ONE PIECE −LOG COLLECTION : ELEANOR−   作:春風駘蕩

264 / 324
第246話〝仏の沙汰は僧が知る〟

「何だこのデカさはァ〜〜〜!!? どっかの大魔王か何かか⁉︎ こんな巨人見た事ねェ!!!」

 

 全貌を視界に捉えきれないほど巨大な、恐ろしい形相を持つ鬼。

 いるだけで凄まじい威圧感を放つ怪物を前に叫ぶ男達のそばで、エレノアがごくりと息を呑みながら呟く。

 

「……‼︎ 当たらずも遠からず………この巨大さ、間違いない‼︎ こいつが〝魔人オーズ〟!!! 古代の巨人族だ!!!」

「これがゾンビ⁉︎」

「これが………」

「ルフィ!??」

「ダメだ、もう終わりだァ‼︎ おれ達を殺しに来たんだァ〜〜〜!!!」

 

 自分達の船長とはまるで異なる外見を持つ異形。

 まともにやりあっても正気など微塵も見えない敵を前に、男達は硬直する。

 

 やがて、赤鬼がゆっくりと動き出す。巨大な両腕を伸ばし、砕けた階段の一部を持ち上げたかと思うと。

 

「おお、いいなコレ!」

 

 かぽっ、と自分の頭に被せてみせる。

 どうやら彼の目には、階段の一部が帽子にちょうどよく見えたらしい。

 

「よーし‼︎ 気分出てきたぞ‼︎ おれは海賊王に腐れなる‼︎ いやー、建物壊れてびびった」

 

 けらけらと笑いながら、オーズは立ち上がりどこかへと歩き去っていく。

 足元のエレノア達に一切反応を見せる事なく、嵐のように破壊だけをもたらして去って行った。

 

「……ホントにルフィみてェな事言ってやがった。あの図体でルフィの戦闘力は確かにヤベェ…」

 

 遠ざかる巨体の背を見送り、ゾロが思わず呟く。

 気付かずあんな怪物に攻撃を加えた自分達の行動に冷や汗が滲む。幸い、歯牙にもかけられなかったが、それはそれで腹立たしかった。

 

「もう…いいじゃねェか、お前らの影なんて」

「「よくねェよ!!!」」

「心折れんの早っ!!? ナミの救出もあんの忘れてんでしょ‼︎ シャキッとしなさいシャキッと!!!」

 

 がっくりと項垂れたウソップが力なくこぼし、サンジ達に突っ込まれる。

 最も会いたくなかった怪物に早速再会して、絶望したらしい彼にエレノアが叱咤を入れた。

 

 だが、目の前の崩壊した通路を前に、一行は顔をしかめさせる。

 

「――しかし、この道をどうしたものか。橋、壊れちゃったし、迂回したらその分ゾンビ達に遭遇しやすくなるし………」

「おめェ、これ直せねェのか?」

「私一人じゃちょっとムリ。ていうか自重で勝手に壊れる。反対側にもう一人ぐらい術師がいればねェ…」

「じゃあ、飛んで運んでくれ」

「……仕方ないか……」

 

 途絶えた道を見つめ、エレノアは渋々頷く。今後の戦闘に向けて体力は温存しておきたいが、背に腹は変えられない。

 まずは重い者から運ぼう、とフランキーの方を見やると。

 

 いつの間にか、砕けた橋に代わる新たな細い橋が出来上がっていた。

 

「あと30秒待てよ。この装飾が不満だ…」

「「「「橋が出来た――!!!」」」」

 

 ちょっと目を離している隙に、元からそこにあったかのような完成度を誇る橋を作り上げていたフランキーに全員が目を剥いて叫ぶ。

 細部まで綺麗に整え終えたフランキーは、振り向いて仲間達に不敵に笑ってみせた。

 

「これだけのガレキや木片があれば材料は充分だ」

「私の立つ瀬がない!!!」

「…しかし応急にしちゃあディティールまで凝りすぎじゃあ」

「このおれに手抜き工事をやれってのか!!?」

「いやァ頼りになるぜ‼︎ とにかく助かった、行こう‼︎」

 

 問題の迅速な解決に男達は喜ぶが、エレノアは肩を落として項垂れた。

 役目を取られた気分なのか、暗い表情で橋を渡り出したサンジ達の後に続く。こういう場面こそ自分の出番だったはずなのに、と。

 

