ONE PIECE −LOG COLLECTION : ELEANOR−   作:春風駘蕩

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第244話〝50年の軌跡〟

 どたどたどた、とせわしなく石造りの階段を駆け下りる集団。

 フランキーとロビン、ウソップとチョッパーの四人が、霧の先にうっすらと見える海に向かって急いでいた。

 

「この長い階段は、影を取られた者を運ぶ通路だと聞いたわ」

「そうなんだ、ルフィとエレノアが運ばれてったんだ‼ おれ達はそれを追ってたらナミが…!!!」

 

 幽霊島の秘密が発覚し、古の赤鬼と天使の覚醒の後、隙を見て逃げ出したウソップ達三人。

 

 脇目も振らず、ひたすらに他の仲間の元を目指し、共に逃げていたはずのナミだったが……不意を突かれ、攫われた。

 透明人間・アブサロムによって見えなくされ、何処かへと連れていかれてしまったのだ。

 

 後を追おうとしたウソップ達は、ゾンビ達に邪魔され危うく再び囚われの身となるところを、駆けつけたフランキーとロビンに救われた。

 

 そして自分達が見た秘密を語り、ナミの誘拐を説明しながら、ルフィ達が戻っているというサニー号を目指して走っていた。

 

「ナミ、大丈夫かなァ⁉」

「あいつは命を狙われたわけじゃねェ、出直して必ず助ける‼ さっき上で聞こえた怪物の唸り声みてェのは一体、何だ⁉ おれ達はアレ聞いてかけつけたんだ」

 

 ナミの身を案じるチョッパーとは別に、フランキーの表情は厳しい。

 彼の耳には、ウソップ達と合流する前に耳にした音───巨大な〝何か〟のあげた咆哮が未だ強く響いていた。

 

 その姿を見ていない彼らに、ウソップは息を呑みながら答え出した。

 

「あれは…〝ルフィ〟の声さ」

 

 

 

 大勢のゾンビ達が、地下の冷凍庫への通路を大急ぎで往復する。

 担いだ大量の食料を、必死の形相になりながら、今さっき覚醒したばかりの後輩のもとに運び込んでいた。

 

 積み上げられたそれらを、赤鬼はばりばりと片っ端から食い尽くす。

 

「すげェ食いっぷりだな」

「バリー、てめェどういうワケで、海賊かくまってたんだよ‼」

「仕方ねェだろ‼ 中から刻印消すって脅されてたんだからよォ!!!」

「全く情けない…」

「んだとォ!!? てめェもいっぺん体の中に入り込まれてみやがれ!!!」

 

 食料の山が消え、赤鬼の腹に収められていく光景を、モリアとその配下達が満足げに、あるいは唖然として眺めていた。

 視線を感じたのか、赤鬼は恐ろしい顔を向け、にやりと笑ってみせた。

 

「わりいなー、チビらっきょ‼ おれ、誰だか知らねェのにメシ食わせてもらって‼ マズいし、食い足りねェけどな、しししし‼」

「ぬァ!!!? てめェこのスペシャルゾンビ!!! 調子コイてんじゃ――」

 

 幽霊島の支配者に向けるものではない、生意気な態度にゾンビ達全員がぎょっと目を剥く。そして、赤鬼に猛抗議を始める。

 が、それが言葉になるよりも前に……赤鬼の頭上に腰かけた天使が、赤鬼の額にぐりぐりと拳をねじ込んだ。

 

「食わせてもらってその態度はなんだこのクソガキが…‼」

「いでででででで!!! 痛くねェけど痛ェ!!! ごめんっ…ごめんなさいっ!!!」

 

 母親にされるようなお仕置きを受け、何十倍も体格差のある赤鬼が泣きながら詫びる。食事の手も止めて、本気で謝っていた。

 

「…で、何か言ったか?」

「「「「言ってません」」」」

 

 気が済んだらしい天使にじろりと睨まれ、ゾンビ達や怪人達が一斉に姿勢を正し、首を垂れる。序列がはっきりした瞬間だった。

 笑っているのは、二体の怪物の主人たる能力者、モリアだけだ。

 

「いいかオーズ、そして〝鬼神〟ジャービル。お前達は500年前、数々の伝説を残した大悪党。そして今、この現代の海におれの部下として蘇った」

 

 ゾンビの命たる影を自在に操る海賊は、自らが生み出した最強の戦士達に向けて自信満々に告げる。

 だが、それを聞いた赤鬼と天使は、鬱陶しそうに顔をしかめて目を逸らした。

 

