ONE PIECE −LOG COLLECTION : ELEANOR−   作:春風駘蕩

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無謀にも始まったオリジナル(?)編。作者は「思い出深いキャラがなので彼女もリメイクがてらしっかり出してやりたかった」と供述している。
ぶっちゃけ長いので読む際はご覚悟を。


ワンピースらしい他の話にもつながる内容にできてたらいいなと思います。


第26章 太古ノ王〈Ⅰ〉
第261話〝伝説からの誘い〟


 天候は晴れ、されど風は追い風。

 やや生ぬるい風が吹く海原を進むサニー号の船室の上に立ち、ナミが記録指針をかざして顔をしかめる。

 

 彼女の視線は、自身の手首に向いたままわずかに揺れていた。

 

「ん〜〜…やっぱりちょっと変よねェ」

 

 険しい顔で見つめる先の針。魚人島を示し、微かに下を向いていた指針。

 数時間程前までは、まっすぐにぴんと進行方向を示していたはずのそれの見せる異変に、思わず眉間に皺が寄る。

 

 そんな彼女の下で、軽快なバイオリンの音色が響き渡っていた。

 

「ヨホホホホ!!! ご静聴っ‼︎ ありがとうございます!!! 続きましては芸術の国『ラヴェンラ』で生まれたヒットナンバー〝ビバ・ピカリ〟!!!」

「うおー!!! いいぞー!!! やれやれー‼︎」

「ビ〜バ〜〜ピカリ〜〜♪ 気を〜〜〜つけろ〜〜♪ や〜つの〜〜〜芸〜〜術は〜〜〜〜♫ バ〜〜ク〜〜ハツだ〜〜〜♫ ビ〜バ〜〜ピカリ〜〜♪ あたり一面カラフル〜〜〜〜♫」

 

 新たに一味に加わった最年長の音楽家が、ルフィやウソップやチョッパーからの喝采を浴びながら音楽を奏で、歌う。

 不気味な骸骨の顔は、これ以上ないくらいに輝いていた。

 

「しかしおめェの音楽家への執念がここにきて実るとはなァ。ず〜っと前からおめェ次の仲間は音楽家だ音楽家だっつってたよな」

「当たり前だろ、海賊は歌うんだぞ!!!」

「お前のその常識がまずどっからきてんだよ」

 

 思えばいろんな場面でその願望を口にしていた。まず優先すべき役職があったのに口を開けば音楽家と、しばしば仲間達から突っ込みを受けるほどに。

 

「なんかきっかけがあんのか?」

「あァ! シャンクスの船によ、スッゲー歌が上手ェ音楽家がいてよ‼︎ ずっとそいつみたいな仲間が欲しかったんだ」

「〝赤髪〟のトコに?」

「ヨホホホ!!! ご期待に添えるよう弾かせていただきますよいくらでも!!!」

「ウオー!!! ブルック〜〜〜!!!」

 

 何やら気になる話をしかけたルフィにウソップが尋ねようとしたが、ブルックが新たに音楽を奏で始めたためにそちらに意識が傾く。

 やんややんやと騒がしい彼らに、ナミは額を押さえて深く嘆息した。

 

「はしゃいじゃっても〜…こっちの身にもなってほしいわまったく…………」

「んナミすわァ〜〜〜ん!!! ホラー梨のタルトが焼き上がったよォ!!!」

 

 ばたん、と船室の扉を叩きつけるように開き、飛び出してくるサンジ。

 手に持ったタルトの皿を絶妙な体勢で維持したまま、ナミの元へ差し出しにくる。

 

「ヤロー共は後回しでいいから食べてみて………あれ? どうかしたの?」

「…記録指針の調子がおかしいのよ。ちょっとだけど針がブレてるの………壊れちゃったのかしら…?」

 

 いつも通りの浮かれようで厨房から出てきたサンジだが、ナミの真剣な表情にすぐに空気を読んで静かになる。

 彼女の声に誘われて、ブルックにアンコールを送っていたルフィが覗き込んでてくる。

 

「ホントだ。揺れてるな‼︎」

 

 ルフィの呟きの通り、〝偉大なる航路〟において絶対の道標であるはずの記録指針がぶれている。基本的には前を向くが、時折思い出したように左側に揺れていた。

 