 エレノアの苦悶はさておき、一行は橋の向こう側へ辿り着き、屋敷の扉を開く。その先に広がる空間に、彼らは訝しげに眉をひそめた。

 

「………この部屋は何だ」

「ずいぶんチャラチャラした部屋だ」

 

 その部屋は、やたらとふわふわしたものが集まった内装だった。

 無数のぬいぐるみに、可愛らしい飾りの多くついた家具。幼い少女が好みそうな、明るい色調の部屋だ。

 

 その中心に、一人の丸い目をした洒落た服装の少女が立っていた。

 

「ホロホロホロホロ………階段と橋でお前らを全員ゾンビ共の餌食にするつもりだったのに、まさかオーズが降って来るとは。とんだ邪魔が入ったもんだ」

 

 特徴的な笑い声をこぼし、腰に手を当て告げる少女。

 

 わずかながらの不気味さの中に威厳じみたものを醸し出す少女の周囲には、これまで何度も見てきたゴースト達が浮遊している。まるで、少女を守るように。

 

「…あのゴースト‼︎ まさかあいつが操ってたのか。アレは一体何なんだ⁉︎」

「ホロホロホロホロ‼︎ すでにてめえらはこのゴーストの恐ろしさを充分わかっている筈…私は霊体を自在に生み出す〝ホロホロの実〟の霊体人間」

 

 少女に合わせて、ゴースト達も笑う。

 それらがもたらす効果をその身で味わっているエレノア達は、無意識に表情を強張らせた。

 

「このゴースト達は私の分身、人の心を虚ろにする‼︎ ホロホロホロ、てめえら全員ここまでだ!!!」

 

 少女・ペローナが片手を指揮棒のように振り、ゴースト達を向かわせてくる。

 重力を無視し、壁や障害物すら無視する、どんな強者でも膝をつかせる攻撃が、一斉に襲いかかってくる。

 

「あのムカつくゴーストの黒幕が、あんなキューティーちゃんだったとは‼︎」

「んな事言ってる場合か!!! 全員アレくらったら一瞬で全滅だぞ」

「逃げるしか手はねェ」

「……‼︎ 確かにアレばっかりは……!!!」

「全員‼︎ 一時撤退!!!」

 

 対抗手段が全く見つかっていない敵の能力に、全員が即座に退く事を選択する。触れれば即終了、故に全速力で逃走を選ぶ。

 

「〝ネガティブ・ホロウ〟!!!」

 

 だが、物理法則に支配されたエレノア達では、ゴースト達から逃れる事は不可能に近かった。全員が一瞬で追いつかれ、胴体をすり抜けられていく。

 

 そして全員が、ばたばたとその場に崩れ落ちて暗い雰囲気を纏い出した。

 

「終わった、何もかも………」

「そうだ‼︎ ノラ犬などに踏まれたい‼︎」

「サバ以下だ、おれという存在は…‼︎ 死のう…」

「みなさんと同じ大地を歩いてすいません」

「生まれて来てごめんなさい生まれて来てごめんなさい生まれて来てごめんなさい……」

 

 ウソップを除き、普段は自信と覇気に満ち溢れた男達が、自害でもしそうな勢いで項垂れ落ち込む。

 エレノアに至っては死んだ魚のような目で地面に伏せっている有様だ。

 

「捕らえろ!!!」

「「「「「ウオォ――――!!!」」」」」

「あっけねえな、後は上の奴らか」

 

 ペローナの命に従い、異形をした動物のゾンビ達がエレノア達に襲いかかり、捕らえようとする。

 大した労力もなく無力化された一味に、ペローナが落胆の溜息をこぼした時だった。

 

「乱れ撃ち〝塩星〟!!!」

 

 突如、一人の男の声が響いた直後、動物ゾンビ達の口に白い弾丸が飛び込む。驚愕で目を見開いたゾンビ達は、すぐさま白目を剥いて倒れていく。

 

「誰だ‼︎」

「「「「「ギャアァアァア」」」」」

 

 それぞれ口から影を飛び出させ、骸に還っていくゾンビ達にペローナが驚愕の声をあげ、振り向く。

 彼女が睨む先で、大型パチンコを構えたウソップが、勇ましい表情と平然とした様子で仁王立ちする。

 

「ウチの船員に手出しはさせねェ!!!」

「しまった…コイツくらったフリをしてやがったのか、〝ネガティブ・ホロウ〟!!!」

 

