ONE PIECE −LOG COLLECTION : ELEANOR−   作:春風駘蕩

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第245話〝影を取り戻せ‼︎〟

「こういうワケで奴は…」

 

 話を締めくくり、フランキーは重い表情で黙り込む。

 

 対するルフィ達も、驚愕により沈黙していた。

 彼が口にした名を、ルフィ達は深く知っていたからだ。

 

「ラブーン」

「…………」

「あいつだ…」

「ホントかよ…」

「ウソみたい…‼︎」

 

 誰もが戸惑いに目を見開き、固まっている。

 ルフィ達の異変を訝しみ、事情を知らないチョッパーがきょとんとした顔で尋ねた。

 

「……あいつって?」

「………………ああ、おれ達知ってんだ。そのクジラ」

「………⁉︎ 何⁉︎ どういう事だ⁉︎」

「〝偉大なる航路〟の入り口にある〝双子岬〟──そこにクソでけェクジラがいて、世界を分かつ壁に頭をぶつけ吠え続けてた」

 

 今度はフランキーが驚愕で腰を浮かせる。

 

 神妙な顔をしながら、サンジがゆっくりと語り始めた。

 ───約束の岬で50年間、愛する海賊の仲間の帰りを待ち続け、吠え続けていた一頭の鯨の話を。

 

「すでに海賊達は逃げ出したって情報もあったが、ラブーンはそれを信じず吠え続けてた。何とかルフィがその壁にぶつかる自殺行為だけはやめさせたが、…あいつは今も生きて、その岬で仲間を待ち続けてる‼︎」

 

 フランキーも、ロビンもチョッパーも、声もあげられなくなっていた。

 己が身に置き換えても、想像もつかないほどの執念。現実離れした実話を聞かされ、陳腐な感想を口にすることもできずにいた。

 

「奇跡だ………これはもう奇跡としか言いようがないよ…!!!」

「……とんでもねェ話だ…50年も互いに約束を守り続けてたんだ…‼︎」

「まさか、あのラブーンが待つ仲間の一人が…あの…ガイコツだったとは」

 

 約束を反故にし、逃げ出したと諦められていた一味。

 その生き残りが、たった一人でも存在し続けていたのだという事実に、ルフィ達はただ絶句するばかりだった。

 

 そしてその話を耳にし、彼の涙腺は崩壊した。

 

「ヴォオオ〜〜〜!!! 骨も鯨も大好きだチキショーーー!!!」

「うるせェよっ!!!」

 

 過剰なほど涙を流し、叫ぶフランキーに思わず耳を塞ぐ他の面々。

 それがまるで気にならなくなるほど、船長たる青年の気持ちは一層昂ぶっていた。

 

「うは〜っ‼︎ ぞくぞくしてきた‼︎ あいつは音楽家で‼︎ 喋るガイコツで‼︎ アフロで‼︎ ヨホホで‼︎ ラブーンの仲間だったんだ!!!」

 

 一目見て気に入った、動く骸骨で音楽家。

 しかもかつて再会の約束をした友人の待ち人だったのだ。そんな話に、ルフィが興奮しないわけがなかった。

 

「おれはあいつを引きずってでもこの船に乗せるぞ‼︎ 仲間にする!!! 文句あるかお前ら!!!」

「ふふっ……あったら意見が変わるのかしら?」

「俄然やる気出てきた…‼︎ 邪魔するあいつら全員叩き潰してやる!!!」

「会わせてやりてェなァ、あいつ‼︎ ラブーンに‼︎」

「賛成だチキショ――ッ!!!」

「おれもだコンニャロ――――ッ!!! おれもうガイコツ恐くねェっ!!!」

「そんなわかりきった事より‼︎ ナミさんの結婚阻止だ!!! おれァ!!!」

 

 それぞれで気持ちを昂らせ、やる気を高める仲間達。

 その輪から外れるように、いや急かされたように、ゾロが早速島へと再上陸していく。

 

「ゾロ‼︎ どこ行くんだ」

「さっさと乗り込むぞ。奪い返す影が一つ増えたんだろ?」

「しししし‼︎」

 

 不敵に笑うゾロに、ルフィは嬉しそうに笑う。

 一度は反対した仲間は、もう彼の仲間入りを疑っていない。

 

 あとは邪魔者を全て蹴散らして、もう一度彼に会って、仲間に誘うだけだ。

 

「よっしゃァ!!! 野朗共っ!!! 反撃の準備をしろ!!! スリラーバークを吹き飛ばすぞォ――!!!」

「ゆけ‼︎」

「あんたも行くんだよ!!!」

 