「ねェロビン、こんな反応見た事ある?」

「前の空島の時みたいに、より強い磁場で記録が書き換えられればそういう事もありえるかもしれないけど…………あれは例外だもの。わからないわ」

 

 知識人であるロビンに尋ねるが、彼女の知識にもこのような事態はないらしい。ちゃっかりサンジが差し入れたタルトを口にしながら、真剣な表情で指針を見つめる。

 

「そう……ブルックはどう?こうなった事、ある?」

「ヨホホ、そーですねェ………………あァそういえば、あくまで噂で聞いた程度ですが」

 

 次いで、一息ついたらしいブルックに尋ねてみると、いつの間にかタルトを口に運んでいた彼ははたと視線をあげた。

 

「〝偉大なる航路〟の島の中には、地場の強弱が変化する特殊な島が存在するとかで………」

「え?」

「何年、何十年に一度、指針がわずかにですがその島に引かれてブレてしまう……という事態が起こると聞いた事があります」

 

 見た目と同じ不気味な語り口で告げられ、ナミの顔が歪む。

 恐怖体験など、先の島で十分味わったというのにこの先にまだ続くかもしれないなど、憂鬱でしかない。

 

「ウソ…そんなのあるの⁉︎ 私聞いてないわよ…⁉︎」

「あくまで噂ですから。………ただ、ここはまだ〝魔の三角海域〟の近くですから…………謎多き行方不明事件や失踪事件は、この辺りでも十分起こっていますし、何があるかはわかりません…………ヨホホホホ」

「なるほど、不思議海だな‼︎」

「そういう事ですね〜」

 

 いつも通り『不思議』で片付ける船長に呆れつつ、ナミは欄干に頬杖をつく。ゆらゆらと揺れる指針が、不安を表しているようで落ち着かない。

 

「ん〜…そのうちおさまればいいんだけど」

 

 この広大な海で、そして何が起こってもおかしくないこの航路で。

 何度起こっても慣れない不可思議な現象に悩まされつつ、警戒を怠れず神経を張り巡らせるナミ。

 

 そんな彼女をよそに、ルフィが甲板に向かって声をあげた。

 

「エレノア〜⁉︎ そっちはどうだ〜⁉︎」

「………………えっと……? ここがこうなってこうだから…いやその前にここをこうやってこうしてこう……あ、違う。ここがこうだからでこうこうこうでこう…………」

 

 一人、甲板のど真ん中に腰を下ろして何やら作業に没頭する天使。

 胡座をかき、手の中の小さな箱の鍵穴に針金を入れて弄り続けていた彼女は、やがてがばっと仰向けに倒れ込んだ。

 

「んァ〜〜〜っ!!! 無理!!! ムリムリムリ‼︎ 無理!!! 本来のカギがなきゃ開かない!!! こんな難解な錠!!! やってられるか!!!」

「ダメだったみてェだ」

「結構粘ってたがな」

 

 うがーっ!といつもの彼女らしからぬ荒れっぷりを披露するエレノア。

 おのおの寛いでいた仲間達は、やれやれと言った様子で彼女のそばに集まった。

 

「それ…………確かいつの間にか積まれていた財宝の中に紛れていたんでしたっけ?」

「あァ、鍵のかかった箱はこれだけだ。他は全部中身を確認してる」

「モリアの野郎はこんな小さな物に一体何を隠したんだ?」

 

 階段を降り、エレノアの手の中の箱を……随分と細かな装飾が施されたそれを見下ろし、フランキーが呟く。

 わざわざこんな小ささのものに厳重な封印を施す意味があるのか、と。

 

「こんだけお宝手に入ったんだし、それ位いいんじゃねェの?」

「イヤよ。たとえ小さな箱一個でも、中身がわからないままなんて気に入らないわ」

「どういうプライドだ」

 

 愛刀達の手入れをしていたゾロが、妙な執念を燃やすナミに思わず半目を向ける。ローラに財宝を分けたという気前の良さはどこにいったのか。

 

「錬金術で壊すのも無理そう?」

「やったけど普通の鉄じゃなかった‼︎ 多分何種類かの金属を掛け合わせた〝何か〟だね………色々試してみたけど、てんで反応がないよ」

「よし、じゃあブッ壊すか」

 

