ONE PIECE −LOG COLLECTION : ELEANOR−   作:春風駘蕩

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第263話〝地図にない島〟

「肉ゥ〜〜〜〜〜〜〜ッ!!!!」

 

 がばっ、と勢いよく布団をはねのけ、飛び起きるルフィ。

 夢の中の好物をつかもうと手を伸ばし、やがて徐々に意識がはっきりし始めた。

 

「……ん? ん⁇ んん…⁇ …………ここどこだ?」

 

 しばらくの間呆け、辺りを見渡す。

 

 馴染み深さを感じる荒屋、やや狭っ苦しい部屋。

 その中心に敷かれたくたびれた布団に、自分は寝かされていたらしい。

 

「え〜〜っと…たしかお宝島を目指して嵐の中を進んでて………でっけー鳥が来て人間を吐いて…………そんでどうしたっけ?」

 

 なぜこんなところで寝ていたのか、何があったのか、と首を傾げながら記憶を遡り……しかしすぐに諦め、にっと笑みを浮かべた。

 

「まァいいや、生きてるし。しししし‼︎」

 

 よっこらせと立ち上がりながら、辺りを見渡す。

 何の部屋かと思えば、囲炉裏やら歪な棚があるところを見るに、漁師か猟師の小屋か何かなのだろうと推測できた。

 

「誰か助けてくれたのかな…どっかの島に流れ着いたのか? あいつらも一緒に着いてりゃいいけど………」

 

 仲間達の姿が見当たらない事に気付き、窓を開けようとした時。

 がたっ、と軋んだ音を立てて、一人の青年が網を背負いながらルフィの前に現れた。

 

「…‼︎ 目が覚めたみたいだな」

 

 年嵩は十を超えたくらいか、まだ幼さの残る顔立ち。細いがそれなりに鍛えられていそうな体躯を持つ、焼けた肌の少年だ。

 

 どこか大人びた雰囲気を感じさせる彼は、網を床に置き、道具を取り出しながらルフィを見やる。

 ほっとしたような声を漏らす彼を前に、ルフィは無遠慮に口を開いた。

 

「誰だ、お前」

「この家の住人だよ。あんたこそ誰だ」

「おれはモンキー・D・ルフィ、海賊王になる男だ!!!」

「…そうか」

 

 お決まりの自己紹介を口にすると、少年はさして態度を変える事なく、何やら部屋の隅で作業を始める。

 ただ視線はルフィに向けられたまま、どこか警戒する様子を滲ませていた。

 

「もしかして、おめェが助けてくれたのか? ありがとな〜」

「いや………見つけたのは妹で、引っ張り上げたのも妹で……おれは寝床をちょっと用意したぐらいで、別に、そんな」

「細けェ事はいいよ、助けてくれたのはホントだろ? 助かった‼︎」

 

 快活に笑いながら礼を言うと、少年はぷいっと目を逸らす。ただし、機嫌を悪くしたわけではなく、照れ臭くなったように見えた。

 

「ところで………ここはどこだ? あ‼︎ 帽子──はあるな。そうだ!!! おれの仲間もここに流れ着いてねェか⁉︎サニー号‼︎思いっきりひっくり返っちまったけど大丈夫かな〜〜、みんな無事だといいけどな〜!!!」

「……騒がしい人だな」

 

 帽子を探し、すぐ近くにあるのを見つけてかぶったり、質問を重ねたりと、目覚めたルフィは忙しい。

 少年が呆れた顔のまま作業を続けていると、少し思考が落ち着いたらしいルフィが少年が入ってきた扉の方を向いた。

 

「うっし、探しに行ってやるか‼︎ お前、ホントありがとな‼︎ この礼は絶対するぞ!!!」

「え、ちょっと…」

 

 少年の呼び止める声も聞かず、ルフィはずんずんと小屋から出る。

 そして、目前に広がる景色……どこまでも広がる青空と海、白い砂浜に大きな歓声をあげた。

 

「うお〜‼︎ でっけー砂浜‼︎ そんでもってだ〜れもいねェ!!! しかもなんかいろ〜〜んなモンがあんなァ〜〜!!!」

 