「部下? イヤだね、おれには夢があるんだ‼」

「そんなゾンビ見た事ねー!!!」

「私もお断りだね。お前に従う義理がどこにあるんだデブ」

「態度デカー!!! オーズよりよっぽど腐れでけェ!!!」

 

 気怠げにモリアを睨み、舌打ちをこぼす天使。

 モリアの支配がまだ及んでいないのか、それとも元の二人の我が強すぎるのか、従う素振りなど微塵も見せない。

 

 赤鬼はずしずしと冷凍庫の中を歩き出し、ごきごきと肩を鳴らし出した。

 

「ここはせまくてつまんねェな、ちょっと外へ出てくる! 海へ出て世界一周するか」

「好きにしろ…ここは意外と乗り心地がいい」

「大航海かっ‼」

「自由かっ‼」

 

 死人にあるまじき希望に満ちた宣言に、ゾンビ達全員からツッコミの合唱が飛ぶ。

 彼らの視線など一切気にせず、赤鬼はごんごんと冷凍庫の壁の硬さを確かめると、大きく拳を振りかぶり。

 

〝ゴムゴムの(ピストル)〟!!!!

 

 と…たったの一撃で、固く分厚い鋼鉄の壁を粉砕してしまう。

 がらがらと崩れ落ちる冷凍庫の哀れな姿を目の当たりにし、ゾンビ達は目を見開いて悲鳴をあげた。

 

「ちょっとちょっとちょっとアンタらァ!!!」

「腐れヤベ~!!! オーズと〝鬼神〟が外へ逃げ出したァ!!!」

「おかしいな、腕がのびる様な気がしたんだけど…まァいいか」

 

 慌てふためくゾンビ達と、なおも動じないモリア。

 赤鬼は興味をなくした彼らを後にし、自身らを保管してきた容れ物の外に出ると、拳を天に築き上げ高々と吠えた。

 

「海賊王に、おれはなるっ!!!!」

「揺らすなっ!!!」

「ホゲ~~~ッ!!!」

 

 彼の冒険の第一歩は……連れの天使による拳骨によって、頼りなくよろめかされた。

 

 

 

「さっきのもの凄ェ音と叫び声もそうさ! ルフィのゾンビが叫んで大暴れしてるとしか思えねェ。急ごう」

「悲鳴も混じってた気がするけど…」

 

 長い長い階段を駆け下り、地上へと降り、海岸へ。

 つい数時間前まで歩いていた森の上を通り抜けた一味は、ようやく変えるべき船の元へと到着する。

 

「サニー号があったぞ‼︎」

「成程、ここへ通じてたのか…上へ行けばいきなりボスの部屋だったとはな。階段が下ろせる様になってる」

 

 巨大な蜘蛛の巣に囚われたままのサニー号を確かめ、そして行きには気付かなかったもう一つの通路に振り向くフランキー。

 わざわざ見通しのきかない遠回りの道を行くように罠にかけられていたのだと、今更になって気付かされる。

 

「おい‼︎ ずいぶん荒らされてるぞ‼︎」

「ゾンビ達の仕業ね。ドロの足跡だらけ」

「えっ‼︎ じゃ、まだいるかも‼︎」

 

 サニー号の甲板に上がった三人は、芝生の上に残る無数の泥の足跡に顔をしかめる。フランキーが後に続いて登り、呆れた目で侵入の跡を見やる。

 

「確かに荒らされてんな。別にまだ取るもんなんてねェのに………――まず肝心のあいつらは……?」

「見当たらねェな…」

「おーいルフィ〜〜!!! エレノア〜〜〜!!! ゾロ〜〜‼︎ サンジ〜〜‼︎」

 

 船長と剣士、コックに錬金術師。一味の実力者達がどこにいるのかと、残る一味が探し回る。

 無残に荒らされた船内に苛立ちながら、四人の姿を求めてしばらく経った頃、船室を除いたチョッパーが声をあげた。

 

「いた‼︎ ダイニングにいた、4人共だ‼︎」

 

 彼の呼び声に、急いで船室へと集まる三人。

 入り口を譲られ、中を覗き込んだ三人の目に映ったのは。

 

 ……椅子の背面にもたれ掛けさせられ、顔中ハンガーや洗濯挟みで飾られた、ルフィ達の哀れな姿だった。

 