 ぐったりと大の字になって寝転がるエレノアが投げやり気味に答え、溜息と共に箱を持った手を投げ出す。

 

 その箱に向けて、妙にやる気満々になったルフィが拳を鳴らして近付いた。

 

「こらこらこらこらやめなさいルフィ!!! 中のお宝が壊れたらどうするのよ!!?」

「修行の成果を試してェんだよ‼︎ 今のおれなら今まで以上に硬ェヤツでもブッ壊せる気がするんだ!!!」

「…私のプライド的に、それを許すとなんか負けた気がしてヤなんだけど…」

 

 ふんふんと猛牛のように暴走しかけているルフィをなんとか止めるナミ。

 

 エレノアから〝覇気〟を習い、着実に強化されつつある影響か、度々実践したがるようになったルフィ。

 途中まで鍵開けに奮闘していたエレノアは、彼に複雑そうな視線を向ける。

 

「しかしそんなに厳重な箱なのか……小せェけど」

「それだけ貴重な宝石とかが入ってるに違いないわ…‼︎ あたしの勘がそう叫んでる‼︎」

「無駄骨じゃなきゃいいけどな………結局お前にもエレノアにも開けられてねェし」

 

 執念に目を燃やすナミが、どうにか開ける方法がないかと自分でも箱に触れる。次で実に数十回目の挑戦だ、期待は勝手に高まっている。

 

 ふとその時、やりとりを見守っていたウソップが「あ」と声を漏らした。

 

「………ていうかよ、エレノア」

「ん?」

「さっきからずっとその棒でガチャガチャやってるけど、お前ならカギを作れば一発じゃねェか? 前に3の奴がやってたみたいに」

 

 彼の指摘に、エレノアはきょとんと目を丸くして呆ける。

 しばらく固まっていた彼女は、やがて針金を両手で挟むと閃光を走らせ、一本の鍵に変えると。

 

 かちゃん、と呆気なく箱の封印を解いてみせた。

 

「…あ…開きました」

「「「「「「「おォ〜…!!!」」」」」」」

 

 居心地悪そうに、鍵の空いた箱を掲げるエレノアに仲間達も引きつった顔でぎこちなく感嘆の声を漏らす。

 頬を染めたエレノアは、目を逸らすと軽く咳払いをして気分を切り替えた。

 

「…んんっ。さてさて皆の衆、お待たせ致しましたな。早速最後のお宝のお披露目といきましょうか」

「いよっ‼︎ 待ってました‼︎」

「早く開けて‼︎ 早く早く〜!!!」

 

 長らく待たされた厳重な宝箱の中には何があるのか。

 甲板に出ていた全員がわらわらとエレノアの周りに集まってくる。

 

「では………ご開帳〜!!!」

 

 ぱか、と小さな箱の蓋がゆっくりと開かれる。

 果たして中身はどんな宝石か、それとも装飾品か。何が日の目を浴びるのを待っているのか───期待に目を輝かせる一味の前に現れたのは。

 

 

 ぽつん、と箱の底に押し込まれた、折りたたまれた紙片だった。

 

 

「紙切れ一枚って何だよ!!?」

「あっひゃっひゃっひゃっひゃ!!!」

 

 予想だにしない結末に、全員がずっこける中ウソップが代表して吠える。

 あまりに気の抜ける展開に、ルフィに至ってはつぼに入ったのかげらげらと腹を抱えて笑い転げていた。

 

「ナミ……あんたの鼻、壊れてんじゃないの?」

「こんな…こんなに辛抱強く待ったのに………ハズレ……いや‼︎ もうこれは誰かの悪意としか思えない…!!!」

「随分と手の込んだイタズラね。暇だったのかしら?」

 

 エレノアがじとりと睨む先で、落胆したナミががっくりと膝をつく。それを慰めるロビンも、無意味な悪戯に呆れた表情を浮かべている。

 一味の期待が一気にしぼみ、なんとも言えない気だるげな空気が流れていた。

 

「…ん?」

 

 その時、紙片を見下ろしていたエレノアがふと気付く。

 眉間にしわを寄せ、じっと凝視していた彼女は、やがてはっと目を見開いてその場に膝をついた。

 

「みんな‼︎ これ見て‼︎」

 