 幽霊島に響き渡る雄叫び。散々脅かされた意趣返しをし、奪われたものを取り戻すため。

 一味は魔の島への再挑戦に燃えていた。

 

 そんな中、優先すべき問題を思い出し、男達が険しい顔で考え込み始めた。

 

「――しかし、おれ達の影の入ったゾンビっての、探し出すのは一苦労しそうだな」

「それに…‼︎ 本当に‼︎ ルフィのゾンビはとんでもねェんだぞ!!! 普通の巨人の2倍はあるんだ‼︎ お前らでも勝てるかどうか」

「〝国引き伝説〟の主犯〝魔人オーズ〟か………私としては、私の影の入ったっていうゾンビの肉体の方が気になるんだけど…」

 

 実際にゾンビが生み出される光景を思い出し、またがたがたと震え始めるウソップにエレノアがふと呟く。

 やや重くなる空気の中、彼らを見渡したルフィが咎めるように口を挟む。

 

「………ゾンビなんか探さなくていいよ! おれのゾンビは見てみたいけどな」

「?」

「何言ってんだ。おれ達ゃこのままの体じゃ二度と太陽の下へ出られねェんだぞ」

 

 ブルックが以前に口にした、影を奪われた者の末路。

 光に拒まれた悪夢を見せられ続けるというのに、何を言っているのかとルフィを睨む。

 

 だが、ルフィは今、この場の誰よりも冷静だった。

 

「だってお前…あの時ゾンビのおっさんが言ってたろ、ゲッコー・モリアをぶっ飛ばせばみんなの影が戻るって!」

 

 ルフィがそう言った瞬間、ぐっと全員が押し黙る。

 根本的問題を解決する……それ相応の危険性はあるが、確実な方法を聞かされ、サンジが悔しげに顔を歪めた。

 

「た…確かに言ってた……またコイツは核心を…」

「──で、あの階段登ったらモリアがいるんだろ⁉︎」

「うおっ‼︎ 確かに‼︎」

「今までずっと回り道してたわけだしね……」

 

 びしっ、と示された方向を見れば、幽霊島の支配者の元に続くまっすぐ続く階段がある。迷うはずもない一本道だ、流石にゾロも間違えまい。

 

「とにかくまー、おれはモリアをぶっ飛ばしに行くからよ‼︎ 影はそれで全部帰って来るから、サンジ! お前ナミの事頼むぞ」

「当ったり前じゃアア!!! 透明人間だか陶芸名人だか知らねェが霧の彼方へ蹴り飛ばしてやらァ!!! 結婚なんざさせるかァ〜〜〜〜!!!」

 

 ルフィに指示され、サンジの怒りが途端に再燃焼する。

 現実に全身から業火を噴き出させ、感情の限りを込めた雄叫びをあげ、仇敵のいる屋敷を見据える。

 

 その背に、ウソップがあ、と声を漏らして付け加えた。

 

「言い忘れてたがあの透明人間、風呂場でナミの裸じっくり見てたぞ」

「ぅんぬァアアアアにィイイイ!!?」

 

 くわっ、とサンジの顔が異形に変じる。

 目を吊り上げ、鮫のように尖った牙を剥き出しにし、怨念のこもった声でこの場にいない仇敵を呪い続ける。

 

 その姿はまさに、燃える炎の悪魔だった。

 

「これ以上刺激してやるな。何かに変身しそうだ」

「〝悪魔風〟じゃなくて〝本場(ガチ)悪魔〟になりそうなんだけど」

「ナミの事は、目の前で連れ去られた責任を感じてる。おれもサンジと一緒に行くぞ‼︎第一〝七武海〟なんかともう二度と会いたくねェ!!!」

 

 明らかに人を捨てかけているサンジの今後を案じつつ、エレノアも島を見やり、こきこきと首や肩の骨を鳴らす。

 影も重要だが、放置できない相手がいる事を思い出したからだ。

 

「さて………私はとりあえずあの鎧の人達を探すかな。直接の因縁はないけど色々と聞き出したい事ができたし」

「おれはガイコツの戦いが心配だ、そこへ行く! 麦わらがモリアをぶっ飛ばせりゃそっちも解決だろうが、その前に自分の影にどうにかされちまってたら大ゴトだ」

「そこ、おれも付き合うぜフランキー。〝伝説の侍のゾンビってのがどれ程のモンか興味をそそる」

「ナミちゃんとガイコツさんの2極…‼︎ 差し詰め解決を急ぐのはそこね…後は確かにモリア討伐が決着のカギ」

 