「完全にゾンビ達にデコレートされてるが」

「……無残ね」

「おォい!!! てめェら起きろォ!!! 寝てる場合かァア!!! 事態は深刻なんだぞ!!!」

 

 ぐーすかと眠りこけたまま動かないルフィ達に、フランキーが情け容赦なく殴りつける。エレノアにも思い切り拳を叩き込み、四人の頭をたんこぶだらけにする。

 

 が、どうやっても四人は目を覚まさなかった。

 

「………………起きねェ…神経あんのかコイツら。仕方ねェどいてろ、バズーカで」

「いや…大丈夫だ…」

 

 仙人掌のようになった四人を呆れながら見下ろし、左腕を構えようとしたフランキーをウソップが止める。そして、大きく息を吸い込んで、叫んだ。

 

「肉持った美女の剣豪が向こうでエースを口説いてるぞ!!!」

「肉!!?」

「美女!!?」

「剣豪ォ!!?」

「どこのどいつだゴルァ!!!!」

 

 その瞬間、あれだけ痛みを与えられても起きなかった四人が、ぱちっと一斉に目を開け……そして激昂する。

 我欲まみれな男達と、天使の見せる愛の重さに、チョッパーが代表して呟いた。

 

「ダメだコイツら‼︎」

 

 ……何はともあれ、船が流される前に無事目を覚ました四人。

 中でもルフィは目の前に人の気配を感じると、まだ敵の居城の中と思ったのか、椅子を蹴倒して早速殴りかかった。

 

「このヤロおれの影を」

「静まれ、ここにモリアはいねェ!!!」

 

 拳が繰り出される前に、フランキーがルフィの顔面をつかんで止める。

 そうしてようやく相手が違うと気づいたのか、徐々にルフィは落ち着きを取り戻し、ゾロやサンジ、エレノアと共にきょろきょりと辺りを見渡し始めた。

 

「ん? ここは………」

「サニー号だ」

「サニー号⁉︎ 何で元の場所に……イヤ…でも夢じゃねェ、影がなくなってる………!!!」

 

 記憶が混濁しているらしいサンジだったが、足下を見下ろすと一気に意識をはっきりさせる。何も映らない足下に、嫌そうに顔を歪めてみせた。

 

「…妙な感じだ…」

「おい大変だ!!! 一大事だ!!! 食い物がなんもねェぞ!!!」

「え⁉︎ うちの家計の九割が!!?」

 

 自身の体に起きた明らかな異常に慄いていると、厨房に入っていたルフィがチーズなどの保存食を手に駆け戻ってくる。

 宝石や財宝よりもよほど深刻な状況に、エレノアも思わず頭を抱えた。

 

「まったく面目ねェ…油断しすぎてた…‼︎」

「海賊弁当も失くしちまった〜〜〜…チーズじゃダメだチーズじゃ」

「まんまとしてやられちゃったか………我ながら情けない」

「──ところでナミさんがいねェ様だが………?」

 

 一味を守る強者でありながら、誰よりも早く狙われ囚われた事を悔やみ、項垂れる四人。ルフィだけ嘆く点が異なっていたが、誰も気にしない。

 

 その時、ナミの姿がこの場に見えないことに気づき、サンジが問いかける。

 うっ、と呻いたウソップが語り出すと、サンジの目がくわっと見開かれた。

 

「連・れ・去・ら・れ・たァ!!? なぜ地の果てまで追わねェ!!? そいつはどこのどいつだ、すぐにおれが行って、奪い返してくる!!!」

「すまねェ!!! でも追いかけ様のねェ状況になっちまって…!!! とにかく話を全部聞いてくれ!!!」

 

 衝動のままに摑みかかってくるサンジを、ウソップは必死で宥め引き剥がす。危うく仲間の手で殺される前に、一味全員がやるべき事を確かめさせる。

 

「いいか! これから取り返さなきゃならねェもんは大きく分けて二つだ‼︎」

「〝めし〟‼︎〝ナミ〟‼︎」

「違うでしょ!!!〝影〟だよ〝影〟!!! あんにゃろー、ナメたマネしやがって…‼︎」

 

 ルフィが思いっきり間違った答えを口にし、即座にエレノアが否定する。

 まんまと罠にかかった事が相当に不服なのか、件の七武海の顔を思い浮かべ、ぎりっと歯を軋ませる。

 

 すると不意に、エレノアは能面のような無表情に変わり、ウソップに振り向き尋ねた。

 