 エレノアの声に、だれていた全員が何事かと振り向く。

 視線の集中する中、エレノアが紙片を自分の掌の上に置くと……一味に囲まれた紙片が、ずるずるとひとりでに動き始めた。

 

「う…動いてる!!? これって!!!」

「ビブルカード……!!!」

 

 スリラーバークでローラに、そしてアラバスタでエースにもらった〝新世界〟の不思議な紙。

 紙片の正体がそれと同じものであると明らかになり、一味の苛立ちが引っ込んだ。

 

「…ん⁇ そんで…なんでこの動く紙が宝箱の中に入ってんだ???」

「これが動いてるって事は………これの元を持ってる人が、この先にいるって事よね? ローラの説明を思い出す限り」

「じゃあ……誰だそりゃ?」

「そんなのわかるわけないじゃない」

 

 大切な人に分け与え、互いの無事を確認しあえるという不思議な道具。

 それをわざわざ箱に入れて厳重に封印するとは、誰がどういう意図でそんな事をするのだろうか、と疑問を抱く。

 

 そこで最初に浮かぶのは、この箱の最初の持ち主の顔だ。

 

「普通に考えて…これを持ってた者……つまりモリアにとって大事な人間がコレの示す先にいるって事ね」

「あの野郎の? 友達がいるような性格には思えねェんだが………」

「友達じゃないなら………女、とか?」

 

 仲間達が色々な推測を立てる中、ぼそり、とサンジがこぼした一言。

 その荒唐無稽さに、一瞬場が静まり返った後、どっ!と主に男性陣から爆笑の声が上がった。

 

「どわーっはっはっはっはっは!!!」

「それこそありえねェ〜‼︎ あのデカらっきょに…!!! お…お…‼︎ 想う女がいるとか…ぎゃっはっはっはっは!!!」

 

 膝を叩き、肩を揺らし、ゾロまでもが声を上げて笑い出す。

 ルフィやチョッパーは芝生を転げまわり、フランキーなどはウソップと肩を組んで互いの背中をばんばんと叩き合う始末。

 ロビンもこの時ばかりは目を逸らし、口元を押さえていた。

 

 やがて、ルフィが何かに気付き、紙片を拾い上げてまじまじと覗き込んだ。

 

「あ‼︎ おい‼︎ この紙、なんか薄く書いてあるぞ⁉︎ 炙り出しみたいだ!!!」

「え、まさか思い人の名前でも書いてあるの?」

「おいやめろエレノア!!! 想像しちまうだろうが!!!」

「やめて〜〜!!! 私もうお腹いたい〜〜〜!!! あ、もうお腹なかった!!!」

 

 笑いが止まらないらしく、ひーひーとしんどそうな声を漏らす男達。

 あまりにも騒がしい彼らに呆れた視線を向けながら、エレノアが紙片を受け取り確かめる。

 

「読んでみろよ‼︎ モリアの惚れた女の名前が書いてあるぞ!!!」

「やめてやれ」

「いいぞ読め読めェ!!!」

「もう………そういうの茶化すのは良くないよ」

 

 囃し立てられ、溜息をつきながら、確かに内容が気になるエレノアが記された文字の解読に挑む。そしてすぐに、文字自体の正体に至った。

 

「んん〜……あァ、これは文字の方が焦げて浮かび上がるタイプだね。ビブルカードは燃えないから…サンジ君、ライター貸して」

「ん? あァ、わかった」

「何だよ、お前も見たかったんじゃねェか‼︎」

「あんた達と一緒にしないでよ。ただ………こんだけ厳重な入れ物に単なる女の居場所なんて残すかと思って……」

 

 サンジからライターを借りつつ、火を灯して紙片を炙ってみる。

 燃えたりしない特殊な紙は、直火を受けても焦げ一つつかず、表面に付着した透明な塗料のみが焼かれて浮かび上がる。

 

 やがて露わになった文章を、エレノアが読み上げる。

 

「お、出た出た。えーっと、なになに…………?」

 

 早く早くと急かしてくるルフィ達を制しながら、全員に聞こえるように声を上げて読み上げる───全員にとって、驚きの内容を。

 

 

 

『我これに 我が尊き宝のありかを示す

  滅亡に抗う意志ありし者あらば 心して挑め

海賊ゴール・D・ロジャー』

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