ONE PIECE −LOG COLLECTION : ELEANOR−   作:春風駘蕩

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第260話〝命の紙(ビブルカード)

「改めまして!!!」

 

 ばん、と懐から取り出したぼろぼろの手配書を見せ、ブルックが跪く。

 刻まれた名は〝剣侠鼻唄〟のブルック、懸賞金は3300万B。

 

 50年前にかけられた賞金だが、100年前のとある巨人達の賞金も維持されていたのだから、今も通じるだろう。

 

「申し遅れました……‼ 私‼ 死んで骨だけ、名をブルックと申します‼ フダツキでございます‼」

 

 宴がひと段落し、くつろいでいたところに威勢良く名乗りをあげる。

 全員がにこり、にやりと誰一人拒む態度を見せないでいる事に喜びを抱きながら、ブルックは深々と首を垂れる。

 

「今日より麦わらのルフィ船長にこの命‼ お預かり頂きます‼ 皆さんのお荷物にならぬ様に‼ 骨身を惜しまず頑張りますっ!!! ヨホホホホホ~~」

「よ――し、もいっちょ乾杯だ~~!!!」

 

 再び熱が高まり、料理と酒を求める声が上がる。

 海賊達の宴は、まだまだ終わらないようだ。

 

 

「よし‼ ゾロも起きたし‼ 出るか海へ‼ 次の冒険行くぞ――――‼」

「「「「おォ――――――!!!」」」」

 

 ブルックの船に置かれていた無数の髑髏、かつての船員達をスリラーバークの一角に埋め、フランキーとウソップが墓を建てた。

 奇しくも自身らの出身である西の海から来た大地で、安らかに眠れるようにと。

 

 仲間達の骸に別れを告げたブルックを新たに迎え、ルフィは次なる航海へのやる気に燃える。

 

「気が早いのね、もう船出すの?」

「じっとしてるのキライなんだよ、あいつ…」

 

 驚いた様子で、まだ治療の跡が目立つルフィを見やるローラに、エレノアは深くため息をつき肩をすくめる。

 そこに、ブルックの船から戻ってきたフランキーが話しかけてくる。

 

「おめェらはブルックの船貰えよ、舵と帆を直しといた」

「ありがとう、何から何まで世話になるわね‼ あんた達は礼を言っても言い尽くせない大恩人よ‼ 結婚してあげたいわ」

「おめーは上玉だが残念、おれがスーパーすぎてつりあわねェ」

 

 4445回目の告白も失敗に終わったが、当人に気にする素振りはない。運命の相手が現れる時を信じ続けているようだ。

 

「別れ難いなァ、お前ら。もう2・3日宴やってこうぜ‼」

「だめだ‼ 次〝魚人島〟なんだ‼ おれ楽しみなんだ‼ 面白ェ奴いるんだろうな~~!!!」

 

 名残惜しそうに呟くリスキー兄弟に、ルフィは好奇心に目を輝かせながら告げる。冒険を前にした彼を止める手段は存在しないのだ。

 彼と同じく、サンジやブルックも次なる島への期待に満ちた表情を浮かべていた。

 

「美しい人魚達と‼ おれは戯れるんだゥン♡」

「人魚さんのパンツ、見せて頂いてもよろしいんでしょうか…」

「オイオイバカな事言うんじゃねェっ‼ 人魚は………パンツなんかはかねェよ……♡」

 

 囁くように告げられた言葉に、ぶっと大量の血を噴く色欲の塊達。

 顔の下半分を真っ赤に染めながら、三人は仲良く肩を組んでわいわいと騒ぎ、踊り始めた。

 

「人魚達の美しさときたら‼ かの海賊女帝ハンコックもたじたじってもんでよ…」

「「マーメイDo♫ マーメイDo♪」」

「下半身お魚よね?」

「まァまァ……夢ぐらい見せといてあげよう」

 

 履かないというか履く必要がないというか、思わず指摘するロビンの肩を引き、エレノアが首を横に振る。

 真実がどうであれ、彼らが行って悲しむ事はないだろう。

 

 そこでふと、ウソップがある疑問を抱きローラに振り向いた。

 

「何でお前ら詳しいんだ?」

「ああ、3年前ここへ来んのに通ってたからな! サイコーだぜ魚人島‼」

「あ、そうなの? 普通に航路を進んでる途中だと思ってた」

「ローラ…あんた達〝新世界〟に行ってたの?」

「行ってたんじゃなくて新世界の生まれなのよ! 私のママが海賊やっててね…………‼ あ、そうだわ…‼」

 

 意外な事実に目を丸くするナミの勘違いを指摘したローラが、何事か思い出した様子で懐から何かを……一枚の紙を取り出した。

 

「―――コレあげる、ママの〝ビブルカード〟。特別よ? ナミゾウと私は姉妹分だからね」

「紙?」

「おおお‼ よかったなオイ、ローラ船長のママはスッゲー海賊なんだぜ!!? 大事に持ってろよ、きっと後で役に立つぞ」

 

