ONE PIECE −LOG COLLECTION : ELEANOR− 作:春風駘蕩
第247話〝目覚める若者達〟
島に置かれた崩れかけの教会、そこで行われていた結婚式。
その主役になろうと目論む獣面男が、苛立たしげに花嫁を奪わんとする黒足の騎士を睨みつける。
「貴様が欲していたこの能力に加え…守りたかった女までもおいらの花嫁となる‼︎ これ以上の敗北はあるまい!!!」
す……とその姿を景色と同化させるアブサロム。
自他を透明にさせるスケスケの実の能力者の言葉に、サンジは傍で眠りにつくナミを庇いながら眉間にしわを寄せる。
「……!!! ナミさんを消す気だな、渡さねェぞ」
「ガルルル…‼︎ ムダだ…思い知るがいい…!!!〝怪人〟のパワー!!!」
本人の訓練の賜物か、微かな足音も聞かせず忍び寄り、改造によって得た剛力をサンジに振るおうとする。
ナミの側を決して離れまいとしながら、サンジは呼吸を落ち着かせ。
背後から振るわれた剛腕を躱した───目を閉じたまま。
「……!!? 避けた…だと⁉︎ 貴様どういう手を使って!!?」
「……まったく、コソコソ隠れやがって透明人間。…もうその夢に未練はなしだ…‼ おれはもう…透明なんかなれなくたって構わねェ………‼ 自力で覗く」
「覗きはすんのかいっ!!!!」
不発に終わった自身の奇襲に、驚愕の声をこぼすアブサロムをよそに、サンジは苛立たしげに最低な事をのたまう。
ナミを攫われた屈辱に加え、一方的な恨みを闘志の炎にくべ、片足に業火を纏わせる。
「――――あァ、最初に感じ取るのがてめェの気配だと思うと、クソ腹が立って仕方がねェよ!!!」
そして、かっと見開いた目がぎらりと赤く光る。
その視線は確かに、姿を消したままのアブサロムをまっすぐに射抜いていた。
「色々獣が混ざってんなら……いい挽き肉ができそうだな…!!!」
「まさか…おいらの姿が見えて!!?」
「〝
烈火の蹴撃が猛烈な勢いで放たれ、アブサロムの全身に叩き込まれる。
見えずとも、その気配をはっきりと悟られた獣面男に逃れる術はなく、血反吐と共に、壁に十字架のような体勢で叩きつけられた。
「アブサロム様ァ~~~~~!!!」
「女湯…いや…野獣の花嫁は…野獣で十分だ!!!」
ふっ、と熱を冷ました片足を収め、サンジは呟いた……未練まみれのまま。
「必殺〝黒光り星〟!!!」
ひゅんっ、と放たれた弾丸が少女の目前で弾ける。
中から飛び出し蠢くそれらを前に、ペローナは真っ青な顔で声を引きつらせる。
「ギャアアア~~~~~~~~‼ ゴキブリ~~~!!!」
「通称〝ゴキブリ星〟‼︎」
「気持ち悪い〜〜〜〜〜〜‼︎ 誰か取って〜‼︎ 助けて〜〜逃げられない〜‼︎」
屋敷中にペローナの悲鳴が響き渡る。
霊体を操り、自身も肉体の枷から抜け出せるホロホロの実の能力者ペローナは、とりもちで自由を奪われた上に、前進を蜚蠊に這いまわられ、泣き叫んでいた。
「ゴキブリも恐かろうがァ…もっとも恐ェのァ…このォ…おれ様…………!!!」
少女を捕らえた長鼻の狙撃手は、一体どこから取り出したのか、身の丈を優に超える鉄槌を担ぎ、少女を睨みつける。
「俺は東の海一番の怪力で知られた男」
「じゅ…10tって……おい、お前のどこにそんな力が!!! やめろ‼ 逃げ場ねェのにそんなもの!!! 死んじまうじゃねェか!!! おい!!!」
動きは封じられ、配下の動物ゾンビは置き去り、側仕えの熊の着ぐるみゾンビは浄化され、ペローナを守る者は誰もいない。
みっともなく命乞いをする少女に向け、ウソップは大きく鉄槌を振りかぶる。
「ゴキブリも取って…‼︎ ハンマーもやめて!!! ハンマーもゴキブリも」
「ウソ~~~~~~~~ップ…」
「お前の仲間には手は出さねェから!!! 許して‼︎ お願いやめて〜!!!」
「〝ゴ~~~ルデン~~~~〟…!!!」
「いやあ~~!!!」
悲鳴をあげるペローナ、涙で顔をぐちゃぐちゃにしたその頭に、ぐわっと巨大な鉄槌が容赦なく叩き込まれる。
「〝パウンド〟!!!」
ぱぁんっ!