 それぞれの理由で、相手取るべき敵を決めていく。

 着々と方針を決めていく面々に、緊張の面持ちをしたチョッパーが厳しい声で注意を促す。

 

「お前らそんな簡単に言うけどな、相手は〝王下七武海〟だぞ!!!」

「大丈夫だ、クロコダイルと同じだろ」

「へーきへーき」

「お前殺されかけたじゃねェかよ‼︎ 頼むから気をつけてくれよ!!?」

 

 どちらも強敵と相見え、瀕死の重傷を負ったというのに、まるで機にする様子がないルフィとエレノア。

 気楽すぎる彼らを嘆きつつ、ウソップが懐からいくつかの小さな袋を取り出し、投げ渡してきた。

 

「ほんじゃコレ、お前ら一袋ずつ持ってけ」

「ん?」

「何これ……って、あァ‼︎ 塩か‼︎」

「そう‼︎ おれ様特製〝ゾンビ昇天塩玉〟だ‼︎」

「あァ…お前さっきコレ作ってたのか。さすがだな」

「仕事が早くて助かるよ」

 

 ブルックから授けられた情報は、まだある……ゾンビから影を切り離す唯一の方法があるのだ。

 

 それは、塩を食わせる事。

 悪魔の実の能力で動くゾンビは、海の力を持つ塩で浄化できるのだ。

 

 ゆえに、ウソップが作成した塩の弾丸こそ、ゾンビ軍団に対抗できる唯一の手段だった。

 

「だいたいな…危機感のねェお前らに一言言っておくが‼︎ この海がいくら深い霧に包まれてるとはいえ、陽の光が全く射さねェって保証はねェんだ‼︎ 今は夜中だから安全なだけさ‼︎」

「確かにね………急な環境の変化こそこの海の特徴だ」

 

 どんよりとした空を見上げ、月も星もまるで見えない事を確かめつつ、緩みかけた気を引き締める。いつまでも空が味方でいてくれるとは限らないのだ。

 

「――つまり日の昇る〝夜明け〟が最悪のリミットだと思え‼︎」

「確かにそうだな、夜明けまでメシ食えねェなんて最悪だ!!! おれ達にケンカ売った事を後悔させてやるぞ‼︎ ゲッコー・モリア!!!」

 

 ばんっ、と拳を打ち鳴らし、吠えるルフィ。

 大切なものを取り戻す……その意思を炎に変えて目に宿し、サニー号を飛び降り島の奥へと走り出した。

 

食糧(メシ)は倍にして返して貰うぞ!!! 夜明けまでに!!!」

「いい加減ナミの心配をしてやんなさいよ!!!」

「〝影〟奪回のリミットの話をしたんだよ!!!」

「んナミさ〜〜〜〜ん!!!」

「いくか」

「おお!!!」

「勝手にしろ!!!」

 

 意志は同じでも、全くまとまらない一味の行動に。

 ウソップは早々に突っ込みを諦め、やや渋々といった様子で船長の後を追っていった。

 

 

 

「うおおおお〜〜っ!!!」

「うるさいっての!!!」

「すげ〜、コレ船だったのかー!!!海は見通し悪ィけど、おれの人生の見通しはサイコーだ」

 

 ぎしぎしと揺れる巨大なマストを登り、周囲を見渡す赤鬼・オーズ。

 頭上の天使に怒鳴られても興奮の声を止めず、きらきらとした目で遠くに見える海を見渡すし、冒険の意欲を高める。

 

「よーし、この船で海賊王になるぞ‼︎」

「はァ……勝手にしなよ。あんまり揺らすんじゃないよ」

「うい」

 

 勝手な宣言をする連れに、猛牛の天使ジャービルはやれやれと肩を竦める。

 その顔には、どこか連れへの慈愛の気持ちが滲んで見えた。

 

 

 

「モリアはどこだァ!!! メシを返せェ〜!!!」

「ぐわ〜〜‼︎」

「ナミさんの風呂を覗いたクソ野郎はどいつだ出て来〜〜い!!!」

「ギャアアアアアア」

 

 ルフィとサンジの咆哮が響くたび、鈍い打撃音がしてゾンビ達が吹き飛ぶ。

 渡された塩を一切使う事なく、二人は自前の身体能力だけでゾンビ達を叩きのめし、戦闘不能に陥らせていた。

 

 影を抜かずとも、ゾンビ達は普通に心が負けていた。

 

