ONE PIECE −LOG COLLECTION : ELEANOR−   作:春風駘蕩

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第253話〝狂戦士対決〟

「やってるやってる、あいつらが怪物達とやり合ってる‼」

「今の内だ‼」

 

 がごん、どかん、ぼっかーん!

 

 天空で二体の天使が激突し、地上では青い肌の異形が魔人の鬣を引っ掴み、物のように振り回し地面に叩きつける。

 モリアはその戦いに巻き込まれ、オーズの中を思い切り転げ回るばかりになっていた。

 

「いたぞ‼ 希望の双星の一味‼ みんなやられちまってる‼」

 

 四体の怪物達が暴れる戦場を横目に、被害者の会が動く。

 屋敷のあちこちで倒れる、満身創痍の麦わらの一味を探し出し、駆け寄っていく。

 

「ひどいキズだ……‼」

「白骨化してる奴もいるぞ‼ ムゴイ‼」

「ここに倒れてると危険だわ‼ 希望の双星の一味を救え‼ 安全な場所で応急処置を‼ そしてこいつら私の好みよ‼」

 

 あまりに酷い傷跡に顔をしかめながら、ローリング海賊団の面々が一味にそれぞれ処置を施していく。

 ローラは指示を出しながら、暴れ回る狂戦士達に強い懇願の眼差しを送った。

 

「頼んだわよ………‼〝ナイトメア・ルフィ〟!!!〝ビースト・エレノア〟!!!」

 

 

「ギャオオオオオオオ!!!」

「あああああああああ!!!」

 

 空中で何度も、白虎と猛牛の天使が激突し大気が震える。

 少し前まで、一方的にやられるだけだったエレノアだが、いまや真正面から殴り合えるほどに強化され、果敢に挑んでいた。

 

 その様を目の当たりにし、屋敷から降りてきたナミとウソップが驚愕の表情でローラ達を凝視する。

 

「何だと……!!? じゃあつまり…‼ その犠牲者200人分の影をつめ込んで、おめェらがルフィとエレノアをあんな風にしたのか!!?」

「その通りよ‼ 希望の双星の一味!!!」

「正直、おれ達もあいつらのパワーアップにはビビった‼」

 

 大事な仲間に勝手な事をされ、怒りをにじませた声を漏らすウソップ。

 その気持ちを十分に理解しつつ、リスキー兄弟が必死の顔で無事な二人に説明を続ける。

 

「だが、その強さも持ってあと2・3分‼ つめ込んだ影もやがてあの体を離れていく‼」

「おめェらの船長達に勝手なマネして悪かったが、おれ達の希望を全てあいつらに預けたんだ‼」

 

 そう言われて、ナミもウソップも何も言えなくなってしまう。

 他の仲間がやられた今、確かにあの二人だけが最後の希望なのだ。この好機を逃すわけにはいかない。

 

「もう夜明けも近いわ‼ この数分が島中の犠牲者の命運を決めるのよ‼」

「頼むぞ麦わらァ!!! 妖術師~~っ!!! おれ達ァ太陽の下を歩きてェ!!!」

「もう一度‼〝人間〟になりてェんだよォ!!!」

 

 片や魔人を振り回し、片や鬼神と殴り合い、数分前とは比べ物にならない恐ろしい戦いを繰り広げるルフィとエレノア。

 彼らの背を見つめ、ローリング海賊団は精一杯の声援を送り続けた。

 

 

 ずしん、と胸を斬り裂かれ、膝をついたオーズ。

 彼はぎこちなく起き上がりながら、本来持っていないはずの剣術や怪力で自身を翻弄するルフィを鋭く睨みつけた。

 

「……………このヤロー……チビのくせにィ!!!〝ゴムゴムの〟ォ…!!!」

 

 片腕を伸ばし、捻る。影の力で再現された必殺の一撃を叩き込まんと、目の前の小さな敵を見据える。それを、ルフィは無言で睨みつけた。

 

 彼らの頭上では、二人の天使の激突が続く。

 だが少しずつ、エレノアの呼吸が荒ぶり、均衡が片方に傾き始めていた。

 

「にゃははは!!! 息が切れてきたねェ⁉︎ 力を嵩増ししたところで、精神がどれだけもつかねェ!!!」

「はァ……はァ……‼︎ うるさい!!! ぐるるるる…!!!」

「諦めなよ!!! 今のあんたじゃ、あの子達の旅にしがみつく事すらままならないのさ!!!」

 

 ごっ、とジャービルの一撃がエレノアの顔面に決まる。

 ぐらりと体を傾がせるエレノアに、影は怒りと苛立ち……そしてどこか嘆きと悲しみをにじませた顔で告げる。

 