 びりっ、と引き裂いた一端を渡され、困惑するナミにリスキー兄弟が目を見開いて羨む。

 しかし渡されたものが何なのかわかっていないナミには、彼が何に興奮しているのかわからなかった。

 

「何?〝ビブルカード〟って」

「え? 知らないの?」

「ローラ船長、ビブルカードは新世界にしかねェんすよ」

「あ、そうなの」

 

 聞き返され、逆に戸惑うローラが納得の声をあげる。

 すぐに彼女は、渡した紙───別名『命の紙』と呼ばれる不思議な〝ビブルカード〟についての説明を始める。

 

 新世界の一部の店で扱われるもので、人の爪や髪の一部を使って作られるこれは、持ち主の居場所に向かって自ら動く性質がある。

 それを親しいもの同士で分け合うことで、互いの無事や居場所を確認したりできるのだとか。

 

「へー、不思議だなー。そんなのいっぱいあんのかなー、新世界って‼」

「便利でしょ、このママのビブルカードに私がサインしとくから、いつか何かに困ったらこれを辿ってママに会うといいわ。その時は私も元気でやってたって伝えてね」

 

 興味深そうにビブルカードを見つめるチョッパーの前で、ローラがさらさらと名前を刻む。件の母とは相当な実力者であるようだ。

 

 そのやりとりを見ていたルフィが、ふと声を漏らした。

 

「おれ、それ一枚持ってるかもな、もしかして…」

「今、私もそう思った。……前にあんたがエースに貰った白い紙…同じじゃない?」

「私も持ってるよ~」

 

 以前に、アラバスタでエースと再会した際に渡された白い紙。

 その正体をこの場で知る事になり、なるほどと声が上がる。エレノアも例とばかりに、懐からいろいろなビブルカードを取り出し始めた。

 

「ほらコレが〝白ひげ(パパ)〟のでしょ? でこっちがマルコで、こっちがビスタで、ハルくんでしょ、ジョズにイゾウ、こっちがマクガイでこっちがドーマ、ホワイティ・ベイのがコレで…………」

「スゲェ、名だたる海賊達の名前がつらつらと…」

「こっちもすげー奴の娘なんだなァ………」

 

 生ける伝説と、その息子達の名前が上がり、ローリング海賊団の男達が騒めく。こちらにも相当な人物の娘がいたと、麦わらの一味も唖然となる。

 

「――――で、これがエースの…」

 

 自慢げに、家族のくれた縁の証を披露していたエレノアの手が、胸元を探ったところで止まる。

 唐突に黙り込んだ彼女に気付かぬまま、ルフィも麦わら帽子を探ってビブルカードを取り出した。

 

「そういう意味だったのか、コレだ」

 

 ずっと触る機会もなかったそれを手に、ルフィはおや、と首をかしげる。

 それを目にしたローラ達の方が、ぎょっと青ざめた顔で慄き出した。

 

「あ」

「ちょっとアンタ! それ見せて」

「あり? ちょっとコゲて小さくなってる」

 

 あわてる彼女達に、ルフィは訝しみながらもビブルカードを渡す。

 その横でエレノアもビブルカードを……端から焦げて、ちりちりと火の粉を散らせる愛しい男の欠片を取り出し、凝視した。

 

「…これは確かに〝命の紙〟………でも」

 

 手のひらに置いたビブルカードを見つめ、ローラが険しい顔で呟く。

 異様な空気に、その場の全員がルフィを除いて思わず黙り込む。

 

「まだ言ってなかったけど、この紙は持ち主の〝生命力〟も啓示するのよ‼ これ……あんたの大事な人でしょ?」

「ああ、おれの兄ちゃんでエレノアの旦那だ」

 

 ししし、と自慢げに笑い、普段ならばエレノアが照れて怒り出すような余計な一言を交えるルフィ。

 だが、エレノアは一言もこぼさぬまま、掌の上で燃える紙片をただ見つめ続けていた。

 

「気の毒だけど、この人の命!!! もう…‼ 消えかけてるわよ!!!」

 

 どくん、と。

 血の気の引いた天使の中で、自分の鼓動が妙に大きく響いた。

 

 

「そいじゃあな―――‼ お前らー‼」

「みなさん‼ 全滅にお気をつけてー‼ ヨホホホ‼」

「縁起でもねェ事言うなお前‼」

「ローラ‼ビブルカードありがとう、元気でねー!!!」

 

 ばさっ、と帆を広げ、獅子の船首の海賊船が大海原へ漕ぎ出す。

 遠ざかるその船影を、その船員達を、大勢の島の被害者達が大きく手を振って見送っていた。

 

「ママに会ったらよろしく‼ 私達も、また会いましょう‼ ナミゾウ!!!」

「この恩‼ 一生忘れねェぞ麦わらァ!!!」

「太陽を…‼ 太陽をありがとう~うお~~ん‼」

「大恩人、麦わらの一味の航海に栄光あれ~~!!!」

 