鉄槌が少女の目前で炸裂する。
恥肉が石榴のように飛び散る……事はなく、舞い散るゴムの破片の下で、ペローナはぶくぶくと泡を吹いて意識を失っていた。
「オバケ屋敷のプリンセスが…〝風船〟と〝玩具ゴキブリ〟で気絶してちゃ世話ねェな。このおれ様に……‼〝ネガティブ〟と〝ウソ〟で勝負を挑んだのは大間違いだ!!!」
残った柄を肩に担ぎ、拾い上げた蜚蠊の玩具を見やり、溜息をつくウソップ。
散々脅かしてくれた幽霊島の姫への仕返しを心ゆくまで完了させた彼は、飛び上がり勝利の雄叫びをあげるのだった。
「夜明けまで寝てろい――っ!!!」
斬、と強烈な一閃が振り抜かれ、尖塔の上半分が宙に浮く。
それを成した骸の剣豪───ブルックの影を宿した伝説の侍のゾンビが、自らが相対する剣士を狙う。
振るわれた斬撃を躱したゾロは、両断された尖塔の屋根を駆け上がり、遥か頭上から飛び降りる。
「〝一刀流〟…〝飛龍〟」
「……〝鼻唄三丁〟」
竜の影をその身に纏い、ゾロは一刀を構え落下する。
侍ゾンビはそれを迎え撃たんと、斬られた事に気付かせないブルックの剣技を備え、ゾロに向けて鋭く跳躍する。
両者の姿が交差する刹那、刃が振り抜かれ。
「〝火焔〟!!!!」
僅かな差で、ゾロの一閃が侍ゾンビの腹を斬り裂いた。
ぼっ、と傷口から噴き出した炎に包まれる侍ゾンビの下で、ゾロはそのまま下の屋根に落下し、ごろごろと転がっていく。
燃える侍ゾンビは刀を鞘に収め、ゾロに振り向いた。
「――かつて伝説の侍が腰にした〝名刀〟――『秋水』‼ あなたが主人であるなら、この刀も本望でしょう」
ぐ、と手にした刀を突き出し、告げる侍ゾンビ。
一剣士としての敬意を示し、敗北を認めた彼に、戦いを見守っていたフランキーは困惑の声を上げる。
「今…何か言わなかったか? あの侍…──つまり…どういう事だ?」
「…つまり………‼︎ 決着の様です…‼︎ …こんな戦い…私、初めて見ました」
フランキーに抱えられた満身創痍のブルックが、唖然とした様子で答える。
自身に一切反撃を許さなかった剣豪が迎えた結末に、心底驚愕し失くした目を奪われていた。
「あの侍…私になんか全く本気じゃなかったんだ…………‼︎」
生者達に見上げられながら、侍ゾンビが刀から手を離す。
屋根を転げ落ち、ゾロの手に刀が───大剣豪が使い続けた名刀が収まるのを見届け、侍ゾンビは悔恨の声をこぼす。
「………――この侍の体に…敗北を与えてしまうとは……心苦しい………‼」
「…恥じる気持ちがありゃ充分…心身共にあってこその剣士だ…お前が生きた時代に会いたかったよ」
そう告げる先で、侍ゾンビの姿が炎の中に消えていく。同時に、黒い影が骸から飛び出していく。
飛び出たそれは宙返りし、ブルックの足元に音もなく溶け込んだ。
「も…も‼︎ 戻ったァあああああ〜〜!!! 私に影が…戻っった〜〜〜!!!」
「――刀は貰うが……‼ 勝負はなかった事にしようぜ、ワノ国の侍……!!!」
歓喜の声を上げるブルックを横目に、ゾロは笑う。
彼には珍しい、強者への敬意を口にし、不敵な笑みを浮かべてみせた。
一つの戦いが収まったところで、フランキーは改めて島を見渡し嘆息する。どこからか微かに、轟音が聞こえる気がする。
「こっちは片付いたが………まだまだ終わりは遠いな。敵は多い」
「ま、大元を追ってるルフィはともかく、他は大丈夫だろ………仕組みがわかった以上、よっぽど気を抜いてなけりゃ二度も奇襲は受けねェさ」
一息つき、新たに得た得物を肩に担ぐゾロがそう語る。
途中で別れた天使の姿を思い浮かべ……彼女の相手に合掌をしながら。