 すっかり騙され、手駒が何体か浄化され役に立たなくされた事で、ペローナは失態に顔をしかめると、すぐさまもう一度ゴーストを襲いかからせる。

 再びゴーストに触れられ───しかし、今度はウソップは倒れもしなかった。

 

「………おれの名は………キャプテン・ウソップ‼︎」

 

 今度こそ決まった、と確信していたペローナは絶句する。

 困惑で冷や汗を垂らし、微塵も技が効いた様子のないウソップを凝視し、鋭い声で問う。

 

「なぜだ!!! てめェ、なぜひざをつかねェ!!! (ゴースト)は当たったぞ‼︎ …一体どんな手を使って‼︎」

「どんな手も何も!!!」

 

 数多の強者の心を折ってきた、自慢の技。自身の自信の根幹でもあるそれらが歯が立たないなど信じられない様子で、少女は立ち尽くす。

 そんな彼女に……ウソップは堂々と、一切の偽りなく答えた。

 

「おれは元から!!! ネガティブだァ!!!!」

 

 ───少しも誇れる要素のない、情けない宣言。

 しかし、今この状況において、その言葉は彼女を心底愕然とさせ、言葉を失わせる。

 

 がーん!と強烈な衝撃を受け、ペローナはその場で倒れ尻餅をついた。

 

「ゴーストのネガティブパワーをしのいだ‼︎」

「とんでもねェ男だ!!!」

 ―――人は…生きてる、それだけで前を向いてるハズなのに…この男…!!!

 

 思わぬ事態にざわざわと騒ぎ出すゾンビ達。

 ペローナはひたすら驚愕し、呆然となり、そしていつしかほろりと一筋の涙をこぼす。その衝動のままに、やがて全員が叫んでいた。

 

「「「「「頑張れ!!!」」」」」

「励ますなおれを!!!」

 

 敵に励まされるという意味不明な状況に、そして不本意な慰めを受けた事でウソップが目を飛び出させて吠える。

 悶々とした気分を抱えたまま、ウソップは背後を振り返り、屈したままの仲間達を見やる。

 

「さァ、目を醒ませてめェら、早くナミとブルックの救出に向かえ!!! お前らじゃあ………‼︎ お前らの力じゃああの女に敵わねェっ!!! あいつはおれが引き受けた!!!」

「………おのれ……!!!」

 

 いつになく自信満々に、この場で最も厄介な敵の相手を買って出る、麦わらの一味の中でも弱い部類に入る男。

 その弱さで少し前まで悩んでいたのに、それを感じさせない勇ましさがあった。

 

「何だ、この頼れる感じ…」

「アイツ効かなかったのか」

 

 戸惑いながら、落ち込んでいた気分が少しずつ回復し始めたゾロ達が起き上がり、動き出す。

 どういう理屈かはわからないが、この場は任せるより他にない。

 

「だが周りのゾンビ共はカタづけてからゆけっ!!! そいつらにはおれは勝てねェ!!! きっと死ぬ!!!」

「………私らでもムリなんであと全部お願いします……」

「あァ‼︎ 違う‼︎ ちょっと待て‼︎ 待ってー」

「役立たずでごめんなさい役立たずでごめんなさい役立たずでごめんなさい……」

「「「おめェは効き過ぎなんだよ!!!」」」

 

 最後の最後にひどく情けない事をこぼすウソップを残し、エレノアを抱えたゾロ達がペローナの部屋を後にする。

 ウソップの悲鳴が聞こえなくなるまで、エレノアは虚ろな目で誰にともなく詫び続けるのだった。

 

 

 

「まさかウソップのネガティブがこんな所で役に立つとは…」

 

 最初の部屋を後にし、庭を進む一行。

 復活したエレノアも自力で通路を走り、一人奮闘しているであろうウソップのいる方を振り返り、冷や汗を垂らした。

 

「あいつがいなかったら、たったあれだけで一味全滅もあり得た……‼︎ 恐ろしい能力があるもんだ」

「適材適所とはこの事だね。いや、餅は餅屋と言うべきか………」

「追って来てるのは妙な動物ゾンビだけだな」

 

 これまでにない窮地を脱し、ほっと安堵の息をつく。ただの力ではどうにもならない局面を、まさかの人物が救ってくれるとは。

 妙に感心したくなるのを堪え、各々のなすべき事を再確認し先へ進む。

 