 純白に近い砂浜と、打ち上げられた何かの破片や誰かの持ち物が並ぶ様に、ルフィは目を輝かせながら見渡す。

 未知のものが大好きな彼は、好奇心の赴くまま波打ち際に近付いていく。

 

「………ん?」

 

 ふと、彼はあるものに気付き、その場で振り向いた。

 

 訝しげに向けられた視線の先、離れた砂浜、巨大な石の塊が───海を背にして鎮座する、鳥の顔が彫られた奇妙な彫像があった。

 

「うお─────!!! なんっっっじゃコリャ〜〜〜!!! なァなァ‼︎ 外にあるコレ、なんだ!!? カッチョい〜〜〜像があんぞ!!!」

「…あァ、これは昔から島のあちこちにあるものだ。何のためにあるのかは誰も知らない………知ってどうなるわけでもないしな」

「スッゲ〜〜〜!!! スッゲースッゲー‼︎ 冒険のニオイがプンプンすんぞ!!!」

 

 少年の説明を聞きながら、ルフィは石像に近付ききらきらとした目を向ける。

 

 鷹だろうか、それとも他の鳥だろうか。

 アラバスタや空島の遺跡にあったものとも異なる、妙な雰囲気を放つ巨大な像。

 

 眼を凝らせば、遠くにも似たような像が並んでいるのが見える。

 さらによく見てみれば、それぞれ異なる種類の動物が彫られているようだ。ますます好奇心が刺激される。

 

「ロビンが見たら何かわかんのかな〜〜!!! ウソップとチョッパーにも教えてやんねェと‼︎ ウ〜〜〜〜…!!! じっとなんかしてらんねェ!!!」

 

 島の住民も意図を知らない謎の石像。未知と浪漫が大好きなルフィにとっては宝石や黄金よりも重要な宝物に見えた。

 今すぐに冒険したい、その衝動に駆られ、ルフィはばっと後ろに振り向いた。

 

「よ〜しサンジィ‼︎ 海賊弁当だ───…っていねェんだった。先にあいつら探さねェとなー。しっかしあいつら、どこ行ったんだ? しょーがねェな〜」

 

 早速探検してみよう、と仲間を呼ぼうとして、自分の状況を思い出す。

 島を探るにしても、先ず仲間たちと合流しなければ何も始められそうにない。

 

 考えるルフィのもとに、少年が呆れ顔で近付いてきた。

 

「あんたの仲間なら、何人かその辺に打ち上げられてたのを妹が見つけてたよ。先に目覚めてたし、どっかに行ってるんじゃないか?」

「そーなのか? そういや色々転がってるな」

「海流の影響で、いろんなものが流れ着くんだ。大抵はゴミばっかりなんだけど、時々貴重なものも流れ着くから、見回りついでに拾って集めたり処分したりしてる…………たとえば、アレとか」

 

 すっ、と少年がルフィの背後を指差す。

 訝しげに眉をひそめたルフィは、背後から聞こえるずるずるという……何か大きく重いものを引きずるような音に気付き、振り向く。

 

「ふんにゅ…ふんにゅ…‼︎ ふんにゅゥゥ………!!!」

 

 それは、不思議な石像以上に異様な光景だった。

 自分達の乗るサニー号が、決して軽くなどないはずの海賊船が、ゆっくりと海に向かって動いていたのだ。

 

 一人の、幼い少女に後ろから押される形で。

 

「サニ〜〜〜〜〜〜!!!?」

「……あ! お兄ちゃん‼︎」

 

 ルフィの声に反応し、立ち止まった少女がぱっと笑顔を見せる。

 ついでにぐいっと両手に力がこもり、押していたサニー号がぐんっと宙に舞い、激しい水飛沫を上げて着水する。

 

 唖然とするルフィを放置し、少女は兄と呼ぶ少年のもとに駆け寄ってきた。

 

「その人起きたんだ‼︎ よかった〜」

「お前が見つけて介抱したおかげだ。…………その船は?」

「陸の方に打ち上げられてたから戻そうと思って。この人のでしょ? マークがおんなじ麦わら帽子だからすぐわかったよ」

 

