ONE PIECE −LOG COLLECTION : ELEANOR−   作:春風駘蕩

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第26話〝ならず者たちへの洗礼〟

「た…た…たかのめ…!!?」

 

 エレノアが呟いた単語に、ウソップは戦慄の表情を浮かべる。

 が、すぐに訝しげな表情に変わった。

 

「だれだそりゃ」

「さー、誰だろうなー」

「おれの探してる男さ…」

「「え⁉」」

「あ、なるほど…あんたの野望をかなえるには確かに手っ取り早い相手だ」

 

 ゾロの一言で、エレノアは察する。

 世界の剣士の頂点を目指す彼にとって、その人物と相対することは最終的な目標と言えるだろうからだ。

 

「ジョニーの情報じゃあ、この店にも…」

「〝鷹の目〟の男か…」

真っ赤な目(・・・・・)の男ならこの店に来たことがあるけど」

「あァ、ワイン飲みすぎて目ェ真っ赤にしてた奴な」

「体に引火して爆発したどっかのバカか」

「ありゃみごとだったよ」

「………‼ あのヤローガセネタか………‼」

「そう簡単に会えるはずないって…」

 

 クリークたちが〝偉大なる航路(グランドライン)〟に入って7日目で遭遇したことが幸運(?)だっただけで、本来は探してもそうそう会える人物ではないことをほのめかす。

 それはそれとしてぬか喜びさせられたゾロは、不満そうに顔を歪めていた。

 

「…艦隊を相手にしようってくらいだ。その男、お前らに深い恨みでもあったんじゃ?」

「そんな覚えはねェ! 突然だったんだ」

「昼寝の邪魔でもしたのか…あるいはただ暇だったのか…」

「ふざけるな‼ そんな理由でおれ達の艦隊が潰されてたまるか!!!」

()ならそれもあり得るってことだよ。…彼なら偉大なる航路(グランドライン)に入りたての素人海賊艦隊ていど、歯牙にも留めないはずだから」

 

 知ったように語るエレノアに不思議そうな視線が集うが、当の本人は呆れたようにギンを見下ろすだけで気にした様子はない。

 ゾロも彼女の素性の知れなさは気になったが、今さらな事だと考えて視線をそらした。

 

「く―――っ、ぞくぞくするな――っ‼ やっぱそうでなくちゃな――っ」

「てめーは、少しは身の危険を知れ‼」

 

 はしゃぐルフィとビビるウソップの様子に、ばかばかしさを感じたという理由もあるだろうが。

 

「おいおい‼ このノータリン共‼ 今の、この状況が理解できてンのか!!? 今、店の前に停まってんのはあの〝海賊艦隊〟提督、〝首領・クリーク〟の巨大ガレオン船だぞ!!! この東の海で最悪の海賊団の船だ!!! わかってんのか⁉ 現実逃避はこの死線を越えてからにしやがれ!!!」

「…さて、相手がいったいどれほどのものか」

「何ィ!!?」

 

 警戒を促すパティに、エレノアの面倒くさそうなつぶやきが耳に入る。

 完全に甘く見ているように見えるが、自然体で立つエレノアには何かに裏付けされた自信が見えるような気がした。

 

「艦隊っつっても、どうせ数の暴力に頼ったザコ集団にしか思えないんだよね…しかも食べたばっかりとはいえ、失った体力がそう簡単に戻ってるとは思えないし」

「そ…そりゃあそうかもしれねェが」

「情けない顔をしてんじゃないよ」

 

 なおも不安を隠せないコックたちに、エレノアの厳しい視線が向けられる。

 咎めるような、強い力を秘めた眼差しに、コックたちは息をのんで背筋を伸ばした。

 

「ここはあんた達の宝でしょ。失いたくなきゃ、せいぜい死力を尽くしなさい」

 

 

 そしてついに、その時が訪れた。

 かろうじて浮いているガレオン船の船上から、無数の男たちの雄叫びが聞こえてきたのだ。

 

「押しよせて来るぞ、雄叫びが聞こえる‼」

「守り抜くぞ、この船はおれ達のレストランだ!!!」

「……ざっと数十人ってところか」

 

 不安げながらもやる気をみなぎらせるコックたちと、冷静に敵の数を測るエレノア。

 それぞれが戦闘準備を整え終えた直後、海賊たちが次々にバラティエに向けて飛び込んできた。

 

「どけどけコック共ォ~~~っ!!!」

 

 ロープを伝い、ガレオン船の上から迫ってくる荒くれ者達。

 その時だった。

 エレノアの感覚が、以前にも感じたことのある殺気を感じ取ったのは。

 

(………!!? この気配は……!!!)

