かな実力を感じる剣さばきに、構え直したエレノアはふと、ある違和感に眉をひそめた。

 

「あんた、ゾンビじゃない……よね? この気配…………あんたまさか!!?」

 

 じっと目の前の敵を見つめたエレノアは、既視感のようなものを覚え、徐々に顔を強張らせていく。

 似たものをどこで見たのか、誰であったか、それを思い出した瞬間、鎧の剣士が剣を翻し凄まじい速度で向かってくる。

 

「私はNo.48……お前の身柄、押さえさせて貰う!!!〝斬り捨て御免〟!!!」

「うわっ!!? ………え?」

 

 振るわれる剣撃を紙一重で躱し、防ぎ、後退するエレノア。

 突然の事態に戸惑い、思考がうまく纏まらなくなったせいか、がしっと手足と翼を掴んできた敵への反応が遅れてしまう。

 

「ふぎゃーっ!!!」

 

 闘技場内に、焦燥に満ちたエレノアの悲鳴が響き渡った。

 

 

 

「おわァ!!!」

 

 大勢の死人達に追われながら、フランキーとロビンが橋の上に飛び出す。

 闘技場をなんとか抜け出し、ようやく一息つけたが、まだ抜け出せていない二人に気付きはっと背後に振り向く。

 

「ルフィは………⁉︎ エレノアも……‼︎」

「まだ出て来てねェ様だな。振り返ってもあのバカ、ヨロイ着てやがるからどこにいるやら。エレノアは………小せェから見えねェな」

 

 通路を通って追ってくる異形達の向こう側を覗き込むが、ルフィもエレノアも敵の埋もれて全く見つけられない。

 探している間に、追手はどんどん二人の達の方へ迫りつつあった。流石のロビンも表情が硬くなってくる。

 

「………!!! でも、ゆっくり待っていられない。すぐにゾンビ達が追って来るわ」

「畜生…まさかあいつらまで消えたって事はねェだろうな。おーい!!! 麦わらァ〜〜〜!!! エレノア〜!!!」

 

 先に消えたサンジとゾロの事を思い出し、思わずフランキーはその場から大声で呼びかける。このまま全員消えるのではあるまいか、そんな想像が浮かんだ直後。

 

「ぎゃああああ」

「ふぎゃ――っ‼︎」

「ちきしょう出せ‼︎」

 

 がしゃん、とロビンとフランキーの頭上で音がする。

 何事か、と見上げてみれば、橋の上に走らされた鎖を伝い、二つの棺桶が並んで運ばれていく様が目に映る。

 

 がたがたと揺れるそれらからは、聞き覚えのある声がしていた。

 

「何だ…? 棺桶…⁉︎」

「……⁉︎ 今の声…‼︎」

「フタを開けろ‼︎ 出せ‼︎」

「ルフィ!!? エレノア!!?」

「え⁉︎ まさかアレにあいつらが入ってんのか⁉︎ 何やってんだよ、オイ‼︎ あいつら捕まりやがったのか⁉︎ 追うぞ、ニコ・ロビン‼︎」

 

 まさかの事態に呆然となりかけ、我に帰るとすぐさま後を追いかけようとする。急いで奪い返さなければ、と走り出そうとした直前だった。

 

「追わせねェ…あっあっあっあっ…」

 

 ずしん、と巨大な何かがフランキーとロビンの目の前に降り立つ。

 

 八本の太く長い足を蠢かせ、見上げるほどの巨体を支え、ぎょろぎょろと見下ろしてくる猿の貌。

 にたにたと不気味に嗤う顔が、二人の前に立ちはだかった。

 

「ヘイヘーイ!!! モーンキモンキー!!! モンキ〜♪ あっあっあっあっあっあっ‼︎ 巷で噂のスパイダーモンキーとはおれの事だ!!!」

「巨大グモ……!!!」

「昆虫の域を超えてる‼︎ 化けグモだ‼︎」

 

 さらなる敵の登場に、並びながら構えるフランキーとロビン。

 彼らの視界の中で、船長と天使がいるらしき棺桶が橋の向こう側に消える様を前にし、より強い焦りに苛まれる。

 

「…おー、また一人……二人…」

「しまった棺桶が……!!! てめェらあいつらをどうする気だ‼︎」

「安心しろ、どうするかはお前達も身をもって体験できる…‼︎ せめて自分達の心配をしろ…‼︎」

 

 左手の銃器を展開し、強い口調で問うフランキー。

 猿貌の化け物蜘蛛は険しい顔の彼を嘲笑し、見下しながら、愉しげに体を揺らしやがて告げた。

 

「――これで一味は全滅だな」





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