 妹の髪を撫で、それまで無表情だった顔に微笑身を浮かべる少年。

 やがて素に戻ると、あんぐりと口を開けたまま固まっているルフィを見やる。

 

「というわけだ……よかったな、あんたの船が見つかって」

「…何っっだァ…!!? スンゲェ〜〜〜力だな、お前…!!!」

「ヒナはこの島一番の怪力だからな………あれぐらいなら軽く運べるさ」

「そうなのか‼︎ すっげェ〜………‼︎」

 

 ようやく我に返ったルフィが、少女を凝視して心からの驚愕の声をあげる。

 シンゴよりも二つか三つは下に見える少女が、とんでもない怪力を発揮してみせたのだ、絶句するのも無理はない。

 

 自分もそれなりに力はあると思っているが、目の前のこの遥かに幼く小さな少女は、見た目に似合わぬ膂力の持ち主のようだ。

 

「おめー、おれと一緒に海賊やらねェか?」

「やめろ!!!」

 

 思わず勧誘に走ったルフィに、少年が反射的に怒鳴りつける。

 

 つい声を荒げてしまった少年は、気分を切り替えるように咳払いをすると、妹と共に並んで立ち、改めて島の訪問者に向き直った。

 

「改めて…おれはこの島の警備担当、シンゴ。こっちは妹のヒナだ」

「はじめまして!」

「おれはモンキー・D・ルフィ。さっきも言ったけど、海賊王になる男だ!!!」

「海賊? あ、そっか、あのマークって海賊なのか………そうなんだァ」

 

 再度自己紹介をすると、兄・シンゴとは異なり少女・ヒナはルフィをまじまじと見つめ出す。

 海賊というものに初めて会ったのかもしれない。目が好奇心に輝いていた。

 

「お前がおれやみんなを助けてくれたんだってな‼︎ ありがとな‼︎」

「気にしないで。困ったときはお互い様………っていうのがこの島のルールだから」

「そーなのか」

 

 礼を言うと、ヒナは照れ臭そうにしながら手を振る。今までにない親切な反応に、ルフィもややむず痒さを感じながら「ししし‼︎」と声を上げて笑った。

 

「…なァ、よかったら町に連れてくけど、来るか?あんたの仲間も、もしかしたらそっちに行ってるかもしれないし」

「ん? この島、町あんのか⁉︎ てっきりお前らだけかと思ってたけど」

「…ただ離れた場所に暮らしてるだけだ。おれは島の見張り役も兼ねてるから…………それで、来るか?」

「行く‼︎ ありがとうな、何から何まで!!!」

 

 シンゴに提案され、ルフィはすぐさまそれに頷く。

 知らない島を自由に探検するのは好きだが、手がかりもないまま彷徨うのは本意ではない。案内してくれるに越した事はなかった。

 

 歩き出した兄妹の後について行こうとして、ルフィの足がはたと制止した。

 

「あ、そうだ。ところでこの島、なんてトコだ? 宝島探してたんだけど嵐に捕まっちまってよ」

「…………この島に、決まった名前はないよ」

 

 尋ねられ、しばらく黙り込んだシンゴが重い口調で語り出す。

 どこか投げやりな、僅かながらの落胆を滲ませた声で。

 

「ただここは…島のみんなは〝陽炎島〟って呼んでる………なんせ、地図になんて載ってないからな」

 

 

 

「いよ──し、持ってきたぞチョッパー‼︎」

「ありがとう、そこに置いといてくれ」

 

 照りつける日差しを遮る葉の下。飲み水に適した真水を葉の器に汲んで持ってきたウソップに、作業中のチョッパーが礼を言う。

 ふぅ、と額にかいた汗をぬぐいながら、彼は濡れた布をぎゅっと絞る。

 

「しっかし運がよかったなァ〜…‼︎ 嵐の中で転覆したと思ったら、いつの間にか島に流れ着いてたとは………」

 

 白い砂浜と、どこまでも広がる海。

 気を失う前の嵐が想像もできないほど穏やかに凪いだ海を見やり、やれやれと肩をすくめる

 