 

 その気配の持ち主に思い至った瞬間、まるで何かが爆発したかのような衝撃とともに、バラティエが揺れた。

 その原因は、半ばから真っ二つに両断されたガレオン船が沈み始めたためであった。

 

「何が起きたァ!!!!」

「首領・クリーク!!! 本船は…!!! 斬られました!!!」

「斬られた? 斬られただと!!? この巨大ガレオン船をか!!? そんな……………!!! バカな話があるかァ!!!!」

 

 突然の事態に、クリーク海賊団もバラティエのコックたちも狼狽し、揺れる船内でパニックになる。

 エレノアは窓の外から見えるガレオン船の状態に、予感が当たったとばかりに頬を引きつらせた。

 

「こんな芸当ができるのは…間違いない!!!」

「錨を上げろ!!! この船ごともってかれちまうぞ!!!」

「はいっ‼」

 

 ゼフのとっさの判断で、ようやく落ち着きを取り戻したコックが走る。

 錨を外したことで、バラティエは波に揺られまくったものの転覆せずに済み、徐々に波が落ち着くまで耐えきることができた。

 そこでふと、エレノアは大事なことを思い出した。

 

「やべ…メリー号にナミもヨサクもジョニーもほったらかしだった」

「くそっ‼ もう手遅れかも知れねェぞ!!!」

 

 ハッとなるエレノアだったが、荒波の中から聞こえてきた声に安堵する。

 見れば放り出されたヨサクとジョニーが、号泣しながら荒波の中を泳いできていたのだ。

 

「アニギ~~‼」

「ア~~~ニギィ~~~~っ!!!」

「ヨサク‼ ジョニーッ‼ 無事か‼ 船は⁉ 船がないぞ‼ ナミはどうした⁉」

「それが…ずいばせんアニキ…!!! もうここにはいないんです‼」

 

 バラティエにたどり着いたヨサクとジョニーを引き上げると、二人は信じられないことを口にした。

 

「ナミの姉貴は‼」

「宝、全部持って逃げちゃいました!!!!」

「「「「な!!!! 何だとオオオオ!!!?」」」」

 

 不甲斐ないと泣きじゃくる彼らから話を聞くと、メリー号の上で時間を潰していた時のこと、手配書を見ていたナミの様子がおかしいことに気づいた。

 何事かと尋ねようとすると、ナミはいきなり着替えたいから見ないでほしいと色っぽく頼んできたという。

 訝しく思いながらも、簡単に篭絡された二人は言うことを聞き、背を向けたところを海に蹴り出されてしまったらしい。

 慌てて戻る暇も与えず、ナミはさっさとメリー号を操ってその場を離れてしまい、追いかけようとした時には突然起きた大波に呑み込まれ、見失ってしまったらしい。

 

「くそっ‼ あの女‼ 最近おとなしくしてると思ったら油断もスキもねェっ!!!」

「この非常事態に輪をかけやがって!!!」

 

 勝手な事ばかりする女泥棒に、ウソップもゾロもエレノアも頭を抱えて嘆く。

 やっぱり信用なんてするんじゃなかった、と。

 

「待て! まだ船が見えるぞ‼」

「何⁉」

 

 ルフィの指摘に、一同は慌てて同じ方向を見る。

 確かにその方向にメリー号らしき船影が見え、ほっと彼らは安堵した。

 

「まだ追いつける…か」

「ヨサク! ジョニー! お前らの船は⁉」

「それは、まだ残ってやすが」

「エレノア! ゾロ! ウソップ‼」

「あんた…まだこりてないの?」

「ほっとけよ、あんな泥棒女。追いかけて何になる」

「でも船は大事だろ、あの船は……!!!」

 

 裏切ったナミを追うか、放置するか、意見が割れる一同であったが、そこへルフィの制止がかかった。

 

「おれはあいつが航海士じゃなきゃ、いやだ!!!」

 

 船長としては失格なわがままであったが、ゾロたちは目を見開いて固まる。

 そして、しょうがないというように深いため息をついて肩をすくめた。

 

「わかったよ。……………世話のやける船長だぜ。おい、ウソップ! 行くぞ‼」

「お…おう」

「待って、ゾロ」

 

 ヨサクとジョニーの船に乗り込もうとした彼を、エレノアが呼び止めた。

 その目は、沈みかけているガレオン船に向けられ、真剣な表情が浮かんでいる。

 

「まだちょっとここを離れるのは早いかも」

「あ?」

「あいつだァ!!!!」

 

 ゾロが聞き返そうとした時、クリーク一味の一人が声を張り上げた。

 

「首領クリーク!!! あの男です!!! 我々の艦隊を潰した男!!!」

「ここまで追って来やがったんだ!!!」

「おれ達を殺しに来やがった!!!」

 

 男の声に、全員の視線が集まる。

 特にゾロは大きく目を見開き、食いつく勢いで現れた男を凝視した。

 

「まさか…あれが…〝鷹の目〟の男……⁉」

 

 波に揺られる、棺桶の形をした小舟。

 その中心に設置された椅子の上でくつろいでいる一人の男を見て、クリーク一味に絶望が広がっていった。

 

「あいつが…一人で50隻の船を沈めたってのか…⁉︎」

「…じゃあ、たった今クリークの船を破壊したのも⁉︎」

「普通の人間と変わらねェぞ…。特別な武器を持ってるわけでもなさそうだ…」

「武器なら背中にしょってるじゃねェか!」

 