 声を張り上げ、全身で感謝を述べるローリング海賊団。

 やがて彼らの視界は麦わらの一味を捉えられなくなり、ほのかな寂しさを抱きながら静かになる。

 

 彼らはふと、背後の霧の中に一瞬だけ、蠢く何かの影を見た気がした。

 しかし、すぐに見間違いだと探るのをやめ、麦わらの一味の武勇伝に夢中になる。

 

 うっすらと、霧の中で浮かんだ何かの目が、離れゆく幽霊島を見送っていたのだった。

 

 ―――――何が起こるか誰も知らない。

    謎だらけの〝魔の三角地帯(フロリアントライアングル)

    毎年100隻を超える船が霧の中で消息を絶つ――

 

  ――それは巨大海賊船スリラーバークが()()()に影を潜めた10年前…

 

  ――そのずっと昔からの深き謎…

 

    白い霧は折よく今日も立ち籠めて

    海の怪奇の顔色を――白いベールで包み隠す――――

 

 

 風は良好、日差しも暖かく心地よい、航海日和。

 ほんの少しだけ幽霊島のなまあたたかさを孕んだ風を浴びながら、ルフィは船首の上に腰を下ろしていた。

 

「ルフィ、エレノア、本当にいいの?」

「ん? ああ…エースの紙か? いいんだ、気にすんな」

 

 ナミの不意の確認の声に、ルフィは笑みを浮かべて首を横に振る。

 気を遣っていると思ったのか、ブルックがバイオリンを響かせながらヨホホと明るく笑いかけた。

 

「ルフィさん、私、構いませんよ⁉ 寄り道しても‼ 今さら私とラブーンに時間などさしたる問題じゃありません。〝生きて〟‼〝会う〟!!! これが大事‼」

「うおお~~っ!!! 会いに行こうぜ兄弟クジラ‼」

「ルフィ、おれ達ァ全員、寄り道上等だぞ」

 

 寄り道するなら長くなってもいいと、早く彼らの再会を見たいらしいフランキーとウソップが肩を組んで笑い、ゾロもそれに賛同する。

 誰も進路の変更に反対する者はいない。だが、ルフィはそれに頷かなかた。

 

「いやいいんだ、本当に‼ 万が一、本当にピンチでもいちいちおれに心配されたくねェだろうし」

「エースは弱いところ見せるの大っ嫌いだもんねェ…」

「そうそう、行ったっておれ達がどやされるだけさ。おれ達が出合えば敵の海賊、エースにはエースの冒険があるんだ」

 

 以前に再会したした時にも、同じ事を言っていた。

 海の王はただ一人、王になりたい者とならせたい者がいる矛盾が生じる以上、いつかぶつかり合う運命にある。

 

 それを理解しているが故に、引き返す選択を取らなかったエレノアだが……その顔は冷や汗まみれでぶるぶると小刻みに震えていた。

 

「だから…心配なんかしししてないししししし」

「動揺しまくってんじゃないのよ!!!」

「じょ、じょじょじょじょ冗談…冗談だから」

 

 明らかに空元気というか無理をしているが、無理やり平静を取り繕う彼女にそれ言おう何も言えず、ナミもそれ以上続けなかった。

 代わりに彼女達を安心させるように、サンジが後で知った事実を付け加えてくる。

 

「………………その〝ビブルカード〟ってのは本人が弱ると縮むだけで、また元気になったら元の大きさに戻るそうだな」

「うん、会うならそん時だ‼ その為にエースはこの紙をおれにくれたんだ‼ な‼」

 

 満面の笑みで笑いかけられ、エレノアも苦笑まじりに頷く。

 今ここで身を案じていても仕方がない。死にかける事態など、自分や彼の弟も何度も味わってきたのだから、今更だ。

 

 脳裏に浮かぶ、自分が両足を失った時の記憶を必死に振り払い、ゾロの方に振り向く。

 

「そういえばゾロ君、あんたずっと寝てたからまだ、やってないよね~」

 

 にやりと笑うエレノアの言葉に、思い出す面々。

 厨房から運んできた器を手に持ち、酒を注いでから、恒例のようにウソップが音頭を取り始める。

 

「えー、それでは改めまして。新しい仲間〝音楽家〟ブルックの乗船を祝してェ」

「「「「「「「「「乾杯~~~~イ!!!」」」」」」」」」

「お世話になりま――す!!!」

 

 がしゃんっ、と器から溢れ出す酒を浴び、歓迎を受けるブルック。

 孤独という50年の牢獄から抜け出した〝音楽家〟。一味の船長が最も欲しがり続けていた人物を新たに加え、船は進む。

 

 

 

 ───その先に想像だにしない出会いと別れがある事など、想像もできないまま。




次回からはしばらくオリジナルが続きます。
エタらないようにどうぞ応援くださいませ。
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