「…で、私のエースを口説いてる命知らずなバカ女はどこの誰…?」

「待て待て悪い嘘だ、落ち着け!!! 全部説明する‼︎」

 

 光を失った虚ろな目で見つめられ、ぞぞぞっと背筋に震えが走る。

 目覚めさせるためについた嘘で余計な恐怖感を味わいつつ、事情を把握していないルフィ達に詳しい説明を続けた。

 

「んな……け……け…!!! 結婚だとォ〜〜〜〜〜〜!!! フザけんなァ〜!!! クソ許さ〜ん!!!」

「ナミと結婚て勇気あんなァ……そんでおれが巨人? ゾンビってそうやってできるのか」

「じゃあルフィとエレノアとあのコックのゾンビは確認済みってわけだな? ウソップ」

 

 案の定、怒りで燃え上がるサンジの横で、ルフィは困惑の表情で呆れる。普段のナミを知っている分、アブサロムの行動が不思議に聞こえたようだ。

 逆に冷静なゾロはさらなる情報を得ようとウソップ達に問うが、彼らはいつの間にか、膝を抱えてがたがたと震え上がっていた。

 

「あ…あいつが〝七武海〟の一人だったなんて………‼︎」

「急に怖くなってきた、おれ…‼︎」

「知らなかったのか、おめェら」

 

 すぐ近くにやっていた巨漢の存在に今更恐怖したらしく、涙と鼻水を垂らして怯えるウソップとチョッパー。ナミがいたら、おそらく同じ状態になっただろう。

 

「――まァなんでもいいが、じゃあその3人のゾンビを探し出して口の中に塩を押し込めば影は返ってくんだな? しかしそんな弱点までよく見つけたな」

「弱点にしろ、お前らをまず救出に来た事にしろ、助言をくれたのはあのガイコツ野郎だ」

 

 関心の声を上げるゾロに、フランキーはどこか口惜しげに答える。

 その答えに、ルフィがはっと目を見開いて振り抜いた。

 

「えーっ⁉︎ ブルックに会ったのか⁉︎」

「会った……会って…ヤボな質問しちまってな…」

 

 勧誘を全く諦めずにいた男が見つかったと喜ぶルフィとは正反対に、フランキーは酷く落ち込んだ様子だ。

 すぐにルフィが騒ぐのをやめ、何があったのかと真剣な眼差しで問いかける。

 

「いや…お前が初めにアレを仲間にすると連れてきた時ゃ流石に存在ごと完全否定したが…あの野郎、ガリガリのガイコツのクセによ…話せばなかなか骨がある。ガイコツなだけに」

(……ここ、笑うとこ?)

 

 件の骸骨紳士の感性が移ったような、なんとも言えない冗談を耳にしてしまい、エレノアは思わず誰にともなく胸中で問う。

 

 だが、そんな微妙な空気も……その後のフランキーの話で一気に吹き飛んだ。

 

「あいつァ男だぜ!!!」

 

 

 

 それは、スリラーバークの刺客、スパイダーモンキーとの交戦時。

 苦戦していたフランキーとロビンを救い、ゾンビの撃退法を教え、去ろうとしたブルックにフランキーが投げかけた疑問。

 

 お前はなぜ、屍の体を引きずって生きているのか。

 

 野暮とわかりながらも、フランキーには理解ができなかった。

 異形と成り果て、本人も死にたかったと豪語しながら、自ら命を絶つ事なく今日まで在り続けられた理由が。

 

 ブルックは笑いながら、理由を語った。

 残してきた仲間がいるからだと。

 

 ───約束の岬で再会を誓った仲間の名は、〝ラブーン〟。

 

 西の海からついてきてしまったアイランドクジラの子。

 危険な航海には連れていけないと、岬で出会い、仲良くなった灯台守のクロッカスに預け、いつかまた会おうと約束して〝偉大なる航路〟に挑み。

 

 ブルックを含めた全員が命を落とした。

 

 その後悔と、諦めきれない気持ちを抱え、ブルックは二度目の生に全てを懸けた。

 

 ───無責任に死んでしまった我々を彼が許してくれるとは思えませんけど

    身勝手な約束をして声も届かぬ遠い空から

    死んでごめんじゃないでしょうに……!!!

 

    男が一度…!!!

    必ず帰ると言ったのだから!!!

 

 彼らの約束は、50年の時を経てなお、生きていた。

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