「とりあえず塩いらねェな。心からの怒りに満ちてる」

「影の事どうでもいいのかな」

「ま、元凶1人を叩き潰せば済む話だしね」

 

 先に進んだ二人がほとんどの敵を排除してくれるため、後ろに続くエレノア達は気楽に走れていた。

 このままモリアの元まで行けば、そんな甘い考えが浮かんだ時。

 

 前方の様子を覗いていたロビンがはっと息を呑んだ。

 

「………‼︎ しまった…いけない………‼︎」

「何? どうかし…………げ!!!」

 

 つられてエレノアも前を見やり、次いで嫌そうに顔をしかめる。

 

 怒りに燃え、獅子奮迅の働きを見せていたはずのルフィとサンジが、いつの間にかがっくりと手と膝をつき、地面に項垂れていた。

 彼らの頭上には、例の厄介な性質を持つゴースト達が飛び回っていた。

 

「ゴーストにネガティブにされてる〜!!?」

「もーだめだ、生まれ変われるならボウフラになりたい…」

「おれなんかマユゲ巻きすぎて死ねばいい…」

 

 普段なら絶対に言わない後ろ向きな呟きをこぼし、微塵も動かなくなった二人。

 そこに、それまでやられっぱなしだったゾンビ達がわらわらと集まり、ルフィとサンジを捕らえていった。

 

「よォし!!! 捕まえたぞ!!!」

「二人が捕まったァ――!!! 何でだ!!!」

「あのゴースト達の仕業よ‼︎ 触れると心を折られてしまうの。今の所、解決策は何も…‼︎」

「世話の焼ける…‼︎」

 

 エレノアは舌打ちをこぼし、囚われた二人の元に急ぐ。

 絡みついてくるゾンビ達を蹴り飛ばし投げ飛ばし、ルフィ達から引き剥がして肩に担ぎ走り出す。彼の後にウソップ達も続く。

 

「急げ!!! 二人を抱えて逃げるしかねェ‼︎ おれ達もこうなっちゃ終わりだぞ!!!」

「いやだ〜!!! 全員捕まったら助からねェ〜〜〜!!!」

 

 全力で逃げようとする一味だが、ゴースト達は四方八方から迫り逃げ場を与えない。その上ゾンビ達が邪魔をし、道と行動を塞いでくる。

 目前に襲いかかる窮地に、どうすればと瞠目したその時。

 

 ルフィ達とゾンビ達の周囲を、何か巨大なものの影がすっぽりと覆い隠した。

 

「出航出航♪ ────あ」

 

 間抜けな声を漏らし、それは……オーズは階段の上に着地し、そのまま踏み砕き、潰す。

 階段は超巨大な赤鬼の体重をわずかにも支えられず、赤鬼は下敷きになった無数のゾンビ達と共に、地面に落ちていった。

 

「…………アホか、あいつは」

 

 しれっと赤鬼の頭上から跳んだ天使は、壁に指を食い込ませて空中に留まりながら落下した連れを見送る。

 そしてやがて、凄まじい跳躍によってどこかへと姿を消していった。

 

 後に残された瓦礫の山の麓で、白い影が動いた。

 

「……あ、あだだだだ。何だってのさ」

「おい、どうしたエレノア」

「あ、二人とも………さっきぶり」

 

 土埃で汚れたエレノアは、ぶるぶると顔と翼を振って汚れを払う。

 

 その際、別の道を進んでいたゾロとフランキーが気付き、駆け寄ってくる。

 そして彼らは、着地に失敗して地面に突き刺さった料理人と狙撃手に胡乱げな視線を向け、眉間にしわを寄せた。

 

「落ちて来たこの二人の事はまァ置いといて………どういうこったコリャ」

「急に道が塞がりやがった。何なんだこの壁は……!!!」

 

 沈黙しているウソップ達を放置し、ゾロとフランキーはその横……空から降ってきた赤い巨大な壁を見やる。

 

 何かは不明だが、これがあっては前に進めやしない。

 徐に剣を突き立て、砲撃を食らわせ、どかそうと四苦八苦する二人に、エレノアがあっと声をあげる。

 

「待って待って二人とも待って‼︎」

「お前ら何やってんだ!!?」

「それがよ、急に壁ができちまって…」

「バカ、それは壁じゃねェよ!!!」

 

 同じく目を覚ましたウソップが、除去作業を続けようとする二人を止める。

 顔から血の気を引かせ、冷や汗まみれになったウソップは、聳え立つ壁……否、魔人を指差し、大きな声で叫んだ。

 

「そいつがルフィのゾンビだよっ!!!」

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