「弱き者に〝王〟に付き従う資格はない…‼︎ どこへでも失せて‼︎ 陽の光に怯えながら‼︎ 私が代わりに使命を果たす様を眺めているがいい!!!」

 

 片脚を振り上げ、黒く染め上げる。

 強靭な肉体をさらに覇気で固め、かつてより遥かに強力な一撃を構える。

 

「お前はもう…どこにもいけない……!!!」

 

 ゆっくりと落下を始める元持ち主に向け、振り上げた脚を勢いよく落とす。

 肩を砕き、動く事すらできなくなるような容赦のない蹴撃を、断罪の刃のごとく振り下ろす。

 

「これ即ち、無双の一振り………我が王の覇道阻し慮外者共への鉄槌なり!!! 墜ちろ、半端者!!!羅刹王剣(チャンドラハース)〟!!!

 

 空気摩擦で、ジャービルの一撃に火が灯る。渾身の一撃は隕石のごとき威力を誇り、エレノアにまっすぐ向かう。

 

 目前に染まるそれを、エレノアは静かに見つめ……拳を握る。

 

「――――〝流桜〟」

 

 黒く染まった拳を、振り下ろされた蹴撃に合わせて突き出す。

 放たれた拳撃は、蹴撃に触れる事なく、まるで見えない壁を生み出すように蹴撃を弾き返した。

 

「誰にもエースは譲らない…………私の〝王〟は私が守る。たとえ相手が…私であったとしても」

 

 かっ、とエレノアの髪が燃え上がる。

 白く輝く己の中で火を燃やし、その手でぱちんと指を鳴らし───一振りの漆黒の炎の剣を生み出す。

 

 それを確と掴み、ジャービルの腹を思い切り薙ぐ。吹き飛ぶジャービルの前で、剣の火力をさらに強める。

 

「魔剣抜刀…呪い上等…!!!」

 

 吹き飛ばされたジャービルは、ちょうどオーズの腹の前に移る。

 その瞬間、オーズの一撃を弾いたルフィが、自身を回転させながら殴打の嵐を二体にまとめて浴びせかけた。

 

〝ゴムゴムの〟!!!暴風雨(ストーム)〟!!!!

鮮血呪剣(レーヴァテイン)〟!!!!

 

 ルフィの放った拳がジャービルに突き刺さり、オーズの腹の中に押し込み、モリアもろとも押し潰す。

 次々に強烈な拳が叩き込まれ、さらにエレノアの炎の魔剣が突き刺さり、オーズもジャービルもモリアも、一緒くたに叩きのめしていく。

 

 災害のような無数の暴虐に、怪物達はもはや反撃する事もできず、やがてゆっくりとその身を傾かせていった。

 

「ブッ倒れるわよ‼ 気を付けな―――っ!!!」

「うわァ~~!!!」

 

 オーズの巨体が、再び屋敷に倒れ込む。

 その様を前に、地面に降り立ったルフィとエレノアの体から次々に影が抜け出し、天へ登ってどこかへ飛んでいく。

 

 全ての影が抜けきると、二人は力なくその場に倒れ伏した。

 

「おい、ルフィ大丈夫か!!?」

「…やったわ、あいつったら……本当に勝ってくれた」

 

 沈黙した二人のもとに、ナミとウソップが慌てて駆け寄る。

 ローラ達はそれに構う余裕などなく、同じく沈黙したオーズを凝視し、ふるふると我が身を震わせる。

 

「オーズと〝鬼神〟とモリアを倒したァ~~っ!!! みんなの影が戻って来るぞ~~~っ!!!」

 

 わっ、と歓声を上げ、両手を挙げて喜びをあらわにするローリング海賊団。

 動く気配のない最大の敵が沈んだ光景を前に、大いにはしゃぎ、泣き、叫んでいた。

 

「やったぞ希望の双星!!!」

「ありがとう~~!!!」

「スリラーバークが‼ 落ちたァ~~~~!!!」

 

 雄叫びをあげ、ルフィとエレノアを讃える男達。

 だが次第に冷静になってきたのか、起きる様子のない彼らの元にぞろぞろと集まり始める。

 

「無理させちって何なんだが体、大丈夫か⁉」

「おいルフィ‼ エレノア‼ しっかりしろ‼」

「二人とも‼」

「肉体の疲労は並じゃないだろうね。それぞれで100人分の戦闘力を一人で発揮したんだ」

 