「むしろ、敵の方がかわいそうに思えてくるだろうな…特にあいつは、身内にも敵にも容赦がねェからよ」
どぎゃ、と髑髏の兜の横っ面に鋼鉄の蹴りが入る。
相応の重量を持つはずのバリーは、木の葉のように軽々と吹っ飛ばされた。
「でええええ!!!」
倒れ込んだ彼の後ろでは、刃を展開したエレノアと剣を振るうNo.48が激しく鋭い剣戟を繰り広げる。
バリーはすぐさま起き上がり、斬り合いに無理矢理割り込んだ。
「にゃろォ~~~~~~‼ 大人しく斬られやがれってんだ…特上の肉ゥ!!!」
「誰が肉だ!!!」
ぶんぶんと振り回される肉切り包丁。だが殺人鬼であって剣士ではないバリーの攻撃は避けるに容易く、エレノアは呆れ顔で身を翻す。
「〝
「〝斬り捨て御免〟!!!」
「遅いよ」
「ぶへェ!!?」
双方から急所を狙った一撃が放たれるが、エレノアはその場で逆立ちをすると、両足を振り回し擬似的な二刀流を繰り出す。
斬撃と共に強烈な蹴りを同時に叩き込まれ、鎧の殺人鬼達は思い切り突き飛ばされた。
「この女強ェエ〜!!! 弱くなってるって話はどこいったんだよォ!!?」
「成程……多くの〝七武海〟と肩を並べた実力者と謳われていたのは確かなようだな」
戦慄の声を漏らすNo.48とバリー。もし彼らが生身の体なら、大きく息を荒げさせ、顔中脂汗を垂らし、顔を引きつらせていた事だろう。
「あんまり時間かけてられないからさ、さっさと吐いてほしいんだよね…………どこの誰があんた達をそんな姿にしたのか」
「あァ…‼︎ そういやおれ達の同類が知り合いにいるんだったか。どこの死刑囚かは知らねェが、大事な秘密をバラしやがってムカつくなァオイ!!!」
エレノアの仲間がこぼしていた話を思い出し、悪態を吐くバリー。
苛立つ彼は気付かなかった。自分がこぼした言葉が、目の前の天使の琴線に触れるものだった事に。
次の瞬間、先程よりも強力な蹴りが猛然とNo.66に襲いかかった。
「あばァあああ!!? ちょ…待っ……!!! なんで急にキレて……」
「…もういいわ、黙れ。その口で私の弟弟子達を穢すな……!!!」
目つきを鋭くし、相手の防御も無視して手加減なしの蹴撃を浴びせまくるエレノアが、怒りを込めた声で告げる。
そしてぱんっと掌を打ち合わせ、手の中に白く燃える炎の刃を生み出し、全身を回転させながら振り回した。
「〝
ごう!と炎の剣が周囲に伸び、あらゆるものを焼き斬る。
斬撃の範囲内にいたバリーとNo.48は、上半身と下半身を真っ二つに両断され、地面に転がされた。
「あーっ‼︎ あ〜〜〜っ!!! おれの身体がっ…‼︎ バラバラにィ!!!」
「………見事、だが───!!!」
がしゃん、と地面に崩れ落ち、悲鳴を上げるNo.66。
同じく地面に倒れたNo.48も外れた兜から苦悶の声を漏らすが、不意に光る目が一瞬輝きを増す。
炎の剣をかき消したエレノアは、はたと顔を上げて呟いた。
「あァ、そういえば思い出した。殺人鬼〝スライサー〟には…………兄弟がいたんだっけか」
そう口にした直後、エレノアはその場から跳躍し、背後から振るわれた剣を飛び越える。
僅かに羽の先端を切り落としただけで終わった敵……鎧の中から異なる意匠の上半身を生やしたNo.48の下半身が、地団駄を踏んだ。
「クソッ…‼ バレてたか‼ おいバリー‼︎ てめェ、もっとバレねェ演技しやがれ!!!」
「んだとコノヤロー‼︎ ムチャいうなアホォ!!!」
「小細工は無用だったようだな……いや、知った上で誘導されたか」
No.48の下半身の文句に、転がったままのバリーが抗議の声を上げる。