「この庭をまっすぐ渡ればブルックのいる屋敷か。おれはここで別れてナミさんの下へ向かう‼」

「わかった、しっかりやれよ‼」

「おおよ‼ おれは〝恋の狐火〟‼ んん~~ナミさァ~~ん!!! 嫁にはやらんぜ~~!!!」

 

 激励を受け、ぼっと全身に炎を纏ったサンジが庭園から飛び降りる。

 愛する女性を奪還するため、憎き透明人間を打倒するため、霧で包まれた橋の下へと飛翔する。

 

 まるで躊躇いのなかったサンジの突貫に、ゾロの顔が引きつった。

 

「……飛んだ…ここ結構高ェんじゃねェか⁉」

「ほっときなよ」

「――まァ人間テンション上がると、痛みも薄れるというからな…」

 

 無事かどうかを心配する者はいない。

 頑丈で、女性のためなら平気で命を張る男を心配したところで無駄だと、全員が察していた。

 

「とにかくおれ達ァ、あの屋敷の最上階だ。研究室にガイコツがいるっ!!!」

「ああ」

 

 とにかく、それぞれの役目を果たさなければ。そう考えながら、ゾロはまだ見ぬ侍への闘志を秘め、獰猛な笑みを携えて走る。

 

 その時、エレノアがぴくりと耳を震わせる。

 そして突如宙へ跳躍し、義足の刃を展開して振りかざした。

 

「させるかァ!!!」

 

 ぎゃりん、と甲高い音が響き、激しい火花が散る。

 頭上から振り下ろされた何者かの刃を受け止め、裂帛の声と共に弾く。

 

 エレノアはそのまま翼を羽ばたかせ、空中で自身を回転させ、同時にもう一方の義足の刃も振り回す。

 回転の勢いを利用し、真横から振るわれた刃……肉切り包丁を受け流し、その持ち主ごと吹き飛ばす。

 

 襲撃が失敗に終わった二人の敵、二種の鎧を纏った者達は、地面に降り立つとエレノアを興味深げに見つめ返した。

 

「ふむ、手強いな」

「げっへっへっへ…お前も勘が良いな、また避けられちまった…」

「何だ⁉ またゾンビか!!?」

「どーやら………私のお相手のようだ」

 

 突然現れた敵、見覚えのある相手にフランキーが拳を構える。

 だが、そんな彼を制止するようにエレノアが前に出て、二体の鎧を見据えて眉間にしわを寄せる。

 

「…おい、こいつらの雰囲気、どこかで…」

「うん、当たりだよ……アル君と同じ、どっかの誰かが生きた人間の魂を引っぺがして鎧に定着させた存在だ。ゾンビとは違う、疑似的な不死の敵……‼」

「何ィ!!?」

 

 ゾロの呟きに応え、エレノアが語る。順調に覇気の習得は進んでいるらしい、一目見て目の前の相手の違和感に気付くとは。

 

「あんた達、何者? どっかで死にかけて、誰かに人体錬成で鎧に定着させられて命拾いした…………ってわけじゃなさそうだな」

「何だその具体的な例は!!? え、まさかさっき言ってた知り合いって…‼︎」

「げっへっへ……タダじゃ教えてやんねェよ」

 

 エレノアの問いに、髑髏の鎧は真面に答えない。

 不気味に笑い、包丁を構えるだけだ。

 

「影を奪った以上、お前達に用はないのだが……侵入者の排除も仕事の内なのでな。手足の一本二本は頂かせてもらうぞ」

「げっへっへ‼ 死なねェ程度なら解体してもいいって事だ!!!」

「………やり過ぎるなよ、66」

 

 きん、きんと両手に握った二振りの包丁を打ち鳴らし、やる気を見せる髑髏の兜の鎧に、もう一方が呆れながら告げる。

 逃す気はないらしい。雇い主に楯突く者の排除のため、この場で全員半殺しにする気だ。

 

「先行ってな、こいつらは私が片付ける」

「……ああ、なら頼む。錬金術の産物なら、お前が一番適任だろうしな」

「餅は餅屋ってか…じゃあ、頼むぞ!!!」

 

 二体の鎧の前に立ちはだかり、ぱんっと両手を打ち鳴らすエレノア。

 そのまま指を鳴らし、発された火花をあっという間に炎に、二振りの剣に変えて構える。

 

 驚愕にがしゃっと音を鳴らす鎧に向け、エレノアは翼を羽ばたかせ飛びかかった。

 

「色々話聞かせて貰うぞ!!! 鉄クズ共ォ!!!」

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。