 本来二、三人入れたら限界である、生者に影を入れる強化法。

 戦闘中に意識を失っていてもおかしくなかったのに、彼らはしっかりと制限時間を使い切った。負担は相当だった。

 

「とにかく早く犠牲者の影を全て取り返さにゃあ‼」

「そうだ、急ごう‼」

「東の空もだいぶ明るんできたぞ‼ やがて朝だ‼」

 

 全力を尽くしてくれた恩人に報いようと、未だ戻ってきていない影の事を思い出し動き出す男達。

 その言葉で、ウソップがそういえばとローラに尋ねた。

 

「――で、どうやって影を返して貰うんだ⁉ ウチも5人影を取られてんだ‼」

「それもまた一苦労ね……本当は〝麦わら〟にやって貰いたいんだけど」

「無理だろう、もう体は動かねェ筈」

 

 眠ったままのルフィを見やり、険しい顔になるローラ。

 

 聞けば、ゾンビに入った影は支配者であるモリアに『本来の主人の元へ帰れ』と命じられない限り戻らないのだという。

 それに素直に応じるかどうか、沈黙している現状でははっきりとは分からなかった。

 

「考えてねェでやってみよう‼ 何とかモリアを起こして力尽くで言わせるしかない‼」

「影が戻って来なきゃ倒した意味もねェんだ」

 

 生き延びるために、自由を取り戻すために、やれるだけの事をやるべきだ。

 そう、男達がやる気を見せたその時。

 

 ずしん、と。

 彼らの周囲を、見覚えのある影が覆った。

 

「「「「「うわあああああああ~っ!!!」」」」」

 

 まさか、と振り向き見上げた彼らは、再び悪夢を目の当たりにする。

 仕留めたと思っていたオーズが、ごきりと首を鳴らしながら、再び立ち上がっていたのだ。

 

 歓喜が絶望に変わり、男達は悲鳴を上げて後ずさった。

 

「…………」

 

 オーズは無言で彼らから目を逸らし、自分の腹に手を伸ばす。

 中で気を失っているモリアを掴み、引っ張り出して外に放り捨て、そして……力なく横たわる天使を、そっと掌に乗せて持ち上げた。

 

「……オイ…お前………大丈夫…か……?」

「……意識は…あるよ……いや、もうとっくに死んでるんだけどねェ……」

 

 ぼろぼろのオーズは、同じくぼろぼろのジャービルに安否を問う。

 ふっと自重気味な笑みを浮かべた彼女は、自由の効かなくなった体を強引に起こそうとする。

 

「ちょっと待ってて……今…加勢に…………‼︎」

 

 そう言って、右腕をついた瞬間。

 ぼきりと、ジャービルの腕が肩から砕け、彼女は再びオーズの手の中で倒れ込んだ。

 

「…あァ、この体も…限界……みたいだねェ…」

 

 呟くジャービルの口から、ずるりと黒い影が漏れ出る。

 ゾンビの魂たる影が徐々に、鬼神の中から解放されようとしていた。

 

「あのデブが勝とうが負けようがどうでもいいけど………このままあいつらにやられっぱなしなのも癪だな…………ハァ…………もう少し…付き合って貰わないと…ウッ…………!!!」

 

 薄まる意識、抜けていく力を総動員し、ジャービルは残った手を伸ばすと。

 

 がっ、と自らの中の影を掴み。

 それをずぶりと、オーズの掌に突き立てて見せた。

 

「………!!? お前…何を…⁉︎」

「どうせまた死ぬなら、今度は君の助けになっておきたいのさァ………どれだけ持つかはわかんないけど…………悔いは…残したくないからね…」

 

 微笑みを浮かべ、鬼神はオーズを……己の認めた〝王〟を見上げる。

 その目を翠色に染め、それまであった自分自身への苛立ちや嘆きを一切消し去り、()()は申し訳なさそうに〝王〟を見つめた。

 

「あとは…頼むよ………我が王…オーズ」

「お前…!!!」

 

 自分の中に入り込んでくる力に、オーズは大きく目を見張り立ち尽くす。

 脳裏に浮かぶ知らない記憶……いや、肉体に刻み込まれた記憶が蘇り、魔人の目に涙が滲み出す。

 

「お前……()()………おでを置いでいぐのが…!!? ずっど…ずっど一緒だど…………誓っだだろ……!!? なァ!!!」

「……ごめんね」

 

 幼い子供のように涙をこぼし、駄々をこねる魔人に、ジャービルは虚ろな目でこぼす。

 ゆっくりと〝王〟の肉体に混じっていく影を頼りに意識を保ち、刹那に溢れ出した感情を唇を噛み締めながら口にする。

 