 ゼフが見つめているのは、男の背中に備えられている十字架――いや、剣。

 まさかと言葉を失うバラティエの面々に、エレノアは不敵な笑みを浮かべて口を開いた。

 

「そう…彼こそが世界中の剣士たちの頂点に立つ男、〝鷹の目〟……‼︎ ジュラキュール・ミホーク!!!」

 

 まさに鷹のように鋭い目を一瞥させ、ミホークはエレノアに視線を向ける。

 ぞくりと寒気が海賊たちを襲うが、その視線を真っ向から受けているエレノアに緊張している様子はなかった。

 

「……単なるヒマつぶしに逃した獲物を追ってきたつもりだったが、思わぬ相手と再会したな」

「久しいね…ミホーク。よくもまァこんな田舎の海に来たもんだ。あいにく海上レストランは今、休業中だよ」

「ランチを楽しむ気はない…すぐに終わるからな」

 

 軽口をたたきあう二人に、驚愕の目が向けられる。

 やけに知っている風であったが、まさか本当に互いを知った仲であったことに驚きを隠せなかった。

 

「……!!? 顔見知り、だと…」

「嬢ちゃっ…!!! 姐さん、一体あんた何モンなんですか!!?」

 

 ゾロも、今まで年下扱いしていたジョニーも言葉を失うが、エレノアは時に気にせずにミホークだけに注目する。

 ミホークはふと、エレノアに剥き出しに金属の足に視線を向けた。

 

妖術師(ウィザード)………両脚を失って一線を引いたと聞いたが……まだ健在だったようだな」

「あいにく…私の好奇心はこの程度じゃ止められやしないよ。……それに」

 

 痛々しい義足を、誇るように見せるエレノアの口元に、優しい笑みが浮かぶ。

 それを見たミホークは、どこか意外そうに眼を見開いていた。

 

「元気にやってるってこと伝えないと、この脚を捧げた相手が泣くからさ」

「………驚いたな、お前がそんな表情を見せる相手ができたとは」

「女は変わるものさ……」

 

 ふっと自慢げに足を撫でるエレノアに、ミホークは興味深そうに目を細める。

 しかし、そんな余裕気な表情が癪にさわったのか、クリーク一味の一人が目を吊り上げた。

 

「おい…‼︎ こっちを無視してんじゃねェぞ‼︎」

 

 両手に持った銃の引き金を引き、座ったままのミホークを狙い撃ちする。

 前触れもなく放たれた弾丸を前に、ミホークは微塵も狼狽する様子もなく背中の剣を抜き、静かに剣先を向ける。

 すると、弾丸は自ら意思を持っているかのように軌道をそらし、擦ることもなく海へと落ちていった。

 

「え………!!? は…ハズれたぞ!!!」

「外したのさ。何発撃ち込んでも同じだ。切っ先で、そっと弾道をかえたんだ」

 

 何が起こったのかわからない男が慌てていると、音もなくたったゾロが代わって説明した。

 びっくりして後ずさる男たちをよそに、ゾロは驚愕と期待が入り混じった笑みを浮かべ、ミホークを凝視していた。

 

「あんな優しい剣は見た事がねェ」

「〝柔〟なき剣に強さなどない」

「その剣でこの船も割ったのかい」

「いかにも」

「なるほど…最強だ」

 

 思わずつぶやき、ゾロは確信する。

 この男を追い求めた自分の判断は、間違ってなどいなかった。

 

「おれは、お前に会うために海へでた‼」

「………何を目指す」

「最強」

 

 頭にバンダナを巻き、最初から全力で向かうために気力を高める。

 剣を抜いて構えてみせるも、ミホークから向けられる気迫に微塵の変化もなかった。

 

「ヒマなんだろ? 勝負しようぜ」

 

 不敵な笑みを浮かべるゾロに対して、ミホークが見せたのは落胆の表情。

 彼にとって、実力の高さをあえて見せたというのに、それでも向かってくる者など愚の骨頂でしかなかった。

 

「哀れなり、弱き者よ。いっぱしの剣士であれば剣を交えるまでもなく、おれとぬしの力の差を見抜けよう。このおれに刃をつき立てる勇気はおのれの心力か…はたまた無知なるゆえか」

「おれの野望ゆえ、そして親友との約束の為だ」

 

 最初から闘志を全開にしているゾロに、億劫そうにゾロを見やるミホーク。

 だが、そこへエレノアによる擁護の声が届いた。

 

「まーまー、そう厳しいことに言わず、一手死合ってやってよ………たぶん落胆はしないだろうから」

「………………」

「時間はあるんでしょ?」

 

 本来であれば、そんな提案に乗る必要もない。

 しかしミホークは、意味深な笑みを浮かべるエレノアの瞳の奥に見える確信めいたものに興味を抱き、目の色をわずかに変えた。

 

「お前がそこまで推す男か………‼ 少し、興味が出てきた」

 

 退屈しのぎに、確かに何かいいものが見られるかもしれない。

 ミホークの様子の変化は、そんな感情の表れに見えた。




ONE PIECE × カップヌードルのCMを見たところ、ミホークが偶然にも今話に登場していてタイムリーさを感じました。
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