「えェ……アレは流石の私も死んだと思いましたよ。あ、私もう死んでました」

「生きてりゃ何とかなるだろ。ま、リトルガーデンでの壮絶なサバイバルに比べりゃ、南国で過ごすくらいどうってこたァねェさ」

「ウソップすげ〜‼︎」

 

 得意げに、元から長い鼻を伸ばして騙るウソップに、濡れた布を動かすチョッパーが目を輝かせる。ブルックの冗句は放置されていた。

 

 やがて、彼らの視線はチョッパーの手元に向かう。

 敷き詰められた木の葉の上に寝かされた、未だ目覚めぬ謎の少女に。

 

「───問題は…」

 

 木陰の下、死んだように眠るその少女。

 

 明るい中でようやくわかった、緩やかな波を作る髪と整った顔立ち。

 そしてどこかの国の伝統技術なのだろうか、複雑な模様の施された衣服に身を包んだ、ウソップ達とそう変わらないであろう年頃。

 

 ウソップ達の目が覚めて、手当を始めて数時間、未だぴくりとも動いていなかった。

 

「なかなか起きませんねェ、こちらの方も………」

「チョッパー、こいつの具合はどうなんだ? どっか悪いのか?」

「わからない…目立った外傷はないし呼吸も正常だ。ただ眠ってるだけに見えるけど………」

 

 耳をすませば、確かにすぅすぅと呼吸の声も聞こえる。

 一通り全身を診察したが、目覚めない要因に当たりそうな傷跡は何も見当たらなかった。

 

 そこでふと、ウソップがある疑問を抱いた。

 

「なァ………デケェ鳥に食われてたのに何ともないってのは逆におかしくねェか? 見たところ服も溶けてねェぞ?」

「相当頑丈な服なんですかねェ」

「ンなわけあるか‼︎」

 

 新品同様、とまではいかない草臥れ具合だが、少なくとも胃液で溶けた様子はない。ブルックの言うような特殊な服装でもなさそうだ。

 

 ますます正体がわからなくなり、三人は頭を悩ませる。

 しかしやがて、考えても仕方がないとチョッパーが立ち上がった。

 

「とりあえず、人がいるところを探そう………こいつもちゃんとした所で診てやった方がいい」

「そうだな」

 

 仲間と船も探さなければ、とウソップとブルックも頷く。

 少女を揺らさないよう、下に敷いた木の葉ごと引きずろうとして……ぐっ、と凄まじい重量がかかり、三人の顔が必死の形相に変わった。

 

「「「ぬあああああああァ!!!」」」

 

 歯を食いしばり、眼を血走らせながら、三人はずるずると少女をゆっくり運ぶ。チョッパーも人型になったが、それでも焼け石に水といった調子だった。

 

「ぬァんでコイツはこんなに重ィんだァァ…!!?」

「でっけー鉄の塊引っ張ってるみてェだぞコレェ!!!」

「ちょっとこれは骨が折れます………あ、本当に折れたら一大事ですけどね、ヨホホホホ!!!」

 

 見た目以上に重い少女の体。眠っているせいだろうか、想像以上に困難な運搬に、全員汗だくになりながら懸命に踏ん張る。

 徐々に砂浜から移動し、森の中へ。ウソップが方向を選ぶ先に、えっちらおっちらと足を動かし続けた。

 

「ルフィさんも他の皆さんも、この島に流れ着いてるといいんですが………そして代わっていただきたい…‼︎」

「大丈夫だろ。近くにはいるっぽいし、あいつらならなんかあっても自力でどうにかできるさ。おれ達は合流する事だけ考えよう」

「そうだな、きっと大丈夫だ‼︎」

 

 骨の体には厳しい作業に悲鳴をあげるブルックに、ウソップが冷静に答える。

 あの化け物じみた実力の持ち主達ならどこでも生き残れるだろうし、目立つ場所で待っていれば見つけてくれるだろう、そう推測していた。

 

 そんな彼の言葉に、一瞬考え込んだチョッパーが訝しげな視線をウソップに向けた。

 

「……そういやウソップ、何で近くにいるってわかるんだ?」

「ん?」

 

 投げかけられた問いの言葉に、ウソップ自身もきょとんとした顔を浮かべていた。

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