「ごめん………ごめんね…………弱くて…ごめんね………でも…今度は、君のそばにいるから……君と一緒に……最後まで…………戦うから」

 

 そっと手を伸ばし、〝王〟に乞い願う。

 かつての後悔と切望を影を通じて託し、最後にふっと、優しい微笑みを見せる。

 

「だから………………勝って」

 

 その瞬間、ずるりと影がジャービルの中から完全に抜け出し、ジャービルの手から力が抜け、ぱたりと落ちる。

 代わりに、オーズの中に影が完全に入り込んだ。

 

「よ…妖術師の影が……‼ オーズに…!!!」

 

 眼下で敵の人間が呆然と呟く声を聞き流しながら、オーズはもう動く事もなくなったジャービルを見つめ、ただ立ち尽くす。

 彼の視界に、いつかどこかで見た景色が……想い出が重なった。

 

 

 

 ───やァ、君がオーズ?

    私はジャービル・イヴ・フレイヤ、通りすがりのちょっとやんちゃな旅人さ!

 ───お前、何だ?

    羽生えでる…鳥か?

 

 最初の、出会い。

 宝物や美味いものを奪い、自分の縄張りに持ち帰ろうとしていた自分に、臆する事なく話しかけてきた、変わり者。

 

 ───君はずいぶん大きいねェ………古代巨人族なんて初めて見たよ‼︎

    ねェ、私と一緒に自由に大暴れしないかい⁉︎

    一緒に旅をしてくれる人をずっと探していたんだ……君みたいにスゴいヤツを!!!

 ───スゴイ?

    おではスゴイのが?

 

 誘いをかけられ、訝しみはしたが、褒められた事のない彼には彼女の言葉は新鮮だった。

 気分が良くなり、それ以上に……面白そうだ、そう思った。

 

 ───いいぞ、何だか楽じそうだ!!!

 

 それからの旅は、本当に楽しいものになった。

 彼女は自称『ちょっとやんちゃな旅人』だったが、相当な悪名があるようでいろんな敵が狙ってきた。

 

 おかげで獲物には困らず、彼は以前よりも多くの宝物が手に入れられた。

 

 ───おで、お前と一緒だと、楽じい‼︎

    おでとお前が揃えば、最強の大悪党だ!!!

 ───あァ、そうだとも!!!

    私達はこの世で一番自由でスゴいヤツらだ!!!

 

 何よりも、彼女との旅は楽しかった。

 物知りで、褒め上手で、優しくて、明るくて、今まで出会った事のない種類の女で、共にいると心も体も満たされた。

 

 彼は心の底から……彼女の事が好きになっていた。

 

 ───ずっど一緒だど!!!

    おで達は……ずっどずっど一緒にいるんだ!!!

 

 そんな日々がずっと続くと思っていた、愚かにも。

 彼女を狙った敵が、恐るべき〝力〟を以ってして彼女を傷つけ、その命を奪うまでは。

 

 ───…ダメだど……死んじゃダメだど!!!

    大丈夫だイヴ、絶対に守るど!!!

    あんな奴らにお前は連れでいがせねェがらな!!!

 

 目を閉じたまま、動かなくなった彼女を手に、彼は氷の大地を彷徨い歩いた。誰も来れない、二人だけの場所を求めて。

 

 ───おで達はずっど一緒だど!!!

    ずっどずっど………一緒に、ずっど一緒にいるんだど!!!

 

 もう、彼は何もいらなかった。

 宝も国も、彼女だけがいて笑ってくれるなら、それだけでよかった。

 

 歩いて、歩いて、歩き続けて。

 彼の立つ氷の大地が、彼を支えきれず割れて砕けて、彼は遥か地の底まで落ちていった。

 

 その手に抱いた彼女を、最後まで手放す事なく。

 

 ───絶対離さねェど……絶対、絶対───

 

 

 

 想い出の旅から戻ったオーズは、ジャービルの亡骸を己の腹の中にそっと入れる。まるで、儚い硝子細工でも扱うように。

 

 すると、ふと……びりびりと島の大地が震え出す。

 オーズを震源に、スリラーバークそのものが恐怖を抱いたかのように、大きく震えだした。

 

「お前ら……許さねェ…‼︎ 許さねェどチビ共ォ〜〜〜〜!!!!

 

 ずしん、と足元に横たわるモリアを踏み潰し。

 

 足元に蔓延る無数の敵に向けて。

 鬼神の仇討ちに燃える魔人が、憤怒の咆哮をあげて巨腕を振り上げた。

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