残るNo.48の上半身は悔しげに鎧を軋ませつつ、両腕で体を起こし……片割れと真逆に下半身を生やし、立ち上がった。
二体のその様はまるで、一人が二人に分裂したかのようだった。
「その通り‼︎ 我らは2人で1人の人斬り〝スライサー〟兄弟!!!」
「元々は兄者もおれも別々の鎧だったんだが、ちょっと前に面倒な敵とやりあって破損してなァ………作戦も兼ねて合体してたのよ。それを一発で見破りやがって胸糞悪ィ…!!!」
刀を構える一方……兄者と呼ばれた方が丁寧な口調で語るのに対し、弟の方はやや乱暴にエレノアを睨み吐き捨てる。
対するエレノアは、意味があるのかないのかよくわからない彼らの行為に呆れた目を向けていた。
「…あいつらが見たら喜びそうだな。ていうか、要は肩車した状態でよくあんな機敏に………」
「兄弟で息を合わせるなど簡単な事……」
思わずといった様子で呟く彼女に、どこか誇らしげに兄の鎧が返す。
兄弟鎧はゆっくりと、がしゃがしゃと装甲を鳴らしながら、エレノアの退路を立つように前後を塞ぐ。
「だが残念だったなァ…………おれ達の秘密を見破って勝った気になってるようだが、そりゃ間違いだ。てめェはただ………おれ達に切り札を引かせただけにすぎねェ」
じりじりと、凶刃を構え隙を伺う兄弟鎧を、エレノアはあまり表情を変える事なく見据える。
ゆっくりと天使の周囲を回っていた兄弟鎧は、やがて凄まじい勢いでエレノアに向かって突撃を開始した。
「我ら兄弟の真の力!!!」
「たっぷり味わいやがれェ!!!」
「いけーてめェら〜!!!」
鋭い斬撃を放ち、襲いかかる兄弟鎧。地面に転がったままのバリーが応援の声を上げる前で、鈍い光が天使に食らいつく───そう思われた瞬間。
「〝
突如生まれた暴風が、打撃となって左右の鎧に叩き込まれる。
腹のど真ん中にそれぞれ一撃をもらい、兄弟鎧は走行を大きく陥没させられ吹き飛ばされ、ばらばらになってしまった。
倒れ込んだ両者を横目に、エレノアは不敵な笑みを見せる。
「残念。大して意味なかったね」
「何やってんだてめェら〜〜〜!!!」
「だ…黙れ…‼︎」
「チクショ〜〜!!!」
兄弟鎧と髑髏の鎧は苦悶の声をあげ、ばたばたと自由の効かない体でもがく。
仰向けになった兄の鎧の側に近付き、エレノアは兜の面頬を上げさせ、中にあった錬成陣に義足の刃を突きつける。
「く…‼︎」
「動かないでよ、刻印を消されたくなかったらね」
「むゥ…‼︎ 何たる屈辱………死すら与えられず脅されるとは…‼︎ だが無意味だ………たとえ死んでも、これ以上の恥を晒すつもりはない」
「おォよ‼︎ おれも兄者も何も話さねェぞ!!!」
鎧に魂を定着させる、錬金術の命綱を容赦なく狙うエレノア。
しかし、誇りも意地もある兄も弟も頷くつもりはなく、堂々と自らの弱点を晒して両手を投げ出す。
その姿に、エレノアは面倒臭そうに目を細めた。
「ふ〜〜ん………じゃ、こっちの鎧に聞くわ」
「サーセン!!! マジサーセン!!! 何でも言う‼︎ 何でも喋るから命だけは勘弁してくれェエ!!」
「「おい!!!」」
即座に尋問の標的を変え、バリーの兜の後ろ側に刻まれた錬成陣に刃を突きつける天使。
すぐさま命乞いを始めた同業者に、兄弟鎧が突っ込みの声をあげた。
「物分りが良くて結構…………じゃあさっそく色々と聞かせてもら──」
満足げな笑みを浮かべたエレノアが、話を聞きやすくしようとNo.66の兜をもぎ取ろうとし───
「────ねェ、弱い者イジメは楽しい? あんた…」
聞きなれない声を、聞いた。